SECは、暗号資産起業家のジャスティン・サン氏と彼の会社を詐欺およびその他の証券法違反で起訴:8人の有名人もサン氏の暗号資産証券の違法な宣伝に関与しかつ報酬額を秘匿したとして起訴

証券取引委員会は3月22日、暗号資産起業家のジャスティン・サン(Justin Sun)氏(注1)と、彼の完全所有企業である保証有限責任会社トロン・ファウンデーション・リミテッド(Tron Foundation Limited)、ビットトレントファウンデーション・リミテッド(BitTorrent Foundation Ltd.)(注1-2)、レインベリー・インク(Rainberry Inc.)(旧BitTorrent)の3社を、暗号資産証券であるトロニクス(TRX)とビットトレント(BTT)のSEC未登録の募集と販売したとして、3月22日にニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提訴したと発表した。告訴状原本参照。

Justin Sun

 

  また、SECは受益所有者の実際の変更なしに証券が活発に取引されているように見せるための証券の同時またはほぼ同時の売買を含む広範なウォッシュ・トレード(wash trading) (注2) (注3)を通じてTRXの流通市場を不正に操作し、いわゆる有名人に報酬額を一般に開示せずにTRXとBTTを宣伝するために支払うスキームを調整したとして、サン氏と彼の会社を起訴した。

  また、SECは同時に、TRXおよび/またはBTTを違法に宣伝したとして、次の8人の有名人を、報酬を受けたことと報酬額を開示しなかったことを理由に起訴した。

 筆者が補足すると、この8人のいわゆる「有名人」は決して「著名人」ではない。(注4)その職業内容につき、わが国では必ずしも十分知られていない。筆者なりに本ブログで補足する。

なお、わが国でも何十万人ものソーシャル・メディア・フォロワーを持つがゆえに毎日テレビやネット広告に出来るいわゆる有名人が多いが、規制法違反に関し、その報酬に関し被告詐欺企業と連帯責任を問われる可能性はたして皆無といえるのか?

リンジー・ローハン(Lindsay Lohan:1986年7月2日 生まれ( アメリカ合衆国の女優、歌手。 以前は「リンゼイ・ローハン」と表記されていたが、日本でのCD発売に際し、「リンジー・ローハン」に統一された。)(Wikipedia ) 。ロサンゼルス郡保安官事務所(Los Angeles County Sheriff's Department)は2010年9月25日、保護観察下の定期薬物検査でコカインの陽性反応が出たため再収監されたリンジー・ローハン被告(当時24歳)が、保釈金30万ドル(約2500万円)を払い、15時間で保釈されたと発表した。

 ローハン被告は薬物テストでコカインの陽性反応が出たため9月24日朝、ビバリーヒル最高裁判所Beverly Hills Superior Court)から再収監を命じられ、法廷から手錠をかけられてロサンゼルス郊外リンウッド(Lynwood)にある女性専門の刑務所に収監された。(犯罪歴のほんの一例である)

ジェイク・ポール(Jake Paul)

アメリカ合衆国オハイオ州クリーブランド生まれのYouTuber、インターネットセレブリティ、俳優、プロボクサーである。兄のローガン・ポールも、YouTuberとして知られている。問題行動が多いトラブルメーカーで、数々の裁判沙汰となっている。

③デアンドレ・コルテス・ウェイ(DeAndre Cortez Way (Soulja Boy)(1990月6月生まれ)

プロとしてソウルジャボーイ(旧ソウルジャボーイ・テルエム)として知られ、アメリカのラッパー兼レコードプロデューサーである。2007年にシングル「Crank That」がBillboard Hot 100にて合計7週間の1位を獲得した。このシングルはユーチューブやマイスペースなどのインターネットを経由した自身のセルフ・プロデュースから1位を獲得した

 法的なトラブルにつき最近の例をあげる。2022 年 2 月 18 日、暗号資産会社 SafeMoon に対して提起されたクラス・アクションで、同社はポンプ アンド ダンプ ・スキームであると主張され、ウェイはプロ ボクサーのジェイク ポール、ミュージシャンのニック カーター、ラッパーのリルと共に被告として指名された。 Yachty とソーシャル メディア パーソナリティの Ben Phillips は、誤解を招く情報を使ってソーシャル メディア アカウントで SafeMoon トークンを宣伝した。 同日、米国第 11 巡回区控訴裁判所は、1933 年の証券法がソーシャル メディアを使用したターゲットを絞った勧誘にまで及んでいるとの Bitconnect に対する訴訟で判決を下した。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

オースティン・マホーン(Austin Mahone)

アメリカ合衆国の歌手。身長180cm。Chase、ヤング・マネー・エンターテインメント、キャッシュ・マネー・レコード、リパブリック・レコード所属。

YouTube celebrityと呼ばれる動画投稿によって生まれた有名人の一人。

⑤ ケンドラ・ラスト(Kendra Lust)

アメリカ合衆国ポルノ女優兼監督ポルノ女優

マイルズ・パークス・マッカラム(リル・ヨッティ)Miles Parks McCollum (Lil Yachty)

アメリカ合衆国ジョージア州アトランタ出身のラッパー、歌手、ソングライター、ヒップホップ・ミュージシャン。

⑦ シェイファー・スミス(ニーヨー)Shaffer Smith (Ne-Yo)

Ne-Yoとして専門的に知られているシェイファー・チメア・スミス(1979年10月生まれ)は、アメリカのR&Bシンガーソングライター、音楽プロデューサー。俳優、ダンサーでもある。

アリオーヌ・ティアム(エイコン)Aliaune Thiam (Akon)

1973年4月生まれ、セネガルアメリカ人の歌手、レコードプロデューサー、起業家。

 ニューヨーク南部地区連邦地方裁判所に提出されたSECの訴状は、サン氏と彼の会社が、利害関係者にソーシャルメディアトークンを宣伝し、トロン関連のTelegramおよびDiscordチャネルに参加して他の人を募集し、TRXおよびBTTの配布と引き換えにBitTorrentアカウントを作成するように指示し、複数の未登録の「報奨金プログラム」を通じて投資としてTRXおよびBTTを提供および販売したと主張している。さらに訴状は、サン氏、BitTorrent Foundation、Rainberryが、トロンウォレットまたは参加している暗号資産取引プラットフォームでTRXを購入して保有している米国を含む投資家に、未登録の「月次エアドロップ(monthly airdrops)」(注5) (注6)BTTを提供および販売したと主張している。訴状によると、これらの未登録のオファーと販売の行為はそれぞれ「1933年証券法第5条」 (注7)に違反する。

  さらにSECは、サン氏が流通市場でのTRXの見かけの取引量を人為的に膨らませるスキームを調整することにより、連邦証券法の不正防止および市場操作の規定に違反したと主張している。少なくとも2018年4月から2019年2月まで、サン氏は従業員に彼が管理する4つの暗号資産取引プラットフォームアカウント間で5万件以上のTRXのウォッシュ取引を行うように指示し、毎日7万〜4万のTRXウォッシュ・トレードが取引されたとされている。このスキームには、サン氏が提供したとされるTRXのかなりの供給が必要であった。起訴状で主張されているように、サン氏はTRXを流通市場に売却し、違法な未登録のオファーとトークンの販売から3100万ドル(約40億6100万円)の収益を生み出した。

   SEC委員長のゲイリー・ゲンスラー氏は「このケースは、暗号資産証券が適切な開示なしに提供および販売された場合に投資家が直面するリスクが高いことを再び示している。起訴状で主張されているように、サン氏と彼の会社は、未登録のオファーと販売で米国の投資家を標的にし、投資家を犠牲にして数百万の違法な収益を生み出しただけでなく、未登録の取引プラットフォームでウォッシュ・トレードを調整して、TRXでのアクティブな取引の誤解を招く外観を作成した。さらにサン氏は、彼と彼の有名人のプロモーターが有名人がツイートに対して支払われたという事実を隠すプロモーションキャンペーンを組織することにより、投資家にTRXとBTTを購入するように促した」と述べた。

   SECの法執行部門のディレクターであるGurbir S. Grewal氏は「問題となっているテクノロジーについては中立ですが、投資家保護に関しては中立ではない。訴状で主張されているように、サン氏らは古くからある脚本(age-old playbook)を使用して、登録と開示の要件に従わずに最初に証券を提供し、次にそれらの証券の市場を操作することにより、投資家を誤解させ、害を及ぼした。同時に、サン氏は何百万人ものソーシャル・メディア・フォロワーを持つ有名人に報酬を支払い、未登録の暗号資産製品を宣伝する一方で、彼らの報酬額を一般に開示しないように具体的に指示した。これは、連邦証券法がサン氏や他の人々が使用したラベルに関係なく保護するように設計されていたまさにその行為である」と述べた。

Gurbir S. Grewal氏

 コルテスウェイとマホーンを除いて、3月22日に起訴されたいわゆる有名人6名は、SECの調査結果を認めたり否定したりすることなく、告発を和解するために合計400万ドル(約5億2400万円)以上の不当利得の返還(disgorgement)、利息、および罰金を支払うことに同意し、また排除措置命令(a cease-and-desist order)の発行につき和解した。

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(注1) 創始者ジャスティン・サン氏(1990年生まれ)は、 Hupan University (2015年–2018年)、 ペンシルベニア大学 (2013年)、 北京大学 (2011年)を優秀な成績で卒業、リップルチャイナの事務所長をしていたことでも知られている。また、中国の大手音楽配信ストーミングサービスPeiWoを創業後、2017年にトロン・ファウンデーションを立ち上げたことでも知られている。

(注1-2)わが国では、Tron Foundation Limitedをトロン財団と訳すのが一般的である。しかし、これは明らかに不正確である。改めて調べて見るとシンガポールの監督当局(ACRA)やローファームは以下のとおり解説している。

TRON FOUNDATION LIMITED is a Singapore PUBLIC COMPANY LIMITED BY GUARANTEE. The company was incorporated on 28 Jul 2017, which is 5.7 years ago. The address of the Business's registered office is REPUBLIC PLAZA, 9 RAFFLES PLACE, #04-A02, Postal 048619. The Business current operating status is Live Company. The Business's principal activity is DEVELOPMENT OF OTHER SOFTWARE AND PROGRAMMING ACTIVITIES N.E.C.. The company UEN is 201721312Z, registered with ACRA on 2017-07-28.

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シンガポールでは、非営利団体は、保証有限責任会社(PUBLIC COMPANY LIMITED BY GUARANTEE :CLG)、慈善信託、社会などの構造を通じて活動を行うことができる。CLGを組み込むことの利点には、有限責任税制上の優遇措置が含まれる。

保証有限責任会社(CLG)とは何か?

CLGは、慈善活動などの非営利活動を行うために使用される。

CLGはシンガポール会計規制当局(ACRA)に登録され、会社法に準拠しているため、通常、企業の地位を必要とする非営利団体によって設定される。

さらに、CLGは慈善団体のステータスを取得する場合があります(以下を参照)。

保証有限責任会社は株式有限責任会社とどう違うのか?

株式によって制限されている会社とは異なり、CLGには株式資本がない。したがって、CLGのメンバーの責任は、清算が発生した場合に会社の資産に貢献するために彼らが約束する金額に限定される。この金額は会社定款に規定されている。

一方、株式有限責任会社の場合、株主の責任は、会社の株式資本のうち、彼らが引き受けた部分に限定される。

会社は保証によって制限されている、 非公開企業か、それとも公開会社か?

CLGは公開会社である。株式資本を持つ会社のみが非公開会社として分類できる。

営利団体を保証有限責任会社として設立する必要があるか?

CLGはメンバーに配当や利益を支払うことを禁じられているため、この構造は、メンバーが通常、配当などの支払いを通じて投資の見返りを求める営利団体には適していない。(SingaporeLegalAdvice.comサイトから一部抜粋、仮訳)

(注2) ウォッシュトレーディングと仮想通貨:近年、仮想通貨の分野にもウォッシュ・ トレーディングが浸透している。 人気と高い取引量の印象を与えたいという願望は明らかである。世界中で何千もの暗号通貨トークンが利用可能であり、ほとんどが自分自身を区別するのに苦労している。 しかし、ビットコインを含む最も人気のある暗号通貨でさえ、ウォッシュ トレーディングが発生する。

 Forbes による 157 の仮想通貨取引所に関する 2022 年の調査では、報告されたビットコイン取引量の半分以上が偽物または非経済的なウォッシュ取引であることがわかりました。

 暗号通貨は、ポンプ・アンド・ダンプ・スキーム(注3)に対して特に脆弱である。このスキームでは、膨張した取引量と、インサイダーからの強力な宣伝または推奨の組み合わせにより、トークンの価値が人為的に上昇し、特定の所有者が関心が高いときに莫大な利益を上げて売却できるようになる。

 暗号資産空間でのウォッシュ・ トレーディングの普及には、複数の潜在的な理由がある。 ビットコインのような主要なデジタル通貨でさえ、毎日の取引量を計算する普遍的に受け入れられている方法を欠いていることがよくある。 これにより、暗号資産会社は、過去の取引量に対してしばしば大幅に異なる数値を生成する。 暗号資産取引所自体には正当性が欠けていることが多く、近年、トークン取引所の破綻が注目を集めている。 暗号通貨空間の極端な乱高下(volatility)は、迅速な売買を促進する可能性がある。 最後に、米国およびその他の政府規制当局に対する暗号資産の曖昧な地位は、誤解を招く取引活動のさらなる機会を生み出す。(investopediaから抜粋、仮訳)

(注3) ポンプ・アンドダンプ・スキームは、偽の誤解を招く情報を通じて資産の価格を人為的に膨らませる人々のグループを指す。 本質的に、彼らは一度に低価格の資産を購入し、価格の上昇を促す。 資産の名目価値のこの突然かつ横行的な増加は、彼らが雄牛の市場に乗ることを望むように飛び込み、資産を購入するために知らないトレーダーを促す。 元のバイヤーはその後、迅速な利益を上げるために資産を売却(ダンプ)する。 この需要と供給の変化により、多くのユーザーが大幅な損失を生じることがよくある。

(注4) 有名人は良い意味でも悪い意味でも世間に名が知られている人です。芸能人に限らず、スポーツ選手や作家などあらゆる分野の人に使われる。たとえ犯罪者であったり、悪いことをした人であってもよく知られていれば「有名人」となる。ちなみに英語では “well‐known person”または“famous person ” と言う。

一方、著名人はある分野や社会で良い意味で名が知られており、重んじられている人である。有名人よりも良い印象を受ける。英語では “celebrity” である。大衆に広く注目され、名声のある話題の人を意味する。日本で使われるセレブとは意味合いが異なる。

(注5) 暗号資産のエアドロップとは、通常、新しい暗号通貨トークンの無料配布を使用して認知度を高め、コミュニティを迅速に構築し、受信者がエアドロップ・トークンの取引を開始するときにトークンに早期の価値を置くのに役立つマーケティング戦術である。

場合によっては、受信者はエアドロップの資格を得るために特定のトークンを保持するか、最低残高を維持する必要がある。また、ユーザーはソーシャルメディアにプロジェクトについて投稿するなどの小さなタスクを実行する必要がある場合もある。暗号資産エアドロップはイニシャル・コイン・オファリング(ICO) (注6)とは異なり、後者は個人からの投資を勧誘することを目的としており、米国のICOを証券オファリングとして分類しているが、エアドロップは意識を高めるために広く使用されている。(Coinmarketcapサイトから引用、仮訳)

(注6) ICOInitial Coin Offering:イニシャル・コイン・オファリング)とは、資金調達をしたい個人や企業、プロジェクトなどがトークンやコインと呼ばれる独自の暗合資産(仮想通貨)を発行し、それを広く投資家に販売することで資金を集めることを指す。このトークンの販売はトークンセールなどと呼ばれる。ICOでは、資金調達をしたい企業や事業プロジェクトが、独自トークンなど暗号資産(仮想通貨)を発行/販売して資金を調達します。IPOのように厳しい審査基準がある訳ではなく、誰でも新規にトークンを発行できる。

一方、開発する気がないにもかかわらず資金調達を行った詐欺的なICOの事例も無数に存在しますし、暗号資産(仮想通貨)・トークンを買い占めた一部投資家の売買行動によって価格が左右される可能性も否定できない。また、プロジェクトの失敗などによって、ICOトークンの価格が想定を大きく下回るリスクもある。

(注7) 1933年証券法は、証券の販売において法的義務の登録プロセス(mandatory registration process)を通じて開示を実施する。実際には、多くの免除(流通市場での取引および小規模オファリング)により、この法律は主に発行者によるプライマリー・マーケット・オファリングに適用される。証券法第5条に基づき、すべての発行者は非免除証券を証券取引委員会(SEC)に登録する必要がある(Mandatory Disclosures)。第5条は、有価証券を売りに出す発行者のスケジュールと分配プロセスをも規制している。

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