ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(Alternative für Deutschland :AfD)等の躍進の真の背景とドイツ政府や裁判所の取組みを探る

 フランスやドイツ等を始め欧州議会選挙での極右政党の躍進が著しい。筆者は、その背景について改めて調査する中で特にドイツにおける極右政党に対する諜報機関や裁判所の厳しい見方を整理したいと考え、今回の取りまとめることとした。

 特にドイツ連邦共和国基本法の問題、刑法解釈問題につきピッツバーグ大学ロースクールのレポートなどを中心に仮訳とともにまとめてみた。

 なお、ドイツだけでなくEU全体として極右思想やテロ思想の対する具体的法規制の具体性についても一部引用した。先般の都知事候補の選挙広報やテレビ放送などにおけるわが国憲法言論の自由規定のはき違い・誤解などをみるにつけわが国でも参考とすべき点が多い。

 なお、関係者の略歴、写真、関係URLとのリンクは筆者の責任で行った。いずれも高学歴かつ政治面の専門性や経営実務経験を有していること等、注目される点も多い。

1.2017 1 17 日、連邦憲法裁判所は、極右政党 NPD(国民民主党)について違憲性を認めたが、違憲に当たる目的を達成するほどの勢力を確認できないとして、政党禁止としなかった

  外国の立法 (2017.4) 国立国会図書館調査及び立法考査局)から以下、抜粋する。

今回の判決において、連邦憲法裁判所は、NPD のコンセプトは「自由で民主的な基本秩序」の排除を目指すとし、その違憲性を確認した。しかし、同時に、新たな政党禁止の要件として、当該政党が違憲に当たる目標を実現する可能性があることの具体的な根拠がなければならないことを示した。連邦憲法裁判所は、以下のとおり、議会及び議会外における NPD の影響力を確認し、NPD が違憲に当たる目標を実現する可能性はないと判断した。

<議会における影響力>

連邦議会議席を有したことは一度もない。

・州議会については、ザクセン州において 2004~2014 年に、メクレンブルク・フォアポメルン州において 2006~2016 年に議席を有したが、現在は全く議席を有していない。

欧州議会には、1 議席を有するのみである。

自治体の議会においては、現在合わせて約 350 議席を有する。しかし、自治体の議席数が全部で 20 万以上であることを考慮すれば、取るに足らない。

連邦憲法裁判所は、NPD は、自治体の議会において若干の議席は有するものの、国民の政治的意思形成に一定の影響を与えるものではないとした。

<議会外における影響力>

・党員数が 1969 年の 28,000 人から 2014 年には 5,066 人に減少しており、現在の党員数ではその活動に大きな制約がある。

・ドイツ各地の極右暴力事件の多くは NPD の党員によるものでない。

連邦憲法裁判所は、自由な政治的意思形成が侵害されると感じるほどに、NPD が社会において不穏な空気を醸成しているという十分な根拠はなく、NPD の強迫行為や暴力行為に対しては、警察法や刑法により、個別に適切な対応を行わなければならないとした。

2.JURIST解説「ドイツの裁判所、国内諜報機関による極右政党の分類を支持」

 ネザーランド、フローニンゲン大学法学部( U. Groningen Faculty of Law, NL)ジュリ・ベルガー(Juri Berger)氏のレポート仮訳する。

 ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州ミュンスターの高等行政裁判所(Oberverwaltungsgerichts für das Land Nordrhein-Westfalen, Münster,)は5月14日、ドイツの国内諜報機関である連邦憲法擁護庁(Bundesamt für Verfassungsschutz:BfV)が極右政党「ドイツのための選択肢」(Alternative für Deutschland :AfD)とその青年組織「ドイツのための若い選択肢(Junge Alternative für Deutschland :JA)」を過激主義活動と疑ったのは正当であるとの判決を下した。(ノルトライン=ヴェストファーレン州ミュンスター高等行政裁判所プレスリリース)参照)

 同裁判所は、AfDがドイツ連邦基本法に反する自由民主主義秩序に反する目標を追求する可能性があるという十分な証拠があるため、連邦憲法擁護庁はAfDを監視する権利を保持すると判決を下した。しかし、第5上院議長は、憲法違反の疑いのある活動は過激主義活動を証明するものではないと述べた。

 裁判所は、AfDが移民の背景を持つドイツ国民の法的地位を低下させる取り組みを行っていたと疑うのは合理的であり、AfDが移民に対して差別的な目的を持っていたことを示す十分な証拠があると述べた。裁判所は、AfDがイスラム教徒と難民に対して軽蔑的な言葉をかなり使用していたと判断した

 さらに、同裁判所は、JAが移民の背景を持つドイツ国民をコミュニティの平等なメンバーとして認めないことを望んでいると疑うのは合理的であると述べた。また裁判所は、JAの政治思想はイスラム教徒の人間としての尊厳を無視することを目的としていると述べた。

 AfDを疑わしいケースとして分類した際にBfVが不適切に行動したことを示す証拠はないと述べたことに加えて、また裁判所は、分類が明確である限り、BfVには連邦憲法保護法に基づくケースの分類を国民に通知する権利があると指摘した。

 裁判所の判決を受けて、AfDの主要人物であるティノ・クルパラ(Tino Chrupalla)(注1)アリス・ヴァイデル(Alice Weidel)(注2)は、X(旧Twitter)に、裁判所の判決は手続き管理が不十分だったために可決されたと投稿した。彼らは、AfDはこの裁判所の決定に反対すると述べた。

Tino Chrupalla 氏

Alice Weidel 氏

 AfDは2017年に初めてドイツ連邦議会に入り、その年の選挙で3位になった。AfDは近年人気が高まっている。 5月4日、ドイツのオラフ・ショルツ首相と欧州連合の首脳らは、ドイツ国内の政治家に対する襲撃を非難した。ザクセン州社会民主党はAfDを襲撃の責任があると非難したが、AfDはメディアと政治体制による憎悪キャンペーンの被害者であると主張した。

 2024年1月20日、ドイツの114都市でAfDに対する大規模な抗議活動が行われた。デモはAfDの人気の高まりと、同党員が大量国外追放を議論したとの疑惑に反応したものだった。ドイツの政治家の中にはAfDを「民主主義への危険」とみなす者もおり、AfDを禁止する提案も以前からあった。

 5月13日、ドイツの連邦行政裁判所は、国内治安当局が極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を潜在的過激主義団体に分類し続け、監視下に置く権利を保持できるとの判決を下した。AfDは2021年以来、連邦憲法擁護庁(BfV)によって潜在的に過激な団体に分類されている。「裁判所は、AfDが特定の集団の人間としての尊厳や民主主義に反する目標を追求していることを示す十分な証拠があると判断する」と判事らは判決文に記した。「党の少なくとも一部が移民の背景を持つドイツ国民に二級の地位を与えたいと考えていると疑う根拠がある」と彼ら付け加えた。この判決は、AfDが移民と「非同化」ドイツ国民の大量送還を求める「再移民」計画に関する暴露を受けて最近反発に直面してから数カ月後に下された。連邦内務・コミュニティ(Bundesministerin des Innern und für Heimat)大臣ナンシー・フェーザー(Nancy Faeser)氏は最近の裁判所の判決について次のようにコメントした。「この判決は、私たちの民主主義が自らを守ることができることを示している。(中略)民主主義には、内部の脅威から身を守る手段がある」

Nancy Faeser氏

3.ドイツのハレ地方裁判所ナチスのスローガンを使用した極右政治家に罰金

 ネザーランドのマーストリヒト大学法学部Maastricht U. Faculty of Law, NL)、マライカ・グラフェ(Malaika Grafe)氏(注3)レポートを以下、仮訳する。

 ドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州ハレ地方裁判所は7月1日、ナチ党に関連するスローガンを公然と使用したとして、「ドイツのための選択肢(AfD)党」の有力メンバーであるチューリンゲン州議会(Thüringer Landtags)の議員ビョルン・ヘッケ(Björn  Höcke)(注4)1万6900ユーロ(約292万円)の罰金を科した。ヘッケ氏はX(旧Twitter)に罰金を科された旨の動画を投稿した。

 ドイツのメディア「中部ドイツ放送( Mitteldeutscher Rundfunk, MDR」は同裁判所での各審理につき詳細な内容と動画を紹介している。

Björn Höcke 氏

 2023年12月のAfDのイベントで、ヘッケ氏は「Alles für Deutschland(すべてはドイツのために)」というフレーズを使用した。このスローガンは、以前ナチ党の準軍事組織突撃隊(SA)が使用していたものであり。演説で、ヘッケ氏は「Alles für」というフレーズの最初の部分を話し、聴衆に「Deutschland」で終わらせるよう促した。

 ドイツ刑法第86a条(注5)では、違憲組織やテロ組織のシンボルの使用は、最高3年以下の自由刑または罰金に処せられる。これには、違憲と宣言された政党や組織のスローガンや挨拶などのシンボルを広めることが含まれる。国民社会主義ドイツ労働者党:ナチ党(Nationalsozialistische Deutsche Arbeiterpartei :NSDAP)と突撃隊(Sturmabteilung,:SA)や親衛隊(Schutzstaffel :SS)などのその関連グループは、ドイツ刑法第86条第1項第4号で違憲組織に分類されている。

 ヘッケ氏は、2021年の演説で同じスローガンを使用したとして、2024年4月12日ザクセン・アンハルト州のハレ地方裁判所のプレスリリースによるとビョルン・ヘッケ氏に対する第2回本訴訟がハレ地方裁判所で開始され、最終的に5月に1300ユーロ(225万円)の罰金を科せられていた。

今回の訴訟で、検察官はヘッケ氏に自由刑8ヶ月と2年間の公職禁止を求刑した。ヘッケ氏は現在、テューリンゲン州議会議員である。X(旧ツイッター)での声明で、ホッケ氏は判決は民主的な立憲国家に反し、司法の政治的動機に疑問を投げかけるものだと主張した。同氏の弁護団は、スローガンはSAに限ったものではない一般的なフレーズだと反論を主張した。

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(注1) ティノ・クルパラ(Tino Chrupalla)氏の教育とキャリア

1975年4月14日ヴァイスヴァッサー生まれ。既婚; 3人の子供。

1991 年中等学校卒業。 1991 年から 1994 年まで塗装とニス塗りの職業訓練を受ける。 2000 年から 2003 年にドレスデン工芸会議所のマスタースクールを卒業し、マスターペインターおよびワニス師として卒業。

2015年にAfDに参加。 2017年2月から2021年10月までゲルリッツ地区協会の地区会長。 2019年12月からAfDの連邦報道官。 2021年9月よりドイツ連邦議会AfD議員団議長、以前はドイツ連邦議会AfD議員団副議長。 2017年と2021年は第157選挙区(ゲルリッツ)の直接委任。 AfD中小企業フォーラムザクセン州のメンバー。 「連邦中小企業協会、ドイツ起業家協会」のアッパー・ルサティア政治諮問委員会のメンバー。

(注2) アリス・ヴァイデル(Alice Weidel)氏の教育とキャリア

1979年2月6日、ギュータースロー(Gütersloh)生まれ。子供2人。同性結婚(Lebenspartnerschaft)。高校を卒業;大学で経済学を学ぶ(経済学の卒業証書)。経営学を学ぶ(経営管理学の卒業証書)。経済学博士号(Dr.rer.pol.)取得。

大手金融会社の投資顧問および執行部にアナリストおよび副社長として勤務。食品業界で国際的に活動する企業グループの投資管理および新市場開発の責任者。中国を中心としたアジア、ヨーロッパ、アメリカでの数年の海外経験。スタートアップ企業の共同設立、コンサルティング、構築を行っている。

(注3) マライカ・グラフェ(Malaika Grafe)氏はマーストリヒト大学法学部欧州法ロースクール成績優秀な法学学士(LL.B. European Law Honours Student at Maastricht University)

(注4) ビョルン・ヘッケ(Björn Höcke)氏の教育とキャリア

1991年高校卒業

1991 - 1992 兵役

1992年~1998年 ボン、ギーセン、マールブルクで大学留学

1998年 第1回高等学校教員国家試験合格

2001年 第2回高等学校教員国家試験合格

2003 - 2005 大学院(Postgraduales Studium)で「学校経営」を学び、修士号 (M.A.) を取得

1999 - 2014 ヘッセン州のさまざまな学校で教員奉仕

2014 年よりチューリンゲン州議会(Thüringer Landtags)の議員

(注5)ドイツ刑法典第84条から第89条は,ドイツ基本法に違反するものとしてドイツ連邦憲法裁判所によって宣言された反民主主義的な組織(ナチスなど)の結成,結党,運動,宣伝等を禁止し,それらの違反行為に対する処罰を規定している。このうち,第86条は,反民主主義的宣伝活動を禁止し処罰する規定である。以下で仮訳する

第 86条 違憲組織およびテロ組織によるプロパガンダ資料の配布

§ 86  Verbreiten von Propagandamitteln verfassungswidriger und terroristischer Organisationen

第1項 ドイツ国内で次の宣伝資料を配布または公衆に提供し、またはドイツ国内または国外で配布するために作成、保管、輸入または輸出する者は、次の行為を行ったとみなす。

  1. 連邦憲法裁判所により違憲と宣言された政党、または最終決定によりそのような政党の代理組織であると判断された政党または組織の宣伝資料、
  2. 憲法秩序または国際理解の概念に反するとして最終決定により禁止された組織、または最終決定によりそのような禁止された組織の代理組織であると判断された組織の宣伝資料、
  3. 本法の管轄地域外にあり、第 1 項から第 4 項までに言及された政党または組織のいずれかの目的を積極的に追求している政府、組織または機関の宣伝資料。
  4. 内容が旧国家社会主義組織の活動を促進することを意図している場合は、3 年以下の自由刑または罰金の刑罰を科す。

(1) Wer Propagandamittel

1.einer vom Bundesverfassungsgericht für verfassungswidrig erklärten Partei oder einer Partei oder Vereinigung, von der unanfechtbar festgestellt ist, daß sie Ersatzorganisation einer solchen Partei ist,

2. einer Vereinigung, die unanfechtbar verboten ist, weil sie sich gegen die verfassungsmäßige Ordnung oder gegen den Gedanken der Völkerverständigung richtet, oder von der unanfechtbar festgestellt ist, daß sie Ersatzorganisation einer solchen verbotenen Vereinigung ist,

3.  einer Regierung, Vereinigung oder Einrichtung außerhalb des räumlichen Geltungsbereichs dieses Gesetzes, die für die Zwecke einer der in den Nummern 1 und 2 bezeichneten Parteien oder Vereinigungen tätig ist, oder

4. die nach ihrem Inhalt dazu bestimmt sind, Bestrebungen einer ehemaligen nationalsozialistischen Organisation fortzusetzen,

im Inland verbreitet oder der Öffentlichkeit zugänglich macht oder zur Verbreitung im Inland oder Ausland herstellt, vorrätig hält, einführt oder ausführt, wird mit Freiheitsstrafe bis zu drei Jahren oder mit Geldstrafe bestraft.

2 テロ対策を目的とした特定の個人および団体に対する特定の制限措置に関する規則 (EC) No 2580/2001 の第 2 条 (3) を実施し、実施規則 (EU) 2020/1128 (OJ L 43, 8.2.2021, p. 1) を廃止する 2021 年 2 月 5 日の欧州連合理事会実施規則 (EU) 2021/138 の付属書に個人、グループ、または団体として記載されている組織の宣伝資料をドイツ国内で配布または一般に公開し、またはドイツ国内または国外で配布するために作成、保管、輸入、または輸出する者は、同じ罰則を受ける。

(2) Ebenso wird bestraft, wer Propagandamittel einer Organisation, die im Anhang der Durchführungsverordnung (EU) 2021/138 des Rates vom 5. Februar 2021 zur Durchführung des Artikels 2 Absatz 3 der Verordnung (EG) Nr. 2580/2001 über spezifische, gegen bestimmte Personen und Organisationen gerichtete restriktive Maßnahmen zur Bekämpfung des Terrorismus und zur Aufhebung der Durchführungsverordnung (EU) 2020/1128 (ABl. L 43 vom 8.2.2021, S. 1) als juristische Person, Vereinigung oder Körperschaft aufgeführt ist, im Inland verbreitet oder der Öffentlichkeit zugänglich macht oder zur Verbreitung im Inland oder Ausland herstellt, vorrätig hält, einführt oder ausführt.

3 第1項 (1) の意味での宣伝資料とは、自由民主主義の基本秩序または国際理解の概念に反するコンテンツ (第 11 条第3 項) のみを指す。 (2)項の意味における宣伝資料とは、国家または国際組織の存在または安全に反し、またはドイツ連邦共和国憲法原則に反する内容(第11条第3項)のみを指す。

(3) Propagandamittel im Sinne des Absatzes 1 ist nur ein solcher Inhalt (§ 11 Absatz 3), der gegen die freiheitliche demokratische Grundordnung oder den Gedanken der Völkerverständigung gerichtet ist. Propagandamittel im Sinne des Absatzes 2 ist nur ein solcher Inhalt (§ 11 Absatz 3), der gegen den Bestand oder die Sicherheit eines Staates oder einer internationalen Organisation oder gegen die Verfassungsgrundsätze der Bundesrepublik Deutschland gerichtet ist.

4 第1項および第2項は、当該行為が市民情報、違憲行為の防止、芸術または科学の促進、研究または教育、時事または歴史的出来事の報道、または類似の目的に役立つ場合には適用されない。

(4) Die Absätze 1 und 2 gelten nicht, wenn die Handlung der staatsbürgerlichen Aufklärung, der Abwehr verfassungswidriger Bestrebungen, der Kunst oder der Wissenschaft, der Forschung oder der Lehre, der Berichterstattung über Vorgänge des Zeitgeschehens oder der Geschichte oder ähnlichen Zwecken dient.

5 罪が軽い場合、裁判所は本規定に従って刑を免除することができる。

(5) Ist die Schuld gering, so kann das Gericht von einer Bestrafung nach dieser Vorschrift absehen.

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最高裁大法廷は旧優性保護法の下で不妊手術の強制は憲法第13条及び第14条第1項違反を理由に国に賠償命令を命じるとともに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る除斥期間の解釈を憲法違反と判示

令和6年(2024年)7月3日、最高裁判所大法廷(裁判長:戸倉三郎長官)は旧優性保護法(Eugenic Protection Law)の下で不妊手術を強制した(forced sterilisation)のは憲法第13条及び第14条第1項に明らかに違反するとして、国に賠償命令を命じるとともに、違法な旧法を放置してきた国会議員の責任を明確化し、さらに下級裁判所における改正前の民法の解釈巡る「除斥期間(注1)の解釈を憲法違反と判示した。

 筆者は、この判決の意義を改めて内外メデイアの英字紹介レポートの解説を期待したが、JIJI.com、Nikkei Japan、Japan Timesなどいずれも一長一短な内容であった。また、併せてピッツバーグ大学ロースクールBBCの英字ニュースを改めて読んでみたが、それらも同様であった。

 この判決については後日、専門家による詳細な解説が行われることは間違いないが、筆者なりに画期的な内容を持つ本判決の主要な論点整理を行う。

 なお、わが国民法の根拠法といえるドイツ民法第5章の消滅時効の規定の訳文(2015年3月)があり、原文を参照のうえ併せ引用した。

 

1.最高裁判決の重要ポイント

最高裁判所 戸倉三郎 長官

(1)最高裁判所は7月3日、即日判決文を公表した。判決文全文参照されたい。(裁判長裁判官 戸倉三郎 裁判官 深山卓也 裁判官 三浦 守 裁判官 草野耕一 裁判官 宇賀克也(注2) 裁判官 林 道晴 裁判官 岡村和美 裁判官 安浪亮介 裁判官 渡 惠理子 裁判官 岡 正晶 裁判官 堺 徹 裁判官 今崎幸彦 裁判官 尾島 明 裁判官 宮川美津子 裁判官 石兼公博)

 主文部を抜粋、以下で引用する。

1. 優生保護法中のいわゆる優生規定(同法3条1項1号から3号まで、10条及び13条2項)は、憲法13条及び14条1項に違反する。

2. 上記優生規定に係る国会議員の立法行為は、国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受ける。(注3)

3. 不法行為によって発生した損害賠償請求権が民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)724条後段の除斥期間の経過により消滅したものとすることが著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができない場合には、裁判所は、除斥期間の主張が信義則に反し又は権利の濫用として許されないと判断することができる。

4. 同条後段の除斥期間の主張をすることが信義則に反し権利の濫用として許されないとされた事例。

(2)今回の最高裁判決の対象となる5件の訴訟は札幌仙台東京大阪神戸の各地裁に起こされた。一審はいずれも除斥期間を適用し、原告の請求を棄却。二審はいずれも旧法を違憲とした上で、札幌、東京、大阪の3高裁4件が除斥期間の適用を制限して国に賠償を命じた一方で、仙台高裁は訴えを退けていた。

(この点、7月3日の読売新聞の1面記事はやや不正確)(下線部は筆者が引いた)

(3) 従来の最高裁(1989年)や下級審における除斥期間に関する最高裁判決の違憲判断の主文要旨を改めて整理する。

 除斥期間の適用について、①立法という国権行為が憲法上保障された権利を違法に侵害することが明白である場合は法律関係の安定という除斥期間の趣旨が妥当しない面があること、②長期間にわたり国家の政策として多数の障害のある者等を差別して不妊手術という重大な人権侵害を行った国の責任は極めて重大であること、③被害者らが損害賠償請求権を行使するのは極めて困難であったこと、④国会は、1996年に旧優生保護法母体保護法へと改正した後、適切に立法裁量権を行使して速やかに補償の措置を講じることが強く期待されていたにもかかわらず、長期間にわたり補償の措置をとらなかった上、2019年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」(以下「一時金支給法」という。)は国の損害賠償責任を前提とするものではなかったこと等を理由として、旧優生保護法による被害に除斥期間を適用することは、著しく正義・公平の理念に反し、到底容認することができないと判断したものである。(日本弁護士連合会サイト「旧優生保護法国賠訴訟の最高裁判所大法廷判決を受けて、被害の全面的回復及び一時金支給法の改正を求める会長声明」を抜粋)

(3) パン・ホー・リウ(Pan Ho Liu)氏 | 香港大学法学部、中国/香港Pan Ho Liu | HKU Faculty of Law, CN/HK

2024年7月4日ピッツバーグ大学ロースクールJURIST「日本の最高裁、強制不妊手術法は違憲と判断(Japan top court finds forced sterilisation law unconstitutional)」の仮訳の併記と筆者が一部追記

 日本の最高裁は、現在は1996年に廃止されている優生保護法(Eugenic Protection Law)が違憲であると判断し、強制不妊手術の被害者に賠償するよう日本政府に命じた。この判決は、東京、仙台、札幌、大阪の4高裁の判決に対する統一判決だった。判決の中で、日本の最高裁は、優生保護法とその後の手続きは「個人の尊厳と人格の尊重の理念に著しく反する」ため、日本国憲法第13条および第14条第1項に違反すると裁定した。

The Supreme Court of Japan ordered the Japanese government to compensate victims of forced sterilization after holding that the now-defunct Eugenic Protection Law was unconstitutional. The decision was a unified decision on five different appeals from Tokyo, Sendai, Sapporo, and Osaka. In its ruling, the Japanese Supreme Court held that the Eugenic Protection Law and its subsequent procedures were “significantly against the idea of respect for individual dignity and personality” and thus in violation of Article 13  and 14, paragraph 1 of the Japanese Constitution.

 最高裁は国が主張した賠償請求権の20年の時効(除斥期間)を批判し、時効は「正義と公平の理念」に反すると判断した。優生保護法を批判する下級裁判所の判決が多数あったにもかかわらず、時効により下級裁判所は賠償金の支払を命じ得なかった。

The Supreme Court also criticised a 20-year statute of limitations(extinctive prescription) on the right to bring compensation claims by ruling that the statute of limitations goes against “the idea of justice and fairness.” The statute of limitations prevented the lower courts from awarding compensation despite many lower court rulings criticising the Eugenic Protection Law.

 最高裁の判決に先立ち、全国優生保護法被害者弁護団の共同代表でもある被害者の弁護士、新里宏二氏は最高裁に対し「生存中の名誉回復と救済のため、迅速な判決を下してほしい」と訴えた。同弁護士は「手術で人間の尊厳が奪われた」ため「憲法違反と判断されるのは当然だ」と述べた。被害者の一人、80歳の北三郎(仮名)氏は「最後まで闘いたい。国に謝罪してほしいという思いを抱えたまま死にたくない」と断言した。

Prior to the Supreme Court’s judgment, a victim’s lawyer, Koji Niisato, who is also the co-chair of the National Eugenic Protection Law Victims’ Lawyers Group, called on the Supreme Court to make “a swift decision to be made in order to restore their honor and provide relief while they’re still alive.” The lawyer cited how “the surgery took away their human dignity” and thus “it’s only natural that it will be ruled a violation of the Constitution.” One of the victims, 80-year-old Kita Saburo, affirmed that “I want to fight to the end. I don’t want to die with the desire for the country to apologize.”

優生保護法は戦後の日本の人口爆発に対処するため1948年に制定された。この法律は、優生保護法第1条に概説されている「劣等な子孫の増加を防止する」ために、日本政府が遺伝性の身体的または精神的障害を持つ人々を不妊にするために優生保護法は戦後である1948年に制定され、1996年まで半世紀近くにわたって存続した。政府の報告によると、約25,000人が不妊手術を受け、そのうち16,500件の手術が同意なしに行われた。

The Eugenic Protection Law was enacted in 1948 to combat Japan's postwar population explosion. The law allowed the Japanese government to sterilize people with hereditary physical or mental disabilities in order to "prevent the increase of inferior offspring" as outlined in Article 1 of the Eugenic Protection Law, and remained in place for nearly half a century until 1996. According to government reports, approximately 25,000 people were sterilized, with 16,500 of those surgeries being performed without consent.

2019年、日本の国会は、旧優生保護法(最終更新:平成二十五年法律第八十四号1996年「母体保護法」(昭和二十三年法律第百五十六号)(注4)に改正・改称)に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関する法律を制定し、優生保護法に基づいて不妊手術を受けた被害者1人につき320万円の一時金を支給した。2019年の法律の前文で、国会は優生保護法の被害者とそもそもこの法律が可決されたことに対して「心からお詫び申し上げます」と述べた。

In 2019, the National Diet of Japan enacted the Law on the Payment of Lump Sum Payments To Those Who Have Undergone Eugenic Surgery, etc., Based on the Former Eugenic Protection Law, which offered a lump sum of 3.2 million Japanese yen to every sterilised victim of the Eugenic Protection Law. In the 2019 law’s preamble, the Diet offered “deepest and most sincere apologies.” to the victims of the Eugenic Protection Law and for the passage of the law in the first place.

(4)2024.7.3 BBC news の和訳「日本の最高裁、強制不妊手術は違憲と判断 」

 同記事の英文の原文は法律記事として必ずも正確な内容とは言えない。原文を見直し、追記するとともに英文読者宛て和英文を併記した。

 日本の最高裁判所は、7月3日、1950年代から1990年代にかけて1万6500人の障害者(知的障害、遺伝性の視覚・聴覚障害等)が強制的に不妊手術を受けた。廃止された優生保護法憲法第13条および第14条第1項に違反すると裁定した。

On July 3, the Supreme Court of Japan ruled that the since-abolished Eugenic Protection Law, which forced 16,500 people with disabilities (such as intellectual disabilities and hereditary visual and hearing impairments) to be sterilized between the 1950s and 1990s, violated Articles 13 and 14, paragraph 1 of the Constitution.

 すなわち、最高裁は旧法でいう「障害者の出生を防止するという目的は、当時の社会的状況を勘案しての正当とは言えず、障害者を差別的に扱い、不妊手術によって生殖能力の喪失という重大な犠牲を強いた」として個人の尊厳や人格の尊重をうたう憲法第13条および法の下での平等を定めた憲法第14条第1項に違反すると判示した。

The Supreme Court ruled that the old law's "purpose of preventing the birth of disabled people could not be considered legitimate given the social situation at the time, and it discriminated against disabled people and forced them to make the grave sacrifice of losing their reproductive ability through sterilization," and that it violated Article 13 of the Constitution, which proclaims respect for the dignity and personality of the individual, and Article 14, Paragraph 1, which stipulates equality under the law.

 さらに、このような違法性が明白な法律を成立させたことは国家賠償上、違法であると判断した、国の責任は極めて重大であるとともに、国は1996年に旧優性保護法が廃止された後も不妊手術を適法であると主張、補償しなかったと批判した。訴訟が除斥期間経過後に起こされたということのみで国が賠償責任を逃れることは著しく正義・公平の理念に反するもので、国が除斥期間の適用を主張することは権利の濫用にあたると結論付けた。

Furthermore, the court ruled that passing such a clearly illegal law was illegal in terms of state compensation, and criticized the government for its extremely grave responsibility, insisting that sterilization was legal and failing to provide compensation even after the old Dominant Sex Protection Law was abolished in 1996. The court concluded that for the state to avoid liability for compensation simply because the lawsuit was filed after the statute of limitations had passed is a gross violation of the principles of justice and fairness, and that the state's insistence on the application of the statute of limitations is an abuse of rights.

 また、最高裁判所は2022年から2023年の間、札幌、仙台、東京、大阪高裁で言い渡された計5件の訴訟に関与した11人の被害者に損害賠償を支払うよう政府に命じた。

The Supreme Court also ordered the government to pay damages to 11 victims, who were involved in five cases that were heard on appeal.

 今回の7月3日の画期的な最高裁判決は、補償と謝罪を求めてきた被害者による数十年にわたる正義・公平を求める闘いに終止符を打つものとなった。

The landmark Supreme Court ruling on July 3rd brings to an end a decades-long fight for justice and fairness by victims who have sought compensation and an apology.

 長年のこれら訴訟の後、2019年4月の法律により生存する被害者に1人当たり320万円の一時金による損害賠償が認められたが、一部の被害者はより高い補償額を求めて闘い続けていた。最高裁判所に持ち込まれた4件の訴訟では、高裁が命じた賠償額1650万円を不服として国が上告していた。5件目の訴訟では、2人の女性原告が、下級裁判所が時効を理由に請求棄却したことに対し不服として控訴していた。

After years of litigation, an April 2019 law awarded surviving victims a lump sum of 3.2 million yen each, but some victims continued to fight for higher compensation. In four cases that reached the Supreme Court, the state had appealed against a high court's award of 16.5 million yen in compensation. In the fifth case, two female plaintiffs had appealed a lower court's dismissal of their claims on statute of limitations grounds.

 1948年に制定された第2次世界大戦後の法律に基づき、約2万5000人が、遺伝性の障害を持つ人々を中心に、「劣等」とみなされる子供を産まないように手術を受けた。日本政府は、不妊手術のうち1万6500件が同意なしに行われたことを認めた。

Under a post-World War Two law enacted in 1948, some 25,000 people - many of whom had inheritable disabilities - underwent surgeries to prevent them from having children deemed "inferior".

Japan's government acknowledged that 16,500 of the sterilisation operations were performed without consent.

 当局は、残りの8500人は手術に同意したと主張しているが、弁護士らは、当時彼らが直面した圧力により、手術を「事実上強制された」と述べている。

Although authorities claim the 8,500 other people consented to the procedures, lawyers have said they were "de facto forced" into surgery because of the pressure they faced at the time.

 2023年6月19日に発表された国会あて報告書(注5)によると、一部被害者はわずか9歳だった。

Victims were as young as nine years old, according to a parliamentary report published in June last year.

この法律は1996年に廃止された。

The law was repealed in 1996.

2.2020年4月1日の改正民法施行と除斥期間の問題点

 改正民法では、不法行為による損害賠償請求権(慰謝料請求権)の除斥期間はなくなり、消滅時効に統一された。

具体的には、その損害及び加害者を知ったときから5年、または、その不法行為の時から20年の時効期間である。

 「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」も、改正民法では時効期間で統一された(改正民法724条2号)。旧法民法724条では、「除斥期間」(除斥期間は、一定の時間の経過により権利が消滅するという点で消滅時効と似ているが、以下の点で異なる。

 ①中断・停止(改正民法では完成猶予・更新)の制度がないこと。

 ②当事者が援用しなくても権利消滅の効果が発生すること。

 ③起算点が権利の発生時点であること。

 ④効果が遡及しないこと。

と解釈されていたので、不法行為時から20年経つと問答無用で権利が消えてしまった。(1989年最高裁判例として「除斥期間」を定着させていた)

これに対し、2020年4月1日施行の改正民法では、20年の時効期間内に、時効の更新や完成猶予(旧法でいう「中断」や「停止」)もありうることになり、権利行使の機会をより確保できることとなった。

 (不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)

724(改正前民法) 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年を経過したときも、同様とする。

改正民法724

不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。

2 不法行為の時から20年間行使しないとき。

改正民法724条の2

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは、「5年間」とする。

3.消滅時効に関するドイツやカナダの民法規定の概観

(1)わが国の民法は言うまでもなくドイツ民法の総則を引用している。参考までドイツ法務消費者保護省サイトのドイツ民法・消滅時効の関係条文の訳文(2015年3月国立国会図書館調査及び立法考査局 山口 和人 (専門調査員 行政法務調査室主任)「基本情報シリーズ⑲ドイツ民法Ⅰ (総則)を抜粋、引用する。(青字は筆者の追記部)

ドイツ民法 5 章 消滅時効

第 5 章 消滅時効

第 1 節 消滅時効の対象及び期間

194  消滅時効の対象

⑴ 他人に対してある行為をすること、又はしないことを求める権利(請求権)は、消滅時効[Verjährung]に服する。

ただし、次の場合は消滅時効に服さない

  1. 時効の対象とならない犯罪から生じる請求権(筆者がドイツ民法に基づき追加)

2.家族関係から生じる請求権は、それが将来に向けて家族関係に応じた状態の創設又は血族関係の解明のための遺伝学上の調査に対する同意に向けられている限りにおいて消滅時効に服さない。

195  通常の消滅時効期間(Regelmäßige Verjährungsfrist)

通常の消滅時効期間は、3 年とする。

196 条 土地に関する権利の消滅時効期間(Verjährungsfrist bei Rechten an einem Grundstück)

土地に関する所有権の移転及び土地に関する権利の設定、移転若しくは取消し又はこれらの権利の内容の変更に対する請求権並びに反対給付に対する請求権は、10 年で消滅時効が完成する。

197  30 年の消滅時効期間(Dreißigjährige Verjährungsfrist)

⑴ 次に掲げる請求権は、別段の定めがない限り、30 年で消滅時効が完成する。

  1. 故意による生命、身体、健康、自由又は性的自己決定の侵害に基づく損害賠償請求権
  2. 所有権その他の物権、第 2018 条、第 2130 条及び第 2362 条の規定に基づく引渡請求権並びに引渡請求権の主張に資する請求権
  3. 確定判決をもって確認された請求権
  4. 執行可能な和解又は執行可能な証書に基づく請求権
  5. 破産手続において行われた確定により執行可能となった請求権
  6. 強制執行の費用の償還に対する請求権

⑵ 前項第 3 号から第 5 号までの請求権が、将来弁済期が到来する規則的に反復される給付を内容としているときは、30 年の消滅時効期間に代えて通常の消滅時効期間を適用する。

198  権利承継者の場合の消滅時効(Verjährung bei Rechtsnachfolge)

物上請求権の対象となっている物が、権利の承継により第三者の占有に帰したときは、前権利者の占有期間に経過した消滅時効期間は、権利の承継者のために効力を有する。

199  通常の消滅時効期間の始期(Beginn der regelmäßigen Verjährungsfrist und Verjährungshöchstfristen)

⑴ 通常の消滅時効期間は、別段の始期が定められていない限り、次に掲げることがいずれも生じた時が属する年の終了とともに開始する。

  1. 請求権が成立したこと。
  2. 債権者が請求権の根拠となる事情及び債務者が誰であるかについて知っていたか又は重大な過失なく知りうべきであったこと。

⑵ 生命、身体、健康又は自由の侵害に基づく損害賠償請求権は、請求権の成立及びそのことに関する知又は重大な過失による不知にかかわらず、犯行、義務違反又は損害を生じさせたその他の事象から 30 年で消滅時効が完成する。

⑶ その他の損害賠償請求権は、次に掲げる期間の満了により消滅時効が完成する。

  1. 知識又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立の時から 10 年
  2. 請求権の成立及びそのことに関する知又は重大な過失による不知にかかわらず、犯行、義務違反又は損害を生じさせたその他の事象から 30 年

消滅時効の完成には、先に満了した期間を基準とする。

(3a) 相続開始に基づくか、又はその主張が死因処分を知ることを要件とする請求権は、知又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立から 30 年で消滅時効が完成する。

⑷ 第 2 項から前項までに規定する請求権以外の請求権は、知識又は重大な過失による不知にかかわらず、請求権の成立の時から 10 年で消滅時効が完成する。

⑸ 請求権が不作為に対するものであるときは、違反行為をもって請求権の成立に代える。

200  その他の消滅時効期間の始期(Beginn anderer Verjährungsfristen)

通常の消滅時効期間に服さない請求権の消滅時効期間は、別段の消滅時効期間の始期の定めがない限り、請求権の成立とともに開始する。前条第 5 項の規定は、この条に準用する。

201  確定した請求権の消滅時効期間の始期(Beginn der Verjährungsfrist von festgestellten Ansprüchen)

第 197 条第 1 項第 3 号から第 6 号に掲げる種類の請求権の消滅時効は、裁判の確定力(Rechtskraft der Entscheidung)、執行名義の作成(Errichtung des vollstreckbaren Titels)又は破産手続における確定とともに開始するが、請求権の成立前には開始しない。第 199 条第 5 項が適宜適用される。(筆者がドイツ民法に基づき追加))

202  消滅時効に関する合意の不許容(Unzulässigkeit von Vereinbarungen über die Verjährung)

⑴ 消滅時効は、故意による責任の場合に、法律行為により、あらかじめその完成をより容易にすることはできない。

⑵ 消滅時効は、法律行為により、法律上の消滅時効開始から 30 年の消滅時効期間を超えて、その完成をより困難にすることはできない。

2 節 消滅時効の停止、消滅時効完成の阻止及び消滅時効の新たな開始(Hemmung, Ablaufhemmung und Neubeginn der Verjährung)

  203  交渉の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei Verhandlungen)

債務者と債権者との間で、請求権又はその根拠となる事情についての交渉が未確定であるときは、一方又は他方の当事者が交渉の継続を拒絶するまで、消滅時効は停止する。消滅時効は、最も早い場合で、停止の終了の 3 月後に完成する。

204  権利追求による消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung durch Rechtsverfolgung)

⑴ 消滅時効は、次に掲げる行為により停止する。

  1. 給付の訴え(Klage auf Leistung)、請求権の確認の訴え(auf Feststellung des Anspruchs)又は執行文付与の判決(Vollstreckungsurteils,)を求める訴えの提起

       1a.(削除)

  1. 未成年者の扶養に関する簡易手続における申立ての送達
  2. 督促手続における督促通知、又は欧州の督促手続導入に関する 2006 年 12 月 12 日の欧州議会及び理事会の規則(EC)1896/2006 号による欧州督促手続における支払命令の送達
  3. 州の法務行政機関により設置され若しくは承認された調停所に対する調停申立ての公示の指示、又は各当事者が、合意の試みを一致して行っているときは、紛争解決を行うその他の調停所に対する調停申立ての公示の指示。申立て後まもなく公示がなされたときは、消滅時効の停止は、申立て提起時に開始する。
  4. 訴訟における請求権の相殺の主張
  5. 訴訟告知の送達

  6a. モデル手続

  係が請求権の基礎となっている限りにおいて、モデル手続において規定されている請求権のためこの手続を利用する

  旨の申出の送達であって、モデル手続の確定判決による終結後 3 月以内に申出において掲げられた請求権の給付の訴

  え又は確認の訴えが提起されたとき。

  1. 独立した証明手続実施の申立ての送達
  2. 合意された鑑定手続の開始(Beginn eines vereinbarten Begutachtungsverfahrens,)
  3. 仮差押命令(Erlass eines Arrests)、仮処分若しくは仮命令の申立て(einstweiligen Verfügung oder einer einstweiligen Anordnung)の送達、又は、申立てが送達されない場合における、申立ての提起であって、仮差押命令、仮処分若しくは仮命令が債権者に対する言渡し若しくは送達から 1 月以内に債務者に送達されたとき。
  4. 破産手続(Insolvenzverfahren)又は水路法上の分配における請求権の申出(die Anmeldung des Anspruchs im Insolvenzverfahren oder im Schifffahrtsrechtlichen Verteilungsverfahren)仲裁裁判手続の開始(den Beginn des schiedsrichterlichen Verfahrens,)
  1. 訴えの許容性が官庁の事前の決定に依存しているときの、官庁に対する申立ての提起であって、申請処理後 3 月以内に訴えが提起されること。この規定は、裁判所又は第 4 号にいう調停所に提起されるべき申立てであってその許容性がある官庁の事前の決定に依存しているときに準用する。
  2. 上級裁判所が管轄裁判所を決定すべき場合における上級裁判所に対する申立てであって、申請の処理後 3 月以内に訴えが提起され、又はこれに対して裁判所の管轄の決定を下さなければならない申立てが提起されたとき。
  3. 訴訟費用扶助又は手続費用扶助の最初の申立ての公示の指示。申立て後まもなく公示が行われたときは、消滅時効の停止は、申立て提起時に開始する。

⑵ 前項の規定による消滅時効の停止は、確定力ある裁判又は実施された手続のその他の終結の 6 月後に終了する。手続が、当事者がこれを行わないことにより停止に至ったときは、当事者、裁判所又はその他手続に関与した機関の最後の手続行為をもって手続の終結に代える。当事者の一方が、手続を更に行ったときは、新たに消滅時効の停止が開始する。

⑶ 第 1 項第 6a 号、第 9 号、第 12 号及び第 13 号には、第 206 条、第 210 条及び第 211 条の規定を準用する。

205  給付拒絶権の場合の消滅時効の停止

債務者が債権者との合意に基づき、一時的に給付を拒絶する権利を有する間は、消滅時効は停止する。

206  不可抗力の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei höherer Gewalt)

債権者が、消滅時効期間の最後の 6 月以内の期間に、不可抗力により権利の追求を妨げられているときは、消滅時効は停止する。

208  性的自己決定の侵害による請求権の場合の消滅時効の停止(Hemmung der Verjährung bei Ansprüchen wegen Verletzung der sexuellen Selbstbestimmung)

性的自己決定の侵害による請求権の消滅時効は、債権者が満 21 歳になるまで停止する。性的自己決定の侵害による請求権の債権者が、消滅時効の開始時に債務者と家内共同体において生活しているときも、消滅時効は、家内共同体の終了まで停止する。

209  停止の効力(Wirkung der Hemmung)

消滅時効が停止している期間は、消滅時効期間に算入しない。

210 条 完全行為能力者でない者の場合の消滅時効完成の停止(Ablaufhemmung bei nicht voll Geschäftsfähigen)

⑴ 行為無能力者又は制限行為能力者が、法定代理人を有しないときは、その者のために又はその者に対して進行する消滅時効は、その者が無制限の行為能力者となり又は代理の不在が除去された時点の後 6 月間の満了前には完成しない。

⑵ 前項の規定は、行為能力を制限された者が、訴訟能力を有するときは、適用しない。

211  相続財産の場合における消滅時効完成の停止

遺産に属する請求権又は遺産に対する請求権の消滅時効は、相続が相続人により承認された時点、遺産に関する破産手続が開始された時点、又は、請求権を代理人により若しくは代理人に対して行使することができる時点の後 6 月間の満了前には、完成しない。消滅時効期間が 6月に満たないときは、消滅時効のために定められた期間をもって 6 月間に代える。

212  消滅時効の新たな開始(Neubeginn der Verjährung)

⑴ 消滅時効は、次に掲げるいずれかの場合に新たに開始する。

  1. 債務者が、債権者に対し、一部弁済(Abschlagszahlung)、利息の支払(Zinszahlung)、担保の提供(Sicherheitsleistung)又はその他の方法で請求権を承認したとき。
  2. 裁判所又は官庁により強制執行が行われ、又はその申立てがなされたとき。

⑵ 強制執行による消滅時効の新たな開始は、強制執行が、債権者の申立てにより又は法律上の要件の欠如のため取り消されたときは、なかったものとみなす。

⑶ 強制執行の実施の申立てによる消滅時効の新たな開始は、第2項に従って申立てが許容されないとき、申立てが強制執行の場合に取り下げられたとき、又は実行された強制執行が、前項の規定により取り消されたときは、なかったものとみなす。

213  他の請求権の場合の消滅時効の停止、完成の停止及び新たな開始(Hemmung, Ablaufhemmung und erneuter Beginn der Verjährung bei anderen Ansprüchen)

消滅時効の停止、消滅時効完成の停止及び消滅時効の新たな開始は、同じ原因から選択的に請求権と並び又はこれに代えて存在する請求権についても適用する。

3 節 消滅時効の法的効果(Rechtsfolgen der Verjährung)

214 条 消滅時効の効力

⑴ 消滅時効の完成後は、債務者は、給付を拒絶する権利を有する。

⑵ 消滅時効の完成した請求権の満足のため給付した物は、消滅時効の完成を知らずに給付したときであっても、その返還を請求することはできない。債務者による契約に従った承認又は担保の提供についても同様とする。

215  消滅時効完成後の相殺(Aufrechnung)及び留置権(Zurückbehaltungsrecht)

請求権が最初の相殺の時点又は給付が拒絶された時点で消滅時効が完成していなかったときは、相殺又は留置権の行使を妨げない。

216  担保付請求権の場合の消滅時効の効力(Wirkung der Verjährung bei gesicherten Ansprüchen)

⑴ 抵当権、船舶抵当権又は質権が存在する請求権の消滅時効は、債権者が、担保権が設定された対象から請求権の満足を得ようとすることを妨げない。

⑵ 請求権の担保のため、ある権利が創出されたときは、請求権の消滅時効を理由として返還を請求することはできない。所有権が留保された場合において、担保された請求権について消滅時効が完成したときであっても、契約を解除することができる。

⑶ 前 2 項の規定は、利息請求権その他の反復される給付に対する請求権の消滅時効には適用しない。

217  従たる給付の消滅時効(Verjährung von Nebenleistungen)

主たる請求権とともに、これに依存する付随的給付も、その請求権に適用される特別の消滅時効が未だ完成していないときであっても、消滅時効が完成する。

218 条 解除の無効(Unwirksamkeit des Rücktritts)

⑴ 給付が行われないこと又は契約に従って行われないことを理由とする解除は、給付に対する請求権又は履行の追完に対する請求権に消滅時効が完成しており、かつ、債務者がこれを援用したときは、効力を有しない。債務者が、第 275 条第 1 項から第 3 項、第 439 条第 3 項又は第 635 条第 3 項の規定により、給付を行う必要がなく、給付に対する請求権又は履行の追完に対する請求権について消滅時効が完成していたこととなるときも同様である。この項の規定は、第 216 条第 2 項第 2 文の規定の適用を妨げない。

⑵ 第 214 条第 2 項の規定は、前項の場合に準用する。

第 219 条から第 225 条まで(削除)

(2)ここでカナダのケベック州民法における消滅時効(Extinctive prescription)の定義を見ておく

「時効は、行使されていない権利を消滅させる手段、または訴訟の不受理を主張する手段である。」(ケベック州民法典(CIVIL CODE OF QUÉBEC)第 2921 条)499頁以下を以下で、引用)

TITLE THREE

EXTINCTIVE PRESCRIPTION

2921. Extinctive prescription is a means of extinguishing a right owing to its non-use or of pleading a peremptory exception to an action.

2922. The period for extinctive prescription is 10 years, except as otherwise determined by law.

2923. Actions to enforce immovable real rights are prescribed by 10 years.
However, an action to retain or obtain possession of an immovable may be brought only within one year of the disturbance or dispossession.

2924. A right resulting from a judgment is prescribed by 10 years if it is not exercised.

2925. An action to enforce a personal right or movable real right is prescribed by three years, if the prescriptive period is not otherwise determined.

2926. Where the right of action arises from moral, bodily or material injury appearing progressively or tardily, the period runs from the day the injury appears for the first time.

2926.1. An action for damages for bodily injury resulting from an act which could constitute a criminal offence is prescribed by 10 years from the date the person who is a victim becomes aware that the injury suffered is attributable to that act. Nevertheless, such an action cannot be prescribed if the injury results from violent behaviour suffered during childhood, sexual violence or spousal violence. Conversion therapy, as
defined by section 1 of the Act to protect persons from conversion therapy provided to change their sexual orientation, gender identity or gender expression (chapter P-42.2), constitutes violent behaviour suffered during childhood within the meaning of this article.
However, an action against an heir, a legatee by particular title or a successor of the author of the act or against the liquidator of the author’s succession must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the author’s death, unless the defendant is sued for the defendant’s own fault or as a principal. Likewise,an action brought for injury suffered by the person who is a victim must, under pain of forfeiture, be instituted within three years after the death of the person who is a victim.

2927. The prescriptive period for an action in nullity of contract runs from the day the person invoking the cause of nullity becomes aware of such cause or, in the case of violence or fear, from the day it ceases.

2928. An application by a surviving spouse to have the compensatory allowance determined is prescribed by one year from the death of his spouse.

2929. An action for defamation is prescribed by one year from the day on which the defamed person learned of the defamation.

2930. Notwithstanding any provision to the contrary, where an action is based on the obligation to make  reparation for bodily injury caused to another, the requirement that notice be given prior to bringing the action or that the action be instituted within a period that is less than that provided for in this Book, cannot defeat a prescriptive period provided for in this Book.

2931. In the case of a contract of successive performance, prescription runs with respect to payments due,even though the parties continue to perform one or another of their obligations under the contract.

2932. The prescriptive period for an action to reduce an obligation that is performed successively runs
from the day the obligation becomes due, whether the obligation arises from a contract, the law or a judgment.

2933. No holder may be released by prescription from the prestation attached to his detention; however, its extent may be prescribed, as may the arrears.

カナダ民法典の消滅時効につき、ケベック州Lambert Avocats team弁護士サイトから抜粋、仮訳する)

 消滅時効は、民事責任の観点からあなたの権利を認めてもらう上で、我われにとって最も重要なものである。

 確かに、このタイプの消滅時効期間は、法律で定められた期限内に訴訟権を行使しないという単純な事実によって訴訟権を消滅させる効果がある。したがって、所定の期間が経過したら訴訟を起こすことを決定した場合、不受理の申し立てに反対する可能性がある。たとえば、時効が経過した後に訴訟を起こした場合、裁判所は、救済の可能性はあるものの、訴訟の権利は時効があるとみなされるため、それにアクセスできないことを認める場合がある。したがって、これらの期限を理解し、権利を行使するときに不愉快な思いをしないようにすることが重要である。

 一般的に、身体の完全性に対する権利などの個人的権利を主張する場合、期間は3年に短縮される。これは、精神的損害および物質的損害に関しても有効である。

 ただし、過失を犯してから数年後に損害が発生することもある。たとえば、ケベック州控訴裁判所で審理されたある事件では、土地測量士が土地の境界を定める際に誤りを犯した。しかし、損害が発生したのは契約終了後 7 年経ってからであった。その後、裁判所は、民事責任の場合、3 年間の時効期間は、過失、損害、因果関係という 3 つの必須要素が満たされた時点から始まるとの判決7/3(21)を下した。したがって、過失が行われた時点を考慮する必要はなく、具体的に損害が最初に生じた時点を考慮する必要があるとした。

 損害が徐々に進行する場合も、同じ原則が適用される。その場合は、損害が発生したとする名誉権(right to reputation)の主張に関しては、法律は、被害者が自分に対する名誉毀損を知った瞬間から 1 年間の期間を定めている。テレビ番組で放送された人種差別的発言を扱った控訴裁判所の判決では、発言の重大性に関わらず、期限は同じであると裁判所は指摘した。 

 受けた損害が刑事的に非難されるべき行為の結果である場合、議会は法的措置を取るためのより寛大な時間枠を設けている。したがって、被害者は、受けた犯罪行為と顕在化した損害との因果関係を知った瞬間から 10 年間、訴訟を起こすことができる。性的暴行行為によって引き起こされた損害の場合も、消滅期限はない

 また、民事訴訟における立証責任は刑事事件と同じではなく、民事裁判では前者が優先されることも考慮する必要がある。つまり、犯罪行為が実際に行われたことをしたがって,ある事実についてどちらが立証責任を負っているかは,訴訟において極めて重要な意味を持ち、蓋然性のバランス (balance of probabilities)によって証明するだけで済む。(注6)

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(注1)除斥期間」の英訳ははたしてどうか。消滅時効であれば“extinctive prescription”であろう。

ちなみに、わが国民法の英訳例(法務省)で第724条を見ておく。

(Extinctive Prescription of Claim for Compensation for Loss or Damage Caused by Tort)

Article 724:

In the following cases, the claim for compensation for loss or damage caused by tort is extinguished by prescription:

(i)the right is not exercised within three years from the time when the victim or legal representative thereof comes to know the damage and the identity of the perpetrator; or

(ii)the right is not exercised within 20 years from the time of the tortious act.

(注2) 裁判官 宇賀克也氏の意見は、次のとおりである。反対意見や小数意見ではない。

1 私は、本件規定が憲法13条及び14条1項の規定に違反すると解する点、改正前民法724条後段について、期間の経過により請求権が消滅したと判断するには当事者の主張がなければならないと解すべきであり、また、その主張が信義則に反し又は権利濫用として許されない場合があり、本件はまさにかかる場合に当たるので平成元年判決等を変更すべきとする点については、多数意見に賛成である。

(注3) 国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)第1条第1項

第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

(注4) 「母体保護法(Maternal Health Act)」は、母性の生命健康を保護することを目的とし、不妊手術と人工妊娠中絶について定める。平成8年(1996年)に、優生保護法から、優生思想に基づく規定が削除され、名称が改められた。旧優生保護法は、「不良な子孫の出生を防止する」ことを1つの目的とし、本人、配偶者または4親等内の血族が遺伝性疾患やハンセン病等の場合に、不妊手術と人工妊娠中絶を認めていた。不妊手術は優生手術と呼ばれ、遺伝性疾患等の遺伝を防止するために優生手術が公益上必要であると優生保護審査会が決定したときには、本人の同意なしに不妊手術を強制できるものとしていた。同法に基づいて、1万6,000件以上の強制不妊手術が行われた。

(注5) 令和5年6月19日(月)、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律第21条に基づく調査報告書」が、衆参両院の議長に提出されました。本調査報告書は、平成31年4月に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」第21条の規定に基づく調査報告書として衆議院及び参議院が共同して取りまとめたもので、第1編「旧優生保護法の立法過程」、第2編「優生手術の実施状況等」、第3編「諸外国における優生学・優生運動の歴史と断種等施策」の3編構成となっています。

国立国会図書館では、衆参両院の厚生労働委員長からの協力要請に基づき、調査及び立法考査局社会労働調査室課が中心となり、主に第3編「諸外国における優生学・優生運動の歴史と断種等施策」の原案を作成しました(国立国会図書館「旧優生保護法一時金支給法第21条に基づく調査報告書」から抜粋、引用)

(注6)立証責任を簡単に定義づけるとすると,立証責任を負っている当事者が当該事実の存在または不存在について証明する負担を負っており,仮にその証明に失敗すれば,その事実の存在または不存在は認められないという不利益を被ることを指す。

証明の程度は,英国法下では,民事訴訟においては「balance of probabilities」(ちなみに,刑事訴訟では「beyond reasonable doubt」とされ,検察官がより重い立証責任を負っている)において判断されると言われ,50%以上あり得ると証明できれば,事実が認定されると説明されている。日本法も類似の観念を採用している。

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わが国刑法の尊属重罰規定の憲法違反状態が 45年間続いた問題を始め今般の最高裁の違憲裁判の重大性の意義を再検証する

 7月3日のNHK連続ドラマ「虎に翼」の後半で以下のとおり放送された。「最高裁で尊属殺の重罰規定が議論され、15人の判事のうち13人が合憲と判断。反対を表明した判事のうちの1人が穂高(実名:穂積重遠:渋沢栄一の初孫)だった。寅子が暮らす猪爪家では、判決を報じた新聞を読んだ家族が合憲判断に対する違和感を率直に述べ、反対が2人しかいなかったことに落胆する者もいた。これに対し寅子は、判決は残るし、反対の声がいつか誰かの力になる時がきっとくると話し、絶対にあきらめないという決意を新たにした。

(The Sankei Shimbun & SANKEI DIGITAL Inc:  朝ドラ「虎に翼」7月4日第69話あらすじから抜粋   )

 ところで筆者から見ると、この部分は極めて重要な憲法違憲にかかる問題である。正確性を重視するNHKの従来のスタンスら見て、どうなるか関心をもって見ていたところ7月5日に一部放映された。筆者なりにこの問題をあらためて解説する。

 また、NHKテレビでは穂積重遠氏(ドラマでは穂高重親))は戦後民法の指導的役割をなったとあるが、後述するとおり、最高裁判事として刑法分野においても戦後憲法の民主的理解者でもあった。

 なお、同ドラマで引用されている最高裁判決は昭和25年(1995年)10月11日 大法廷・判決 :昭和25(あ)292事件: 尊属傷害致死罪(刑集4巻10号2037頁)であるが、実は最高裁は その2週間後の昭和25年(1995年)10月25日大法廷・判決 : 昭和24(れ)2105事件:刑集 第4巻10号2126頁: 尊属殺人事件で刑法第200条第2項につき改めて合憲判決を下している。

 その後、23年後の1948年4月4日最高裁大法廷( 昭和45(あ)1310)は刑法の尊属殺人罪の規定が「憲法違反」であるという判決が言い渡された。この判決がきっかけとなって尊属殺人罪の規定が削除されることになった。しかし、実際に刑法200条から第2項が削除されたのはその22年後の平成7年5月31日である。今回の旧優性保護法判決で見る通り、国会議員や法務省厚生労働省など関係省庁における憲法遵守や人権感覚の欠落は国民のとって放置できない問題である。

 今回のブログは、これらの経緯を改めて整理する意味でまとめた。時間の関係で十分に言い尽くせない点があるが機会を改めて詳しく論じたい。

1.わが国刑法の尊属犯罪に関する特別な規定

 平成7年5月31日まで、日本の刑法(明治40年法律第45号)には200条第2に以下の規定が存在していた。(注)

 「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役𠁅()ス」

  つまり、尊属殺人罪とは、自己または配偶者の直系尊属を殺害する犯罪をいう。直系尊属とは、血のつながりが直通する親族のうち、自分より前の世代の人を指し、具体的には、父母、祖父母、曾祖父母などが該当する。法律上の親族関係にある養父母も含まれる。なお、伯父・伯母などは直系ではなく傍系の親族に当たるため、尊属殺人罪の対象にはならない。

 尊属殺人  : 刑法第200条(平成7年削除済) 死刑または無期懲役          

  普通殺人罪   :刑法第200条第1項  死刑または無期もしくは5年以上の懲役(平成16年改正以前の下限は3年以上)

  このように尊属殺人罪の刑罰が加重されていた理由には諸説あるが、一般的に尊属のことを尊重すべき、敬愛すべき、といった倫理観は社会生活を営む上で基本的なものであり、人間として自然に有する情愛の念でもあると考えられていたことが一つの理由であり、社会秩序を維持するためには、このような倫理観を維持する必要があり、そのために重い刑罰を設けることにより、尊属殺人を厳重に禁じたものとする説が有力であった。

  これらの理由から、平成7年(最終改正 平成七年五月十二日法律第九十一号)以前の刑法では、以下のように殺人罪以外にも尊属が被害者となった場合に刑罰を加重していた犯罪類型があった。なお、旧刑法原文を読むには国立国会図書館デジタルアーカイブ:ダウンロード可)の利用が必要である。(注)

  また、尊属犯罪の刑法特別規定には以下もあった。

 ②尊属傷害致死(刑法第205条第2項   : 自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ニ對シテ犯シタルトキハ無期又ハ三年以上ノ懲役ニ𠁅(処)ス

 通常の傷害致死罪(刑法第205条第1項)  : 2年以上の有期懲役  (平成16年改正後は3年以上の有期懲役)    

③尊属保護責任者遺棄罪(刑法第218条第2項(尊属遺棄罪): 自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ニ對シテ犯シタルトキハ無期又ハ六月以上七年以下ノ懲役ニ𠁅(処)ス

 通常の保護責任者遺棄罪(刑法第218条第1項):3ヶ月以上5年以下の懲役     

   逮捕監禁罪(刑法第220条) 尊属逮捕監禁罪  (刑法第220条第2項)  自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ニ對シテ犯シタルトキハ無期又ハ六月以上七年以下ノ懲役ニ𠁅()

   通常の逮捕監禁罪 (刑法第220条第1項 : 3ヶ月以上5年以下の懲役     

 これらの尊属重罰規定も、現在では尊属殺人罪の規定とともに削除されている。

 2.穂積判事(以前は東大・明治大学教授)最高裁判決での小数意見

 昭和25(あ)292事件での裁判官穂積重遠(NHKドラマでは穂高重親)の少数意見は以下のとおりである。(判決原文に合わせ数字は縦書き表示) 昭和24(れ)2105事件判決では穂積判事の小数意見は略されている)。(太字表示は筆者が追加)

最高裁判所大法廷判例集( 尊属傷害致死事件 刑集 第4巻10号2037頁)7/3➅9頁以下を抜粋。

  裁判官穂積重遠の少数意見は左のとおりである。

 本件は刑法二〇五条に関するが、問題は同二〇〇条から出発するゆえ、両条にわたつて意見を述べる。そして先ず両法条の立法を批判したい。

 刑法二〇〇条は、同一九九条に「人ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期若クハ三年以上ノ懲役ニ𠁅(処)ス」とあるのを受けて、「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役二𠁅(処)ス」としたのである。すなわち法定刑の上限は共に死刑であるから、もし尊属殺は極悪非道なるがゆえに極刑を以て臨まねばならぬとしても、それは、一九九条でまかない得るのであつて、特に二〇〇条を必要としない。

 そこで普通殺人と尊属殺との刑罰の差違は、各法定刑の下限に存する。すなわち前者にあつては刑を懲役三年まで下げて執行猶予の恩典に浴せしめることができ、後者は死刑にあらずんば無期懲役と限られているから、かりに法律上の減軽と酌量減軽のあらん限りを尽したとしても、懲役三年半以下に下げることができず、従つて執行猶予を与え得ない。刑法が両者の間にかような差違を設けた理由は、正に多数意見が説くとおりであろうが、普通殺人に重きは死刑にあたいし軽きは懲役三年を以て足れりとしてかつその刑の執行を猶予して可なるがごとき情状の差違あると同様、尊属殺にも重軽各様の情状があり得る。いやしくも親と名の附く者を殺すとは、憎みてもなお余りある場合が多いと同時に、親を殺しまた親が殺されるに至るのは言うに言われぬよくよくの事情で一掬の涙をそそがねばならぬ場合もまれではあるまい。刑法が旧刑法を改正してせつかく殺人罪に対する量刑のはゞを広くしたのに、尊属殺についてのみ古いワクをそのままにしたのは、立法として筋が通らず、実益がないのみならず、量刑上も不便である。

 刑法二〇五条の傷害致死罪については、普通人に対する場合は「二年以上ノ有期懲役」であるが、直系尊属に対する場合は「無期又ハ三年以上ノ懲役」となつているのであるから、法定刑の上限にも下限にも差違を設けてあり、尊属傷害致死について特別の規定をした意味がある。ところが刑法二〇八条の傷害を伴わぬ暴行罪および同二〇四条の死に至らざる傷害罪については、普通人に対するものと直系尊属に対するものとによつて刑の軽重を設けていない。もし「かりにも親のあたまに手をあげるとはげしからん」というのであるならば、そもそも暴行罪からし直系尊属に対するものを重く罰せねばならず、いわんや傷害の故意があつて傷害の結果を生ぜしめた場合はもちろんである。しかるにその暴行傷害を特に重しとせずして、未必の殺意すらないのにたまたま致死の結果が生じた本件のごとき場合になつてはじめて普通人に対する傷害致死と差別して刑を重くするのは、立法として首尾一貫せず、かつ殺意なき行為に対する無期懲役は、科刑として甚だ酷に失する。刑法二〇五条一項により有期懲役の長期たる一五年まで持つて行ければ充分であろう。

 なお遺棄罪については刑法二一八条二項に、また逮捕監禁罪については刑法二二〇条二項に、それぞれ直系尊属に対して犯された場合の刑の加重が規定されている。本件直接の関係でないゆえ一々論及しないが、殺傷の場合の議論が大体当てはまる。

 さらに注目すべきことは、刑法二〇〇条および二〇五条二項の「直系尊属」の範囲である。それは民法の規定に従うのであるが、その民法に新憲法の線にそう改正があつて、「直系尊属」の範囲が変更し、以前は直系の尊属卑属であつた継父母継子の親子関係が認められないことになつた。そこで新民法下において刑法二〇〇条および二〇五条二項を適用すると、継父母を殺しまたは死に致したのは尊属殺または尊属傷害致死ではないことになる。しかし継父母殊に継母は継子に取つて、場合によつて実母同様、少くも養母以上の恩義があり得る関係である。それゆえ殺親罪を認めながら継父母殺しを殺親罪としないことは、父母的関係においてそれよりも遠い「配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者」を殺親罪に問うのとくらべて、甚しい不釣合であつて、新憲法下に殺親罪という旧時代規定を保存した矛盾の一端がはからずもここに暴露したものというべきである。

 かくして刑法二〇〇条および同二〇五条二項は、立法としてすこぶる不合理でありかつ不要であつて、昭和二二年法律第一二四号による刑法一部改正の機会に削除せらるべきであつたと思うが、その機を逸してその規定が現存する今日、この二箇条が憲法に違反する無効のものではないだろうかということが問題になるのは、当然である。原判決は、刑法二〇五条二項を憲法一四条に違反するものであるとして、本件犯行に同条一項を適用し、当裁判所の多数意見は、検事上告を容れて、右刑法二〇五条二項は憲法違反にあらず、従つて本件犯行には右条項を適用すべきものとするのであるが、原判決も検事上告も、また当裁判所多数意見も、単に刑法二〇五条二項だけでなく、同二〇〇条をも含めて、殺親罪全体を問題としている。本裁判官は原判決を、その説明には過不及があるが、結論において正当と認めるがゆえに、以下当裁判所多数意見および上告論旨の諸論点について意見を述べたい。

 (一) 問題の焦点は憲法一四条である。多数意見は、同条は「大原則を示したものに外ならない」のであつて、「法が、国民の基本的平等の原則の範囲内において、、、、道徳、正義、合目的性等の要請により適当な具体的規定をすることを妨げるものでない」とする。しかしながら、憲法が掲げた各種の大原則については、できるだけ何のかのという「要請」によつてその範囲を狭めないように心がけてその精神を保持することが、殊に旧習改革を目指した新しい憲法の取扱い方でなくてはならないと考える。憲法一四条の「国民平等の原則」は新憲法の貴重な基本観念であるところ、実際上千差万別たり得る人生全般にわたつて随所に在来の観念との摩擦を起し、各種具体的除外要請を生じ得べく、あれに聴きこれに譲つては、ついに根本原則を骨抜きならしめるおそれがあることを、先ず以て充分に警戒しなくてはならない。上告論旨(4)は、憲法一四条は「いかなる理由があつても不平等扱を許さないとまでする趣旨ではない。…一定の合理的な理由があれば必ずしも均分的な取扱を要しないものと解すべきである。」と言うが、さような考え方の濫用は憲法一四条の自壊作用を誘起する危険がある。平等原則の合理的運用こそ望ましけれ、不平等を許容して可なりとなすべきでない。

 (二) 多数意見は、刑法の殺親罪規定は「道徳の要請にもとずく法による具体的規定に外ならない」から憲法一四条から除外されるという。しかしながら憲法一四条は、国民は「法の下に」平等だというのであつて、たとい道徳の要請からは必らずしも平等視せらるべきでない場合でも法律は何らの差別取扱をしない、と宣言したのである。多数意見は「原判決が子の親に対する道徳をとくに重視する道徳を以て封建的、反民主主義的と断定した」と非難するが、原判決は「親殺し重罰の観念」を批判したのであつて、親孝行の道徳そのものを否認したのではないと思う。多数意見が「夫婦、親子、兄弟等の関係を支配する道徳は、人倫の大本、古今東西を問わず承認せられているところの人類普遍の道徳原理」であると言うのは正にそのとおりであるが、問題は、その道徳原理をどこまで法律化するのが道徳法律の本質的限界上適当か、ということである。日本国憲法前文は、憲法の規定するところは「人類普遍の原理」に基くものであると言つているが、「人類普遍の原理」がすべて法律に規定せらるべきものとは言わない。多数意見は親子間の関係を支配する道徳は人類普遍の道徳原理なるがゆえに「すなわち学説上所謂自然法に属するもの」と言う。多数意見が自然法論を採るものであるかどうか文面上明らかでないが、まさか「道徳即法律」という考え方ではあるまいと思う。「孝ハ百行ノ基」であることは新憲法下においても不変であるが、かのナポレオン法典のごとく「子ハ年令ノ如何ニカカワラズ父母ヲ尊敬セザルベカラズ」と命じ、または問題の刑法諸条のごとく殺親罪重罰の特別規定によつて親孝行を強制せんとするがごときは、道徳に対する法律の限界を越境する法律万能思想であつて、かえつて孝行の美徳の神聖を害するものと言つてよかろう。本裁判官が殺親罪規定を非難するのは、孝を軽しとするのではなく、孝を法律の手のとゞかぬほど重いものとするのである。

 (三) 上告論旨(5)は、「尊属親関係は依然新民法の下にも是認されている」と言う。なるほど民法は七二九条、七三六条、七九三条、八八七条、八八八条、八八九条、九〇〇条、九〇一条および一〇二八条に「尊属」「卑属」という言葉を使つているが、それは単に父母の列以上の親族を「尊属」子の列以下の親族を「卑属」と名附けたゞけで、実質上何ら尊卑の意味をあらわし取扱を差別しているのではない。新憲法下においては「尊」「卑」の文字は避けるとよかつたのだが、適当な名称を思い附かなかつたので、「目上一「目下」というくらいの意味で慣用に従つたのであろう。そして直系尊属なるがゆえにこれを扶養を受ける権利者の第一順位に置いた民法旧規定は、新憲法の線にそう民法改正によつて消滅したのである。

 (四) 多数意見は「憲法一四条一項の解釈よりすれば、親子の関係は、同条項において差別待遇の理由としてかかぐる、社会的身分その他いずれの事由にも該当しない。」と言う。上告論旨(3)も同趣旨である。これらは同条項後段に着眼しての議論であるが、その議論の当否はしばらく措き、憲法一四条一項の主眼はその前段「すべて国民は法の下に平等」の一句に存し、後段はその例示的説明である。その例示が網羅的であるにしても、その例示の一に文字どおりに該当しなければ平等保障の問題にならぬというのであつては、同条平等原則の大精神は徹底されない。そして多数意見は親に対する子の殺傷行為の方面のみから観察するが、その方面から観ても、同一の行為につき相手方のいかんによつて刑罰の軽重があらかじめ法律上差別されているということは、憲法一四条一項の平等原則に絶対に違反しないとは言い得ないのである。

 (五) さらに転じて、同じ犯罪の被害者が尊属親なるがゆえにその法益を普通人よりも厚く保護されるという面から観れば、問題の刑法規定が憲法一四条の平等原則に違反することは明白である。多数意見は「立法の主眼とするところは被害者たる尊属親を保護する点には存せずして、むしろ加害者たる卑属の背倫理性がとくに考慮に入れられ、尊属親は反射的に一層強度の保護を受けることあるものと解釈するのが至当である。」と言うが、立法の主眼が果していずれにあるかは問題である。刑法二〇〇条についてはその点が明白でないが、前に述べたとおり、刑法二〇八条の暴行罪および同二〇四条の傷害罪においては、加害者が卑属なるがゆえに刑を加重せられるのではなくて、同二〇五条の傷害致死罪に至りはじめて被害者が尊属親なるによつて重刑が科せられるのであるから、立法の主眼が尊属親の法益保護にないとは言えない。そしてたとい「反射的」にせよ尊属親なるがゆえに「一層強度の保護を受けることがある」以上、正に憲法一四条一項の平等原則に違反すると言わざるを得ないのである。

 (六) 多数意見は、原判決が「個々の場合に応じて刑の量定の分野に於て考慮されることは格別」と言つたのをとらえて、もし原判示のごとくんば、親であり子であることを「情状として刑の量定の際に考慮に入れて判決することもその違憲性において変りはないことになるのである。逆にもし憲法上これを情状として考慮し得るとするならば、さらに一歩を進めてこれを法規の形式において客観化することも憲法上可能であるといわなければならない。」と逆襲する。しかし、法定刑に上限下限のひらきを設けて裁判所の情状による量刑にまかすことは現代の刑法上当然の立法であり、加害者、被害者の身分上の続がらがその情状の一であることも無論さしつかえない。たゞ「さらに一歩を進めてこれを法規の形式において客観化すること」が「法の下に平等」の憲法原則に違反し得るのである。

 (七) 上告論旨(2)は「尊属と卑属との関係は、、、如何なる人においても存するのであつて、それは必ずしも或る特殊の人に対して社会的な差別を認めたものとは考えられない。」と言う。それは結局「尊属」「卑属」の関係を憲法一四条一項の「社会的身分」に当てはめまいとした議論であるが、身分なるものは必ずしも特殊的確定的なるを要せず、時に随つて変転するものでもさしつかえない。ともかく特定の時において尊属たる身分に在りそしてその身分のゆえに卑属たる身分に在るのとは違つた待遇を受けることが法律できまつていれば、「法の下に平等」とは言い得ないのである。

 (八) 上告論旨(6)は「今後の立法問題として、かかる特別な規定を設け置く要ありゃ否やの問題と、今日現に存するこの種規定がはたして憲法に違反するかどうかの問題とは、厳に区別さるることを要」するとし、多数意見も右の論旨を是認して、原判決は「憲法論と立法論とを混同するものである」と非難する、原判決はそこまで踏込んで論じてはいないように思はれるが、なるほど憲法論と立法論とを混同すべきではあるまい。しかし前に述べたとおり、刑法二〇〇条と同二〇五条二項との小合理はかなりに著明であり、そしてそれは新憲法前の規定で、新憲法の制定とそれに伴う民法の改正とによつてその不合理が増大したのであるから、右条項は憲法一四条一項と併せて同九八条一項により、憲法施行と同時に効力を有しないことになつたのではないかとさえ考えられる。そしてこれまた前に述べたとおり、これら特別規定なくとも普通規定によつて不孝の子を懲罰するに甚しく妨げないのであるから、問題の刑法規定の違憲性を論ずるに当り立法上の不当と不要とを一論拠とするのも、必ずしも見当違いではないのである。

 以上の理由によつて本裁判官は、本件についての当裁判所裁判官多数意見に賛同し得ず、検事上告を棄却して原判決を維持するを適当と信ずるものである。

3.昭和4844日、最高裁判所尊属殺人罪の規定が「憲法違反」であるという判決

 この判決がきっかけとなって尊属殺人罪の規定が削除されることになったが、平成7年5月31日までは、日本の刑法には第200条に以下の規定が存在していた。

(1)第二百條 自己又ハ配偶者ノ直系尊屬ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役𠁅()

尊属殺人: 昭和48年4月4日  最高裁判所大法廷判決 昭和45(あ)1310事件:結果      破棄自判: 刑集 第27巻3号265頁

 昭和48年に、最高裁判所尊属殺人罪の規定が「憲法違反」であるという判決が言い渡された。この判決がきっかけとなって尊属殺人罪の規定が削除されることになった。

 判決文の結論部を抜粋引用する。「刑法200条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法199条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法14条1項に違反して無効であるとしなければならず、したがつて、尊属殺にも刑法199条を適用するのほかはない。この見解に反する当審従来の判例はこれを変更する。

 そこで、これと見解を異にし、刑法200条は憲法に違反しないとして、被告人の本件所為に同条を適用している原判決は、憲法の解釈を誤つたものにほかならず、かつ、この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、所論は結局理由がある。

 この判決原文は以下のURLで確認されたいが、この判決は、裁判官岡原昌男の補足意見、裁判官田中二郎、同下村三郎、同色川幸太郎、同大隅健一郎、同小川信雄、同坂本吉勝の各意見および裁判官下田武三の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。しかし、必ずしも多数意見には異論が多い判決であったともいえる。

(2)その後も刑法上に規定は残り続けたが、最高検察庁からの通達により適用されなくなり、事実上、この規定は死文化した。そして、平成7年から施行された改正刑法において、正式に第200条の規定が削除された。

 尊属殺人罪の規定が削除されたのかというと、通常の殺人罪と比べて刑罰が重すぎたからである。通常の殺人罪なら法定刑の下限が「5年以上の懲役」(平成16年刑法改正以前は法定刑の下限は3年以上の懲役)なので、減刑を考慮すると有罪となっても執行猶予がつくケースもある。一方、尊属殺人罪では法定刑の下限が「無期懲役」なので、最大限に減刑しても執行猶予を付けることはできない。しかし、尊属殺人の事案でも、執行猶予をつけなければ被告人にとって酷となるケースはあり得る。むしろ、親子間のしがらみを背景として、通常の殺人の事案よりも被告人に情状酌量すべきケースも少なくない。それにもかかわらず、殺害した相手が尊属だということだけで、執行猶予が認められないのは不合理だと最高裁で判断されたのである。

(3)  刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号)による改正

 平成7年4月,刑法の一部を改正する法律(平成7年法律第91号)が成立し,同年6月に施行された。同法は,カタカナ漢文調の古い文体で,難解な用字用語が少なくなかった刑法について,表記の平易化(ひらがな化等)をするとともに,最高裁判所において違憲の判断がなされた尊属殺人に関する規定を始めとする尊属加重規定等を削除することなどを内容とする。

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(注)

https://www.digital.archives.go.jp/DAS/meta/result?IS_KIND=hierarchy&IS_STYLE=default&DB_ID=G9100001EXTERNAL&GRP_ID=G9100001&IS_START=1&IS_TAG_S51=prnid&IS_KEY_S51=F2005022420570801657&IS_NUMBER=100&IS_SORT_FLD=&IS_SORT_KND=&ON_LYD=on&IS_EXTSCH=F2009121017005000405%2BF2005021820554600670%2BF2005021820554900671%2BF2005022419051401457%2BF2005022420564801654%2BF2005022420570801657&IS_ORG_ID=F2005022420570801657

国立国会図書館デジタルアーカイブ:ダウンロード可)の利用手順を以下説明する。

 

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WHO年次総会の感染症対策強化にかかる国際保健規則の改正、「パンデミック条約」の決議の1年以内延期問題、オーストラリアで初めてH5N1型鳥インフルエンザの感染者がインドから帰国女児の発見

 NHK等は世界保健機関(WHO)(194加盟国)の年次総会で行われていた感染症対策を世界的に強化するための「パンデミック条約(Pandemic Agreement)」をめぐる協議は、6月1日、最終日を迎えたが、各国の間で意見の隔たりが埋まらず、交渉期間を最大1年、延長することになった旨報じた。

 スイスのジュネーブで5月27日に始まったWHOの年次総会は6月1日の最終日を迎え、感染症対策を世界的に強化するための「パンデミック条約」をめぐる協議の行方が焦点となった。

 この条約は、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大した際、先進国と途上国の間で対策に格差が生じた教訓を踏まえ、途上国への支援策などを盛り込んだ国際条約で、今回の総会での採択を目指して事前の調整が行われたものの、ワクチンの分配などをめぐって折り合えずにいた。

 このため総会に入っても、各国の間で協議が重ねられていたが、意見の隔たりが埋まらず、今回の総会での採択は見送って、交渉期間を最大1年、延長する決議を全会一致で採択したというものである。

 しかし、以上のような解説からは今回の総会決議の成果につき全体像は浮かび上がってこない。

 今回のブログは、まず、(1)WHOのサイト年次総会の解説、(2)欧州連合理事会サイトでみる「パンデミック条約合意」の意義や目的、(3)オーストラリアでは、ビクトリア州にインドから帰省中の2歳女児からH5N1型鳥インフルエンザが検出され、鳥インフルエンザの特定の株による初のヒト感染例が記録されたとする報道が流れたが、この問題をオーストラリアのメデイアではなく、(4)ニューサウスウェールズ大学感染症専門家の解説にもとづき仮訳する。

 

1.WHO年次総会のリリース

 WHOのリリース文仮訳する。

 世界保健機関の194加盟国による年次総会は、歴史的な展開として、6月1日、国際保健規則(2005年)(IHR(注1)重要な改正案(第3版)で合意(注2)し、遅くとも1年以内に世界的パンデミック協定の交渉を完了するという具体的な約束をした。これらの重要な措置は、すべての国で包括的かつ強固なシステムを導入し、あらゆる場所のすべての人々の健康と安全を将来の流行やパンデミックのリスクから守るために実施された。

 これらの決定は、第77回世界保健総会の最終日に各国が同時に行った2つの重要な措置であり、COVID-19パンデミックを含むいくつかの世界的な健康上の緊急事態から学んだ教訓を基にしたものである。規則の改正案(注3)は、パンデミックを含む公衆衛生上の緊急事態に対する世界的な準備、監視、対応を強化する。

2.欧州連合理事会サイトからパンデミック合意の意義や目的などの解説

 欧州連合理事会サイトからパンデミック合意の意義や目的、メリット等につき解説文仮訳する。

(1)パンデミックに関する国際協定の目的は何か?

 COVID-19パンデミックは世界的な課題であり、単一国の政府や機関が将来のパンデミックの脅威だけに対処することはできない。

 条約、合意、またはその他の国際的な文書は 国際法に基づく法的拘束力。世界保健機関(WHO)の下で採択されたパンデミックの予防、準備、対応に関する合意により、世界中の国々が国、地域、世界の能力と将来のパンデミックに対する回復力を強化できるようになる。

 パンデミックの防止、準備、対応に関する国際的な文書の提案は、公平性包括性透明性の原則に基づいた集団的連帯の精神に基づいている。

 個々の加盟国政府もグローバルコミュニティも、パンデミックを完全に防ぐことはできない。しかし、国際社会は はるかに良い準備 そして 可能な将来のパンデミックへの対応においてより適切に調整 検出、アラーム、対処のサイクル全体を必要とするため、本文書は、パンデミックと戦うために必要な集団行動を構築するために、目的と基本原則を定める。

パンデミックに関する国際条約、合意、またはその他の国際的な文書は、以下をサポートし、焦点を当てる。

早期発見パンデミックの早期拡大防止(early detection and prevention of pandemics)措置

②将来のパンデミック回復力強化(resilience to future pandemics)

対処 特に確実にすることにより、将来のパンデミックに 普遍的で公平なアクセス ワクチン、医薬品、診断などの医療ソリューションの強化(response to any future pandemics, in particular by ensuring universal and equitable access to medical solutions, such as vaccines, medicines and diagnostics)

④WHOを世界の健康問題に関する調整機関としてより強力な国際保健の枠組み (a stronger international health framework with the WHO as the coordinating authority on global health matters)

⑤“One Health”プローチ, 人間、動物、そして私たちの地球の健康をつなぐ(the "One Health" approach, connecting the health of humans, animals and our planet)(注4)

 より具体的には、そのような手段は、監視、警告、対応などの多くの優先分野における国際協力を強化することができるが、さらに国際保健システムへの一般的な信頼も強化できる。

(2)パンデミック国際協定の主な潜在的インセンティブとメリットは何か?

A.パンデミックリスクのより良い監視

 リスクの監視、特に動物から人間に広がる新しい感染症に関する知識共有は、将来のパンデミックの防止に不可欠である。

 これは、次の方法で実現できる。

①すべての国で動物の病気を特定するために必要な検査能力と監視能力の向上

②世界中の研究センター間のコラボレーションを強化

③IHRが規定する「コア・キャパシティー(注5)のための国際資金のより良い調整

B.より良い警告システム

 健康上の脅威の程度に見合ったレベルのアラートを導入すると、公衆衛生上の脅威に関するコミュニケーションの正確さが向上する。これは、制限的または健康関連の措置の透明性と正当性を高めるであろう。

 データの収集と共有のためのデジタルテクノロジーと革新的なツール、および予測分析は、リアルタイムのコミュニケーションと早期警告をサポートできるため、より迅速な対応が引き出される。

C.パンデミックへのより良い対処

①健康用品と医療サービスの確実なサプライ、保持、備蓄

 COVID-19パンデミック中に実証されたように、グローバル・サプライチェーンロジスティクス・システム(注6)は、グローバルな健康の脅威に対処するためにより弾力性を持つ必要がある。すべての国が、世界中のどこからでも必要な物資、医薬品、機器に途切れることなくアクセスできる必要がある。

  効果的な備蓄のためのグローバルな調整も、パンデミックへの対応を容易にするかもしれない。医療機器や高度なスキルを持つ国際医療チームを現場に配備する能力も、世界の健康安全における一歩前進となるであろう。

パンデミック対策の研究と革新

 COVID-19パンデミックは、科学界が迅速に動員し、業界が製造能力を迅速に拡大できることがいかに重要であるかを示した。

 ワクチン、医薬品、診断、保護具などの効果的で安全な医療ソリューションを発見、開発、提供するためのグローバルに調整されたアプローチは、集団の健康安全に役立つ。

 病原体、生物学的サンプル、ゲノムデータの共有、およびタイムリーな医療ソリューション(ワクチン、治療、診断)の開発は、世界的なパンデミックの準備を強化するために不可欠である。

D.より良い対応メカニズム

 ワクチン、医薬品、診断へのアクセスの不平等は、パンデミックを長引かせ、人命と健康、そして我々の社会と経済により深刻な犠牲を払う恐れがある。

 この合意は、将来のパンデミックにおいて、グローバルなニーズにより公平に取り組むため、COVID-19パンデミックの開始以降に開発されたCOVID-19ツールアクセラレータ(ACT-A)(注7)、COVAX(注8)(注9)、およびその他の集合機器へのアクセスの経験に基づいて教訓を引き出す。

E.より良い公衆衛生システムの実装(Better implementation)

 加盟国の公衆衛生システムの回復力は、パンデミックと戦うための重要な要素である。パンデミックの発生に効果的に対応するために、加盟国は公衆衛生システムに依存できる必要がある。これは、より堅牢な国別報告メカニズム、および共同外部評価のより広範な使用とより良いフォローアップを通じて達成できるものである。

F.国際的保健システムへの信頼の回復

 この合意により、国際システムにおける透明性、説明責任、責任の共有が強化される。さらに、市民へのより良いコミュニケーションと情報の基盤を設定する。SNS等で誤った噂誤報は国民の信頼を脅かし、公衆衛生への対応を損なうリスクを発生させる。市民の信頼を償還するには、信頼できる正確な情報の流れを改善し、誤った情報にグローバルに取り組むための具体的な対策を予測する必要がある。

 3.2024.5.22 ABC news「オーストラリアで初めてH5N1型鳥インフルエンザの感染者がインドから帰国した子供から発見される」記事の仮訳

 【要約】

①海外から帰国したビクトリア州の子供からH5N1型鳥インフルエンザ(bird flu ; avian influenza)(注10)が検出された。

②現在、鳥や動物の感染性ウイルス性疾患が世界的に発生している。

③次は何が起こるのか?ビクトリア州保健省は、同州で新たな感染の証拠はないと述べた。

 オーストラリアでは、ビクトリア州に帰省中の子供からH5N1型鳥インフルエンザが検出され、鳥インフルエンザの特定の株による初のヒト感染例が記録された。

 ビクトリア州保健省は、帰国した2歳の子供(女児)が2024年3月に体調を崩し、その後、鳥インフルエンザ鳥インフルエンザとも呼ばれる)の検査で陽性反応が出たことを確認した。

 広報担当者は「子供は重度の感染症にかかったが、体調はもう悪くなく、完全に回復した。」とは述べた。

接触者追跡調査では、この症例に関連する鳥インフルエンザの症例は確認されていない」。鳥インフルエンザは人から人へは簡単には広まらない」と述べた。

 保健省は、追加のヒト感染例の可能性は「非常に低い」とコミュニティに安心させた。

   鶏卵農場の感染とは関連がない

 鳥インフルエンザは鳥の感染性ウイルス性疾患で、人間にはあまり見られない。

 鳥インフルエンザには多くの株(strains)があり、保健省は「そのほとんどは人間には感染しない」と述べた。

「H5N1を含むいくつかの亜型(subtypes)は、家禽に病気や死を引き起こす可能性が高い」と広報担当者は述べた。

 オーストラリア保健省は、これはH5N1株の最初の症例だが、他の株によるヒトへの感染は以前にも報告されていると述べた。

 「2010年3月、オーストラリアの養鶏場で低病原性鳥インフルエンザA(H10N7)の感染が発生した」と広報担当者は述べた。

 「農場から臨床的に正常な鳥を処理した後、屠殺場の作業員7人が結膜炎と軽度の上気道症状を報告した。」

 インフルエンザウイルスA亜型H10感染が作業員2人に検出された。

 現在、米国の乳牛を含む世界各地で H5N1 型ウイルスの流行が発生している。

 最近、米国の酪農従事者 1 人がウイルス検査で陽性反応を示した。

 ビクトリア州の養鶏場では、この病気が発見された後、何十万羽もの鶏が安楽死させられている。

 同州西部のメレディス近郊の農場は検疫中だ。

 保健省は、ビクトリア州の子供と養鶏場での感染との関連はないと述べた。

 なお、オーストラリアで家禽類の鳥インフルエンザが最後に検出されたのは2020年だった。

編集者注:この記事は、オーストラリア保健省からの新たなアドバイスを反映するため、5月25日に更新された。

【補追】

2024.6.1 ABCnews 「鳥インフルエンザの発生が世界中に広がる中、専門家らは将来のパンデミックのリスクと世界がどう備えるべきかについて意見を述べている」から重複しない範囲で補足する。

1.オーストラリアの鳥インフルエンザの状況はどうなっているのか?

 まず、鳥インフルエンザのさまざまな発生がどのように分類されるかを理解しておくことが役立つ。

 鳥インフルエンザは、主に野鳥や家禽の間で広がる感染症である。人間のインフルエンザと同様に、鳥インフルエンザウイルスにはいくつかの種類があり、感染した鳥をどの程度病気にするかを示す高病原性または低病原性に大まかに分類される。

 COVID-19 のような他の感染症と同様に、鳥インフルエンザウイルスはサブタイプまたは「系統」に分けられ、さらに系統群に分けられる。これらの微妙な違いは、ウイルスが進化し、宿主細胞の防御を回避するために変異するにつれて生じる。一部の適応は「スピルオーバー」イベントにつながる可能性があり、ウイルスが 1 つの種から別の種に伝わり、他の動物に感染し、まれに人間にも感染する。

 オーストラリアは近年、病原性の高い鳥インフルエンザの発生を数件経験しているが、これまではいずれも人間に感染したことはない。

 先週、ビクトリア州農業省は、メレディス近郊の養鶏場で、病原性の高い鳥インフルエンザの系統である H7N3 の発生を明らかにした。

 その日の遅く、ビクトリア州の保健当局は、オーストラリアで初めて鳥インフルエンザに感染した人間が確認されたと発表した。感染したのはインドで感染した子どもで、H5N1型と呼ばれる別の系統だった。

 5月24日、ビクトリア州のテランにある別の養鶏場で2度目の鳥類感染が確認された。この養鶏場はメレディスの養鶏場と商業的につながっていた。検査の結果、この感染は別のH7系統であるH7N9であることが確認された。

 先週、西オーストラリア州の混合養鶏場で3度目の感染が確認された。これはビクトリア州での感染とは関係のない低病原性のH9N2系統である。

 州および連邦当局は、感染した養鶏場を検疫下に置き、制限区域内の放し飼いおよび裏庭で飼育されている鶏を一時的に収容するよう命じるなど、影響を受けた業界と協力して養鶏感染を抑え込んでいる。

 ヒト感染例は養鶏場での感染例とは関係がなく、接触者追跡調査では現時点でオーストラリア国内でこれ以上のヒト感染例は確認されていないことに留意する必要がある。

 感染症の進化を追跡する世界的データベースであるGISAIDは、ビクトリア州のヒト感染例をH5N1系統2.3.2.1aと特定している。ゲノム配列解析により、これが現在インドとバングラデシュで流行しているウイルスと関連していることがわかった。

 別の H5N1 系統である 2.3.4.4b は、北米、ヨーロッパ、アフリカと南米の一部で大混乱を引き起こしている。

 米国では、史上最長かつ最大の鳥インフルエンザ流行の中心となり、9,000万羽以上の鳥が死亡した。米国9州の乳牛群でもこのウイルスが検出され、感染拡大を食い止めるための一連の規制や管理命令が出された。米国の乳牛流行に関連して、3人のヒト感染例が報告されている。

 H5N1型およびその他の株は中国でも流行している。福建省の女性は、高病原性のH5N6型に感染し、4月に死亡した。世界保健機関(WHO)によると、この女性は発病前に裏庭で飼育していた家禽と接触していたという。

2.ヒトへの感染リスクは?

 鳥インフルエンザウイルスのヒトへの感染リスクは比較的低く、感染動物との濃厚接触があった場所で感染するのが一般的だ。世界中の保健当局は、養鶏や乳製品などの感染産業や野生動物を扱うその他の職業に従事する人々に注意を促しているが、全体として一般市民へのリスクは低いと考えられている。

 ニューサウスウェールズ大学カービー研究所で世界バイオセキュリティ プログラムを率いるマッキンタイア教授は、これはこのウイルスの作用の仕方によるものだと語る。

 「鳥インフルエンザ ウイルスは鳥に適応しており、鳥の上気道には人間にはない特定の受容体がある。これらのウイルスは鳥と一部の哺乳類の間でのみ容易に拡散し、人間には拡散しない」と同教授は語った。

 しかし、ウイルスが人間の呼吸器に侵入できる適応を獲得する機会があれば、状況は変わる可能性がある。

 マッキンタイア教授は、鳥インフルエンザは、従来このウイルスを運んできた動物(アヒル、ガチョウ、白鳥などの水鳥)からすでに他の野鳥や哺乳類にまで感染していると指摘する。

 「アシカやアザラシ、アカギツネ、コヨーテ、リスの大量死が見られ、これまでこのウイルスを拡散させたことのない野鳥130種にも感染が広がっている」と同教授は述べた。

 南米では、ペルーペリカンの40%以上を含む数十万羽の海鳥が死んでいる。南極大陸全域で多数のアデリーペンギンとトウゾクカモメが「大量死」し、H5N1が原因と疑われている。

 「南極は私たちにとって心配な場所である」とマッキンタイア教授は言う。「ウイルスが南極大陸にあるとすれば、他の鳥が飛来してオーストラリアに持ち込む可能性があるからである」。

 マッキンタイア教授によると、ウイルスが人間に感染しやすく適応する統計的確率は、H5N1系統2.3.4.4bが最も高いという。この種の変異が起きるとすれば、ヨーロッパかアメリカ大陸で起きるのではないかと同教授は考えている。

 米国では、食品医薬品局(FDA)が食料品店で販売されている牛乳やその他の乳製品のサンプルからH5N1ウイルスの断片を発見した。しかし、これらのサンプルから生きたウイルスの証拠は得られなかった。これはおそらく低温殺菌処理によるもので、マッキンタイア教授は「ウイルスは殺せる」と説明している。

4.「オーストラリアで初めて鳥インフルエンザに感染した2歳女児が昨日ビクトリア州で報告され、インドでH5N1型のウイルスに感染した女児が、20243月にオーストラリアに帰国した際に発症」事案の感染症専門家の解説の仮訳

 著者であるレイナ・マッキンタイア(Raina MacIntyre)教授は、オーストラリア・国立保健医療研究評議会(National Health and Medical Research Council:NHMRC)主席研究員、カービー研究所バイオセキュリティプログラムの責任者、ニューサウスウェールズ大学のグローバルバイオセキュリティ教授である。

Raina MacIntyre 氏

 ヘイリー・ストーン(Haley Stone)氏は、レイナ・マッキンタイア教授が率いるカービー研究所のバイオセキュリティプログラムの博士課程の学生である。

 5月22日、インフルエンザに関するすべてのデータを共有する世界イニシアチブである「鳥インフルエンザ 情報 共有 国際推進機構(Global Initiative on Sharing Avian Influenza Data;GISAID)」(注11)(注12)(注13)(注14)(注15)(注16)で公開された情報によると、この子どもは2歳の女児であることが確認されています。彼女は3月初旬に陽性反応を示し、非常に具合が悪かったと報告されていたが、その後完全に回復した。

 ビクトリア州保健省によると、接触者追跡調査で新たな感染者はおらず、他者へのリスクは非常に低いとのことである。

 H5N1 に感染した人間の場合、通常、感染した家禽と密接な接触がある。H5N1 は、人から人へ簡単には広がらないが、しかし、人間の場合の致死率は約 50% である。

1.鳥インフルエンザが国内および世界中でニュースになる中、この最新の状況をどう考えるべきか?

H5N1の世界的感染状況

この子供がインドでどのように感染したか、またこの症例がインドのどこで発生したかに関する公開情報はない。しかし、インドでは現在、ケララ州、アーンドラ プラデーシュ州、マハラシュトラ州で大規模な鳥インフルエンザの発生に直面している。

 H5N1 はインフルエンザ A の系統で、さらに系統群と呼ばれる変種(variants)に分けられる。GISAID のデータによると、子供が感染したウイルスは H5N1 系統群 2.3.2.1a に属する。南アジアの系統群 2.3.2.1a は 2009 年に初めて特定され、現在もバングラデシュとインドの鳥の間で流行している。

 これは、米国で話題になっている乳牛の流行の元となった系統群 (H5N1 系統群 2.3.4.4b) とは異なる。この流行に関連する米国での ミシガン州の酪農家が2 人目のヒト感染例が報告されたばかりで、世界中で、この系統群に関連するヒト感染例は合計 14 件ある。

2.養鶏場での感染はどうか?

 H5N1 に感染した子供のニュースを聞いた同じ日に、オーストラリアのビクトリア州メレディスの卵農場で鳥インフルエンザの発生が報告された。これは別の系統、インフルエンザ A H7N3 であった。 H7 の発生はオーストラリアでは新しいものではない。オーストラリアで最初に発生した H7 は、1976 年にビクトリア州メルボルンで発生した H7N7 であった。最近の 3 件の発生は、2020 年にビクトリア州レスブリッジの放し飼いの農場で発生であった。

 鳥インフルエンザの一部の株は、軽度または目に見える病気を起こさない傾向がある (低病原性と呼ばれる)、H5N1 と H7N3 はどちらも高病原性のウイルスであり、つまり、家禽や野鳥に重篤な病気を引き起こす。

 野鳥が感染源であり、養鶏または家畜の家禽に感染する可能性がある。また、豚や馬などの動物にも感染する可能性がある。

 放し飼いの農場は屋外にあり、感染した野鳥にさらされる可能性があるため、鳥インフルエンザのリスクがある。しかし、全体として、オーストラリアの家禽における高病原性の鳥インフルエンザの発生は非常に少ない。

3.オーストラリア国内で家禽類に高病原性鳥インフルエンザが発生

 ヨーロッパとアメリカ大陸で優勢な(strains)株であるH5N1系統2.3.4.4bは、2020年に始まり、世界中に広がり、300種以上の鳥類と40種の哺乳類に感染した。

 これは、他のどの鳥インフルエンザウイルスよりも広範囲に広がっているため、最も心配な系統です。哺乳類と鳥類では重度の呼吸器疾患を引き起こしますが、脳にも影響を及ぼす。

4.オーストラリアにとっての朗報

 現在までに、オーストラリアの鳥類ではH5N1は検出されていない。養鶏場での発生がH5N1ではなくH7N3であることは朗報といえる。女児の無関係なH5N1感染では、拡散の証拠は見られず、女児は回復した。

 オーストラリアは歴史的に、高病原性鳥インフルエンザから守られてきた。これは、アジアから渡ってくるアヒル、ガチョウ、白鳥(水鳥として知られる)によって広がるためであるが、それらの飛来経路はオーストラリアを迂回している。

 しかし、南極を含むさまざまな野鳥が現在 H5N1 系統 2.3.4.4b に感染しており、ウイルスがオーストラリアに侵入する可能性のある新しい渡り鳥のルートが存在する可能性がある。

 鶏卵農場での発生は、感染した鳥を駆除することで迅速に抑制する必要がある。家禽用のワクチンはあるが、効果は部分的にしかなく、発生を隠す可能性があるため、あまり使用されない傾向がある。農場で H5N1 の発生が広範に及んでいるフランスでは、最近家禽へのワクチン接種を開始したが、発生は続いている。

5.今、関係者は何をすべきか?

 オーストラリアでは、過去のH7型インフルエンザの発生は急速に抑えられているが、警戒を怠ってはならない。一方、西オーストラリア州の養鶏場で、低病原性鳥インフルエンザウイルスH9N2の発生が5月23日報告され、状況は厳重に監視されている。

鳥インフルエンザのデータの報告と共有には遅れが生じることがよくある。ビクトリア州の子供に関する情報は、発生からほぼ3か月後に報告されたが、これは備えとしては理想的ではない。

 当大学が運営するEPIWATCHプラットフォーム(注17)は、公開されているデータと情報を使用したオープンソースの監視は、国際報告データベースの更新が遅れる可能性がある場合に、より迅速な情報を提供できるものである。

 鳥インフルエンザは世界的な懸念事項であるため、動物、鳥、人間に対する監視を強化し、タイムリーに行うことが重要である。また、世界的なデータ共有も重要である。鳥インフルエンザが農業と経済に与える影響は大きいが、さらに人間へのパンデミックの発生も懸念されている。

 H5N1は現在、世界中に広く蔓延しており、人間間で感染できるレベルまで変異する可能性がかつてないほど高まっている。

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(注1) 「IHR(International Health Regulations:国際保健規則)」とは、WHOが、WHO憲章第21条に基づき 2005 年に制定した国際規則。感染症を始めとした国際的な公衆衛生上の脅威となるあらゆる事象をWHOに報告することを加盟国に義務付け、国際交通に与える影響を最小限に抑えつつ、疾病の国際的伝播を最大限防止することを目的としている。(厚生労働省の解説から抜粋)

(注2) 厚生労働省「国際保健規則(IHR)(2005年)の改正の検討状況について           

(令和6年5月31日 最終更新記事)においてIHRの改正経緯や具体的内容が解説されている。

(注3) 第77回世界保健機構総会で合意された国際保健規則の改正(2005)の詳細仮訳

 WHOの歴史的な発展の中で、194加盟国の年次総会である世界保健機構総会は6月1日、国際保健規則(2005 International Health Regulations (2005) (IHR)6/1⑬に対する重要な改正のパッケージに合意し、また、遅くとも1年以内に世界的なパンデミック合意(pandemic agreement)に関する交渉を完了することを具体的に約束した。これらの重要な行動は、将来の集団発生やパンデミックのリスクからあらゆる場所のすべての人々の健康と安全を保護するために、すべての国で堅牢なシステムが導入されるなど包括的な対策を確実にするために取られた。

 これらの決定は、77回目の世界保健総会の最終日に互いに連携して行われた、国による2つの重要なステップを表している。すなわち、1) COVID-19パンデミックを含むいくつかの世界的な健康緊急事態から学んだ教訓に基づいて構築する。2)IHR規則の改正パッケージは、パンデミックを含む公衆衛生上の緊急事態への世界的な準備、監視、対応を強化する。

 WHO事務局長のTedros Adhanom Ghebreyesus博士は「国際保健規則の改正は、各国の能力を強化し、仲間の国家間の調整を行うことにより、疾病監視、情報共有および対応について将来の集団発生とパンデミックを検出して対応する国の能力を強化する。これは、平等への取り組み、健康の脅威は国境を認識していないこと、そして準備は集合的な取り組みであるという理解に基づいている」と述べた。

 さらにTedros博士は「来年中にパンデミック協定を締結するという決定は、次のパンデミックがいつ問題になるかではなく、いつそれを望むかを強く緊急に示している。今日のIHRの強化改正は、パンデミック協定を完了するための強力な勢いを提供する。これは、完成すると、COVID-19によって引き起こされる社会と経済、健康への荒廃の再発を防ぐのに役立つ」と付け加えた。

 IHRの新しい規則改正には以下が含まれる。

(1)パンデミック緊急事態の定義を導入するパンデミックになるリスクがある、またはパンデミックになったイベントに対応して、より効果的な国際協力を誘発する。パンデミック緊急事態の定義は、国際的な懸念のある公衆衛生緊急事態の決定を含む、IHRの既存のメカニズムに基づくより高いレベルの警報を表する。定義によれば、パンデミック緊急事態は、複数の国との間で地理的に広く広がっている、または感染するリスクが高い伝染病である。これらの国で対応する医療システムの能力を超える、または超えるリスクが高い。さらに実質的な社会的および/または経済的混乱を引き起こす、または引き起こすリスクが高い, 国際交通と貿易の混乱を含む。そして、政府全体と社会全体のアプローチ;迅速で公平かつ強化された調整された国際行動が必要である。

連帯と平等への取り組み 医療製品へのアクセスの強化と資金調達について、コア・キャパシティの強化と維持、”およびその他のパンデミック緊急予防、準備、対応関連のキャパシティの向上。これには、開発途上国のニーズと優先事項に公平に取り組むために必要な資金の特定とアクセスをサポートするための調整金融メカニズムの確立が含まれる。

さらに、今回、改正された規制の効果的な実施を促進するための締約締結国委員会の設立し、同委員会は、IHRの効果的な実施のための締約国間の協力を促進し、支援する。一方、加盟国は国家IHR当局の創設し、 国内および国間の規制の実施の調整を改善する。

(注4) ワンヘルス・アプローチ(“One Health”  approach)とは、人、動物、環境の衛生に関する分野横断的な課題に対し、関係者が連携してその解決に向けて取り組むという概念を表す言葉であり、国際的にも認識が高まっている。(わが国厚生労働省の解説)から一部抜粋。

 One Healthは、人、動物、生態系の健康を持続的にバランスさせ、最適化することを目的とした統合された統合アプローをいう。人間、家畜、野生動物、植物、およびより広い環境(生態系を含む)の健康は密接に関連し、相互依存していることを認識している。健康、食糧、水、エネルギー、環境はすべてセクター固有の懸念を持つ幅広いトピックであるが、セクターと分野にわたるコラボレーションは健康の保護に貢献する。また、 感染症の出現、抗菌薬耐性、食品の安全性などの健康問題に対処し、生態系の健康と完全性を促進させる。

 人間、動物、環境を結びつけることにより、One Healthは、予防から検出、準備まで、疾病管理–の全範囲に対処するのに役立つとともに, 対応と管理–、世界の健康安全に貢献する。

 さらに、このアプローチは、コミュニティ、地方、国、地域、世界レベルで適用でき、共有された効果的なガバナンス、コミュニケーション、コラボレーション、調整に依存している。One Healthアプローチを導入することで、人々がコベネフィット、リスク、トレードオフ、および公平で全体的なソリューションを進める機会をよりよく理解できるようになる。(WHOの解説から仮訳)

(注5) IHR に規定されている「コアキャパシティ」とは、地域・国家レベルにおける、サーベイランス・緊急事態発生時の対応、及び空海港・陸上の国境における日常衛生管理及び緊急事態発生時の対応に関して最低限備えておくべき能力のこと。(外務省の解説から抜粋)

(注6) 原材料の調達から消費者の手に届くまで」といった一連の流れを一括で管理するシステムのことをロジスティクスという。商品の生産過程から管理するため、不良在庫や欠品が発生する事態を防ぐことができ、コスト削減が期待できる。

ロジスティクスの仕組み:

ロジスティクスでは、顧客が必要としている商品を、必要なタイミングで、必要な場所に、必要な数だけ届けるための効率的な仕組みが構築される。商品の原材料を調達してから生産、保管、出荷・配送までの一連の流れをロジスティクスで管理することによって現場全体の業務効率化をはかると同時に、迅速かつ正確な出荷・配送を可能になる。

(注7) COVID-19ツールアクセラレータ(ACT-A)

ACTアクセラレーター (Access to COVID-19 Tools Accelerator : ACT-A) は、COVID-19パンデミックに対する効果的かつ公平な世界的対応を可能にするために、2020年 4月に発足した。

ACT-Aの当初の目的は、”新しい診断薬、医薬品、技術を開発、試験、上市、調達、配布するための迅速かつ野心的な作業プログラムを通じて、COVID-19との闘いに不可欠な健康製品を開発し、それらが公平に配布されるようにするとともに、保健システムがこれらのツールを必要としている人々に確実に提供できるよう支援策を講じる “もので、今回のACT-A外部評価は、ACT-A運用の経験からんだ将来のパンデミックへの備えと対応のための重要な教訓を明確にするため、2022年 7月11日から10月10日にかけて実施された。(日本WHO協会の解説から抜粋)

(注8) COVAX ファシリティ(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)

Gaviワクチンアライアンス、CEPI(感染症流行対策イノベーション連合)(注9)及びWHOが主導する、ワクチンを共同購入する仕組み。(i)高・中所得国が自ら資金を拠出し、自国用にワクチンを購入する枠組みと、(ii)ドナー(国や団体等)からの拠出金により途上国へのワクチン供給を行う枠組み(Gavi COVAX AMC)を組み合わせている。

(2)国際的なワクチンの開発・製造を担うCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)が開発支援する9種類のワクチン及び他のワクチンを検討対象とし、幅広いポートフォリオを予定。各国におけるワクチン確保の一手段となり得る。

(3)高・中所得国は、拠出金をCOVAX に支払い、拠出金は開発や製造設備整備に使われる。高・中所得国を含む国際的に公平なワクチンの普及に資する。

(注9) 感染症流行対策イノベーション連合(CEPI: Coalition for Epidemic Preparedness Innovations:セピ)について:

CEPIは、2017年1月にダボス会議で発足した、ワクチン開発を行う製薬企業・研究機関に資金を拠出する国際基金。日本(2022年から今後5年間で3億ドルの拠出を新たに行う)、ノルウェー王国ドイツ連邦共和国、英国、欧州委員会オーストラリア連邦、カナダ、ベルギー王国、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカム・トラスト等が拠出を行っている。平時には需要の少ないエボラ出血熱のような世界規模の流行を生じる恐れのある感染症に対するワクチンの開発を促進し、現在、新型コロナウイルスに対するワクチンの開発も支援している。(わが国厚生労働省の解説から抜粋)

(注10) A型インフルエンザ・ウイルス(H5N1亜型)

感染動物は鳥類(主に水禽類)。なお、2021年以降、鳥類における鳥インフルエンザ(H5N1)の世界的な感染拡大に伴い、海棲哺乳類を含む野生の哺乳類や農場のミンクなどでも感染が報告されている。

鳥類(家きん及び野鳥)の感染事例は、2024年5月現在、欧州、アジア、北米、南米において報告が続いている。

ヒトでの感染事例は、2003年から2024年5月3日時点までに東南アジアを中心に報告されている。(厚生労働省の解説から抜粋)

H5N1やH5N8とはどういう意味か?

A型インフルエンザウイルスの亜型のことである。A型インフルエンザウイルス表面にはヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N)という2種類のタンパク質があり、その抗原性の違いによりA型インフルエンザウイルスを亜型に分類している。現在、ヘマグルチニンタンパク質には1から18まで、ノイラミニダーゼタンパク質には1から11までの亜型がある。例えば、H5N8とはH5亜型のヘマグルチニンとN8亜型のノイラミニダーゼをもつという意味です。これまでに報告された高病原性鳥インフルエンザウイルスは、ほとんどがH5亜型とH7亜型に限られている。(農研機構の解説から抜粋)

(注11) GISAIDのHPの任務の解説仮訳

1.流行およびパンデミックウイルスデータへの迅速かつオープンなアクセスの実現

GISAIDデータサイエンス・イニシアチブは、インフルエンザ、CoV-19、RSウイルス(respiratory syncytial virus (RSV)(注12)、ヒトサル痘(human monkeypox :hMpxV(注13)チクングニア熱(chikungunya)(注14)デング熱(dengue)(注15)、ジカ熱(zika)(注16)などのアルボウイルスなどの優先病原体からのデータの迅速な共有を促進する。これには、ヒトウイルスに関連する遺伝子配列と関連する臨床および疫学的データ、および鳥類およびその他の動物ウイルスに関連する地理的および種固有のデータが含まれており、研究者が流行およびパンデミック中にウイルスがどのように進化し、広がるかを理解するのに役立つ。

GISAIDは、正式な公開前にウイルスデータの共有を妨げたりする阻害的なハードルや制限を克服することでこれを実現します。

このイニシアチブは、身元を明らかにすることに同意し、データベースアクセス契約によって管理されるGISAID共有メカニズムを遵守することに同意したすべての個人に、GISAIDのデータへのオープンアクセスが無料で提供されることを保証する。

GISAIDアクセス認証を持つすべての正当なユーザーは、標本を提供する発信研究室と配列やその他のメタデータを生成する提出研究室を認め、データから得られた結果の公正な利用を確保することで、科学的エチケットを遵守するという基本前提に同意し、すべてのユーザーは、データのオープンな共有とすべての権利と利益の尊重に基づいて研究者間の協力を促進するために、GISAIDに提出されたデータにいかなる制限も加えられないことに同意する。

2.教育プログラムを通じたエンパワーメントと能力開発

GISAID は、教育プログラムの一環として、世界中のパートナー機関と連携して、協力ネットワークの能力開発を支援するさまざまなトレーニング ワークショップを開催している。GISAID データベース技術グループのメンバーは、通常、知識を共有する。

(注12) RSウイルス感染症(Respiratory syncytial virus(RSV))は年齢を問わず、生涯にわたり顕性感染を起こすが、特に乳 幼児期において非常に重要な病原体であり、母体からの移行抗体が存在するにもかかわらず、 生後数週から数カ月の期間にもっとも重症な症状を引き起こす。また、低出生体重児や、あるいは心肺系に基礎疾患があったり、免疫不全のある場合には重症化のリスクが高く、臨床上、 公衆衛生上のインパクトは大きい。(国立感染症研究所感染症研究所解説から抜粋)

(注13) ヒトサル痘(human monkeypox:hMPX)という疾患は、ヒトにおけるサル痘ウイルス(Monkeypox virus:MPXV)による感染症のことである1-3)。MPXVは痘瘡ウイルスと同様ポックスウイルス科オルソポックス属に分類される。痘瘡(天然痘)患者では水疱性・膿疱性皮膚病変が出現するが、hMPX患者においても同様の皮膚病変が出現する。(西條 政幸「2022年サル痘ウイルス感染症の世界的大規模流行の背景と対策」から抜粋)

(注14) ネッタイシマカヒトスジシマカなどのヤブカによって媒介されるチクングニアウイルスの感染症である。チクングニアウイルスはトガウイルス科アルファウイルス属のウイルスである。通常は非致死性の発疹性熱性疾患である。(国立感染症研究所感染症研究所解説から抜粋)

(注15) デング熱(Dengue Fever)とはデング熱(Dengue Fever)とはデングウイルスによる感染症ネッタイシマカヒトスジシマカによって感染する。感染症法の4類感染症に分類されている。

どうやってうつる?

ウイルスを持っているネッタイシマカヒトスジシマカなどに刺されることで感染する。ヒトスジシマカは、ヤブ蚊とも呼ばれ、日本にも生息している。デングウイルスに感染した人の血を吸った蚊は、生涯にわたってウイルスを伝染する可能性がある。性行為による感染の報告はありますが、稀であると考えられている。(国立感染症研究所感染症研究所解説から抜粋)

(注16) ジカウイルス感染症/ジカ熱とは蚊に刺されてなる感染症のひとつ。 日本国内では流行をしていない感染症であるが、流行地に観光や仕事などででかけた方が現地で蚊に刺されて感染し、帰国してから発症する場合がある。 潜伏期間は2日から7日(~12日)。(国際感染症センター解説から抜粋)

(注17) EPIWATCH は、AI 主導のデータ収集を通じて、ニュース番組、ソーシャル プラットフォーム、医療報道など、現在 41 のグローバル言語を使用して世界中で生成されるさまざまなデータを 24 時間 365 日監視する迅速な伝染病情報および早期警告観測所である。現在、41 のグローバル言語を使用しており、さらに追加される予定である。コミュニティの懸念や議論を捉えた、ソーシャル メディアやニュース レポートなどの、キュレーションされていない膨大なオープンソースのグローバル データをマイニングする。EPIWATCH は、アルゴリズム機械学習AI 技術を使用して、このデータを理解し、保健当局による公式検出前に、伝染病潜在的な初期兆候を明らかにする。

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児童のプライバシー保護強化にかかるコロラド州「2021年コロラド州プライバシー法(CPA)」の改正法案SB 41とそのモデル法たるコネチカット州立法SB 3の概要

 筆者は個人情報保護法とりわけ児童の保護強化に関する米国州や英国の立法の実態をブログで紹介してきた。具体的には米国の州については、2024.4.2 ブログ「フロリダ州、オハイオ州およびウタ州等の未成年者のソーシャル・ メディア・ プラットフォーム利用にかかる厳格な規制州法立法とそれらを巡る憲法違反裁判等の最新動向」、英国については2024.4.6 ブログ「英国の個人情報保護機関である英国情報コミッショナーはSNS等オンライン利用にかかる子供のプライバシー保護強化のための具体的施策に関し2024 年から 2025 年の優先事項「児童規範戦略」 を発表」で取り上げた。 

 今回のブログは、コロラド州2021コロラド州プライバシー法(CPA)」の改正法案SB 41を可決した情報をローファーム(Husch Blackwell LLP)の解説記事および同州議会の法案上程者の解説を概観する。なお、Husch Blackwell LLP)解説が取り上げているとおり、法案 SB41”コネチカット州の立法をモデルにしていることから、あえて今回のブログでは20236月に署名されたコネチカット州のSB 3についても併せ解説を試みる。

Ⅰ.コロラド州の児童データプライバシー法案(SB41)

1コロラド州議会が児童データプライバシー法案を可決を仮訳

著者はHusch Blackwell LLPのassociate (注1)弁護士Shelby E..Dolen(シャビー・.Eドーレン)氏である。

Shelby E.Dolen 氏

 5月8日の州議会閉会に先立って、コロラド州議会は児童のデータプライバシーの保護を追加する「2021年コロラド州包括プライバシー法(CPA)」の一部改正法案SB 41を可決した。 コロラド州知事ジャレッド・ポリスの署名が成立すれば、2025101日に発効することになる。この法案は、未成年者(18歳未満)にオンラインサービス、製品、機能を提供する事業体に新たな義務を課すことになる。 この法案は、2023年6月に署名されたコネチカット州のSB 3をモデルとしている。

 以下の記事では、SB 41 に基づく義務の概要と、SB 41 (注2)コネチカット州の SB 3 の主な違いについて説明する。

(1) 広い法適用性

 この法案の要件は、CPA が現在カバーしているよりも多くの企業に適用される。これは、収益と処理基準額の要件が同じではないためである。 CPA に基づく子供のプライバシーに関する規定は、未成年者 (18 歳未満) であることを実際に知っているかについては意図的に無視している、オンライン サービス、製品、または機能を提供するあらゆる事業体に適用される。

(2) 管理者の義務

(A)注意義務

 管理者(controller)が未成年者であることを実際に知っている、または故意に無視している消費者にオンラインサービス、製品、または機能を提供する管理者は、オンラインサービス、製品または機能によって引き起こされる未成年者への危害のリスクの増大を回避するために合理的な注意を払う全体的な義務がある。法律に基づく「危害のリスクの高まり」とは、以下のような合理的に予見可能なリスクをもたらす方法で未成年者の個人データを処理することを意味する。

     ①未成年者に対する不当または欺瞞的な扱い、または不平等・差別的影響(disparate impact)

     ②未成年者に対する経済的、身体的、または風評被害

     ③セキュリティ侵害による未成年者の個人データの不正開示(unauthorized disclosure)

     ④未成年者の孤独や隔離、あるいは私的な事柄や関心事に対する身体的またはその他の侵害(その侵害が良識ある人にとって不快な場合)

(B) 禁止行為

 管理者(controller)は、以下の目的で未成年者の個人データを処理するには、未成年者の同意、または13 歳未満未成年者の場合は未成年者の親または法的保護者の同意を取得する必要がある。

  a.特定の処理: (i) ターゲットを絞った広告の目的。 (ii) 個人データの販売。 または (iii) 消費者に関して法的または同様に重大な影響をもたらす決定を促進するためのプロファイリング。

   b.処理の目的: 収集時に開示された処理目的以外の処理目的、または開示された処理目的に合理的に必要であり、開示された処理目的と互換性のある処理目的。

 c.合理的に必要な事項: オンライン サービス、製品、または機能を提供するために合理的に必要な時間を超えて処理するため。

 d.地理位置情報データ: 以下の場合を除き、正確な地理位置情報データを収集する。(i) 管理者がオンライン サービス、製品、または機能を提供するために正確な地理位置情報データが合理的に必要である。 (ii) 管理者は、オンライン サービス、製品、または機能を提供するために必要な期間のみ、正確な地理位置情報データを収集および保持する。 (iii) 管理者は、管理者が正確な地理位置情報データを収集していることを示す信号を未成年者に提供し、その信号は収集期間中常に未成年者に利用可能であること。

 e.大幅な延長使用: 未成年者によるオンライン サービス製品または機能の使用を大幅に増加、維持、または延長するためのシステム設計機能の使用する場合。

 さらに、未成年者にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者は、未成年者が使用できるいかなる種類のダイレクト・ メッセージング装置も、未成年者に接続されていない、未成年者に一方的な通信を送信することで、未成年者である成人の能力を制限するアクセス可能で使いやすい保護手段を提供することなく利用提供してはならない。 この制限は、メッセージが送信者と受信者のみに表示され、公開されない電子メールまたはダイレクト・ メッセージングの主要な機能または排他的な機能を備えたオンライン サービス、製品、または機能には適用されない。

(3)データ保護の影響評価(Data Protection Assessments)

 他の州のプライバシー保護法で見てきたように、SB 41 に基づき管理者は、未成年者に危害を及ぼすリスクが高まるオンラインサービス、製品、または機能についてのデータ保護影響評価を準備する必要がある。 影響評価では以下に対処する必要がある。

   a.処理される個人データのカテゴリー

    b.処理目的

    c.合理的に予見可能な危害のリスクの増大

 管理者が別の適用法に準拠するためにデータ保護影響評価を実施する場合、評価の範囲が同様であれば、その評価は SB 41 に基づく要件を満たすことになる。州司法長官は、遵守状況を評価するために管理者のデータ保護影響評価を要求する権利を有する。 データ保護影響評価要件は、2025 年 10 月 1 日以降に作成または生成された処理アクティビティにのみ適用され、遡及的なものではない。

コロラド州法対コネチカット州法の比較

【地理位置情報データの取扱い上の違い】

 SB 41 には、正確な地理位置情報データ要件に基づく興味深い例外が含まれている。 この法案では、管理者が未成年者の正確な地理位置情報データを収集していることを示す信号を提供するという要件は、スキー場の運営者によって、またはその指示の下で使用されるサービスやアプリケーションには適用されないと規定されている。これはコロラド州特有の免除規定であり、明らかに大規模な州産業を考慮したものである。

【反駁可能な推定と強制力】

 全体として、司法長官または地方検事が提起するいかなる法執行措置においても、管理者が上記の義務を遵守した場合には、管理者が合理的な注意を払ったという反駁可能な推定が存在する。

 2026 年 12 月 31 日まで、企業は司法長官または地方検事からの通知後、違反を是正するために 60 日の猶予が与えられる。 2026 年 12 月 31 日以降は、管理者等は法違反を治癒する権利は失効する。

 2.コロラド州議会の未成年者のオンライン活動に対するデータ保護の追加改正法案(SB24-41)につき上程者の解説

 解説SB24-041 を仮訳する。なお、前述のShelby E..Dolen氏のblog内容と重複する部分が多いがあえて記載する。

【法案の概要】

(1)この法案は2021年「コロラド州プライバシー法」を改正し、未成年者のデータが処理され、未成年者に害を及ぼすリスクが高まった場合の保護を強化するものである。この法案は、その活動から得られる収益の量や額に関係なく、消費者の個人データを管理し(管理者)、コロラド州で事業を行うか、コロラド州住民を対象とした製品やサービスを提供するあらゆる事業体に適用される。

(2) 管理者が未成年者であることを知っている、または意図的に無視している消費者にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者は、次のことを行う必要がある。

(3)サービス、製品、または機能によって未成年者に危害が及ぶリスクが高まることを避けるために、合理的な注意を払う。

 また未成年者に害を及ぼすリスクが高まる場合は、サービス、製品、または機能のデータ保護評価を実施および必要に応じて確認し、評価に関する文書を指定期間保管すべきである。

(4)未成年者、または 13 歳未満の未成年者の場合は未成年者の親または法的保護者の同意がない限り、管理者は未成年者の以下のとおり個人データを処理することを禁止される。

①ターゲットを絞った広告、未成年者の個人データの販売、または未成年者の個人データのプロファイリングのため。

②未成年者の個人データの収集時に開示された目的、または開示された処理目的に合理的に必要な目的以外の処理目的のため。 または

③サービス、製品、または機能を提供するために合理的に必要な期間を超えて行うこと。

(5)管理者は次のことも禁止される。

①システム設計機能を使用して、未成年によるサービス、製品、または機能の使用を大幅に増加、維持、または延長する。 または

②特定の状況を除き、未成年者の正確な地理位置情報を収集する。

(6)司法長官と地方検事は、管理者に違反を通知し、管理者に違反を是正する時間を与えるなど、「コロラド州プライバシー法」で認められているのと同じ方法で法案の要件を執行する権限を与えられる。

Ⅱ.コネチカット州はデータプライバシー法(CTDPA)を改正

Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr LLPの解説「Connecticut Legislature Passes Privacy Bill Addressing Health Data and Child Online Safety」仮訳する。

 なお、コネチカット州司法長官のデータ保護法(Connecticut Data Privacy Act (CTDPA)(2022年5月10日成立)の解説およびFuture of Privacy Forumの解説も併読されたい。

Kirk J. Nahra (PARTNER)

Ali A. Jessani (SENIOR ASSOCIATE)

Samuel Kane (ASSOCIATE)

 2023年6 月 2 日、コネチカット州議会は「上院法案 3  (以下、「SB 3」という)」を可決した。この法案には、消費者の健康データと子供のオンライン保護に関連する新たな要件を課す条項が含まれた。 この法案は署名のためにネッド・ラモント州知事の机上に移される。 法律に署名されれば、SB 3 の消費者健康データ条項は、コネチカット州データプライバシー法 (CTDPA) の関連部分を修正することになる。

 これらの新しい規定は CTDPA の修正として含まれているため、影響を受ける企業にとって、消費者の健康データに関連する新しい規定は CTDPA の残りの部分と同じ 2023 7 1 日に施行する。

 SB 3 の最も注目すべき条項は、消費者の健康データと子供のオンライン安全に関するものである。 消費者健康データ条項は、とりわけ、企業が消費者の同意を得ることなく消費者健康データを販売または処理することを禁止する。 SB 3 の消費者健康データ規定は、最近制定されたワシントン州 「マイヘルス マイデータ法(My Health My Data Act)」(注3)よりも範囲が狭いものの、健康データの保護強化に対する連邦レベルおよび州レベルの議会および規制当局の間での関心の高まりを反映している。 一方、SB 3の児童オンライン安全規定は、同様に現在進行中の連邦および州の立法努力を反映しており、企業による児童の正確な位置情報データの処理や児童の個人データの使用能力を制限する、ターゲットを絞った広告の目的制約など、オンラインプラットフォームでの児童データの処理に制限を設けることになる。

 SB 3 はコネチカット州プライバシー法において重要な岐路に達している。 上で述べたように、2022 年 5 月に制定された包括的なプライバシー法である “CTDPA” は2023年 7 月 1 日に施行され、SB 3 によって追加された消費者の健康データに関する規定が含まれることになる。したがって、SB 3 は、すでに消費者健康データの遵守に向けて取り組んでいる企業にさらなるコンプライアンス義務を課すCTDPA の要件を遵守させる。実際、コネチカット州司法長官は2024年1月、CTDPAがコネチカット州の消費者向けに創設する新たなプライバシー権に関するFAQガイダンスを発表5/16⑲しており、同庁がコンプライアンスの取り組みに細心の注意を払っていることを示唆している可能性がある。

 この投稿では、SB 3 からの重要なポイントを強調し、その主要な規定を要約する。

SB3の重要なポイント】

 CTDPA の対象となる企業は、SB 3 の可決によって生じる主要な問題として以下の点に注意する必要がある。

(1)消費者健康データの販売および処理の制限: SB 3 は CTDPA を修正し、消費者健康データに特有の新しい規定を追加し、消費者健康データを含むように CTDPA の「機密データ」の定義を修正する。 これらの改正の結果、企業は消費者の健康データを販売または処理する前に消費者の同意を得るという新たな義務を負うことになる。

(2)児童のオンラインデータの処理に関する制限: SB 3 は、未成年であることがわかっている消費者にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者に一連の要件を課す。これらの要件には、1)ターゲットを絞った広告、個人データの販売、および特定の種類のプロファイリングを目的とした未成年者の正確な位置情報データの処理の禁止が含まれる。2) システム設計機能を使用して、未成年者によるオンライン サービスの利用を「大幅に増やす」こと。 3)これらの規定の対象となる管理者は、さらに、未成年者の個人データの処理に関するデータ保護評価を実施することが求められる。

(3)発効日: 企業は、特に消費者健康データ規定の発効日に注意する必要がある。 これらの条項は、CTDPA の残りの条項とともに 2023 年 7 月 1 日に発効する。

 児童のオンライン安全規定のほとんどは、2024 10 1 日まで発効しない (ソーシャル メディア プラットフォームに特に適用される第 7 条を除く)。 しかし、これらの規定によって課せられる実質的な要件を考慮すると、企業はこれらの規定に基づく対応するコンプライアンス義務を、遅かれ早かれ早く評価し始める必要がある。

(4)法施行権限: SB 3 は、消費者の健康データまたは子供のオンライン安全規定のいずれについても、私的訴訟の権利を創設しない。 代わりに、コネチカット州司法長官や検事は、これらの条項に対して(CTDPA と同様に)独占的な執行権限を持つ。

【注目すべき条項の概要】

 コネチカット州データプライバシー法の医療データ改正 (第 1 条から第 6 条)

 SB 3 の第1条から第6 条は、コネチカット州データプライバシー法 (CTDPA) を改正する。 これらの修正は、CTDPA とともに 2023 7 1 日に施行し、主な修正内容は次のとおり。

(1)消費者健康データの定義: 「消費者健康データ」を「管理者が消費者の身体的または精神的健康状態または診断を特定するために使用する個人データ」と定義する。これには、性別を肯定する健康データや生殖または性的健康データに関するデータが含まれるが、これらに限定されない。

(2)消費者健康データ管理者の定義: 「消費者健康データ管理者」を「単独で、または他の管理者と共同して、消費者の健康データを処理する目的と手段を決定する管理者」と定義する。

(3)機密データとしての消費者の健康データ: CTDPA の「機密データ」の定義を修正し、消費者の健康データを含める。 その結果、消費者の健康データは、管理者が機密データを処理する前に消費者の同意を得るという CTDPA の要件の対象となる。

(4)消費者健康データの処理に関する要件: 以下を含む、消費者健康データに特有の要件を概説する新しい条項 (第 2条) を追加する。 (ⅰ) 契約上または法定の機密保持義務に従う場合を除き、従業員または請負業者への消費者健康データの提供を禁止する。 (ⅱ) 「消費者の消費者の健康データに関する特定、追跡、消費者からのデータの収集、または消費者への通知の送信を目的とした精神(mental)、生殖(reproductive)、性の健康施設の近くでのジオフェンス(注4)の使用を禁止する。 (ⅲ) 消費者の同意なしに消費者の健康データを販売することを禁止する。

(5)適用免除: 第 2 条には独自の免除条項が含まれており、特に1)州および州の政治・行政機関、2) 高等教育機関、3) 特定の全米証券業協会、4) 金融機関の情報保護法Gramm-Leach-Bliley Act (GLBA) の対象となる金融機関及びデータ主体、5) 1996年HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996;医療保険の携行性と責任に関する法律)でカバーされる医療事業者や外部委託先の事業提携者。

(6)ソーシャルメディアアカウントの削除と非公開 (第7条)

 ソーシャル メディア アカウントの非公開または削除に対する未成年者のリクエスト: ソーシャル メディア プラットフォームに対して、ソーシャル メディア アカウントの非公開 (つまり、一般公開から削除) または削除を求める未成年者のリクエストに従うことを義務付ける。 これらの規定は、2024 7 1 日に発効する

(7)子供のオンライン上の安全性 (第 8 条から第13条)

 第 8 条から第 13 条は、以下に概説するように、「管理者が未成年者であることを実際に知っているか、意図的に無視している消費者」にオンライン サービス、製品、または機能を提供する管理者に要件を課す。 これらの規定は、2024 10 1 日に発効する

①相当な注意(思慮分別のある一般人が払うレベルの注意(Reasonable Care):

 オンライン サービス、製品、または機能によって未成年者に危害が及ぶリスクが高まるのを避けるために、相当な注意を払う必要がある。

②広告、販売、またはプロファイリングのための児童データの使用:

 ターゲットを絞った広告、個人データの販売、または法的または重要な影響をもつ類似の行為を生み出す「完全に自動化された意思決定を促進するためのプロファイリング」を目的として、未成年者の個人データを (同意なしに) 処理することは禁止される。

③必然性の制限(Necessity Limitation):

 関連するオンライン サービス、製品、または機能を提供するためにそのような処理が必要な場合を除き、同意の例外を条件として、未成年者の個人データを処理することは禁止される。

④期間の制限(Duration Limitation:):

  同意の例外を除き、関連するオンライン サービス、製品、または機能を提供するために必要な期間を超えて未成年者の個人データを処理することは禁止される。

⑤使用を延長するためのシステム設計の使用:

 「未成年者によるオンライン サービス、製品、または機能の使用を大幅に増加、維持、または延長するためのシステム設計機能」の使用を禁止する。

➅正確な位置情報データ:

 指定された要件 (関連する機能を提供する必要性、時間制限、未成年者への通知を含む) が満たされない限り、未成年者の正確な位置情報データを (同意なしに) 収集することは禁止される。

⑦ダイレクト・メッセージング:

  未成年者が使用するダイレクト メッセージング装置に制限を設ける。これには、未成年者に迷惑な通信を送信する成人の能力に対する制限も含まれる。

⑧データ保護影響評価: 未成年者の個人データの処理に関するデータ保護影響評価を実施する必要がある。

⑨適用免除: さまざまな事業体および情報タイプが免除される。これには、次のものが含まれる。

1)州および州の政治機関の下部機関、2) NPO団体、3) 高等教育機関、4)特定の全米証券業協会、5) 金融機関の情報保護法Gramm-Leach-Bliley Act (GLBA) の対象となる金融機関及びデータ主体、5) 1996年HIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996;医療保険の携行性と責任に関する法律)でカバーされる医療事業者、公正取引報告法(Fair Credit Reporting Act (FCRA)の対象機関、家族の教育の権利とプライバシーに関する法律( Family Educational Rights and Privacy Act(FERPA)に準拠する個人データ、および特定の雇用関連データ。

⑩法執行権: 私的訴訟の権利は履行できない。 むしろ、排他的な執行権限は州司法長官のみにある。

⑪対象企業等への違反是正救済期間: 2024 年 10 月 1 日から 2025 年 12 月 31 日まで、州司法長官は、企業が「そのような違反容疑を是正する可能性がある」と判断した場合、これらの規定に違反したとされる企業に対して 30 日間の救済期間を付与しなければならない。 2026 年 1 月 1 日以降、州司法長官 は多要素枠組みに基づいて治癒期間を付与するかどうかを決定する裁量権を有する。

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(注1) アソシエイト弁護士とは、パートナー弁護士の業務を補助する勤務弁護士のことである。アソシエイトとはもともと仲間や一緒に働く人という意味の単語であり、その意味の通り、パートナーとして法律事務所の経営には関与していないものの、その法律事務所の看板を背負って、パートナー弁護士と一緒に働いている弁護士をいう。

(注2)コロラド州改正法案原文

(注3) ワシントン州の新たな健康データ保護法制定の背景

岩崎元太「ワシントン州新法、My Health My Data Act制定〜シアトルの知恵ノート」から一部抜粋。

 米国では従来、1996年に制定された連邦「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)」が国民の健康データ保護を主に担ってきた。HIPAAは医療従事者や保険会社による健康データの取り扱いを想定しており、実際に医療機関や保険会社のみが保護義務を負っていた。しかし昨今では、アップル社のアップルウォッチが測定する心拍数、スマートフォン向けの万歩計や月経管理のアプリが収集するデータも立派な健康データと言え、非医療機関の関与が高まる傾向が見られる。新法では、当時に想定していなかったアプリ、ウェブサイト、ゲーム、装着式のスマートデバイス等を中心に健康データ保護義務を課している。

【新法の概要】

 本法は、個人の健康データ保護を目的とし、規制対象事業主(regulated entity)に対して適用されます。規制対象事業主とは一般的に、(1)ワシントン州で事業を行っている/ワシントン州の消費者に対して製品やサービスを生産または提供している、かつ(2)単独または共同で個人の健康データの収集、処理、共有をしている/販売の目的と手段を決めている事業主を指す。

 一方で、健康データの定義については、消費者に紐付けられている、もしくは消費者と紐付けることが合理的に可能な、過去、現在、未来の身体的または精神的健康状態を特定できる個人情報とされている。これには手術歴や服用中の医薬品情報が挙げられるであろう。そのほか、フィットネス系ゲームでプレー前に自身の体重や身長を入力することも含まれ、健康データの提供先となるそのゲーム会社は、本法における規制対象事業主となる。(以下、略す)

(注4)「 ジオフェンス」とは、仮想的な境界線で囲まれたエリアのことを指す。

仮想的な境界線で囲んだエリアにWi-FiGPSなどの位置情報データを使用した移動体(スマートフォンを持っているユーザーやドライブレコーダーを車載した車など)が出入りすることをトリガーとして、何らかのイベントを発生させることができる仕組みをいう。

取得したいイベントに応じて、機器や機能を連携する開発が必要となるが、この技術を用いることで、顧客の行動を調査したり、最適なタイミングで情報を提供することが可能になる。

位置情報とは、スマートフォンGPSWi-FiBluetooth、通信基地局などで特定した位置の情報のことを指すが、位置情報からユーザーの行動履歴をたどることで、どの範囲が生活圏か、働いているのかなど、個人を特定しない範囲でのユーザーの特性を推測できる。

(「ジオフェンスとは?」ZENRIN DataCom解説から抜粋)

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米コロラド州は米国内で最初の州として人工知能 (AI) の使用を規制する法案 (SB24-205) を可決、その内容を概観する

 コロラド州は、米国内で人工知能 (AI) の使用を規制する法案 (SB24-205) を可決した最初の州となった。 この法律は、さまざまな分野にわたる AI テクノロジー倫理的法的社会的な影響と予測される事態に対処することを立法目的としている。

  筆者は、かつて23日付けブログ AI立法 のトレンド: 米国の州法案の発展を概観」36日付けブログ「わが国のAI立法の在り方を見据える観点からEUAI規則案(AI法案:Artificial Intelligence Act)の最終段階を改めて探る(その1)「同(その2完)」を投稿した。

  今回のブログは、これらを受け(1)ローファームの解説を仮訳するとともに、(2)コロラド州議会の法案上程者の解説の仮訳を試みるものである。特に生成AIについては倫理的な問題だけでなく法的にも大きな課題をかかえていることから、筆者なりに注記を加えながら補筆した。

1.LexblogColorado Passes AI Regulation仮訳

 法案全条の原文参照。

 同法は消費者と対話することを目的とした高リスク AI システムの開発者または導入者を含む、コロラド州でビジネスを行うすべての人物が対象となる。 この法案では、「高リスク AI システム」を、結果的な意思決定を行う上で重要な要素となる AI システムと定義している。 特に、重要な決定を下さない限り、顔認識(facial recognition,(注1)マルウェア対策、データストレージ、データベース、ビデオゲーム、チャット機能を使用しない不正行為対策技術は(とりわけ)含まれていない。

 この法案には、AIの開発と導入における倫理基準透明性説明責任の促進に重点を置き、政府、教育、企業内でのAIの使用を管理する包括的な枠組みが含まれている。 この法案は、意思決定プロセスにおける AI の使用に関する開示を義務付け、AI 開発を導くための倫理基準を定め、AI 関連のバイアスやエラーが発生した場合の救済と監視のメカニズムを提供します。 これらの救済メカニズムには、消費者が高リスク AI システムによって処理された誤った個人データを修正する機会や、(可能であれば)人間によるレビューを伴うシステムによって下された不利な決定に対して異議を申し立てる機会が含まれる。 開示要件は開発者に適用され、アルゴリズムによる差別のリスクを管理するために使用される方法を説明する公開された声明が必要となる。

 この法案では、企業が高リスクの AI システムを使用する場合、いくつかのコンプライアンス・メカニズムの開発が義務付けられており、これらには、(1)影響評価、(2)リスク管理ポリシー策定とプログラム、(3)高リスクシステムに関する年次レビューが含まれる。 これらのメカニズムは、これらのAIシステムの開発と使用における透明性を促進するように設計されている。

 この法案の可決により、コロラド州は米国における AI 規制の最前線に位置し、同様の課題に取り組んでいる他の州や管轄区域にとって先例となることになる。

2.法案の概要(州議会サイトで法案上程者の解説仮訳

Robert Rodriguez上院議員(民主党)

Brianna Titone議員(民主党)

Manny Rutinel 議員(民主党)

 

【法案要旨】

 この法案は、高リスク人工知能(AI)システム(以下、「高リスクシステム」という)の開発者に対し、高リスクシステムにおけるアルゴリズムによる差別(algorithmic discrimination)(注2)を回避するために合理的な注意を払うことを義務付けている。 開発者が法案の次のような特定の条項を遵守していれば、開発者および実働展開責任者(以下、「導入者(deployer)という)(注3)は合理的な注意を払っていたという反駁可能な推定が存在する。

(1)高リスクシステムに関する特定の情報を開示する声明を高リスクシステムを導入者に提供する。

(2)高リスクシステムの影響評価を完了するために必要な高リスクシステム情報と文書を導入者が利用できるようにする。

(3)AI開発者が開発または意図的かつ大幅に変更し、現在導入者が利用できるようにしている高リスクシステムの種類、または、これらの高リスクシステムのそれぞれを意図的かつ大幅に変更する開発から生じる可能性のあるアルゴリズム差別(algorithmic discrimination)の既知または合理的に予見可能なリスクを開発者がどのように管理するかを要約した公開可能な声明を作成する、

(4)高リスクシステムが原因であるか、またはそうであるという信頼できる報告をAIシステムの導入者から発見または受領してから 90 日以内に、州司法長官および高リスクシステムの既知の導入者に、アルゴリズム差別の既知のまたは合理的に予見可能を引き起こした可能性がかなり高いリスクを開示する。

 また、この法案は、高リスクシステムの導入者に対し、高リスクシステムにおけるアルゴリズムによる差別を回避するために合理的な注意を払うことを義務付ける。導入者が法案の次のような特定の条項を遵守していれば、導入者は合理的な注意を払っていたという反駁可能な推定が存在する。

(1)高リスクシステムの「リスク管理ポリシー」策定と「プログラム」を実施する。

(2)高リスクシステムの「影響評価(impact assessment )」を完了する。

(3)導入者が導入した各高リスクシステムの導入を毎年レビューし、高リスクシステムがアルゴリズムによる差別を引き起こしていないことを確認する。

(4)高リスクシステムが消費者に関して重大な決定を下した場合に、指定された品目を消費者に通知する。

(5)高リスクの人工知能システムが結果的な決定を下す際に処理した誤った個人データを修正する機会を消費者に提供する。

(6)高リスクの人工知能システムの導入から生じる消費者に関する不利な結果的決定に対して、技術的に可能であれば人間(human)による審査を通じて消費者に異議を申し立てる機会を提供する。

(7)導入者が現在導入している高リスクシステムの種類と、これらの高リスクシステムのそれぞれの導入から生じる可能性のあるアルゴリズムによる差別の既知または合理的に予測可能なリスクとその性質を導入者がどのように管理するか、導入者によって収集および使用される情報のソースおよび範囲を要約した公開可能な声明(satement)を作成する。

(8)アルゴリズムによる差別(algorithmic discrimination)の発見を発見後 90 日以内に、高リスクのシステムが引き起こした、または合理的に引き起こした可能性があることを州司法長官に開示する。

 消費者と対話することを目的とした人工知能システムを展開または利用可能にする、導入者または他の開発者を含め、この状態でビジネスを行う者は、人工知能(AI)システムが、人工知能システムと対話する各消費者に、次のことを確実に開示する必要があり、消費者は人工知能システムと対話している。

 この法案は、開発者または導入者が次のような特定の活動に従事する能力を制限するものではない。

(1)連邦、州、地方自治体の法律、条例、規則を遵守する。

(2)特定の調査への協力および実施

(3)消費者の生命または身体の安全にとって不可欠な利益を保護するために緊急措置を講じること。

(4)特定の研究活動を実施し、取り組むこと。

 この法案は、次の場合に開発者または導入者に積極的抗弁(affirmative defense)(注4)を提供する。

 潜在的な違反に関与する高リスクシステムの開発者または導入者は、法案または司法長官が指定する国内または国際的に認められた人工知能システムのリスク管理フレームワークに準拠していることを遵守し、また、開発者または導入者は、法案の違反を発見するために指定された措置を講じる。

 最後にこの法案は、州司法長官に法案の要件を実施し執行する規則制定権限を与えている。

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(注1)解説から抜粋

 「顔認識」は顔の特徴や表情を読み取る技術で、「顔認証」は前もって取得した画像のデータと照合して本人かどうかを見分ける技術である。

 顔認識とは:顔認識技術は、人工知能やコンピュータビジョン技術を使用して、画像またはビデオの中で人の顔を自動的に検出し、識別する技術です。この技術は、セキュリティシステム、監視システム、マーケティング、医療、ゲーム、ロボット工学など、さまざまな分野で使用されている。

 顔認識システムの主な機能は、以下のとおり。

①顔検出

②特徴抽出

③顔比較

(注2)アルゴニズムによる差別からの保護(Algorithmic Discrimination Protections):

アルゴリズムによる差別に直面すべきではなく、システムは公平な方法で使用、設計される必要がある。アルゴリズム差別は、自動化システムが人々を人種、肌の色、民族、性別、宗教、年齢等に基づいて不当に異なる扱いを行ったり、不利益となる影響を与える場合に生じる。システムの設計者、開発者、導入者はこうした差別から個人とコミュニティを保護し、公平な方法でシステムを使用および設計するために、積極的かつ継続的な対策を講じなければならない。

(注3) デプロイ(deploy)は、「展開する、配置する」などの意味を持つ。IT分野では、Webアプリケーションなどのシステム開発工程で、アプリケーションの機能やサービスをサーバー上に配置・展開し、利用可能な状態にする一連の作業を指す。

通常のシステム開発では、「開発環境」「テスト環境」「本番環境」など、環境ごとにファイルが設置されて、開発作業が行われる。デプロイはテスト環境と本番環境を利用して、サーバー上に実行ファイルを反映し、実際に稼働できる状態にする。(本稿では“deployer”は「導入者」と訳す)。

(注4) 積極的抗弁(affirmative defense)(conell 大学ロースクールの解説仮訳)

 積極的抗弁とは、たとえ被告が申し立てられた行為を行ったことが証明されたとしても、その証拠が信頼できると判断された場合には、刑事責任または民事責任を無効にするであろう証拠を被告が提出する抗弁をいう。 積極的抗弁を提起する当事者は、それが適用されることを立証する立証責任を負う。 積極的抗弁を提起しても、当事者が他の抗弁を提起することを妨げるものではない。

 正当防衛(Self-defense)、罠(entrapment)(注5)心神喪失(insanity)(注6)、必要な防御(注8)、および優れた対応は、積極的防衛の例である。

 連邦民事訴訟規則第 56 条に基づき、いずれの当事者も積極的抗弁について略式判決を求める申し立てを行うことができる。

(注5)罠(entrapment): 被告がそうでなければ犯しなかった犯罪行為に従事するよう被告を誘導することによって、被告の訴追を開始するために必要な証拠を入手したと被告が主張する肯定的抗弁。 たとえば、ジェイコブソン対米国、503 US 540 (1992)を参照。 各州には、罠に対する抗弁がいつどのように適用されるかを概説する独自の判例法および法令があり、罠の主張に対して主観的なテストが適用される場合がある。これには次の 2 つの要素が含まれる。

    ① 被告には犯罪行為の性向がないこと。

 ② 政府による犯罪誘発

(cornell 大学ロースクール解説仮訳)

(注6)心身喪失(insanity)とは、人が自分の行動を完全に理解することができない精神疾患または疾患である。 心神喪失は主に刑法の概念ですが、契約法や遺言書にも見られることがあります。 心身喪失は部分的な場合もあれば完全な場合もあり、一時的な場合もあれば永続的な場合もある。 心神喪失の定義は、法律、特に州の刑法に多く見られるが、司法判決に由来する場合もある。

 事的心神喪失とは、被告が自分の行動の性質を知ることや理解すること、あるいは善悪を区別することを妨げる心神喪失のことである。 心神喪失の定義は州によって異なり、ほとんどの州ではマックノートン・ルール(M’Naghten rule)(注7)またはモデル刑法(Model Penal Code (MPC))5/14⑲の心神喪失に対する弁護(insanity defense)のいずれかに従う。 犯罪的心神喪失の他の検査には、抵抗不能衝動検査(irresistible impulse test)やダーラム検査(Durham test)などがある。(cornell 大学ロースクールの解説仮訳)

(注7) マックノートン・ルール(M'Naghten Rule ) (McNaghten と綴られることもある) は、犯罪的心神喪失に対する最初の法的検査である。 この検査は 1843 年に英国でダニエル・マックノートンに対する訴訟中に始まった。 マックノートンは首相秘書官エドワード・ドラモンドを首相だと信じて射殺した。 マックノートンは逮捕中、「保守党」が自分に対して共謀し、首相を殺害したいと考えていたため、首相を殺害する必要があったと主張した。 公判でマックノートンの弁護士は心神喪失の弁護を行い、これを裏付ける専門家の証言やその他の証拠を提出した。 裁判官の指示に従い、陪審の評決は「心神喪失のため」無罪となり、マックノートンは残りの生涯を精神病院で過ごすことになった。(cornell 大学ロースクールの解説を仮訳)

Daniel M'Naghten(Wikipedia から抜粋 )

(注8) 必要な防御(necessity defense):必要性の抗弁は、不法行為が避けられず、より深刻な危害の発生を防ぐため特定の行為が正当化される場合の、不法行為に対する責任に対する抗弁である。

刑法では、必要性の弁護は、俳優または他人に特定の危害を及ぼす恐れのある状況において、行為者の違法行為は 2 つの悪のうち必然的に小さい方であると主張する。 カリフォルニア州の陪審説示(California Jury Instructions)によれば、必要性の弁護を成功させるには、次のことを証明する必要がある。(筆者注記:わが国でいう「緊急避難」)

①行為者は、行為者または他の誰かへの怪我を防ぐために行動しました。

②行為者には合理的な代替手段がなかった。

③行為者は回避した危険よりも大きな危険を引き起こしたわけではない。

④行為者は実際、脅迫された危害や悪を防ぐために違法行為が必要だと信じていた。

⑤まともな人であれば、その状況では違法行為が必要だったとも信じただろうし、

その行為者は緊急事態に実質的に貢献しなかった。

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悪意あるインタフェース・デザイン・パターンの一種でエンドユーザーをだまし、本人の意図または期待とは異なる行動を取らせる「ダーク・パターン」の米国やEUの規制強化に向けた具体的活動内容を検証

 読者は「ダーク・パターン」すなわち、悪意のあるインタフェース・デザイン・パターンの一種で、エンドユーザーをだまし、本人の意図または期待とは異なる行動を取らせ、インタフェースの提供者に利益を与えるものを十分理解されてあろうか。

  筆者は、最近のブログ(4)で簡単にこの問題を取り上げた。その趣旨は違法なマーケティング規制のあり方の実態およびわが国の法規制のあり方を論じたいと考えたからである。

 改めて考えると、この問題の重要性から見て問題を整理すべく、今回のブログは、(1)「ダーク・パターン」の実態と技術面からみた本質的な違法性問題、(2)連邦取引委員会(FTC)のダーク・パターン・レポートの内容と法規制・執行機関の取組みの意義、(3)FTCのターゲットとするアマゾンおよび出版社クリアリングハウスに対する告発におけるダーク・パターン問題、 (4) FTCAmazon.com Inc.に対する告訴状を修正し、3人のAmazon上級幹部を個々の被告として追加したダーク・パターンの幹部責任の裁判問題、(5)EUダーク・パターン」の取組みスタンスや欧州データ保護会議 (EDPB)の「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案等につき概観する。

  これら問題の背景には、サービスや商品を一定期間利用できる権利に対して料金を請求するビジネスモデルであるサブスクリプションの普及(例:電子書籍音楽配信、動画配信、ゲーム、洋服、車等の普及と併せた違法なマーケテイングの急増)だけでなく、悪徳ダイレクトメールやテレビ広告、さらに実店舗の小売店のチラシ等あげれば、切りがない。

  翻って、これらの問題にわが国の規制監督機関や具体的規制の実態はどのようか。法執行機関として具体的に取り上げるとすれは「消費者庁」や「公正取引委員会」くらいであろうか。

 また、比較法レポートとしては内閣府経済社会総合研究所 加納克利「デジタル化と消費者政策(いわゆる「ダークパターン」)に関する研究のサーベイ」があるが、専門外の読者に極めて読みにくい。さらに言えば、筆者のP.20以下の③小括には「EU 及び米国においては、比較的汎用性のある規定に関し、その解釈・適用関係の詳細をガイダンスやガイドラインによって明らかにした上で活用しているように見受けられる。技術の進展等により対応しなければならない事案が日々変化することを踏まえると、一つの在り方として参考になる」とあるが、我が国の法規制強化にかかる研究レポートとしては、踏み込みが極めて弱い。

  

 Ⅰ.ダーク・パターンに関するわが国法律事務所の解説例

1.2023.10.12 西村あさひ法律事務所「ダーク・パターンに対する米英の規制動向及び日本の現況」の著者は角田 龍哉、上野 太資、小川 慶、原田 実侑の各氏である。

 わが国のダーク・パターンの法規制に関する数少ないレポ―トと言えよう。ただし、本レポートは米英の解説はあるがEUの取組みは言及していない。EUEU欧州データ保護会議 (EDPB)の「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案などにつき筆者は独自に調査し、本ブログ第Ⅳ節で解説する。

 

2.2024年 2月 27日Internet Initiative Japan Inc.石村 卓也「欧米でのダークパターン規制の動向と日本企業に求められる対応」

 欧米を中心としたダーク・パターン規制の概要を解説した上で、各国のガイドライン等で示されている具体的なUI/UXのNGパターンを紹介し、消費者の信頼獲得のために日本企業に求められる対応について考察している。

FTC委員会が公開審議で承認したFTCスタッフ・レポート「消費者をだまして罠にかけることを目的とした巧妙に洗練されたダーク・パターンの増加」に関する解説および20229FTCスタッフ報告の概要

  以下のFTC解説文およびFTCスタッフ報告の概要について仮訳する。

1.米連邦取引委員会は2022年9月15日、消費者をだましてオンライン操作して製品やサービスを購入させたり、プライバシーを放棄させたりする「ダーク・パターン」として知られる巧妙につくられたデザイン慣行を企業がどのように利用しているかを示す報告書を発表した。

  この 報告書で詳述されているダーク・パターン戦術には、(1)広告を独立したコンテンツのように見せかけること、(2)消費者がサブスクリプション(注1)や料金をキャンセルすることを困難にすること、(3)重要な用語や追加料金を隠蔽すること、(4)消費者を騙してデータを共有させることなどが含まれる。この報告書は、市場でのダーク・パターンの使用と闘うためのFTCの取組みを強調し、消費者をだまして罠にはめることを目的とした企業の戦術に対して行動を起こすというFTCの取り組みを繰り返し述べた。

 FTCの消費者保護局局長サミュエル・レバイン(Samuel Levine, Director of the FTC’s Bureau of Consumer Protection)は,「我々のレポートは、ますます多くの企業がデジタル・ダークパターンを使用して人々をだまして製品を購入し、個人情報を提供していることを示しており、このレポートと私たちのケースは、これらの罠が許容されないという明確なメッセージを送信し続ける」と述べた。

 長年にわたり、悪徳ダイレクトメールや実店舗の小売店は、消費者に商品、お金やデータ等を諦めさせるために、(1)事前にチェック済のボックス、(2)見つけにくく読みにくい開示情報、(3)わかりにくいキャンセル・ポリシーなどのデザイン上のトリックや心理的戦術を使用してきた。 商取引のオンライン化が進むにつれ、ダーク・ パターンの規模と巧妙度が増し、企業は複雑な分析手法を開発し、より多くの個人データを収集し、ダーク・ パターンを実験して最も効果的なものを悪用できるようになってきた。 このFTCスタッフ報告書は、FTCが2021年4月に開催したワークショップの結果から派生したもので、ダーク・パターンが消費者の選択と意思決定をどのように曖昧にし、覆し、または損なう可能性があり、法律に違反する可能性があるかを調査した。

ダーク・パターンに光を与える(Bringing Dark Patterns to Light)」題するそのレポートは、 「eコマース(e-commerce)」(注2)、「Cookie同意バナー(cookie consent banners)(注3)、子供向けアプリ、サブスクリプションの販売など、さまざまな業界や状況で使用されているダーク・パターンを明らかにした。

 このレポートは、以下の4つの一般的なダーク・パターン戦術に焦点を当てている。

(1) 消費者に誤解を招く広告と偽装広告: これらの戦術には、独立した編集コンテンツのように見えるようにデザインされた広告が含まれる。 すなわち中立であると主張しているが、実際には報酬に基づいて企業をランク付けする比較ショッピング・ サイトがある。 また、カウントダウン・タイマー(countdown timers)は、申込に実際には期限がないにもかかわらず、消費者に製品やサービスを購入できる時間は限られていると思わせるように設計されている。 たとえば、FTCは在宅勤務制度の運営者に対し、CNNやFoxニュースなどの報道機関からのものであると偽る「差出人」の行を含む迷惑メールを消費者に送信した疑いで措置を講じた。 これらの電子メールの本文には、消費者をさらなる偽のオンライン・ ニュース記事に誘導し、最終的には同社の在宅勤務制度を宣伝する販売 Web サイトに消費者を誘導するリンクが含まれていた。

(2)サブスクリプションや料金のキャンセルを困難にする: もう 1 つのよくあるダーク・パターンには、誰かをだまして同意なしに商品やサービスの代金を支払わせるというものがある。 たとえば、欺瞞的なサブスクリプション販売者は、購入するつもりのなかった製品やサービス、または購入を継続したくない製品やサービスに対して、定期的な支払いを消費者に課す可能性がある。

  たとえば、FTCはオンライン児童教育サービス会社「ABCmouse.com」に対する訴訟では、オンライン学習サイトが「簡単なキャンセル」を約束していたにもかかわらず、無料トライアルやサブスクリプション・プランのキャンセルを非常に困難にしていると主張した。 サブスクリプションをキャンセルしたい消費者は、多くの場合、会社の Web サイト上で①見つけにくく、②長く、③わかりにくいキャンセル・ パスをたどり、④数ページにわたるプロモーションやリンクをクリックすることを強いられ、クリックすると消費者がかえってキャンセル・ パスから遠ざかってしまった。

(3)重要な契約条件と追加料金(junk fees)の隠蔽: 一部のダーク・パターンは、製品やサービスの主要な制限を、消費者が購入前に目にすることのない密なサービス条件文書の中に埋め込むなど、消費者から重要な情報を隠したりすることによって機能させる。この戦術には追加料金ジャンク料金を埋め込むことも含まれる。企業は消費者を惹きつけるために製品の総額の一部のみを宣伝し、購入プロセスの後半になるまで他の必須な料金には言及しない。

 LendingClubに対する訴訟で、FTCはオンライン金融業者が目立つ画像を使用してローン申込者に特定の融資金額を受け取り、「隠れた手数料なし(no hidden fees)」で支払うと虚偽の約束したが、手数料に関する言及をツールチップ・ボタン(tooltip buttons)(注4)の背後や目立つテキスト文書の間に隠したと主張した。

(4)消費者を騙してデータを共有させる: こうしたダーク・パターンは、消費者にプライバシー設定やデータ共有に関する選択肢を与えるものとして提示されることがよくあるが、最も個人情報を漏らすオプションにおいて消費者を意図的に誘導するように設計されている。

FTC は、スマート TV メーカー である“Vizio”がデフォルト設定を有効にし、同社が消費者の視聴活動を収集して第三者と共有できるようにし、一部の消費者には見逃されやすい短い通知のみを提供していたと主張した。

 このスタッフレポートで詳述されているように、FTCは市場で使用されている進化しつつあるタイプのダーク・パターンに歩調を合わせるために取り組んできた。FTCは企業に対し繰り返し発生するサブスクリプションをキャンセルし、不要な製品を知らないうちに消費者に忍び込む’オンライン・ショッピング・カート、および不正なマーケティング・デザインを試す等、ユーザーが画面の迷路を十分ナビゲートする必要がある等を理由に訴えた。

 FTCは、公開会議で5対0で投票し、このスタッフレポートのリリース公開を承認した。

Ⅲ.FTCはターゲットとする Amazon Prime ”およびパブリック・クリアリングハウスに対するアクションにおける違法なダーク・パターンを理由に告訴

 2023.8.14 付けローファームWilmer Cutler Pickering Hale and Dorr LLのレポート仮訳する。著者はFrank Gorman、Benjamin Chapin、Reade Jacob、Julia M. Mayの各氏である。

Frank Gorman氏

Benjamin Chapin 氏

Reade Jacob 氏

Julia M. May 氏

 近年の連邦取引委員会(FTC)は、いわゆるダーク・パターンに対してより積極的な法執行姿勢を採用する意図を明らかにしている。すなわち、FTCは違法なダーク・パターンを定義して、「ユーザーをだまして操作し、ユーザーが他の方法では行わなかった決定を行わせ、害を及ぼす可能性のあるオンラインサービスの設計慣行」を含めた。 以下述べる最近の2つの法執行措置において、既存の執行当局の下でのダーク・パターンの抑制にFTCが焦点を当てていることが確認され、規制当局による精査を引き出す可能性のあるデジタル設計手法の種類に関する有用な洞察が提供された。

(1)2023年6月21日、FTCは、Amazon Primeが操作的、強制的または欺罔的なユーザーインターフェイス(UI)設計を使用したと主張して、ワシントン西部地区連邦地方裁判所訴状( 永久差止め、民事罰金、金銭的救済、衡平法上の救済)を提出した。つまり、ダーク・パターンは、消費者をだましてAmazon Primeサブスクリプションサービスに登録させたとした。FTC委員長のリナ M.カーン(Lina M. Khan)(注5)(注6)、「 Amazonは人々を騙し、同意なしに定期購読に陥らせ、ユーザーをイライラさせただけでなく、多額の費用を費やした」と指摘した。

Lina M. Khan委員長

  具体的には、FTCの告訴状は、Amazonのダーク・パターンの使用は、(1)FTC法の第5条に違反する不公正な取引慣行であったと主張した。さらに (2) 「オンラインショッパー信頼回復法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act :ROSCA)」(注7)違反、これは通常、消費者を保護するための開示、同意、キャンセルの特定の要件を満たさずに、ネガティブオプション・マーケティングを通じてインターネットでの商品またはサービスの販売を禁止する法律である。

 その1週間も経たない2023年6月27日、 FTCはさらなる法執行措置を発表し、「パブリッシャーズ・クリアリングハウス(Publishers Clearing House :PCH)」がダーク・パターンを使用して同社の有名な懸賞図面を入力上で消費者にどのように誤解を与えたかという申立てに関し、消費者に 1850万ドル(約28億3050万円)を支払うことを要求する同意命令(consent order)(注8)を提案した。

 具体的には、FTCは、PCHが消費者に勝利または勝利の可能性を高めるために購入が“必要であり、懸賞エントリーが不完全であると消費者に信じさせたと主張した。 FTCは、PCHがFTC法第5条および「2003年無承諾ポルノおよびマーケティング攻撃を規制する法律(Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing Act of 2003 :CAN-SPAM Act)」(注9)の詐欺禁止規定に違反したと主張した。

  本件については、本節の後半で詳しく解説する、

 これらの法執行活動は、FTCが不公平、欺罔的、またはその他の方法で違法であると見なしているダーク・パターンのタイプに重要な明確さを提供した。消費者に面した幅広い業界にわたる企業は、この機会に、独自のオンライン設計プラクティスと製品フローを、その他のFTCガイダンスや2つの法執行措置で問題となっている慣行のカテゴリーに照らして検討することを勧める。

 FTCの消費者保護局局長がPCH同意命令に付随する声明で述べたように、不正な設計手法を展開し続けている企業が通知されており、企業はFTCを真正面から受けとめるべきである。

 FTCは施行方針声明に続き、2022年9月にスタッフ報告書を発表し、欺瞞的なダーク・パターンとみなす特定の慣行を指摘した。 たとえば、スタッフレポートは、製品やサービスの主要な制限を、消費者が購入前に目にしないサービスの用語の中に埋め込むなど、消費者から重要な情報を曖昧にする慣行を非難した。 また、同レポートは、消費者が同社の Web サイト上で見つけにくく、長く、わかりにくいキャンセル・ パスを移動し、プロモーションやリンクの数ページをクリックして、クリックするなど消費者をキャンセル経路から遠ざけた。 FTCスタッフ報告書によると、こうした実務慣行は、電子商取引Cookie同意バナー、子供向けアプリケーション、サブスクリプション販売など、幅広い業界や状況で発生していることが判明した。

 これら法執行と並行して、2023 年 4 月に FTC は、売り手がいわゆる「ネガティブ・ オプション・オファー(negative option offers)」(注10)を採用するための法的要件を大幅に拡大する「規則制定案告示 (Notice of Proposed Rulemaking NPRM) を公布した。ネガティブ ・オプション ・オファーとは、 売り手は、顧客の沈黙または行動の失敗をオファーの受諾と解釈する必要があるというもの。 通常、ネガティブ・ オプションの取り決めには、自動更新、継続プラン、無料から有料への変換、または有料から有料への金額変換、および事前通知プランが含まれるが、これらに限定されない。

 FTCは長い間、「復元オンライン購入者信頼法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act :ROSCA)」、「テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule :TSR)「送り付け商法(ネガティブ・オプション)規制法 (39 U.S. Code § 3009 - Mailing of unordered merchandise)、電子資金移動法(Electronic Fund Transfers Act)などの法律の部分修正やFTC法の第5条に基づくその広範な権限に基づき、有害かつ否定的なオプションの慣行の廃止に取り組んできた。 FTCが推論した新しい提案されたルールは、“既存の法律と規制のパッチワークが業界と消費者にメディアとオファー全体で一貫した法的枠組みを提供しないため、絶対に必要であった。

 新たに提案された規則案は、既存のFTCが取り組んできたパッチワークの法的枠組みを拡張し、次のような特定の変更を行う。 (1)単純なキャンセル・メカニズム(サブスクリプションを開始するのと同じくらい簡単にキャンセルできる)、(2)キャンセル・プロセス中に追加のオファーを行う前の新しい要件, (3)自動更新のリマインダーと確認に関する新しい要件を追加する、(4) 規則の違反には、確定した場合、売り手は民事罰および損害賠償訴訟等を起こされることになる。

2 Amazonに対するFTCの法執行措置

 FTCはAmazonへの告訴で、同社が何百万もの消費者にさまざまなダーク・パターンを使用して無意識のうちにAmazon Primeサブスクリプション・サービスに登録させたと主張した。 また、サブスクライバーに迷路のようなキャンセル・プロセスを強制することにより、これらのサブスクリプションをキャンセルすることを困難にしていると主張した。Amazon Primeは、Amazonの有料サブスクリプションサービスである。 139ドル(約21000円)の年会費で、加入者は(1)製品の無料の迅速な配達、(2)無料動画のストリーミングコンテンツ、2)食料品の配達などの特典にアクセスできるとある。 FTCは現在、Amazon Primeの登録とキャンセルのプロセスが、FTC法の第5条とROSCAの双方に違反して、ダーク・パターンを活用したと主張している。

 まず、FTC は、Amazon が、モバイルデバイスを使用する消費者が「 ウェブページの下部までスクロールすることによってのみアクセスできる「細かい文字を精査せずに、目立つオプションを選択する可能性を高くした。こうした取引慣行を通じて、アマゾンは顧客が購入を完了する前にプライムの重要な条件について「明確かつ目立つ開示を提供できていない」と FTC は主張した。また、FTC 法および ROSCA に違反して請求情報を収集する前に、「一切開示しない」ことを規定していると主張した。

 具体的には、FTC は Amazon Prime に関連して使用されたと主張する 6 つの特定のダーク・パターンを特定した。

 FTC はさらに、Amazon がプライム加入者向けに迷路のような解約プロセスを意図的に作成したと告発しており、同社はこれをキャンセル手続の迷路「イリアス・ フロー(Iliad flow)」(注11)と呼んでいるとされている。FTC の訴状で主張されているように、プライムの解約フローでは、加入者は「4 ページ、6 ページの手順」をナビゲートする必要があった。  FTC によると、このキャンセル・フローは、消費者がメンバーシップをキャンセルしようとするのを遅らせたり阻止したりするダーク・ パターンに依存しており、その結果、顧客は同意なしに不当に追加料金を請求されることになる。これは FTC 法に違反し、ROSCA に違反して定期的な請求を終了するための簡単なメカニズムを消費者から剥奪するものである。

 具体的には、FTCは、Amazon Primeに関連して使用されたと主張する以下の6つの特定のダーク・パターンを特定した。

(1) 強制されたアクション(Forced Action): FTC は、「強制されたアクション」につき、特定の機能にアクセスするためにユーザーに特定のアクションまたはプロセスの実行を強制するあらゆる設計と定義する。 FTCは、Amazonがプライムの登録フローで消費者に購入を完了させる前にプライムに登録するかどうかの選択を強制するという強制措置を利用していると主張した。さらにFTCは、Amazonが消費者に定期購入をキャンセルするために複数の画面を通過させることにより、イリアス・フロー(Iliad flow)といえる強制的アクションを使用したと主張した。

(2) インターフェイス干渉(Interface Interference): FTC は、「インターフェイス干渉」を、ユーザー インターフェイスを操作して、他の情報と比較して特定の情報に特権を与えるあらゆる設計と定義した。 FTCは、AmazonがPrimeの登録フローにおいて、購入手続き中に一度だけ利用規約を表示し、その後は見落としやすい小さなフォントで利用規約を明らかにすることにより、インターフェース干渉を使用したと主張した。FTCによると、アマゾンはまた、消費者の注意を「送料無料」という言葉に誘導し、プライムの価格から遠ざけるために、文言の繰り返しや色彩を使用しており、それが一部の消費者がインフォームド・コンセントを提供せずに登録することにつながったとFTCは考えた。

(3) 解約手続のゴキブリホイホイ的妨害 (ローチ モーテル(Roach Motel): FTC は、「妨害」を、ユーザーが特定の行動をとるのを妨げる手順を追加することで、意図的にプロセスを複雑にするあらゆるデザイン(注12)と定義した。 妨害行為は、その名を冠したモーテルにゴキブリが侵入するように、「(消費者は)チェックインするのにチェックアウトしない」ことから、「ゴキブリのモーテル」としても知られている。 FTCは、Amazonが登録を拒否するオプションを見つけにくくし、Iliadフローで消費者がプライム会員をキャンセルできる機能を見つけにくくすることで、ローチ・モーテリングを導入したと主張している。

(4) 故意に誤つた指示を行わせる(Misdirection): FTC は、“Misdirection”を、別のことからユーザーの注意をそらすために、あるものにユーザーの注意を引き付けるデザインと定義している。 FTCは、AmazonがPrimeチェックアウトの登録フローに“Misdirection”を使用し、非対称の選択肢を提示することで、Primeへの登録をしやすくするものだと主張した。さらに、FTC によると、Amazon のチェックアウト登録フローの特定のバージョンでは、消費者にプライムを拒否するためのあまり目立たない青色のリンクしか提供していない。

 さらにFTCは、Iliadフローが“Misdirection”を利用して、プライムをキャンセルする試みを完了するよりも簡単にキャンセルできるようにしていると主張している。 FTCによると、「Amazonは、アニメーション、対照的な色の青、テキストなどの誘引要素を使用して、消費者の注意を『キャンセルを続ける』ではなく『後で通知する』や『特典を維持する』オプションに引いている。

(5) 関連情報を隠したり、その開示を遅らせたりする「こそこそ“Sneaking”行為」: FTC は、“Sneaking”を、関連情報を隠したり、その開示を遅らせたりするあらゆるデザインと定義する。 FTCの訴状によると、「Amazonは、価格や自動更新属性を含むプライムの登録チェックアウトフロー中に、プライムの利用規約を明確かつ目立つように開示しない」こと、および消費者のカートに「プライムの価格や自動更新機能を表示しないことによって、“Sneaking”を利用している」としている。

(6)コンファーム・シェイミイング(羞恥心や罪悪感の植え付け)(Confirmshaming)(注13):最後に、FTC は「コンファーム・シェイミイング」を、消費者に好意的な選択肢を選ばせるよう、好意的でない選択肢を中心に感情的な文言を使用するデザインと定義しているが、このカテゴリーのダーク・パターンに関連する申立てでは完全に編集されている。

 FTC は以前、法執行措置はダーク・パターンの取締まりであると説明していたが、Amazon の告発は、FTC が欺瞞的なダーク・パターンとみなす特定の慣行についてこれほど詳細なレベルを提示したのは初めてである。

. PCH に対する FTC の法的強制措置

 Amazonの発表からわずか数日後に出された「パブリッシャーズ・クリアリングハウス(PCH)に対するFTCの法執行措置は、PCHがダーク・パターンを利用して消費者を騙し、懸賞に参加したり当選の可能性を高めるために製品を購入する必要があると信じ込ませたと主張している。 告訴状によると、欺瞞は PCH のホームページから始まり、そこで消費者は実際に懸賞に参加できないボタンであるWIN IT!」または「一生勝ちます!」をクリックしてフォームに記入するが、その代わりに、消費者はエントリーを提出する機会が与えられる前に、数ページの広告を読み進めなければならない。また、顧客が懸賞に応募した後、PCH はあたかも追加の措置を講じなければ失格の危険があるかのように装う電子メールを送信する。これらの電子メールは消費者を PCH の電子商取引サイトに送るだけであり、消費者はそこで懸賞の応募に影響を及ぼさない追加の広告に遭遇する。懸賞の応募後に送信される誤解を招く電子メールは CAN-SPAM Act違反である。

 FTC の訴状では、PCH が展開する 3 つの具体的なダーク・パターンを挙げている。

(1)トリックな言葉遣いや視覚的干渉を使用して、商品の「注文」と懸賞への「応募」を結び付けて消費者を混同させる。

(2) 開示内容を小さくて軽いフォントで、あえて消費者が目にしにくい場所に配置する。消費者に電子メールを大量に送信し、電子メールをクリックしてすぐに行動を起こすよう心理的圧力をかけたり、懸賞に参加したり当選したりする機会を失う危険を冒すこと等を誘う。

(3)消費者は注文なしで懸賞に参加することが困難になる。

 FTのカーン委員長とスローター(Rebecca Kelly Slaughter)委員およびベドヤ(Alvaro Bedoya)委員は、この裁判行動に伴う声明の中で、PCHの行動を「デジタル詐欺を煽り、消費者に損害を与えるために違法なダーク・パターンを使用する企業を取り締まるこれまでの取組みを基礎とするものである」と述べた。 これら委員は、ダーク・パターンの結果として消費者が苦しむのは直接的な経済的損失だけではないと説明した。 むしろ、PCHの訴訟は、消費者の無駄な時間に対する補償を獲得するというFTCの勝利を意味すると彼らは説明した。

Rebecca Kelly Slaughter 氏

Alvaro Bedoya 氏

 提案された裁判所命令は、PCH に対し、ウェブサイト上での顧客の混乱を防ぐための措置を講じることを要求している。たとえば、顧客に注文につながるボタンが表示された場合、PCH は次の文を表示する必要がある。「懸賞に参加するために何も購入する必要はなく、購入したからといって当選するわけではない」ことを理解させる。また、消費者を PCH の電子商取引プラットフォームに誘導する可能性のある電子メールでは、企業は次のように述べなければならない。「 購入しても当選確率は向上しない」

4.その他の消費者向けビジネスへの影響

 Amazon と PCH ヘの訴訟は、FTC が不公平、欺瞞的、またはその他の違法なダーク・パターンとみなしている特定のタイプのデザイン慣行について重要な明確さを提供し、自社のオンライン・デザインの健全性を調査しようとしている他の消費者向け企業にとってのガイドとして役立つ。

 電子商取引プラットフォームやサブスクリプション・ベースのモデルを展開している企業、あるいはオンライン・マーケティングに大きく依存している企業は、現在の規制環境においてデザイン関連のリスクを適切に特定して制御していることを確認するために、さまざまな措置を講じることができ、またそうすべきである。これらの手順には次のものが含まれる場合がある。

(1)登録/サインアップのフローを確認する: 企業は、この機会を利用して、Amazon の告訴で取り上げられている慣行の種類に目を向けて、既存のオンライン顧客フローと関連する設計原則を確認する必要がある。今日の簡単なチェックにより、製品フローやその他の設計上の決定を改善または合理化する機会が見つかる可能性がある。これにより、潜在的なダーク・ パターンに関連する規制リスクが軽減されるだけでなく、顧客とのコミュニケーションが改善され、収益も向上する。

(2)シンプルなキャンセル方法を検討する: 同様に、企業は既存のキャンセル フローを調査して、その結果を達成するための「シンプルなメカニズム」を提供していることを確認する必要があります。潜在的には、消費者がサービスを登録するのと少なくとも同じくらい簡単にサービスをキャンセルできるようにするべきである。FTC が提案したネガティブ・ オプション・ ルールと Amazon に対する強制措置に沿って、企業は見つけやすく使いやすいシンプルなキャンセル・プロセスを備え、消費者が登録に使用したのと同じ方法 (例: ウェブサイト、 電子メール アドレス、または他のアプリケーション)を提供すべきである。

  インターネット上の販売者は、サインアップに使用したのと同じ Web サイトまたは Web ベースのアプリケーション上で、アクセス可能なキャンセル メカニズムを提供する必要がある。販売者がユーザーに電話を使用したサインアップを許可する場合は、少なくとも電話番号を提供し、その番号へのすべての通話が通常の営業時間内に応答されるようにする必要がある。 簡単に言うと、企業は消費者にサブスクリプション・プランをキャンセルするために面倒な手続き・厳しい審査など〕複雑な[何段階もの]手順を踏むことを避けるべきである。

(3)サブスクリプション・プランに関する明確な開示: 最後に、送り付け商法(negative option)サブスクリプション・プランを採用している企業は、すべての重要な条件が事前に明確かつ目立つように開示されていることを確認するために、少し時間をかける必要がある。 また、その開示には、告発を避けるために取るべき措置と、その措置が必要となるスケジュールを含める必要がある。

 まだ最終決定されていないが、FTC が提案している改正ネガティブ・オプション・ルールでは、消費者の請求情報を取得する前に次の情報が必要になる。 ① 該当する場合、消費者の支払いが定期的に行われること、② 消費者が停止するために行動しなければならない期限 、③ 消費者が負担する可能性のある費用の金額またはその範囲、④ 料金の支払いが提出される日付、⑤ 消費者が定期的な支払いをキャンセルするために使用できるメカニズムに関する情報。(注14)

 もちろん、ダーク・パターンは違法であり、サブスクリプションのキャンセルはサインアップと同じくらい簡単でなければならないというFTCの決定の実現可能性と範囲についてはなお未解決の疑問がある。

 FTC は、ダーク・ パターンの定義を満たす行為が、特定の事件の特定の事実に基づいて不当または欺瞞的であることを証明できるかもしれないが、事実のパターンが「強制されたアクション(Forced Action)」または「コンファーム・シェイミイング(羞恥心や罪悪感の植え付け)の定義を満たすことを示すには十分ではない。

 結局のところ、FTC 法は「ダーク・パターン」を禁止しているのではなく、数十年にわたる判例法を通じて発展してきたように、不公平と欺瞞を禁止している。欺瞞を証明するために、FTC は依然として、状況下で合理的に行動する消費者が重要な用語について誤解される可能性が高く、その責任を負うためにコピーテストまたはその他の外部証拠を使用する必要がある可能性があることを証明する必要がある。不公平を証明するには、FTC は、その行為が合理的に回避できない損害を引き起こし、またはその可能性があり、商業および競争上の利益を上回るものではないことを証明する必要がある。 たとえば、ワンクリック・キャンセルには利点があるかもしれないが、キャンセル・フロー中の「保存」オファーは、サブスクリプションを低価格で維持したいと考えている消費者に多大なメリットを提供する可能性がある。節約オファーも価格競争を促進する可能性がある。

 しかし、FTC は、広く使用されている取引慣行を含む、ダーク・パターンを考慮した慣行に対する強制を明確な優先事項とする。 競合他社の実践をベースラインとして見ることは、何の安心感もない。 規制上の不確実性とリスクを回避するために、企業は登録とキャンセルのフロープロセスについて慎重かつ現実的な視点を持つ必要がある。既存の(PCH の場合は長期的な)慣行を取り締まるという FTC の決定が何かを示唆しているからである。 FTCが積極的な法執法を続けるかどうかは、Amazonに対する苦情訴訟やネガティブオプション・オファーに関する「規則制定案告示 (Notice of Proposed Rulemaking :NPRM)」の経過を通じてより明らかになるであろう。

 

Ⅲ.FTCは、オンライン・サブスクリプションとキャンセル慣行に関する「ダークパターン」の苦情に3人のエグゼクティブを追加

 2023年10月9日のDuane Morris LLP.の解説「FTCは、オンライン・サブスクリプションとキャンセル慣行に関する「ダーク・パターン」の告訴状に3人の上級幹部を追加」仮訳する。(なお、公正取引委員会はFTCが6月21日に行ったリリース文「FTCは消費者を同意なくAmazon Prime に登録し、キャンセルの試みを妨害したとしてAmazonに対して裁判行動を起こすーFTCの告訴は、合意のない定期購入と解約の策略に対する会社の認識上の不履行の詳細を概説しているー」要旨を仮訳している)(注15)

 連邦取引委員会(FTC)によるAmazonに対する最近の独占禁止法訴訟は多くの注目を集めているが、同委員会が以前に提出したAmazonに対する消費者保護訴訟は、Amazon幹部に重要なポイントを提供している。

  2023年9月20日、FTCはAmazon.com Inc.に対する告訴状を修正し、3人のAmazon幹部を個々の被告として追加した。訴状では、Amazonが「ダーク・パターン」を使用して、消費者が無意識のうちに Amazon Primeサブスクリプションに登録し、サブスクリプションのキャンセルを困難にしたと主張した。FTCは、これらの訴訟は、FTC法の第5条「Unfair or Deceptive Acts or Practices」および「オンラインショッパー信頼回復法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act :ROSCA)」。 6月に提出された最初の告訴状は、Amazonのみを指名していた。

1.FTCの主な追加告訴事項

(1)修正された告訴状は、不正行為に直接関与している幹部の個人の説明責任に関してFTCでの焦点が高まっていることを示している可能性がある。

(2)幹部がFTC訴訟で指名されることの潜在的な結果には、民事罰、その他の形態の金銭的救済、および永久的差止命令が含まれる。

 2.FTCの追加告訴の主張内容と求められた救済策

 3人の幹部はすべてAmazon Prime を監督する上級副社長であり、そのうちの1人は現在Amazonのリーダーシップチームに所属している。修正された告訴状は、(1)3人の幹部全員が顧客が無意識のうちにAmazon Prime に登録していること、および(2)Amazonが加入者のキャンセルを防ぐために迷路 (labyrinthine) となるキャンセル手順を設計したことを知っていたと主張した。さらに、FTCは、(3)3人の幹部全員が登録およびキャンセル・プロセスを明確にするための内部の試みを遅らせるかあるいは拒否したと主張した。

 修正された告訴状は、内部の電子メール、メモ、プレゼンテーションでこれらの主張をサポートし、不明な登録と困難なキャンセルを既知の問題として識別した。これらの内部文書の一部は3人の幹部によって承認または受信されただけであったが、他の文書は幹部’自身の通信文であった。コミュニケーションには、Amazonの従業員から幹部へのメールが含まれており、Primeの登録とキャンセルのプロセスについて懸念が生じた。

 また、修正された告訴状は、Amazonと3人の幹部が特権の指定を誤用して文書を隠蔽したと主張し, たとえば、法的助言(legal advice)を要求しなかった大規模な通信において「弁護士に法的アドバイスを求めるべき(seeking counsel)」というフレーズを追加することによって、FTCは、この実務慣行は、被告らが調査される可能性が高いことを理解したことを示していると主張した。

3.FTCが告訴状で指名したAmazonの幹部の役割の重要性

 Amazonの幹部を主要なリーダーシップの役割に追加する修正された告訴状は、個人の説明責任に関する機関での焦点の増加を示している可能性がある。

 このような消費者保護問題裁判の場合、FTCが個人や企業を被告として指名することは珍しいことではない。ただし、そのような場合には通常、指名された幹部が被告事業の唯一の所有者または 別法人格(alter ego )である小企業が関係する。

 しかし、近年、FTCは大企業の幹部の名前を告訴状に付け始めた。

 2022年、FTCはDrizly LLCとそのCEOの両方をデータ侵害(データ侵害とは、社内の脅威や外部からの攻撃者が、医療記録、財務情報、個人識別情報(PI)などの機密データまたは機密情報に不正にアクセスするセキュリティインシデント)で訴えた。 この訴訟は同意命令(consent order)で終わったが、CEOは、25,000人以上の情報を収集する企業の過半数所有者、CEO、またはセキュリティ責任を持つ上級役員である場合、情報セキュリティトレーニングを実施する必要があるとされた。

4.セキュリティ責任を持つCEOまたは上級役員の指名

 この訴訟の被告としてCEOを指名することで、FTCは違法行為とされる行為に直接関与した個々の幹部の責任を追及するのではなく、抑止のメッセージを送っているように見えた。実際、元FTC委員のロヒット・チョプラ(Rohit Chopra)氏(現金融消費者保護局長)とレベッカ・スローター(Rebecca Slaughter)委員は、大企業の個人の名前を明らかにすることを支持し、それが抑止の手段であることを強調してきた。 また、ドライズリー事件(Drizly, LLC.) (注15-2)では、元FTC委員のクリスーティーン・ウィルソン(Christine S.Wilson)氏が、一般にCEOは問題のある慣行についての知識や関与がほとんどないため、CEOが個人的に責任を問われるべきではないと主張した。 FTC委員長のリナ・カーン氏はこれに反対し、「大企業を監督することは、他の優先事項を優先して法的義務を後回しにする言い訳にはならない」と述べた。

Rohit Chopra 氏

Christine S.Wilson 氏

 しかし、今回修正された訴状で名前が挙がったAmazon幹部らは、違法行為に積極的に参加していたと言われている。FTC によると、幹部 3 人は、問題のある実務慣行を阻止する権限を与えられた役職に就いている。 これらの実務慣行を止めるのではなく、継続することを許可した。そして証拠には、違法行為の疑いを助長するこれら幹部自身の通信も含まれていた。

結論

 Amazonのプライム・プログラムに責任を負った幹部3名を名指しすることで、FTCは、たとえ大企業であっても違法行為に積極的に参加する幹部はFTCの消費者保護訴訟の被告として指名されるリスクがあることを示唆した。FTC の訴訟で名前が挙げられると、経営幹部が受ける影響は重大になる可能性がある。 Amazonプライムの訴訟では、企業と個々の被告は各違反ごとに最大5万120ドル(約766万8360円)の民事罰金を科される可能性があり、場合によっては他の形式の金銭的救済も行われる可能性がある。さらに、幹部は永久差止命令の対象となる可能性もある。

 最後に、消費者と取引するすべての企業の経営者は、FTC が、企業による不当または欺瞞的な行為または慣行を促進する行為について、個人の責任を追及しようとする可能性があることを認識する必要がある。

Ⅳ.EUのダーク・パターン規制のあり方・スタンスおよび欧州データ保護会議 (EDPB) ソーシャルメディアインターフェースにおける「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案を公開の概要

1.Covington & Burling LLPの解説ブログ「2023.1.31The EU Stance on Dark Patterns」仮訳する。

 2022 年 3 月 21 日、欧州データ保護会議 (EDPB) は、3 月 14 日に開催された EDPB 本会議の後、

「ソーシャル メディア ・プラットフォーム・ インターフェイスのダーク・ パターンに関するガイドライン 3/2022 草案(Guidelines 3/2022 on Dark patterns in social media platform interfaces: How to recognise and avoid them Version 1.0) 」(以下、「ガイドライン」)という) を発表した。ガイドラインの明記された目的は、ソーシャル メディア ・プラットフォームのデザイナーとユーザーの両方に、EU の一般データ保護規則 (GDPR)で定められた要件に違反するソーシャル メディア・ インターフェイスのいわゆる「ダーク・ パターン」を特定し、回避する方法について実践的なガイダンスを提供することである。

  この意味で、ガイドラインは、GDPR に準拠した方法でプラットフォームとユーザー・インターフェイスを設計する方法を組織に指示するとともに、対象となる特定の慣行がどのように GDPR に反する可能性があるかをユーザーに教育する両方の役割を果たすものといえる。結果として、そのような行為に起因する GDPR の告訴の増加につながる可能性がある。 現在、このガイドラインは 6 週間の公開協議の対象となっており、関心のある方は、こちらから EDPB に直接フィードバックを送信するよう求められている (「フィードバックを提供する」ダウンロードボタンを参照)。

1.ダーク・ パターンの 6 つの定義された包括カテゴリーの分類の設定

 EDPBはガイドラインの冒頭で、「ダーク・パターン」を「ユーザーが個人データの処理に関して意図的ではない、望まない、潜在的に有害な決定を下すように導く、ソーシャルメディア・プラットフォームに実装されたインターフェースとユーザーエクスペリエンス」と定義している。 次に EDPB は、ダーク パターンの 6 つの定義されたカテゴリの分類を提供した。

①過負荷 – 大量のリクエスト、情報、オプション、またはより多くのデータを共有するよう促す可能性によってユーザーを圧倒すること。

②スキップ – ユーザーが意思決定のすべてまたは特定のデータ保護側面を忘れる (または考慮しない) ような方法でインターフェイスまたはユーザー エクスペリエンスを設計すること。

③撹拌 – ユーザーの感情に訴えたり、視覚的なナッジを使用したりすること。

④妨害 – ユーザーが自分のデータの使用について知らされること、または特定のアクションを達成するのが困難または不可能にすることによってデータを制御することを妨害またはブロックすること。

⑤気まぐれ – 一貫性がなく不明瞭な方法でインターフェイスを設計するため、ユーザー コントロールの操作や処理の目的の理解が困難になること。

➅闇に放置 – 情報やプライバシー制御を非表示にしたり、データがどのように処理され、データに対して実行できる制御についてユーザーに不確実性を与えたりする方法でインターフェイスを設計すること。

 上記で概説したダーク ・パターンの 6 つの包括的なカテゴリーの下で、EDPB は 15 の具体的なダーク パターンの行動を特定し、ソーシャル メディア ユーザー アカウントのライフサイクル中にそれぞれの行動がどのように現れるかを検討した。これは、EDPB が次の 5 つの段階の連続体である。

段階:(1)ソーシャルメディア・アカウントを開設する。 (2) ソーシャルメディアで最新情報を入手し続ける。 (3) ソーシャルメディア上で保護された状態を保つ。 (4) ソーシャルメディア上で個人データの権利を行使する。 (5) ソーシャルメディア・アカウントを離れる。

 EDPB は、ソーシャル メディア ユーザーのライフサイクルにおける 5 つのユース ケースを詳しく説明する前に、組織や個人がダーク パターンの使用を検討する (および回避しようとする) 際に念頭に置くべき、以下のいくつかの基本的な GDPR 原則を強調している。

(1)公平性と透明性 (GDPR 5 (1)(a)): EDPB は、GDPR の公平性原則が、データ主体の個人データが有害、差別的、誤解を招く、または予想外の方法で処理されることを防ぐ「包括的な機能を果たす」ことを強調している。 透明性に関しては、GDPR 第 12 条に従って、情報は「明確で平易な言葉を使用した、簡潔、透明、理解しやすく、簡単にアクセスできる形式」でデータ主体に提供されなければならない。これは、潜在的なダーク パターンを調査する際の重要な考慮事項である。

(2)説明責任 (GDPR 5 (2)): EDPB は、ソーシャル メディア プラットフォーム上のユーザー インターフェイス/ジャーニー自体が、ソーシャル メディア ユーザーに対して GDPR 要件への準拠を示す方法として使用できると述べている。 特に EDPB は、ソーシャル メディア プラットフォームの運営者に対し、GDPR の情報をどのように適切に満たしているかを示すために、インターフェイススクリーンショットを記録するだけでなく、定性的および定量的な調査 (A/B テスト、アイ トラッキング、ユーザー インタビューなど) を実施することを奨励している。

(3)設計およびデフォルトによるデータ保護 (GDPR 25 ): EDPB は、設計およびデフォルトで効果的なプライバシーを確保するには、ここで特定の要素を考慮する必要があると指摘している。特に、データ主体の自律性と合理的な期待を尊重し、データ主体のデータ主体のデータ保護を可能にすることである。 簡単な相互作用と権利行使、消費者の選択の促進と権力の不均衡の回避、データ主体を欺いたり、操作したり、誤解を与えたりしない客観的かつ中立的な方法での情報の提供である。

2.ソーシャルメディアユーザーのライフサイクルにおけるダーク・パターンを深く掘り下げる

 EDPB は、ソーシャル メディア・ ユーザーのアカウント・ ライフサイクルの 5 つの段階にわたるダーク パターンの詳細な分析を提供し、各セクションを次のように分けている。(a) 関連するコンテキストの説明。 (b) 関連する法規定の概要。 (c) 特定のダーク・ パターン (コンテンツ ・ベースかインターフェイス ベースかを問わず) をそれぞれ複数の例とともに調査する。 (d) ダーク パターンを回避するためのベスト プラクティスのリスト。

 以下に、ソーシャルメディアのライフサイクルのこれら 5 つの段階に関連した EDPB の注目すべき発言をいくつか挙げる。

(1)ソーシャルメディア・アカウントを開設するとき

同意: EDPB は、ソーシャル メディア プロバイダーは、サインアップ段階で要求された場合に同意が区別できるように特別な注意を払う必要があると述べている。 そうしないと、このオンボーディングのステップでユーザーがあまりにも多くの情報に圧倒され、すべてを読む気をなくしてしまうのにも関わらず、プライバシー ポリシーをすべて読んだことを確認する必要がある同意が必要な場合、[プライバシー ポリシーに] という名前が付けられるが、これは特別な条件への強制的な同意とみなされる可能性がある。 ソーシャルメディア・プラットフォームのユーザーは、サインアップ段階でプラットフォームがシングルクリックで同意を取得した場合、ワンクリックで同意を取り消すこともできなければならない。

データの最小化: EDPB はデータの最小化の原則にも焦点を当てており、ソーシャル メディア プラットフォームは追求される目的に客観的に必要な以上の個人情報を取得しようとするべきではないと明確に述べている。 ここで EDPB は、電子メール アドレスも同じ目的 (たとえば、特定のユーザーが電子メール アドレスを所有していることを証明するため) に使用できるにもかかわらず、アカウントの 2 要素セキュリティ認証のために電話番号を要求するプラットフォームの例を挙げている。例えば、 プラットフォームへのログインに使用されるデバイスの場合)。

ダーク・パターンの例: EDPB は、ライフ サイクルのこの段階でのさまざまなダーク パターンの使用に焦点を当てている。これには、「感情操作」の使用、つまり、次のいずれかの方法でユーザーに情報を伝えるための言葉やビジュアルの使用が含まれる。(a)非常に前向きな見通しで、ユーザーに良い気分や安全を感じさせる。 (b) 非常に否定的な見通しで、ユーザーに不安や罪悪感を感じさせる。また、デフォルトのオプションとしてより多くのデータを共有するようにユーザーを誘導する。

(2)ソーシャルメディアで最新情報を入手する

透明性(Transparency): EDPB は、GDPR には規範的な透明性要件があるものの (GDPR 第 12 条から第 14 条を参照)、「情報が多ければ多いほど良い情報になるとは限らず、無関係または混乱を招く情報が多すぎると、重要な内容がわかりにくくなったり、コンテンツの価値が低下したりする可能性がある」と強調している。

 したがって、EDPB は、包括的な情報と容易なアクセス性の間で適切なバランスをとる、多層的なプライバシー通知の使用を推奨している。 EDPB は、これを、矛盾する情報や論理的一貫性を欠く情報、曖昧な表現を提供する情報、特定の情報を見つけにくくすることでユーザーに過大な負担をかける情報などのダーク・パターンの使用と対比している。 ここでも EDPB は、フィードバックを取得し、関連情報を確実に理解できるようにするために、ユーザーに対して階層化されたプライバシー通知の使用をテストすることを推奨している。

共同管理者(Joint Controllership): EDPB は、共同管理者に共同管理者取り決めの本質をデータ主体に開示することを義務付ける。 GDPR 第 26 条の規定により、共同管理者に追加の透明性義務が課せられ、これには特定の状況ではソーシャル メディア プラットフォームが含まれる可能性があることに留意している。

データ侵害の伝達(Communication of Data Breaches:): EDPB は、データ侵害に関する不特定または無関係な情報をデータ主体に提供することに対して警告している。たとえば、処理者のデータ侵害が管理者のセキュリティ侵害ではないことを示すなどである。 侵害の重大性は、データ主体への影響ではなく、プラットフォームまたはそのプロセッサへの影響によって左右されることを示唆している。 また、どの特定の種類の特別なカテゴリーの個人データが侵害で流出したかを示すものではない。

(3)ソーシャルメディア上での保護を維持する

同意: ここでも EDPB は、ターゲットを絞った広告 (e-プライバシー指令に基づく Cookie およびトラッカーの使用に関する義務が適用される場合を含む) など、さまざまな処理目的でソーシャル メディア・ ユーザーが同意を付与または撤回するために提供される手段および同意の撤回を妨げるために使用できるダーク・パターン行動の種類に焦点を当てている。

②ユーザー・ コントロール: EDPB は、ユーザー・コントロールの表示におけるダーク・パターンについて懸念を提起している。特に、ユーザーが選択できるオプションやメニュー (またはサブメニュー) が多すぎる場合、それらは明確な機能を提供するのではなく、不明確または論理的に矛盾する可能性がある。 集中型とは、プライバシーの選択を管理することを意味する。 注目すべきは、EDPBが、「ソーシャル メディア ・プラットフォームのユーザーが設定を変更する際に必要な平均歩数に関しては、『すべてに適合する万能のアプローチ』はない。その数値は 必要な手順の数値は できるだけ少なくする必要がある」と述べていることである。

(4)ソーシャルメディア上での個人データの権利の行使

 ここで EDPB は、ユーザーを無関係なページにリダイレクトすることでユーザーを「行き止まり」に導く、不十分または曖昧な開示を提供する、個人データの権利を行使するためにユーザーを「プライバシーの迷路」に導く、ユーザーに情報を提供しないなどのダーク・パターンに関する懸念を提起している。 権利を行使するためのフレンドリーな方法 (例: データのコピーをダウンロードするための直接リンク)、および特定の手順を必要以上に長くすること (例: 特定のアクションを実行したいと「確信している」かどうかをユーザーに尋ねるなど)などをあげている。

(5)ソーシャルメディア・アカウントを離れるときの留意点

 EDPB は、正当な理由なく消去権の行使が困難になった場合、これは GDPR 違反となり、ソーシャル メディア アカウントの削除を求めるユーザーの要求は暗黙の同意の撤回として理解される必要があると述べている ( 信頼されている場合)、GDPR 第 7 条 (3) に基づいて処理される。

 またEDPBは、現段階でユーザーを「プライバシーの迷路」に誘導してアカウントを削除したり、ユーザーを感情的にアカウントを維持するよう誘導したり、あいまいな情報や混乱を招く選択肢を提供したり、削除プロセスが中断される「死」に導くダーク・パターンについても懸念を表明している。

結論

 これらのガイドラインは、ヨーロッパおよびその他の管轄区域全体における広範な傾向の一部であり、規制当局や裁判所は、消費者を欺いたり、操作したり、不当に影響を与えたりしていると解釈される可能性のある方法でウェブサイト、プラットフォーム、またはその他の消費者向けインターフェースを提供する組織の責任を追及している。 プライバシー保護の選択肢が少なくなる。 この点で、上で強調したように、これらのガイドライン (特に EDPB によって特定されたベスト プラクティス) は、欧州のプライバシー当局からの精査を受ける可能性のある慣行を避けたいソーシャル メディア分野以外の組織にとって有益となる可能性がある。 さらに、EDPB が指摘しているように、ダーク パターンは消費者保護法に違反する可能性もあり、これらの行為を行った当事者が二重の執行体制にさらされる可能性がある。

2.欧州データ保護会議 (EDPB) ソーシャルメディアインターフェースにおける「ダークパターン」の使用に関するガイドライン草案を公開:解説blogの要約

 Covington & Burling LLPの解説blogを以下、仮訳する。筆者はNicholas Shepherd氏、Daniel P. Cooper 氏である。

Nicholas Shepherd 氏

Daniel P. Cooper 氏

 2022 年 12 月 9 日、欧州委員会の司法・消費者保護担当委員、ディディエ・レインダース(Didier Reynders)氏(ベルギー代表)は、欧州委員会が次の 2023 年の任務を、オンライン広告市場の透明性や Cookie 疲労と並行してダーク・パターンの規制に焦点を当てると発表した。この義務の一環として、EU の消費者保護協力 (EU’s Consumer Protection Cooperation :CPC) ネットワークは、399 の小売 Web サイトとアプリのダーク パターンの徹底的な調査を実施し、オンライン ショッピング Web サイトの 40% 近くが消費者の脆弱性を悪用かつ騙す操作的行為に依存していることを発見した。

Didier Reynders氏

 これらの問題を強制するために、EU にはダーク・パターンを規制する単一の法律は現状はないが、ダーク・パターンについて議論し、消費者をダーク・パターンから保護するツールとして使用される可能性のある複数の規制がある。 これには、「一般データ保護規則 (General Data Protection Regulation (GDPR)」デジタル・サービス法 (Digital Markets Act:DSA)、デジタル市場法 (Digital Markets Act:DMA)、不公正商行為指令 (Unfair Commercial Practices Directive「UCPD」(注16)、およびAI法(Artificial Intelligence Act)やデータ法(Data Act)(注17)など規制案が含まれる。

1.ダーク・パターンに関する法的枠組み

 EUで「ダーク・パターン」という用語には単一の定義はないが、特にマイナスの結果につながる場合、消費者に意図していないことややりたくないことをさせる操作的または欺瞞的な行為を指す。 例えば以下のとおり。

(1)欧州データ保護会議 (EDPB) は、「ダーク・ パターン」を「ユーザーの行動に影響を与えることを目的として、個人データに関して意図的ではない、望ましくない、潜在的に有害な決定をユーザーにさせるソーシャル メディア・ プラットフォームに実装されたインターフェイスおよびユーザー・ エクスペリエンス」と定義している。 EDPB は、ダーク・パターンを、(1) 過負荷(overloading)、(2) スキップ(skipping)、(3) 動揺させる(stirring)、(4) 妨害(hindering)、(5) 気まぐれ(fickle)、(6) 暗闇に放置(left in the dark,)の 6 つのカテゴリーも定義し、これらについては、ブログ記事「EDPB、ソーシャルメディアインターフェースにおける「ダーク・パターン」の使用に関するガイドライン草案を公開」で詳しく説明している。

(2)提案されているデータ法(Data Act)でも同様に、「ダーク・パターン」を「消費者にマイナスの結果をもたらす決定を押し付けたり欺いたりする設計手法またはメカニズム」と説明されている。 これらの操作手法は、ユーザー、特に弱い立場にある消費者を説得して望ましくない行動をとらせたり、データ開示取引に関する意思決定を誘導したり、サービスのユーザーの意思決定に不当にバイアスをかけたりすることでユーザーを欺くために使用される可能性があり、ユーザーの自主性、意思決定、選択を覆し、損なう方法である。

 さまざまな説明にもかかわらず、「ダーク・パターン」の共通の特徴は、(i) 操作的または欺瞞的な性質、および (ii) その結果消費者にマイナスまたは有害な結果をもたらすことである。

 この「ダーク・パターン」という表現は EU の法律全体に浸透しており、さまざまな規則、ガイドライン、原則の中に見られる。したがって、組織が「ダークパターン」とは何か、そしてこれが自社の業務にどのような影響を与えるかを検討しようとする場合、たとえば次のような多数の規制を考慮することが重要である。

(1)GDPR と eプライバシー指令。

 GDPR と eプライバシー指令(注18)はダーク・パターンについて明示的に言及していないが、ダーク・パターンを規制する現在の法的枠組みの一部を形成している。たとえば、組織が GDPR に基づいて個人データを処理する法的根拠として同意に依存している場合、または eプライバシー指令に基づいて Cookieマーケティング コミュニケーションについて同意を取得している場合、そのような同意を収集する際にダーク パターンに関与している可能性がある。

 (A) ソーシャル メディア プラットフォーム・ インターフェイスのダーク・パターンに関する EDPB ガイドライン 03/2022 (「ガイドライン」) は、ソーシャル メディア・プラットフォームの「ダーク・パターン」を評価するための実践的な推奨事項を提供している。同ガイドラインでは、「ダーク・パターン」はユーザーが「自由に与えられた、具体的で十分な情報に基づいた明確な同意」を提供する能力を妨げる可能性があり、ひいてはデータ保護と消費者保護の観点からプライバシーの権利を侵害する可能性があると指摘している。 実際の例として、組織は次のような場合に「ダーク・パターン」に陥る可能性がある。 言葉やビジュアルの使用が、(a) 非常に前向きな見通しでユーザーに良い気分や安全を感じさせる、または (b) 非常に否定的な見通しのいずれかでユーザーに情報を伝える 1 つは、特にデフォルトのオプションとしてより多くのデータを共有するようにユーザーを誘導する方法で、ユーザーに不安や罪悪感を抱かせることである。ガイドラインの詳細については、本事務所のブログ投稿を参照されたい。

(B)CPC – EDPB の子供に対する公正な広告に関する共同原則(CPC – EDPB Joint Principles for Fair Advertising to Children)

 2022 年 6 月 14 日、EU の CPC ネットワーク(Consumer Protection Cooperation Network)4/3(91)の代表者は、EU 内のいくつかの国家データ保護当局および EDPB 事務局とともに、子供に対する公正な広告のための 5 つの主要原則を承認した(プレスリリースを参照)。 これらには、例えば、子供をターゲットにする可能性が高い広告やマーケティング手法を設計する際に、子供特有の脆弱性を考慮すること(特に、子供を騙したり不当に影響を与えてはならない)や、子供をターゲットにしたり、アプリ内またはゲーム内のコンテンツの購入を促したり、購入を促したりしないことが含まれる。 このため、組織は子供を対象としたオンライン・インターフェイスを作成する際に、ダーク パターンを避けるために十分な注意を払う必要がある。 これらの原則と子供のプライバシーの詳細については、以前のブログ投稿を参照されたい。

(C)UCPD(不公正商行為指令)。不公正商行為指令 (Unfair Commercial Practices Directive:UCPD」は、契約締結前、契約締結中、契約締結後に消費者の経済的利益に影響を与える不公正な商行為を禁止している。 2021 年 12 月 29 日、欧州委員会は UCPD に関するガイダンスを発表し、UCPD がダーク パターンをカバーしていることを確認し、UCPD の関連規定がデータ駆動型の企業間取引(BtoB)の消費者の商習慣にどのように適用できるかを説明するセクション (4.2.7) を割当てた。

 UCPD は、消費者の注意を引くなどの商行為を対象としている。これにより、サービスの使用を継続する (フィードをスクロールするなど)、広告コンテンツを表示する、またはリンクをクリックするなどの取引上の決定が行われる。これらの商慣行にダーク・ パターンが含まれており、誤解を招く限りにおいては、UCPD に違反することになる。 たとえば、ダーク・パターンは、オンライン広告に関連して平均的な消費者の経済行動を大きく歪める可能性があるため、UCPD に該当する可能性がある (ブログ投稿を参照)。

(D)DSA(デジタル・サービス法 (Digital Markets Act)

 DSA は、ユーザーの自由な選択を歪めたり損なったりする可能性のある、ダーク・パターンを含む欺瞞的または誘導的な手法 (同意のオプションを視覚的に目立つようにしたり、ユーザーに決定を繰り返すよう要求したり促したりするなど) を特に禁止している。 さらに、DSA に基づいて、欧州委員会には、ダーク・パターンの範囲に含まれる可能性のある追加の商慣行を定義するための委任法を採択する権限も与えられている。 DSA の詳細については、ブログ投稿を参照。

(E)DMA(デジタル市場法 (Digital Markets Act:DMA)

 DMA はダーク・パターンについては明示的に言及していないが、ダーク ・パターンと同様の方法で説明される義務をゲートキーパーに課している。 たとえば、ユーザーの自由な選択と同意の撤回に関して、ゲートキーパーは「エンドユーザーが自由に同意する能力を欺いたり、操作したり、その他の方法で実質的に歪めたり、損なったりするような方法で、オンラインインターフェイスを設計、編成、運用してはなりません」。 この目的を達成するために、DMA は、ユーザーが同意したときと同じように簡単に同意を撤回できる機能を提供し、追加の負担を回避させる。 同意を撤回するための簡単なメカニズムをユーザーに提供しない場合は、ダーク・パターンとみなされ、DMA に基づく違反とみなされる。 DMA の詳細については、ブログ投稿を参照。

2.規制立法法案

 ダーク パターンに関する規制は継続的に進化しており、特にダーク パターンが消費者に与える悪影響がより多くの研究や調査によって明らかになっているため、新しい法律に組み込まれている。 次の今後のルールでも、ダーク・ パターンの使用が規制される。

(1)提案されているAI法(The proposed AI Act)

  提案されている AI 法は、EU 全体での人工知能システム (「AI システム」という) の開発、市場投入、および使用に関する規則を定めている。 AI 法はまだ立法過程にあるが、現在の提案では AI システム内でのダーク パターンの使用が禁止されている。 すなわち、この提案は、「人の行動を、その人を引き起こす、またはその可能性のある方法で実質的に歪めるために、人の意識を超えた潜在意識技術を展開する AI システムの市場投入、運用、または他人の身体的または精神的危害を加える使用を明確に禁止している。 したがって、AI システムのメーカーは、ダーク パターンのような欺瞞的な手法の使用が禁止され、ダーク パターンの使用を避けるために、GDPR が推進する一般的なデータ保護原則、つまり透明性、説明責任、データの最小化などを考慮する必要があります。 AI システム内のパターン。 提案されている AI 法の詳細については、当事務所のブログ投稿を参照。(欧州委員会専門サイト「Shaping Europe’s digital future」でAI法など最新情報が入手可)

(2)提案されているデータ法(The proposed Data Act.)

 提案されているデータ法は、ユーザーが接続された製品やサービスの使用を通じて生成されたデータにアクセスし、第三者に移植できるようにするなど、データへのアクセスと使用を促進することを目的としている。

  この一環として、このデータを受け取る第三者は、「ユーザーとのデジタルインターフェースにおいてユーザーの自主性、意思決定、選択を破壊したり損なったりすることにより、いかなる方法でもユーザーを強制、欺瞞、操作しない義務を負う。Recital 34 では、これは、サードパーティがデジタル インターフェイスを設計する際に、特に消費者がより多くのデータを開示するように操作する方法でダーク パターンに依存すべきではないことを意味すると説明している。したがって、サードパーティは、GDPR で定義されているデータ最小化原則に準拠する必要がある。 インターフェイスでダーク・ パターンの実践を採用しないようにすべきである。( 提案されているデータ法の詳細については、ブログ投稿を参照)。

(3)デジタル公平性に関する公開協議(Digital Fairness Consultation)

 2022 年 11 月 28 日、欧州委員会はデジタル公平性に関する公開協議を発表しました。この協議は現在 2023 年 2 月 20 日まで開かれている。この協議の目的は、既存の消費者保護法(不公正商法など)を更新する必要があるかどうかを判断することである。 オンライン世界のデジタル変革に適応するために、慣行指令、消費者権利指令、不当な契約条件指令などを遵守する。 特に、欧州委員会は、既存の消費者保護法が、他の消費者保護上の懸念事項(パーソナライゼーションの実践、インフルエンサーマーケティング、仮想アイテム消費者のマーケティングなど)の中でも、ダーク・パターンを含むオンラインの欺瞞的およびナッシング手法などの新たな消費者保護問題から消費者を保護するのに適切であるかどうかを検討する予定である。

 公開協議後、欧州委員会はスタッフ作業文書を公表する予定で、この文書はこれらの問題に対処し、ダーク・パターンをさらに規制する新たな立法提案を推奨する可能性がある。 その一方で、EU はすでに次のようなダーク パターンの施行を推進している。

(4)欧州委員会の新しい消費者アジェンダ(ダーク・ パターンの義務化を含む)の一環として、2022 年 4 月に欧州委員会は、デジタル環境における不当な商行為に関する行動調査を発表した。この調査では、ダーク・パターンの使用と操作的なパーソナライゼーションを調査し、 ダーク・パターンに関する懸念に対処するための既存の消費者保護法の潜在的なギャップ。 欧州委員会は、この調査で特定されたオンライントレーダーに連絡し、特定された問題を修正するよう依頼する予定である。

 前述したように、CPC ネットワークは Web サイトやアプリでの「ダーク ・パターン」の使用を特定するためにオンライン調査を実施した。欧州委員会のプレスリリースによると、調査対象となったオンライン ショッピング Web サイトのほぼ 40% (399 件中 148 件) がこのサイトに依存していると記載されている。 消費者の脆弱性を悪用したり、消費者を騙したりする操作的行為(例:偽のカウントダウンタイマー、隠された情報、消費者を購入、定期購入、またはその他の選択肢に誘導するように設計された Web インターフェース)。 関連する加盟国の消費者保護当局は今後、関連する業者に連絡してウェブサイトを修正し、必要に応じてさらなる措置を講じることになる。

 2022年11月21日に発表された、取引アプリや取引ポータルでのダーク・パターンを禁止するドイツ連邦金融監督庁(Bafin)の声明(注19)で証明されているように、金融セクターなど分野ベースでの施行も予想される可能性が高い。

結論

 EUは、特にデジタル分野におけるEU消費者の権利をさらに保護するために重要な措置を講じており、企業がそのような目標を達成するための追加の勧告を提供し続けている。 EUはデジタル市場法とデジタルサービス法の採択、および今後の立法提案の交渉により、欧州の各機関はデジタル市場における透明性と説明責任の強化に向けて 2023 年に向けた調子を整えている。 ダーク ・パターンの規制に重点を置くことは、EU の多数の法律との関連性が示すように、広範囲に影響を与える可能性がある。 さらに、ダーク・パターンの規制は単一の規制に拘束されないため、ダーク・パターンに対する施行の数は増加するであろう。 たとえば、EU データ保護当局はダーク・ パターンの使用や個人データの処理、デジタル マーケティングを調査するため、ダーク ・パターンも施行の議題となっている。

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(注1) サービスや商品を一定期間利用できる権利に対して料金を請求するビジネスモデルのこと。例:電子書籍音楽配信、動画配信、ゲーム、洋服、車等

 サブスクリプションとは、商品やサービスを購入することなく、一定の期間、サービスや商品を利用できるビジネスモデルである。一般的に料金を支払っている間は、自由に商品やサービスを利用できるが、契約が終了するとそれらは利用できなくなる。

 ソフトウェアをサブスクリプション形態で提供するサービスも増えている。月単位、あるいは年単位で契約して料金を支払うと、その期間は対象のソフトウェアを利用できるという内容である。永続的にソフトウェアを利用できるライセンスを購入する従来の形式に比べ、安価にソフトウェアを使い始められ、短期間だけ利用する場合であればライセンスを購入するよりも安価であること、さらに企業で利用する場合にはライセンスを資産として計上する必要がないがメリットとなる。

 多くの企業が参入するサブスクリプションであるが、メリットばかりではなく、以下のデメリットもある。

①複数登録するとコストがかさみやすい

②利用しなくても毎月支払いが発生する

③解約すると手元にものが残らない

(注2) e-commerceとは、WEBサイト上で物品を販売するオンラインショップや、ソフトウェアなどデジタルコンテンツのオンライン販売、金融商品の売買取引をWEB上で行うオンライントレード、ネットオークションなども、eコマースの一つの形態である。

(注3) Cookieは、一般に、GDPRにおいては、「オンライン識別子」(GDPR 4条1項)として「個人データ」に該当するとされる。したがって、EU域外適用を含め、GDPRが適用される場合には、Cookieの取得には、原則として明示の同意が要求される。日本における規制について述べたところと同様、GDPR個人情報保護法制の観点からの規制であり、電気通信にかかる法制の観点からは別の規制が適用されることとなる。それが、EUのe-privacy指令4/3(54)である(通称として「Cookie指令」と呼ばれることもある)。

 なお、e-privacy指令は2002年に制定されたものであり、2009年改正および2018年5月のGDPRの全面施行を経て、なお現在も有効なものである。(Business & Law LLPの解説から一部抜粋) 

(注4) ツールチップは、ユーザーがグラフィカル ユーザー インターフェイス (GUI) 内の要素を操作するときに表示される短い情報メッセージをいう。(解説仮訳、なお、その使用につきガイドラインがある。)

 Tooltipコンポーネントは、UI上のスペースが限られている場合に、以下のような補足テキストを一時的に表示するために使う。

・補足的な説明テキストを表示する場合

・アイコンだけのボタンにラベルを表示する場合

・省略されたテキストを全文表示する場合

 Tooltip内の情報は隠れるため、操作に必要な情報の表示への使用は避けるべきである。ユーザーが把握しておかないと操作が進められないような重要な情報は、常に明確に表示することを検討すべきである。

 また、重要な情報とは、フォームの入力に必要な情報などが該当する。具体例は次の通り。

・パスワードに使用できる文字や、エラーになる入力値などの入力要件

・入力エラーとなった際のエラーメッセージ

・操作補助になる情報(ショートカットなど)

(注5) リナ・M・カーン委員長(1989年3月3日生まれ、35歳)は英国生まれの米国法学者で、2021年から連邦取引委員会(FTC)の委員長を務めている。同時に彼女はコロンビア・ロー・スクールの法学准教授(常勤)でもある。

イェール大学ロー・スクール在学中に、法曹、実務界に大いなる影響力を与えた学生論文「Amazon独占禁止のパラドックス(Amazon's Antitrust Paradox)(注6)を発表した後、米国における独占禁止法と競争法の研究で知られるようになった。

 バイデン大統領は2021年3月にカーン氏をFTC委員に指名し、彼女の承認を受けて2021年6月に同委員長に就任させた。FTCは彼女の任期中、非競争協定の禁止を推進し、反競争的行為に従事するヘルスケア企業等に対して訴訟を起こし、非競争慣行を批判し、Amazonに対して注目を集める訴訟を起こした。 2022 年、FTC と連邦司法省の独占禁止部門は、独占禁止を理由に記録的な数の合併を阻止した。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

(注6) カーン委員長の有名な論文「Amazon's Antitrust Paradox」(Yale Law Journal)は無料でダウンロード可。

(注7) 米国では2010 年 12 月、オンラインに関連するデータパスマーケティングを禁止するオンラインショッパー信頼回復法(Restore Online Shoppers’ Confidence Act:「ROSCA」)が施行された。ROSCAは第三者である売手に対し、当初の販売事業者と関係がないことを含め、明確な事前宣伝販売情報の開示を消費者に提供することを義務付けている。さらにROSCAは、この種の売手が、消費者から、請求金額全額、消費者の連絡先及び消費者による「追加的確認行為」を含む明白な同意を消費者から直接得ることを求めている。

(注7-2) わが国では、Restore Online Shoppers' Confidence Actを「復元オンライン購入者信頼法」と100%訳している。

しかし、これは明らかに誤訳である。以下、同法の内容を仮訳、引用する。

(1)この法律は、取引後の第三者販売者(消費者が最初の販売者と取引を開始した後、最初の販売者を通じて商品やサービスをオンラインで販売する販売者)が、すべての資料を明確に開示していない限り、インターネット取引で金融口座に請求することを禁止している。 取引条件を遵守し、料金に対する消費者の明示的な同意を得たものとします。 販売者は、請求される口座の番号を消費者から直接取得する必要がある。(FTCの解説の訳)

(2)「オンラインショッパー信頼回復法」では、企業はネガティブオプション・マーケティング(オプトアウト・サブスクリプション・サービス)を使用して、以下の条件を満たさない限り、製品またはサービスをWeb経由でアメリカの消費者に販売することはできない。

【3つの法的要件】

①合理的な顧客が購入しているものを正確に理解する公正な機会を持つことができるように、購入の完全な条件は販売時に明確にされなければならない。

②販売者は、進行中のオプトアウト・サブスクリプション・プログラムに参加したいことを示す消費者からの明示的な同意を得る必要がある。もう一度、請求情報が取得される前に、販売者の特定の条件を明確にする必要がある。

③販売者は、いつでもサブスクリプションサービスをオプトアウトするための明確で明白なメカニズムを消費者に提供する必要がある。さらに、このオプトアウトは、不適切な面倒や過度の遅延なしに許可する必要がある。

 販売者が上記の3つのことのいずれかを実行しなかった場合, そもそも、サブスクリプションサービスを販売していたという事実を隠していたか、販売者が製品やサービスをキャンセルすることをほぼ不可能にしたため, その後、そのビジネスは連邦消費者保護法に違反している。あなたが偽のインターネット広告のためにかなりの金額を失った消費者であるなら、あなたは行動を起こす必要がある。(Pike&Lustig、LLPの解説4/3(80)から引用、仮訳)

(注8) 連邦取引委員会(FTC)の同意命令(consent order):公正取引委員会資料「世界の競争法:米国」から一部抜粋した。

(2) FTCの事件処理手続

 ア 審査手続

 FTCは、特定事件について審査を開始するときには、職員の中から審査官を指定し、これに審査を行わせる。審査官は、連邦取引委員会法第9条に基づく罰則付き命令(Subpoena)による書証提出命令、出頭命令等及び同法第20条に基づく民事審査請求(Civil Investigation Demand :CID)による文書提出命令、口頭供述命令等を行うことができる。

イ 同意命令

 FTCは、違反事件の審査の結果、法的措置を採ることが相当であると判断したときは、まず、関係人にFTCの申立てを記載した文書(Complaint)及び排除措置命令案(Orders to Cease and Desist)を送付し、これらの内容につき交渉し、合意に達した場合には、合意内容を踏まえた同意命令案を作成し、委員会の議決を経て、通常30日間のパブリック・コメントを行う。その後、再度委員会の議決を経て、同意命令(Consent Order)を発出する。

 また、下記ウの審判開始決定後であっても、同意命令の手続を行うことができる。審判開始決定後、被審人との間で同意された同意命令案が審判官を通じてFTCに付託される。この場合も、同案を官報に掲載し、一般からの意見を求めることとなる。FTCは、当該意見等を考慮して、再審査を行い、同意命令を発出する。

 同意命令は、審判手続を経た命令ではない。したがって、同一の事案について後に損害賠償請求訴訟が提起されても、同意命令による事実や違法性についての推定といった効果は発生しない。

【補足説明】

・いわゆる裁判上の和解。効率的な紛争解決手段として多用されている。

・ 同意判決・同意命令に対しては上訴できない。

・ その後の民事の損害賠償請求訴訟において証拠価値をもたない。

・ 第三者意見聴取あり。

(注9) 2003年のCAN-SPAM法(Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing Act of 2003)は、PCによる商業メールを送信する者の要件を定め、スパマーやスパムで製品を宣伝している企業が法律に違反した場合の罰則を明記し、消費者にスパムメールの停止を求める権利を与えた。

2004年1月1日から施行されたこの法律は、ウェブサイト上のコンテンツを含め、商業的な製品やサービスの広告や宣伝を主な目的とするPC向け電子メールを対象としている。 取引や関係のあるメッセージ. 合意された取引を促進する、または既存のビジネス関係における顧客を更新する電子メールは、虚偽または誤解を招くような経路情報を含まないが、それ以外はCAN-SPAM法のほとんどの条項から免除される。

CAN-SPAM法の施行は、米国の消費者保護機関である連邦取引委員会(FTC)が権限を有する。 CAN-SPAMはまた、司法省(DOJ)にその刑事制裁を執行する権限を与えている。 また、他の連邦政府機関や州政府機関は、その管轄下にある組織に対して同法を執行することができ、インターネットアクセスを提供する企業も同様に違反者を訴えることができる。

 一方、連邦通信委員会FCC)は,携帯電話やポケットベルにユーザーの承諾がない商用電子メール(スパム・メール)の送信を禁じる規制法案4/3(108)を可決したことを, 8月4日に発表した。米国議会は2003年、スパム対策法「Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing(CAN-SPAM)」を可決した際に,携帯電話に送られるスパム・メールを規制する権限をFCCに与えていた。今回の法規制は,その流れを受けてのもの。

FCCの法規制によれば,携帯電話ユーザーがあらかじめ承諾しない限り(オプトイン),いかなる無線サービス加入者のアドレスにも商用電子メールを送信してはならない。ユーザーがオプトアウト(受信拒否手続き)するまで送信が認められているコンピュータの電子メール・アドレス宛て商用メールと比べ,より厳しい条件となっている。

以下で、CAN-SPAM同法の概要を引用する。

1.迷惑メール規制法:

 ・「CAN-SPAM法」(2003年)により、PC向けメールを規制

・「CAN-SPAM法」に基づき、連邦通信委員会(FCC)規則により、2004年より携帯電話向けメールを規制(Rules and Regulations Implementing the Controlling the Assault of Non-Solicited Pornography and Marketing Act of 2003

Rules and Regulations Implementing the Telephone Consumer Protection Act of 1991)

2.迷惑メールの範囲 :商業電子メール

3.送信者等に対する規制

【PC向けメール】

・オプトアウト規制

・表示義務

・許可なくアクセスしたPCからの送信禁止

・偽ヘッダー情報による送信禁止

・欺瞞的表題を付した送信禁止 等

【携帯電話向けメール】

・オプトイン規制

・表示義務

・オプトアウトを受けた時は、10日以内に送信終了する義務 等

4.制裁措置 ・行政処分(停止命令)

・拘禁刑最高5年又は罰金(違反行為により被告が得た利益若しくは他者が被った損害の2倍の額、又は25万ドル(個人)、50万ドル(法人)のうち、いずれか高額な方が上限)等

5.執行状況 :FTCが扱ったスパム関連事案の80%はオプトアウト義務違反

6.国際連携施策:(日本等との連携等)

「US SAFE WEB ACT」の制定(2006年)

(注10) 「ネガティブ・オプション」とは、注文していない商品を、勝手に送り付け、その人が断らなければ買ったものとみなして、代金を一方的に請求する商法をいう。

特定商取引法が改正され、令和3年7月6日以降売買契約に基づかないで、一方的に送り付けられた商品は直ちに処分することができることとなった。

例示:①売買契約に基づかないで送付された商品を受け取ったときは商品を直ちに処分することができる。

②事業者から金銭を請求されたときは金銭を支払う必要はない。

③商品を開封や処分しても、金銭の支払いは不要であり、事業者から金銭の支払を請求されても応じないようにしましょう。

④商品の代金を誤って支払ってしまったときは代金について返還を請求することができる。(警視庁サイトから抜粋)

 

(注11) “Iliad Flow”とは、オンラインの迷路のようなキャンセル・フローをいう。

具体的手順については解説例参照。

(注12) ローチ・モーテル((Roach Motel)とは、簡単に登録できるが、キャンセルや退会方法が複雑で難しいものをいう。数回のステップで簡単に登録できるが、いざ退会・解約する際にはその何倍もの労力が必要。故意に解約方法をわかりにくくしたり、電話だけで解約を受け付ける企業が多く存在する。

(注13) ユーザーがオファーを断ろうとすると、羞恥心や罪悪感を与えて、あたかも断ることに罪があるように思わせること。海外サイトで多く見られるダーク・パターンの一種。感情的なコピーを用いて「この選択肢を選ばないのは愚かである」と、暗にプレッシャーをかける。

 海外サイトで多く見られるダーク・パターンの一種。感情的なコピーを用いて「この選択肢を選ばないのは愚かである」と、暗にプレッシャーをかける。

(注14)2023年4月24日 FTCが公表したNegative Option Ruleに関するFTCの「A Proposed Rule by the Federal Trade Commission」の改正案の要旨は以下のとおり。なお、詳細はFTC解説参照。

 連邦取引委員会は、「サブスクリプションおよびその他のネガティブ・オプション・プランに関する規則」(“ネガティブ・オプション規則”または“規則”)の改正を提案している。提案された変更は、消費者が望まない製品またはサービスの繰り返し料金を含み、過度の困難なしにキャンセルすることができない、不公正または欺罔的なビジネス慣行と戦うために計算される。

(注15) 公正取引委員会の仮訳は「過去のある報道では、アマゾンが解約手続を説明するために 「イリアス(Iliad)」 という言葉を使ったと指摘した上、この解約手続は、十年間にわたるトロイア戦争について書かれたホメロスの大叙事詩のようであると報じられている。」しかし、これでは読者はイリアス(Iliad)を正確に理解できまい。本文で述べたように「解約手続きが複雑な迷路である」というのが正しい訳語であろう。

(注5-2)連邦取引委員会は、オンラインアルコール市場のDrizlyと同社CEOのJames Cory Rellasに対し、同社のセキュリティ上の欠陥がデータ侵害につながり、約250万人の消費者の個人情報が流出したとの申し立てを巡り、訴訟を起こした。

(注16) 長島・大野・常松法律事務所パートナー 福原あゆみ氏のニュースレター「欧州におけるグリーン・ウォッシュ規制のアップデート」から一部抜粋する。なお、EUサイト(DIRECTIVE (EU) 2024/825 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 28 February 2024)とのリンクは本ブログの筆者が独自に行った。

福原あゆみ 氏

 (1)EU理事会は、2024年2月20日、従前の欧州の不公正商行為指令(Unfair Commercial Practices Directive: UCPD)と消費者権利指令(Consumer Rights Directive: CRD)を改正する形で、不公正な慣行に対するより良い保護と情報提供を通じてグリーン移行するための消費者の権限強化に関する指令(Directive on empowering consumers for the green transition through better protection against unfair practices and better information 以下「ECD」といいます。)を採択し、同指令は同年3月26日に発効した。今後、EU加盟国は採択から2年以内に国内法規制への置き換えを行い、30か月以内に適用することが求められる。

(2) 禁止される行為の概要

ECDに基づく禁止行為又は規制には以下のものが含まれる。

①一般的な環境主張の規制

②持続可能性ラベルの使用の規制

カーボンオフセットのみに基づく主張の禁止

④将来の環境性能に関する主張の来の環境性能に関する主張の規制

(2)グリーン・クレーム指令(The green claims directive)

 グリーン・クレーム指令(The green claims directive 以下「GCD」という。)は、環境主張の広告を出す前に、環境マーケティングのクレームに関する証拠の提出を企業に義務付けるものであり、ECDに基づくグリーン・ウォッシュの規制を補完するものになる。同指令は、消費者が購入する製品の環境認証に関する信頼できる情報をアクセス可能にすることを目的として2023年3月に提案され、審議がなされていたが、2024年3月12日に欧州議会により採択がなされている。今後、2024年6月に実施される欧州選挙後の新議会で更に同指令案の審議が行われることが見込まれ、内容については変更がありうるものの、現時点で同指令で定められる項目には以下のものが含まれる。

①明示的な環境主張に関するアセスメントの実施と立証に関する要件

②環境主張の伝達に関する要件

③環境ラベル制度の要件

(注17) REGULATION (EU) 2023/2854 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 13 December 2023 on harmonised rules on fair access to and use of data and amending Regulation (EU) 2017/2394 and Directive (EU) 2020/1828 (Data Act)

(注18) GDPRとeプライバシー指令は相互に補完しあう関係にある。GDPR第95条によれば、eプライバシー指令(及び同指令を実施する国内法)が企業に義務を課している範囲において、GDPRがさらなる義務を課すことはないとされている。これは、原則として、eプライバシー指令の規定が、電気通信サービス(特に電子メールとインターネット)についての枠組みを定める、いわゆる特別法であり、より一般的なGDPRの規定に優先することを意味する。GDPRは、eプライバシー指令によって具体的に規律されていない事項についてのみ直接的に適用されることとなる。(長島・大野・常松法律事務所「GDPREU加盟国法との相互関係に関する最新動向 -eプライバシーに関する規律やドイツの事例を題材として-」から一部抜粋)

 この 2002 年の e プライバシー指令は、デジタル時代のプライバシー、より具体的には通信の機密性と追跡と監視に関する規則に関する重要な法的手段である。

 2011 年 5 月に発効した電子プライバシー指令 2009/136/EC は、電子通信分野における個人データの処理とプライバシーの保護に関するものである。 これは通常「電子プライバシー指令」と呼ばれ、第一次指令 2002/58/EC の修正指令である。(Wikipedia から抜粋、仮訳)

  一般データ保護規則(GDPR)の発効により、EU 立法者はこの文書を更新する必要があり、欧州委員会は 2017 年 1 月 10 日に提案を発表した。この新しい文書は、機械の機密性などの問題を伴い、急速に進化する技術情勢に取り組む必要があり、 マシン間の通信 (モノのインターネット)、または公的にアクセス可能なネットワーク (公衆 Wi-Fi など) 上の個人の通信の機密性等に言及している(EDPSサイト仮訳)。

(注19)Bafin声明(独文)および第63条第6項を筆者なりに仮訳する。

「また、BaFin は、取引アプリや取引ポータルにある関連性のある重要なボタン (取引をキャンセルするためなど) が完全に欠落していてはいけないことも明確にしている。 投資サービス会社が重要かつ関連性のある意思決定の選択肢のボタンを提供しない場合は、WpHG 第 63 条第 6 項 (§ 63 Abs. 6 Satz  WpHG.)に基づく誠実さの要件にも違反する。」

*連邦証券取引法 (有価証券取引法: Gesetz über den Wertpapierhandel: WpHG)第 63 条:一般的な行動規則; 規制を発行する権限:第6項  投資サービス会社が顧客に提供するマーケティング・コミュニケーションを含むすべての情報は、正直、明確で、誤解を招くものであってはならない。 マーケティング コミュニケーションは、それを明確に識別できる必要がある。 (資本投資法第 302 条(Kapitalanlagegesetzbuch (KAGB)§ 302 Werbung  広告)、規制 (EU) 2017/1129(Artikel 22 der Verordnung (EU) 2017/1129)( 2017 年 6 月 14 日の欧州議会および欧州理事会の規則 (EU) 2017/1129 は、有価証券が一般に提供される場合、または規制された市場での取引が認められる場合に発行される目論見書に関するものであり、指令 2003/71/ECText を繰り返している(Verordnung (EU) 2017/1129 des Europäischen Parlaments und des Rates vom 14. Juni 2017 über den Prospekt, der beim öffentlichen Angebot von Wertpapieren oder bei deren Zulassung zum Handel an einem geregelten Markt zu veröffentlichen ist und zur Aufhebung der Richtlinie 2003/71/EGText von Bedeutung für den EWR.)、証券目論見書法(Wertpapierprospektgesetz - WpPG)の第 7 条(§ 7 証券情報シートの発行が必要なオファーの広告)は影響を受けない。

 BaFin は、第 63 条以降に従って、2018年1月に施行された第2次金融商品市場指令(MiFID II )の行動規則に関する 2 つの新しい FAQ を公開した。 投資サービス会社は、オンラインでのプレゼンスを適宜確認することが求められる。 BaFinが独自の監査手続きを通じて取引アプリのダーク・パターンをすでに特定している場合、直ちに関係企業に対処する予定である。

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