第二次米国政府の責任ある企業行動に関する国家行動計画(U.S Government’s National Action Plan)の概要

 3月25日、バイデン・ハリス政権は、(1)人権と労働者の権利の尊重を強化および改善し、(2)グリーンエネルギーの利用を拡大、(3)汚職に対抗、(4)環境を保護、(5) 人権擁護者を保護、(6)ジェンダー平等と平等を推進し、(7)権利を尊重したテクノロジーの使用を促進するというコミットメントを反映した、責任ある企業行動に関する「米国の第二次国家行動計画(NAP)(以下、NAPという)」を発表した。

 11月の大統領選挙を控えたバイデン政権の活動の一環ではあるが、その重要性から見て本ブログではその概要書を注補足の追加を踏まえ仮訳する。

 バイデン大統領は史上最も労働者寄りの大統領であり、ボトムアップとミドルアウトから持続可能な世界経済を構築することに尽力している。 同氏とハリス副大統領は共に、高い労働基準を推進し、意思決定の場に労働者の声を反映させ、ここ米国内だけでなく世界中で不当労働行為に対する規則を執行することに取り組んできた。

 今回の第二次行動計画(NAP)の発表は、複数の利害関係者の調整、会議、経済的インセンティブ、規制、その他の活動を通じて責任ある事業活動を強化するという政府全体の取り組みを反映している。 この NAP は、海外で事業を展開し投資する米国企業の責任ある企業行動 (responsible business conduct :RBC) (注1)に関するあらゆる問題に取り組んでいるが、特に、急速に変化するリスク環境における効果的なデューデリジェンスなどを通じて、人権を尊重するという企業責任への期待に焦点を当てている。

 NAP は、企業が国際基準に基づいてバリューチェーン全体にわたって人権デューデリジェンス (human rights due diligence :HRDD)(注2) を実施することに対する政府の期待を定めている。この報告書は、企業が利害関係者と協力して策定したセクター固有の基準の導入をさらに進める必要があることを強調している。この基準は、バリューチェーン全体にわたる人々に対するビジネスの影響に関する進捗状況を有意義に測定するための信頼できる指標を提供する。

 NAP は、米国政府が RBC を促進および奨励し、企業による効果的な HRDD 実践の実施を加速するために、利害関係者との協議に基づいて以下の 4 つの優先重点分野を定めている。

1.責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会の設置

国務省は、責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会(Federal Advisory Committee)(注3)を活用して、民間部門、影響を受ける地域社会、労働組合市民社会(人権擁護活動家を含む)、学界、およびRBCに関する政策の編成、その他の関連利害関係者との連携や取組みを強化する。

②諮問委員会は、RBC 問題に関する進展を継続し、NAP 実施の追跡を支援することができる。

2.連邦の調達政策およびプロセスにおける人権尊重の強化

① 保健社会福祉省、国土安全保障省、司法省が議長を務める米国政府ホットライン作業部会は、労働者と市民社会が連邦請負業者や下請け業者による人身売買違反を政府に通報できる方法を改善するための選択肢を特定する予定である。

国務省は、買収要員と連邦請負業者がプロジェクトの設計、要請、監視中にデューデリジェンスを実施できるよう支援するため、高リスクかつ大量の契約に対する人身売買リスクマッピングプロセスを試験的に実施する。

国土安全保障省税関・国境警備局( Customs and Border Protection:CBP)は、CBPが関税法に基づいて罰則を課す場合は常に、企業の連邦政府との取引の停止や禁止について、ケースバイケースで積極的な検討を指示するためのガイダンスを草案する予定である。サプライチェーンで強制労働を使用している企業に米国の税金が流れないよう関税法違反やその他の法律の繰り返しによりCBPが強制労働と闘うために施行する。

国防総省は、国際人権に沿って民間セキュリティプロバイダーの監視と認証を提供する複数の利害関係者によるイニシアチブである民間セキュリティプロバイダー協会国際行動規範協会(International Code of Conduct Association for Private Security Providers’ Association :ICoCA)への加盟を奨励または要求するかどうかを評価するための民間セキュリティベンダー向けの人道法基準にもとづく審査を実施する予定である。

3.救済策へのアクセスの強化

 ①国務省は、利害関係者の関与を強化することにより、RBC に関する OECD 多国籍企業ガイドラインのための米国国内窓口 (U.S. National Contact Point :NCP) を強化する。 NCP の改革には以下が含まれる。 1)NCP の新しい諮問機関の創設、2) NCP の機密保持ポリシーの変更を提案し、その手順規則を更新する。3) 刑務所に関するNCPの最初の政策の1つを策定する,4) NCP ウェブサイトのアクセシビリティを向上させる。 NCPを強化するためのオプションを評価する。

②連邦労働省は、労働者主導の社会コンプライアンスを促進し、グローバルバリューチェーンにおける労働者の権利を保護する国際労働機関が実施する200万ドル(約3億200万円)の技術支援プロジェクトに資金を提供することで、救済制度への革新的なアクセスを開発する

米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation :DFC))は、政策コミットメントを更新し、報復疑惑に対応するための内部ガイダンスを開発し、DFC 苦情処理カニズムでの匿名苦情を可能にすることにより、DFC 苦情処理カニズムを利用する団体および個人に対する報復からの保護を強化する。

 ④ 連邦財務省は、プロジェクトの影響を受けた地域社会に対して、国際金融公社や多国間投資保証機関を含む多国間開発銀行における効果的な救済システムを提唱する。

米国輸出入銀行(Export-Import Bank of the United States)は、救済手続きの強化について輸出信用庁と協力し、救済へのアクセスとプロジェクトベースの苦情処理カニズムの有効性を改善する方法について意見を求めるための一般向けの働きかけに取り組む。

4.企業へのリソースの提供

① 連邦労働省は、事業運営とバリューチェーンにおける労働者の権利の成果を推進するための政府全体の視点、アプローチ、および一連のリソースを伝達するオンライン・リポジトリ(オンライン収納庫)である責任ある企業行動と労働者の権利にかかる情報ハブを設立する。

②米国政府は、先住民コミュニティおよび影響を受けるコミュニティとの部族協議および関与に関するベストプラクティスに関する企業向けのガイダンスを発表する予定。

③ 連邦国務省は3月25日の週、1)検索エンジン、2)ソーシャル メディア プラットフォーム、3)その他のデジタル サービスなどのオンライン プラットフォームに対する、人権活動家の保護に関する米国政府のガイダンスを発表した。

国務省は、人権侵害を可能にする、または悪化させる可能性のあるテクノロジーへの投資を検討する際に、投資家が人権デューデリジェンス( HRDD)を実施することを奨励するためのガイダンスの開発を主導する。

⑤ 米国連邦政府は、特定の国および/または分野で事業を行う、またはそれに関わる取引に従事する企業、投資家、その他の利害関係者向けに追加のビジネス勧告を作成する予定である。

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 本NAPには、前述の4つの優先分野以外にも、特定の優先分野の取り組みを詳述する付則(appendix)が含まれており、技術、気候、公正な移行(just transitions)(注4)、労働者の権利、反汚職などの分野で、米国政府がRBCを推進するために講じる追加の措置を列挙している。

 本NAP の全文は state.gov 参照。なお、 関係者は、RBCNAP@state.gov まで電子メールでいつでもフィードバックや提案を提供可である。

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(注1) 「責任ある企業行動」の国際的なスタンダードに「OECD多国籍企業行動指針」がある。人権問題に対処するための手法として提唱された「デュー・ディリジェンス(DD)」の対象を企業行動全般に拡大させたガイドラインである。

 2023年、OECD多国籍企業行動指針の改訂が検討されている。公表されている改訂案では、DD対象の拡大・明確化が提案されている。環境・科学技術等の分野で、求められるDDの量と質が底上げされ、DD義務化の潮流を加速させる可能性がある。

 欧州では、既に環境DDを義務化した国がある。AIガバナンスの法整備も進んでいる。ハードローのプレッシャーに接している欧米企業に比べ、日本企業のDD義務化への備えは遅れている。

 DDは「責任ある企業行動」を達成するための手段に過ぎない。その義務化の潮流を、受動的な「規制対応」と捉えるのではなく、能動的に「企業文化の改革を求める社会からの要請の高まり」と捉えることが重要だ。

(第一生命経済研究所「企業行動デュー・ディリジェンス拡大への対応~責任ある企業行動のための国際ガイドライン改訂案から読み解く~」から抜粋)

(注2)国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)が作成した「人権デュー・ディリジェンス:解釈の手引き」およびビジネスと人権リソースセンター「ビジネスと人権リソースセンター「人権デューデリジェンスと影響評価」参照。

(注3)    連邦諮問委員会は、1972年成立の連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act - PL92-463)に基づき個別法、大統領、議会、機関が設置するものである。総合サービス庁(General Services Administration-GSA)は、他の連邦政府機関の行政サービス改善を目的とした連邦政府機関であるが、その業務の一つに連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act-FACA)の管理運営責任がある。

 2019 年 6 月 14 日に、連邦諮問委員会の効用を評価及び改善する大統領令 13875 号(Evaluatingand Improving the Utility of Federal Advisory Committees)が発令された。連邦政府の各省庁に設置され、政策上の助言等を行う諮問委員会は、連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act,P.L.92-463: FACA)に基づき設置され活動しているが、その設置の必要性を評価し、不要な諮問委員会の廃止を求めるものである。(外国の立法 No.281-2(2019.11) 国立国会図書館 調査及び立法考査局「連邦諮問委員会の効用を評価・改善する大統領令」他から抜粋)

また、遠藤悟「政府諮問委員会の役割」が詳細に解説している。       

(注4) 「公正な移行(Just Transition)」とは、環境問題の解決や対策を実施するうえで、関係する産業分野に従事する労働者や、産業が立地する地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法により持続可能な社会へ移行することを目指す概念のことです。2015年に開催された気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」の前文では、「自国が定める開発の優先順位に基づく労働力の公正な移行並びに適切な労働(ディーセント・ ワーク)および質の高い雇用の創出が必要不可欠であることを考慮」すると言及されています。(朝日新聞デジタル版から抜粋)

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フランスの競争委員会の超巨大IT企業Googleへの著作隣接権を中心とする法的チャレンジの経緯


 筆者はフランス競争委員会(以下、「委員会」という)のGoogleの市場支配的活動やフランスのAFP等報道機関等から出されていた著作隣接権(droits voisins))に基づく厳しい制裁措置につき本ブログで紹介した。

 そこで引用されている202049日の委員会決定2021 7 12 日の委員会決定が大きなキーになっていることは言うまでもない。

 しかし、後述する競争委員会(注1)のリリース文は、必ずしもフランス以外かつ法律専門外の人には説明内容が十分でない。本ブログでは単なる生成AI翻訳に頼るのではなく、筆者なりに補足説明を加えた。(フランスの著作隣接権については(注2)参照)。

1.2020年4月9日著作隣接権(droits voisins):フランス競争委員会は、フランス報道関係者およびフランス大手メディアAFPから提出された同権利保護のための予防措置の要求を許可した

 委員会のリリース仮訳する。

 委員会は、保護されたコンテンツの回復に関する「著作隣接権に関する法律」に基づき出版社や通信社に費用負担につき交渉するようGoogleに要請した。(長塚真琴「フランスの 2019 年 7 月 24 日プレス隣接権法と対 Google 競争法事件」が詳しく論じているが、執筆時点でやむなしといえるが差止命令(injunction; injonction )の意義も含め全く言及されていない。本ブロブでは(注5)であえて補足した)。

1.基本的重要事項

 2019年11月、報道や出版社を代表する多くの組織・機関の同盟である“l’Alliance de la presse d’general information”(APIG)(注3)、および2019年7月24日の法律(LOI n° 2019-775 du 24 juillet 2019)( 報道機関および報道機関の利益のために関連する権利の創設に関する法律)の発効の際にGoogleが実施した慣行のフランスの大手メデイアである「Agence France-Presse(AFP)」(注4)による 著作隣接権の権利保護請求につき競争委員会は、法が定める予防措置の手続きの枠組みの中で4月9日に緊急措置を命じた。

 委員会は、著作隣接権に関する法律が施行された際のGoogleの実務慣行は、1)支配的地位の濫用、2)報道部門への深刻かつ即時の攻撃となる可能性が高いと考えた。

 委員会はGoogleに対し3か月以内に保護されたコンテンツの回復にかかる費用について、出版社や報道機関と誠実に交渉を行うことを命じた。また、この交渉は遡及的に2019年10月24日に法律が施行された時点での権利をカバーする必要がある旨併せ命じた。

2.出版社や報道機関たるAFPが問題視、挑戦するGoogleの実務内容

 2019年7月24日の法律(LOI n° 2019-775 du 24 juillet 2019)は、2019年4月17日の「EUの著作権および関連する権利に関する指令(Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on copyright and related rights in the Digital Single Market and amending Directives 96/9/EC and 2001/29/EC (Text with EEA relevance.)」をフランスの国内法に置き換えたものである。すなわち、出版社と報道機関に有利に再定義するために、出版社、報道機関、デジタル・プラットフォーム間のバランスの取れた交渉の条件を設定することを目的とし, これらのアクター間で価値を共有することを目指している。

3.委員会は、Googleが出版社や報道機関に不当な取引条件を課すことにより、一般的な検索サービスの市場における支配的地位を乱用した可能性が高いと考えた

 委員会は命令のこの段階で、委員会はGoogleが一般検索エンジンサービスのフランス市場で支配的な地位を占める可能性が高いと考えた。実際、2019年末のGoogleの市場シェアは90%程度である。さらに、この市場には参入と拡大に対する強い障壁があり、検索エンジン技術の開発に必要な重要な投資に関連している, また、ネットワークの影響と経験により、開発を希望する競合するエンジンによってGoogleの立場に異議を唱えることがさらに困難になる可能性がある。

 すなわち、以下のとおり、いくつかの方法で支配的地位として認められる可能性が高いと考えた。

(1)不当な取引条件を課すこと

 調査の現段階で、Google著作隣接権に基づく保護されたコンテンツの再開と表示に関するあらゆる形式の交渉や報酬を回避できる不当な取引条件を出版社や報道機関に課した可能性がある。

(2) 法適用を回避

 Google は、法律で定められている可能性を利用して、保護されたコンテンツの表示に対しては原則としていかなる報酬も支払わないと決定し、場合によっては特定のコンテンツに対して無料ライセンスを付与した。 委員会は、調査の状況からすると、この選択は、報道機関と出版者に有利な価値の共有を再定義することを目的とした法律の目的と範囲と調和するのが難しいように思われると指摘している。プラットフォームは、正確な基準に従って、報酬を生じさせる著作隣接権の帰属によって決定される。 さらに、Googleは報酬を決定するために必要な情報を出版社に伝えることを拒否し、出版社からの同意を求めずに記事のタイトルをすべて完全に含めることができると考えた。

(3)差別的慣行

 著作隣接権に関する法律で定められた正確な基準に照らして、Google はそれぞれの状況とそれに対応する保護コンテンツの調査を行わずに、すべての出版社に報酬ゼロの原則を課すことにより、経済主体を同等に扱った可能性がある。すなわち、客観的な正当性を超えてさまざまな状況に置かれ、したがって差別的慣行を実施したとみなされる。

 これらのさまざまな慣行は、Google 側の優越的地位の濫用となる可能性がある。

4. Googleの実務慣行は報道部門に深刻かつ即時の攻撃を引き起こしているが、出版社や報道機関の経済状況も脆弱である。 法律はその代わりにジャーナリストによって作成されたコンテンツから派生する報酬の条件を改善することを目的としている

 これらの実務慣行は、一般検索サービスエンジン市場でGoogleが占める可能性が高い支配的な地位によって可能になる。この立場により、Googleは出版社や報道機関のサイトにかなりのトラフィックをもたらすようになった。したがって、32のプレスタイトルで押収者によって提供され、Googleによって論争されていないデータによると、検索エンジン-したがって、大部分はGoogle-は, サイトによると、トラフィックの26%から90%がページにリダイレクトされている。このトラフィックは、経済的困難のためにデジタル読者の一部を失うわけにはいかない出版社や報道機関にとっても非常に重要かつ重要であることが証明されている。

 これらの状況下では、出版社や報道機関は、金銭的補償なしにGoogleの表示ポリシーに準拠せざるを得ない状況に置かれている。実際、ディスプレイの劣化の脅威は、各報道機関のトラフィック損失、したがって収益を失うことと同義語である。

 これが、近隣の権利に関する法律が施行された後、ほとんどの出版社が彼らにとってさらに不利な条件を受け入れるようになった理由である。

 これらの要素をすべて考慮に入れて、委員会はGoogleの行動に起因するプレス部門への深刻かつ即時の損害の存在に注目し, セクターの主要な危機の文脈において、出版社や報道機関は、立法者が彼らの活動の持続可能性に不可欠であると考えているリソースを奪うと見た。結果、委員会は、法の発効の重要な時期に。その結果、当局は緊急の問題としていくつかの差止命令(injunction; injonction )(注5)を発出した。

5.委員会が宣言した緊急対策

 委員会が宣言した暫定措置の目的は、そうしたい出版社や報道機関を許可することであり、 Googleと誠実な交渉を行い、再開の方法とその内容の表示、およびそれに関連する可能性のある報酬の両方について話し合うことである。

 この交渉期間中、Googleは、関連する出版社または通信社が選択した方法に従って、テキストの抜粋、写真、ビデオの表示を維持する必要があった。さらに、バランスの取れた交渉を確実にするために、予防措置は、それらが索引付けされる方法で中立の原則を提供し、 Googleのサービスに関係する出版社や機関の保護されたコンテンツが分類され、より一般的に提示されることとした。

 最後に、これらの予防措置は、オーソライトがメリットに関する決定を採択するまで有効です。この期間中、これらの予防措置の効果的な実施を確実にするために, Googleは、決定の実施方法に関するオーソライトの月次レポートを送信する必要があつた。

緊急措置に関連してGoogleに対して行われた差止命令とは

 Googleは、それを要求する出版社や報道機関と誠実に交渉し、保護されたコンテンツの再開に対する後者による報酬に関し、透明で客観的で差別のない基準に従って交渉する必要があった。

 また、この交渉は近隣の権利に関する法律の発効から始まる期間、つまり2019年10月24日を遡及的にカバーする必要があった。

この差止命令は、交渉が実際にGoogleからの以下の保証提案をもたらすことを要求した。

 ① Googleは、報道編集者または報道機関からの交渉の開始の要求から3か月以内に交渉を実施する必要がある。

Googleがそのサービスに引き継いだ保護されたコンテンツの索引付けも分類も表示も、特に交渉の影響を受けることはない。

Googleは、当局の決定にどのように準拠しているかに関する月次レポートを当局に提供する必要がある。

Ⅱ.著作隣接権に対する報酬:フランス競争委員会は、いくつかの差止命令に違反したとして Google 5 億ユーロの制裁金を科す

 2021 年 7 月 13 日の委員会リリース仮訳する。

 出版社や報道機関の著作隣接権に対する罰金命令:当局は、2020年4月に同社に対して発行されたいくつかの差止命令の不遵守を理由に、Googleに5億ユーロ(約825億円)の罰金を科した。

 また、Googleに対し、当初の決定で出された差止命令N0.1と同No.2に従うよう命じ、併せて同時に日割りの罰金を科した。

1.基本的な重要事項

 2021年7月13日発布した決定の中で、委員会は、雑誌出版社協会(le Syndicat des. Editeurs de la Presse Magazine: SEPMS)、APIG、その他およびAFP社が提出した予防措置の要請に応じ、2020年4月の予防措置に関する決定の一環として発行されたいくつかの委員会の差止命令を無視したとして、Googleに対して5億ユーロ(約825億円)の制裁を課した(2020年4月9日の決定番号20-MC-01と関連する)

 また、委員会はGoogleに対し、当局に連絡した出版社や報道機関に対し、保護されたコンテンツの現在の使用に対する報酬の申し出を提示し、その申し出を評価するために必要な情報を伝達するよう命じた。また、 Google が 2 か月以内にこれらを行わなかった場合、1 日あたり最大 90 万ユーロ(約1億4,800万円)の遅延罰金を発生させることとした。

 委員会の委員長のイザベル・デ・シルバ(Isabelle de Silva)氏は、今日の決定について次のように述べた。

「委員会が企業に差止命令を課す場合、企業はその文言と精神を尊重して、その命令を慎重に適用することが求められる。 今回の場合、Googleは残念ながらそうではなかった。」

Isabelle de Silva氏

1.いくつかの報道機関や報道機関は、Google20204月に委員会が出した暫定措置を遵守していないとして、この訴訟を委員会に付託

 雑誌出版連合(SEPMS)、一般情報報道同盟(APIG)、およびフランス通信社(AFP)は、それぞれ2020年8月末と9月初めに、 2020 年 4 月 9 日の決定 20-MC-01 で競争当局が Google に対して発行した差止命令の遵守(2020 年 4 月 9 日のプレスリリースを参照)を求めた。

 念のため、暫定措置決定 20-MC-01 の中で、委員会は、報道機関および出版社の利益のために関連権利を創設することを目的とした 2019 年 7 月 24 日の法律第 2019-775 号(LOI n° 2019-775 du 24 juillet 2019)( 報道機関および報道機関の利益のために関連する権利の創設に関する法律)の採択を受けて、EUの著作権および関連する権利に関する指令(Directive (EU) 2019/790 of the European Parliament and of the Council of 17 April 2019 on copyright and related rights in the Digital Single Market and amending Directives 96/9/EC and 2001/29/EC (Text with EEA relevance.)」を置き換えることに留意した。

 Googleは、編集者が無償で許可を与えない限り、同社のさまざまなサービス内で記事、写真、ビデオからの抜粋を表示しないと一方的に決定した。当局は、この行為は優越的地位の濫用に当たる可能性があり、報道部門に深刻かつ即時的な損害を引き起こすと考えた。 同社は、本案に関する判決が出るまでの間、Googleに対して7件の差止命令を出していた。 本案に関する判決が出るまでの間、委員会はGoogleに対して7件の差止命令を出していた。この2019年4月17日の決定は、2020 年 10 月 8 日のパリ控訴院判決によって確認され、最終的となった(Google最高裁判所たる破棄院(Cour de cassation)に上告しなかった)。

 特に、Google は次の差止命令(Injunction: injonction)を命じられた。

① 出版社または報道機関の要請から 3 か月の期間、希望する報道機関および報道機関(差止命令No.1)と誠意を持って交渉を開始する (差止命令 No. 4)

②知的財産法典(知的所有権法典(Code de la Propriété Intellectuelle, 以下 「CPI」という)の第 L. 218-4 条に規定されている報酬の透明性のある評価に必要な情報を伝達する(差止命令 No. 2)。

Google がこれらのサービス上で取り上げる保護されたコンテンツのインデックス作成、分類、表示に影響を与えないよう、交渉中に厳格な中立性の原則を遵守することを保証する(差止命令 No.5)。 この決定は、この点に関して次のように述べている「これは、現在の交渉に起因して、またはそれに関連して、出版社が Google でのコンテンツの表示、インデックス付け、分類の通常の条件で不利な結果を被ることを防ぐためである。 パリ控訴院は、2020 年 10 月 8 日の判決の中で、差止命令 No.5 の範囲を明確にし、次のように示した。「この差止命令は、Google LLC、Google Ireland Ltd、および Google France の企業が提供するサービスの改善と革新を妨げるものではない。ただし、直接的または間接的に、本決定の第 1 条および第 2 条に規定されている交渉に関係する関連権利保有者の利益に有害な結果をもたらさないことを条件とする。

④  Google と出版社および報道機関との間に存在する可能性のあるその他の経済関係に関する交渉において、厳格な中立原則の遵守を確保すること(差止命令 No.6)。 この決定は、この点に関して次のように明記されている。「これは、Google が他の活動に関する関連権利に対して出版社に支払った報酬を相殺することで関連権利に関する交渉を無効にすることを防ぐためである。 また、Google が一般検索サービス市場における支配的な地位を利用して、出版社や報道機関との交渉中に、一部のサービスの使用を強制するのを防ぐという問題でもある」

⑤ 決定の実施方法に関する定期的な報告書を当局に送付する(差止命令 No.7)。

2.Google が遵守しなかった委員会の差止命令

 決定を下すために、当局は徹底的な矛盾した調査に依存し、その結果、交渉の進行状況に関して当事者が作成した多数の文書(電子メール、会議の議事録など)を考慮することになった。 予防措置の順守に関して当局の前で行われた手続き中に生じた所見、第三者の出版社や報道機関から収集した宣言と文書、そして最終的には2021年5月5日の会期中に大学の前で行われた議論が当局を導いた。 Google は、いくつかの理由で、この決定のいくつかの差止命令、特に、誠実に交渉する義務に関する最も重要な差止命令 No.1 を無視したとみなされた。

差止命令 No.1: CPI の第 L. 218-4 条で定められた条件に従い、客観的、透明性のある非差別的な基準に従って誠意を持って交渉する義務

3.Googleは取引を新しいショーケース サービスに移行する

 Googleは、出版社およびAFPとの協議は、主に出版社による新サービスの提供に特化したShowcaseと呼ばれるグローバルパートナーシップに関するものであり、保護されたコンテンツの現在の使用に基づく関連権利は付随的な要素のみを構成し、明確な金銭的評価を欠いていると一方的に押し付けた。

 したがって委員会は、申立人らは一貫して、著作隣接権で保護されているコンテンツの現在の使用に対して支払われるべき報酬に関連した交渉を具体的かつ透明性を持って行うよう要求してきたが、Googleは主に出版社と報道機関の癒着に焦点を当てた世界的な議論を組織的に課していると指摘した。 Publisher Curated News (PCN) と呼ばれる新しいグローバル パートナーシップ、特に Showcaseと呼ばれる新しいサービスに関係している。

 Google はまた、保護されたコンテンツの表示から得られる収益の範囲に関する交渉の範囲を不当に縮小した。Google によると、コンテンツを表示する Google 検索ページからの広告収益のみが、報酬額の修正に考慮されるべきであるとした。 委員会は、他の Google サービスからの収益およびこのコンテンツに関連するすべての間接収益の除外につながるこの立場は、法律および決定に反すると考えた。 この決定では、Google にとって報道コンテンツの重要性が指摘されており、報道コンテンツはインターネット ユーザーの訪問を促し、相談時間を延長する役割を果たし、Google の立場を強化し、Google保有する可能性のあるデータの重要性を指摘しているため、このことはなおさらである。

4.Political and General Information(PGI) Information Politique et Générale (IPG)一般情報(「IPG」)認定を持たない報道機関との交渉を拒否

 Googleは、政治情報および一般情報の認定を取得していない報道機関からの報道コンテンツに対する報酬の原則を除外することにより、関連する権利に関する法律の適用範囲を自主的に制限し、これを行うのは法条文の不誠実な解釈に依存している。これは、知的財産権法典の L. 218-4に準拠しているが、曖昧さはない。この交渉上の立場は、パリ控訴院によって確認された競争当局の決定に反する。 Google 自身の評価によると、Google が「非 IPG」コンテンツから得る直接収益の方が「IPG」コンテンツから得られる直接収益よりも大きいため、この違反はさらに深刻である。

5.Google、報道機関との著作隣接権補償交渉を拒否

 さらに、GoogleはAFPとフランス通信社に対し、報道機関として、自社のコンテンツが第三者出版社によって出版物に引き継がれても報酬を得ることはできないと何度も通告した。

 委員会は、この交渉姿勢は、報道機関が関連する権利を主張できるとみなすという、法律の条項に基づいた2020年4月9日の決定に反していると解した。 委員会は、2020年4月の決定と同様、この決定でも、議会が質の高い報道コンテンツの制作に対する投資に報いるために、ジャーナリズム・コンテンツの制作者に財産権を付与する意図を明確に表明していたことに留意した。報道コンテンツの制作者と一般向けのオンライン通信サービスの間で価値をより良く共有できるようになる。 フランスの議員は、報道部門のダイナミズムに積極的に貢献する報道機関をこのメカニズムに含める必要性について非常に明確に述べている。

〇差止命令N0.2 :「支払われるべき報酬の透明性のある評価のために」必要な情報を報道機関および委員会に伝達する義務

 関連権利法では、プラットフォーム(一般向けのオンライン通信サービス)に対し、「ユーザーによる報道出版物の使用に関するすべての情報と、報酬の透明性のある評価に必要なすべての情報を報道機関および委員会に提供する」ことが求められていた [関連権利の期限] とその割り当て」(CPI の第 L. 218-4 条)。

 差止命令No.2では、Google に対し、この条項で必要とされる情報を報道機関に開示することが求められていた。

 調査中に収集された要素は、この情報に以下の問題があった。

部分的である:これは、Google 検索サービスによって生成される直接的な広告収益のみに限定されており、このコンテンツの使用に関連するすべての収益、特に間接的な収益は含まれない。

遅れた:Discover および Google News サービスに関連する情報が差止命令によって設定された期限が終了する数日前に提供されたため、課せられた期限を考えると遅れた。

不十分:初心者レベルの企業が、Google による保護されたコンテンツの使用、そこから得られる収益、および全体的な財務提案を結び付けることを許可するには不十分であった。

 この点に関して、フランス発時事系週刊誌の代表L’Express は特に「Google は、その提案を裏付ける公式やデータを当社に提供していない。 一方、Google は、フランスレベルの Publisher Curated News の一環として、パブリッシャー向けのグローバルな封筒を用意している」と主張した。

〇差止命令 No. 5: 関連する権利に関する交渉中、Google サービス上で出版社および報道機関からの保護されたコンテンツのインデックス付け、分類、提示の条件に対する中立義務

 Googleは、関連権利によって保護されているコンテンツの現在の使用に対する報酬に関する交渉を、Googleからのコンテンツの表示とインデックス作成に影響を与える可能性のある他のパートナーシップの締結に結び付けることで、暫定措置決定によって課せられた報道出版社および委員会との交渉中立性の義務に違反した。

 委員会は、Googleが自社サービスにおけるパブリッシャーの認知度を向上させるための新たなプログラムを立ち上げることを妨げるものは何もないが、事件の状況においては、この新たなプログラムへの条件付きアクセスが報酬総額に含まれていないという事実を指摘した。保護されたコンテンツの現在の使用に基づく関連権利の具体的な評価と、契約が拒否された場合にそのサービスにおけるパブリッシャーの可視性が低下する危険性があり、差止命令第 5 号の侵害と特徴付けた。

 したがって、Google が実施した戦略は、パブリッシャーに対し、Showcase サービスの契約条件を受け入れ、特に差し止め命令の対象となった保護されたコンテンツの現在の使用に関連する交渉を放棄することを強く奨励した。提案された条件を受け入れたであろう競合他社と比較して報酬が低下した。 したがって、Google は、その交渉がサービス内での保護されたコンテンツの表示に影響を与えることを防ぐために必要な措置を講じたと主張することはできない。

〇差止命令 No. 6: Google が報道出版社および委員会と結ぶその他の経済関係に関する関連権利に関する交渉の中立義務

 この差止命令は、Googleが「他の活動の関連権に対して出版社に支払われる報酬を相殺することで、その効果の関連権に関する交渉を無効にする」ことを防ぐことを目的としていた。 また、「Googleが一般検索サービス市場における支配的な地位を利用して、報道機関や代理店との交渉中に一部のサービスの使用を強制することを防ぐため」でもあった。

 Googleは交渉期間のほとんどにおいて、著作権で保護されたコンテンツの現在の使用に対する補償金の可能性に関する議論を、新しいShowcaseプログラムに関する議論に関連付けた。 しかし、Google の主張に反して、Showcase は保護されたコンテンツの新しい表示形式に限定されるものではなく、暫定措置が採用された時点では存在しなかった新しいサービスであり、報道編集者に課せられる新たな義務にも基づいていた。 実際、Googleは、ショーケースに掲載する記事を選択するための特定の編集作業を提供するだけでなく、大規模な抜粋を含むコンテンツ、あるいは報道機関が作成したすべての報道記事をインターネット ユーザーに提供することにも同意する必要がある。

 さらに、Google は、Showcase プログラムへの参加を Subscribe with Google (SwG) サービスサブスクリプションにリンクすることもできた。 したがって、Google は、関連権利の交渉と新しいサービスの加入とを結び付けており、これらによって Google は新しい利点やサービスの恩恵を受けることにもなり、特に SwG サービスでは、Google の利益のために、次のような購読契約に対してパブリッシャーが受け取るすべての財務フロー徴収金が発生する。

6.Googleの非常に深刻な実践内容

 差止命令に従わないこと自体、非常に重大な違反行為である。

 Google の各行動は、差止命令 No. 1 の不遵守という意図的で精緻かつ組織的な戦略の結果であり、著作隣接権の原則そのものに反対するために数年間にわたって実施された Google の反対戦略の継続であるように見える。関連する権利に関する指令の議論を行った上で、その具体的な範囲を可能な限り最小限に抑えるべきである。

 したがって、決定の枠組み内で行われた交渉に関して Google が実施した交渉戦略は、より世界的な戦略の一部であり、より世界的なレベルで実施され、報酬の支払いを可能な限り回避または制限することを目的としていたと考えられる。出版者に対して、プレス コンテンツの複製に関する出版者および委員会への特定の権利の割り当てに関する基本的な議論を解決するために①showcaseサービスを使用すること、そして最後に、②関連権利に関する交渉を利用して、新しいコンテンツの制作を取得することを命じた。これにより、Google は報道タイトルの購読から追加収入を得ることができる。

 Google の提案を透明にするための情報伝達の欠如は、特に Google のページとサービスの協議に関する数値に関して、Google と報道出版社および委員会との間で情報の非対称性が顕著であるため、誠実に交渉を行う上での大きな障害となっている。

 法律で保護されているコンテンツがどのコンテンツに掲載されるか、および保護されたコンテンツの現在の使用から Google が得ている収入について。 同様に、報道機関の保護されたコンテンツをインデックス化し、そのサービスに表示する方法について、交渉の中立性を確保するために Google が講じた措置が講じられていないことにより、報道機関が制約された状況に置かれる可能性が高く、それが次の目標、差止命令で言及されている誠意を持って交渉を実施するという目的の達成を妨げる。

 さらに、保護されたコンテンツの現在の使用に対する関連権利の報酬と、新しいサービスへの参加および/または Google サービスの使用との間にリンクを確立することは、差止命令の目的を Google に有利に転用することになり、ゼネラリスト検索サービス市場における地位によりGoogle の利益がさらに増大する可能性がある。

 APIG が他の個々の出版社と同様に、差止命令によって設定された期限を過ぎて契約に署名したという事実だけでは、差止命令の不遵守の認定を排除することはできない。

 実際、それは暫定措置に関する決定の条件と主題に照らして評価されなければならない。 交渉が適用される差止命令に従って誠実に行われていなかったと当局が判断した場合、特に署名した出版社が劣勢で非対称な状況に陥っていることが判明したため、協定が署名されたという事実自体がそのようなこの交渉の遵守を証明することはできない。 さらに、この決定自体は署名された契約を無効にするものではない。

7.罰金と定期的な罰金支払いに関する差止命令に従う義務

 事件の状況を考慮して、当局は Google に対して 5 億ユーロの罰金を課し、さらに次のように命令した。

 差止命令 No. 1 の執行のために、Google のサービスにおける保護されたコンテンツの現在の使用に関する法律および委員会決定の要件を満たす報酬オファーを、請求を行った参入当事者に提案する。

 差止命令第 2 号の執行について、フランス知的財産法典第 L. 218-4 条に規定されている情報を用いてこの提案を補足するものである。 この情報には、そのサービス上で保護されたコンテンツを表示することによってフランスで生み出される総収入の推定値が含まれなければならない。これは、要求された報酬提供元の報道機関または委員会が生み出す収入の割合を示している。 この推定には、この委員会決定で詳述されているいくつかの収入項目が詳しく記載されているはずである。

 最後に、前段落で言及した差止命令の効果的な執行を確実にするために、委員会は、差止命令に対する正式な要請の日から起算して 2 か月の期間の終わりに、遅延罰金として 1 日あたり 30 万ユーロ(約4,950万円)の罰金を課すとともに、必要に応じて、各申立人による交渉を再開する。

 したがって、この罰金は、この決定の通知後に各申立人によって再開される交渉プロセスごとに個別に評価される。 またGoogle は、差止命令No.7の適用において送信される月次監視報告書の文脈において、この決定への遵守を正当化する必要がある。したがって、2 か月の期限に違反した場合、Google は遅延の場合は 1 日あたり最大 90万ユーロ(約1億4,800万円)の最高額の罰金にさらされることになる。

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(注1)  競争委員会「反競争的行為」及び「経済集中」の規制に係る行政上のエンフォースメント)は、基本的に、フランスの競争当局である競争委員会が行う。競争委員会は独立行政機関(autorité administrative indépendante)である(L. 461-1 条 1項)。独立行政機関は、国の中央官庁であるが、省とは異なり、内閣(gouvernement)の指揮監督(rapport hièrarchique ou de tutelle)に服さない)。「独立行政機関及び独立公共機関の一般規程を定める2017年1月20日法律第55号」)は、独立行政機関の構成員は在任中に罷免されないこと(6条1項)、職権行使の際はいかなる機関の指示(instruction)も受けないこと及び係る指示を求めないこと(9条2項)と規定する一方で、独立行政機関に対し、内閣及び国会へ年次報告書を提出する義務を課している(21条)。競争委員会の構成員(以下、「委員」という)は、命令(デクレ)によって任命される(L. 461-1条2項)。委員の員数は、委員長(président)を含めた17名であり105)、競争委員会の権限はこれらの委員からなる合議(collège)によって行使される(同項)。議事の開催形式は3つに分かれており(L. 461-3条1項)、当該区分に応じて議決定足数が定められている(競争委員会の内部規則106)45条)。すなわち、全員出席の形式で議事が行われる場合の議決定足数は8名、委員長及び4名の副委員長から構成される常設委員会(commission permanente)の形式で議事が行われる場合の議決定足数は3名、その数・構成を委員長が定める課(section)の形式(R. 461-6条)で議事が行われる場合の議決定足数は3名である。議決は多数決によるが(L. 461-3条2項)、可否同数の場合は委員長が裁決権を有する(同3項)。

競争委員会は、審査を経て)、合議により、行政罰としての金銭制裁のほか、差止命令(injonction)を行いうる(L. 464-2条1項前段)。(杉崎 弘「フランス競争法の基本構造」(一橋法学 第 21 巻 第 1 号 2022 年 3 月)から一部抜粋)

(注2) 長塚真琴「フランスの 2019 年 7 月 24 日プレス隣接権法と対 Google 競争法事件」(一橋法学第 20 巻 第 1 号2021 年 3 月)参照。なお。本解説は2021年3月までであり、その後の委員会の動きを踏まえた新たな解説を期待したい。

(注3) “️Alliance de la Presse d'Information Générale (APIG)“ は、フランスの全国紙、地方紙、部門別日刊紙、地域週刊紙といった日刊紙および類似の新聞社の歴史ある 4 つの組合が連合して誕生したもの。2018年に設立されたこの同盟は、国、地域、地方レベルでの民主主義の議論や表現の多元化において主要な役割を果たしており、300近くの政治および一般ニュースの報道機関をまとめ、代表している。

(注4)フランス通信社(Agence France-Presse、AFP)“は、フランス、パリに拠点を置く国際通信社。世界最古の報道機関。AP通信、ロイターにならぶ世界三大通信社の一つ。 日本においては、戦後、時事通信社が特約販売代理店として稼働。クリエイティヴ・リンクが、2007年よりAFP日本語版サイト、AFPBB Newsを運営している。(Wikipedia から抜粋)

(注5) フランスの差止命令(Injonction)の意義

一般的な意味で解釈される「差止め」という言葉は、裁判の当事者に宛てて、何かをするか控えるように裁判官から命令することを指す。 したがって(民事訴訟法(Code de procédure civile:CPC)第 11 条第 2 項第 133 条第 135 条第 138 条以下)、裁判官は、一方当事者の請求に応じて、他方当事者または第三者に対し、その者が保有する文書を提出するよう命令することができる。また、裁判官はその差止命令の権限を利用して審問を取り締まる「審問警察権(Police de l'audience)を行使できる。これは審問を主宰する責任を負う判事に与えられた権限を指す用語であり、裁判を尊重するために必要なあらゆる措置を講じることができるという意味(CPC 第24 条および 第438条)。(民法辞典(DICTIONNAIRE DU DROIT PRIVÉ)から抜粋、仮訳)

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欧州委員会のApple に音楽アプリ市場における支配的地位を濫用につき18 億ユーロ、フランス競争委員会がEUのメディア規制とAI利用をめぐる規制違反につきGoogleに2億5000万ユーロの罰金

 これらについては、わが国メディでも紹介されているが、いずれの内容も巨大IT企業の独占的企業活動の法的規制策の効果的行動を論じるには不十分であるといえる。例えば、フランス独立行政機関である競争委員会(Autorité de la concurrence:わが国の公正取引委員会と解説しているのみで巨大 ITの活動実態や手法に応じた専門性を持ったメデイアやユーザーに対し意図的に透明性や自由にOSの選択肢を得られないようにしている点ならびにこれまでの交渉経緯等についての言及は皆無である。

 そこで、本ブログは処罰根拠法や具体的な不遵守課題の内容 より具体的には1)EUにおける「顧客誘導禁止条項の意義」と役割、2)EUのデジタル分野の市場をより公平で競争力のあるものにするための EU の法律である「EUデジタル市場法(DMA)」の内容に関し、「ゲートキーパー」の義務と禁止事項に関する一連の客観的な基準を確立している点など、さらに3)フランス競争委員会(Autorité de la concurrence)が、Google が委員会の度重なる約束に違反するとともに、4)人工知能サービスツール(Gemini)を無断で構築する行為を行うなどの報道機関や出版社、または競争委員会にこれらの用途変更を通知しない等具体的な違法根拠をもとに責任追及を行ったかを解明・解説する。

 

 なお、3月21日、米国連邦司法省は他の16人の州および地方の司法長官とともに、米国の独占禁止法(注1)の1つであるシャーマン法第2条に違反してスマートフォン市場の独占または独占未遂を理由にAppleを相手に民事独占禁止法訴訟を提起した。(起訴状原本はここ)本件とも関連する点があるが、本ブログで別途まとめたい。

 

Ⅰ.欧州委員会Apple storeの契約条件や音楽ストリーミング・アプリを配布する際に市場における支配的地位を濫用したとしてEU競争法違反に関する約束とその違反経緯

 1.20216公正取引委員会の解説「欧州委員会は,Appleに対し,音楽ストリーミングサービス提供事業者に対するApp Storeの契約条件について,異議告知書を送付」から引用する。重要な内容なのであえて引用した。

 以下の原文は、公正取引委員会2021年4月30日欧州委員会の公表資料から引用および仮訳で構成(なお、この仮訳部は欧州委員会の原文の構成を一部変更しているため、筆者の判断で追加した)。

【概要】

 2020年4月30日,欧州委員会は,Appleに対し,音楽ストリーミングサービス提供事業者に対するApp Store(訳注:Appleのアプリストア)のルールに関して,異議告知書を送付した。本異議告知書は,欧州経済領域内におけるAppleの音楽ストリーミングアプリであるApple Musicと競合するあらゆる音楽ストリーミングアプリに対するAppleのルールに関するものであり,2019年3月の「Spotify」からの申告に対応するものである。

 欧州委員会のVestager上級副委員長(競争政策担当)は,次のとおり述べた。

 「アプリストアは,今日のデジタル経済において中心的役割を果たしている。我々の予備的見解では,Appleは,App Storeを通じてiPhoneユーザー及びiPadユーザーに対するアプリのゲートキーパーとなっている。Appleは,Apple Musicにより音楽ストリーミングサービス提供事業者と競合しているところ,App Storeにおいて,競合他社に不利に働く厳格なルールを課し,ユーザーからより低価格な音楽ストリーミングサービスの選択肢を奪うことによって,競争を阻害した。」

 欧州委員会の予備的見解によると,Appleは,App Storeを通じた音楽ストリーミングアプリの配信市場において,支配的地位を有している。音楽ストリーミングアプリ開発事業者(以下「アプリ開発事業者」という。)にとって,App Storeは,Appleのスマート携帯OSであるiOS上で機能するAppleの携帯端末のユーザーに対する唯一のゲートウェイである。Appleの端末とアプリは閉鎖されたエコシステムを形成しており,そこでは,iPhone及びiPadに関するユーザーについてのあらゆる側面をAppleが支配している。

 App Storeはこのエコシステムの一部であり,Apple端末(iPhone及びiPad)のユーザーが携帯端末へアプリをダウンロードできる唯一のアプリストアである。Apple端末のユーザーはAppleブランドに対してかなり忠実であり,簡単には他のブランドには切り替えない。結果として,iOSユーザーにサービスを提供するために,アプリ開発事業者はAppleが設定する強制的かつ交渉余地のないルールに従うことを条件として,App Storeを通じてアプリを配信せざるを得ない。

 欧州委員会の懸念は,Appleアプリ開発事業者との契約において課している次の2つのルールの組み合わせ(combination)に関するものである。

① 有料デジタルコンテンツの配信における,Appleのアプリ内購入システム(in-app purchase system(IAP))の利用の強制。

  Appleは,強制的なIAPを通じて購入されるあらゆる定期契約に関して,アプリ開発事業者に対し30%の手数料を課している。欧州委員会の調査によれば,多くの音楽ストリーミングサービス提供事業者は価格を引き上げることでこの手数料をエンドユーザーに転嫁している。

② アプリ開発事業者がユーザーに対してアプリ外での代替的購入手段を通知することを制限する顧客誘導禁止条項(anti-steering provisions)による非通知の強制。

 Appleはユーザーに対し他の手段で購入した音楽の定期契約の利用を許容しているが,本条項によりアプリ開発事業者は,一般的により安価であるそのような他の購入手段をユーザーに通知することができない。欧州委員会の懸念は,Apple端末のユーザーが音楽定期契約サービスに対して著しく高い価格を支払っている,又は一定の定期契約をアプリ内で直接購入することが妨げられているということである。

 欧州委員会の予備的見解は,Appleのルールは,競合するアプリ開発事業者のコストを上昇させることにより音楽ストリーミングサービス市場の競争を阻害しているというものである。これは,消費者にとってiOS端末におけるアプリ内音楽定期契約の価格を引き上げるものである。また,Appleは,あらゆるIAP取引の仲介者となり,料金請求手続や関連する連絡を競合他社から引き受けている。

 これらAppleの行為は,市場支配的地位の濫用を禁ずるEU機能条約(Treaty on the Functioning of the European Union)第102条の規定に違反するおそれがある。

以下は、ブログ筆者の追加仮訳部。

 これらの規定の実施は独占禁止法欧州連合理事会規則 No 1/2003 )で定義されており、EU加盟国国内の競争当局も適用することができる。

 同委員会は2020年6月16日にAppleApp Storeルールに関する徹底した調査を開始した。異議申し立ては、EU独占禁止法違反の疑いに対する欧州委員会の調査における正式なステップである。 委員会は関係当事者に対して提起された異議を書面で当事者に通知する。 受取人は、委員会の調査ファイル内の文書を調べ、書面で返答し、委員会および国内競争当局の代表の前で事件についてのコメントを発表するための口頭審理を要求することができる。 異議申し立ての送付と正式な独占禁止法調査の開始は、調査の結果を予断するものではない。

2.欧州委員会は、34日、Apple App Store を通じて iPhone および iPad ユーザー (iOS ユーザー) に音楽ストリーミング アプリを配布するという市場における支配的地位を濫用したとして、Apple 18 億ユーロ(2970億円)を超える罰金を科す命令を発布

 欧州委員会サイトの解説を以下、仮訳する。

 欧州委員会は、Appleアプリ開発者に対して、アプリ外で利用できる代替の安価な音楽サブスクリプション サービスについて iOS ユーザーに通知することを妨げる制限を適用したと認定した (以下、「顧客誘導禁止条項(anti-steering provisions):アンチステアリング条項」ともいう)。 これは EU反トラスト規則(欧州連合機能条約 (以下、「TFEU」という) の第 102 条(a))の下では違法である。

(1)Appleの法侵害違法行為の内容

 Apple は現在、開発者が欧州経済領域(European Economic Area )(以下、「EEA」という) 全体の iOS ユーザーにアプリを配布できる App Store の唯一のプロバイダーである。 Apple は、iOS ユーザー エクスペリエンス(注2)のあらゆる側面を管理し、開発者が App Store に存在し、EEA 内の iOS ユーザーにリーチできるようにするために遵守する必要がある利用規約を設定する。

 同委員会の調査によると、Appleは、音楽ストリーミングアプリ開発者に対し、1)アプリ外で利用できる代替の安価な音楽購読サービスについてiOSユーザーに十分に通知すること、および2)そのようなオファーの購読方法に関する指示を提供することを禁止していることが判明した。

 特に、顧客誘導禁止条項(アンチステアリング条項)に関し、アプリ開発者は次のことを禁止させた。

①アプリ内で iOS ユーザーに、アプリ外のインターネットで利用できるサブスクリプション・ファー(注3)の価格を通知する。

Apple のアプリ内購入メカニズムを通じて販売されるアプリ内サブスクリプションと、他の場所で購入できるアプリ内サブスクリプションとの価格差について、アプリ内で iOS ユーザーに通知する。

iOS ユーザーをアプリ開発者の Web サイトに誘導し、代替サブスクリプションを購入できるリンクをアプリに含める。 また、アプリ開発者は、アカウントを設定した後に、新たに獲得したユーザーに電子メールなどで連絡して、別の価格オプションについて知らせることもできなかった。

 3月4日の欧州委員会決定は、Apple の顧客誘導禁止条項は欧州連合機能条約 (TFEU) の第 102 (a) に違反する不公平な取引条件に当たると結論付けている。 これらの顧客誘導禁止条項は、Apple のスマート モバイル デバイス上の App Store に関連した Apple の商業的利益の保護に必要でも不釣り合いでもあり、自分のデバイスで使用できる音楽ストリーミング サブスクリプションにつき、どこでどのように購入するかについて十分な情報に基づいた効果的な決定を下すことができない iOS ユーザーの利益に悪影響を及ぼしていた。

(2)罰金額の算定

 罰金は、罰金に関する欧州委員会の 2006 年ガイドラインに基づいて設定した (プレスリリースと MEMO を参照)。

 欧州委員会は、罰金の水準を設定する際に、Appleの総売上高と時価総額だけでなく、侵害の期間と重大性も考慮した。 Appleが行政手続きの枠組みで誤った情報を提出したことも織り込み済みである。

 さらに欧州委員会は、Appleに科せられる罰金全体が十分な抑止力となるよう、罰金の基本額に一時金18億ユーロ(約2,970億円)を追加することを決定した。この事件でこのような一括罰金が必要となったのは、侵害によって引き起こされる損害のかなりの部分が非金銭的損害であり、欧州委員会の2006年の罰金ガイドラインに定められた収益ベースの方法論では適切に説明できないためである。 さらに、罰金額は Apple が現在の侵害または同様の侵害を繰り返すのを阻止するのに十分なものでなければならない。 また、同様の規模で同様のリソースを有する他の企業が、同じまたは同様の侵害を行うことを阻止するためである。同委員会は、罰金総額18億ユーロ以上はアップルの世界的な収益に比例しており、抑止力を達成するために必要であると結論づけた。

(3) 欧州委員会の調査の経緯と背景

 2020年6月、欧州委員会は、App Storeを介したアプリの配布に関するアプリ開発者向けのAppleの規則に関する正式な調査手続きを開始した。 2021年4月、欧州委員会Appleに異議声明を送り、Appleは2021年9月にこれに応じた。

 2023年2月、欧州委員会は2021年の反対声明を、同委員会の異議を明確にした別の反対声明に置き換え、Appleは2023年5月にこれに返答した。

(4)告発手続きの背景

 TFEU 102 および欧州経済地域協定第 54 は、優越的地位の濫用を禁止している。

第54条につきESAサイト解説(注3-2)から引用

  市場支配自体は、EU独占禁止法の下では違法ではない。 しかし、支配的な企業には、支配的な市場または別の市場のいずれにおいても、競争を制限することによってその強力な市場での地位を濫用しないという特別な責任がある。

(5)個別の損害賠償訴訟提起の権利

 この訴訟で説明されているような反競争的行為の影響を受けた個人または企業は、加盟国の裁判所に問題を提起し、損害賠償を求めることができる。 欧州司法裁判所の判例法と欧州連合理事会規則 1/2003はいずれも、国内裁判所での訴訟において、委員会の決定がその行為が行われ違法であったことを示す拘束力のある証拠となることを確認しています。 欧州委員会が当該企業に罰金を科したとしても、欧州委員会の罰金を理由に減額されることなく損害賠償が国内裁判所によって認められる場合がある。

 EUの独占禁止規則に違反した企業に課せられる罰金は、EUの一般予算から支払われる。 これらの収益は特定の経費には充当されないが、翌年の EU 予算に対する加盟国の拠出金はそれに応じて減額される。したがって、罰金はEUの資金調達に役立ち、納税者の負担を軽減する。

 EUの反トラスト損害賠償指令(Antitrust Damages Directive)(注4)は、反競争行為の被害者が損害賠償を受けやすくするものである。EU独占禁止法による損害を定量化する方法に関する実践的なガイドを含む、独占禁止法による損害賠償措置の詳細については、こちらを参照。

Ⅱ.フランス競争委員会(Autorité de la concurrence) EUのメディア規制とAI利用をめぐる一部の約束の不遵守について、Google25,000万ユーロの罰金制裁を宣言

 フランス競争委員会(Autorité de la concurrence)のリリース仮訳する。なお、各リンクは筆者が独自に行った。

【要旨】

 関連する権利:フランス独立行政機関である競争委員会(Autorité de la concurrence:以下、「委員会」という )(注5)、2022年6月に行われた一部の約束の不遵守について、Googleに対して2億5,000万ユーロ(約412億5,000万円)の罰金制裁を宣言した。

(1)背景と経緯

 委員会は、2022 年 6 月 21 日の決定 22-D-13 によって義務付けられた特定の約束を遵守しなかったとして、Alphabet Inc、Google LLC、Google Ireland Ltd、Google France (以下「Google」という) の各企業に 2 億 5,000 万ユーロ(約412億5,000万円)の罰金を科した。

 記録上、この決定は、この問題に関して競争当局によって下されるこの 4 年間で 4 回目の決定となる。 これらの決定は、2019 年 7 月 24 日の著作隣接権に関する法律の採択 (2019 年 4 月 17 日の著作権および関連権利に関する欧州指令の置き換え) によって特徴づけられた文脈の一部であり、出版社、報道機関、デジタル プラットフォーム間のバランスの取れた交渉条件を確立することを目的としている。

 この法的枠組みは、報道関係者に有利に、これらの関係者間の価値の共有を再定義し、報道部門がここ数年経験している深刻な変化、特に「紙」の配布が減少し、広告価値のかなりの部分が大規模なデジタルプラットフォームによって獲得されることから、デジタル視聴者の増加に対応することを目的としていた。

 2020年4月に委員会は差し止め命令の形で緊急措置を発行した後(2020年4月9日の決定20-MC-01 / プレスリリース参照)、委員会はこれらが尊重されていなかったと指摘し、Googleに5億ユーロ(約825億円)の制裁を科した( 2021 年 7 月 12 日の決定 21-D-17 / プレスリリースを参照)。

 その後、この訴訟の本案についての判決を下し、当局は、2022 年 6 月 21 日の決定( 22-D-13  プレスリリースを参照) により、Google が提案した以下の約束を 5 年間、1 回更新可能で受け入れ、表明された競争上の懸念に終止符を打つこととした。 これに関連して、委員会はアキュラシー社(Accuracy)を、Google による約束の履行の監視と管理を担当する代理人として承認した。

 この決定(22-D-13)の中で、委員会は、Googleが委員会との協力の約束を無視し、以下の原則を保証することを目的とした7つの約束のうち4つを尊重しなかったとして、今般、Googleを制裁した。

①および② 透明かつ客観的かつ非差別的な基準に基づいて、3 か月以内に誠実に交渉を行うこと(約束 No. 1 およびNo. 4)。

③ 関連する権利に基づく報酬の透明性のある評価に必要な情報を出版社または報道機関に送信すること(約束No. 2 )。

④交渉が Google と出版社または報道機関との間に存在する他の経済関係に影響を与えないよう、必要な措置を講じる (約束 No. 6)。

 さらに、Googleが2023年7月に開始した人工知能サービス「Bard」(注6)に関して、委員会は特に、出版社や報道機関からのコンテンツを、出版社や報道機関に通知することなく、創設モデルのトレーニングを目的として使用していたことを指摘した。 その後、Google は、出版社や報道機関が Bard によるコンテンツの使用に異議を唱えることを可能にする技術的ソリューションを提供しないことで、当該コンテンツの人工知能サービスによる使用を保護されたコンテンツの表示と関連付けた(「オプトアウト」) )。他の Google サービスでの関連権利で保護されているコンテンツの表示に影響を与えず、出版社や報道機関が報酬を交渉する能力を妨げることはない。

 これらすべての違反を考慮して、委員会は Alphabet Inc、Google LLC、Google Ireland Ltd、および Google France の企業に対して 2 億 5,000 万ユーロの罰金を課した。 Google はこの事実に異議を唱えないと約束したため、和解手続きの恩恵を受けることができた。 また、Google は、委員会によって特定された特定の欠点に対応するための一連の是正措置を提案した。

(2)委員会 によって特定され違法侵害

(A) 監視受託者との連携

 委員会は、Googleが監視受託者と協力するという約束を遵守できず、特に監視受託者が約束を監視するために必要なすべての情報を共有できなかったと指摘している。また 委員会は、監視管財人が侵害の可能性について疑念を抱いた場合に、Googleが委員会に通知するタイミングを遅らせようとしたことも指摘している。

(B) 透明性、客観的かつ非差別的な基準に基づいた誠実な報酬交渉の不履行

 透明性に関して、委員会はまず、複数の当事者が交渉後にこの文書にアクセスできたため、報酬の提示と同時に交渉当事者に方法論文書を送付するというモニタリング受託者との約束をGoogleが遵守していないと指摘した。 また、委員会 は、この方法論のメモが特に不透明Google が配分する収益の「帰属」額を決定するために使用されるパーセンテージをめぐる不透明さ、Google が報酬オファーで使用する期間と一致しない基準期間など)であることも明らかにしている。

 また、委員会は は、Google が方法論のメモの中で、交渉当事者に収益をもたらす可能性のあるすべてのサービスについて言及しておらず、その一部は考慮されておらず正当化されていないため、客観性の基準が満たされていないとも指摘している。

 最後に、委員会 は、Google が開発した方法論により、異なる状況にある出版者が同様に扱われる限り、非差別基準も満たされていないと指摘している。 委員会 によると、コンテンツ間の魅力の違いを考慮しないと、Google の収益に対する各報道機関や出版社の貢献を正確に反映できなくなる。 さらに、委員会は、Googleが報酬の「最低基準」という概念を導入し、それを下回ると出版物には報酬を支払わないと指摘している。 この選択は、まさに原則として、出版社間の差別を導入するものであり、一定の閾値を下回ると、それぞれの状況に関係なく、すべての出版社に恣意的にゼロ報酬が割り当てられる。

 間接収益に関して、委員会 は、Google が方法論メモのさまざまなバージョンで提案した「一時金」が、以前の判決や 2020 年 10 月 8 日のパリ控訴院の判決と一致していないと認定した。 この点に関して、Googleは財務上のオファーの計算において間接収益を限界シェアに限定したが、前述の判決では、間接収益がサービス上で保護されたコンテンツの表示から得られる収益の最大のシェアを占めていることが判明した。

 また委員会は、Googleが、以下のとおり、約束の発効以降、出版社と締結した契約の大部分において、報酬を更新し、必要に応じて正規化するという約束を契約上明示していないか、あるいは部分的にしか行っていないとも指摘している。

Googleは、透明性、客観的かつ非差別的な基準に基づいて誠意を持って交渉することを義務付ける約束1を遵守しなかった。

②間接収益に関して、Google が提案した「一時金」は、この件で以前に出され、Google が従うことを約束した決定と一致していない。

Google は、約束 No1 を遵守できなかったことにより、交渉完了リクエストの受領から 3 か月以内に「最初の約束に規定された条件に従って」報酬の提示を行うことを義務付ける約束 4 に違反した。

(C)Google が提供する不完全な情報、保護されたコンテンツの使用から得られるすべての収益、特に間接的な収益をカバーしていない。

 約束の仕組みは、提供された情報とGoogleが提示した報酬との間の一貫性の必要性に基づいているが、委員会は、交渉の基礎となる文書と報酬提示との間に関連性を発見できなかった。

 どの計算コンポーネントについても、方法論ノート、データ レポート、および説明付録の間にリンクがない。 さらに、委員会の調査中に、Google が約束に定められた期限内に報道機関のサブドメインに関するデータ レポートを提出していなかったことを発見した。

 さらに、委員会は、Googleが、保護されたコンテンツの表示によって引き起こされるデータ検索によって生成された収益に関するデータ通信を、たとえそのようなデータが間接収益の評価にあたり有用であるように見えるにもかかわらず、厳しく制限していたことを指摘した。

 Google が提供する情報では、当事者が報酬を透明に評価することはできない。 したがって、Google は約束 2 に違反したことになる。

(D)人工知能ツールの開発における著作隣接権の問題

 2023年7月、Googleはユーザーの質問に答えるチャットボット「Bard」(2024年2月8日から「Gemini」に改名)と呼ばれる新しい人工知能サービスをフランスで開始した。

 委員会は調査中に、Google人工知能サービスの基礎モデルをトレーニングする際と、グラウンディング (人工知能サービスによる Google 検索へのデータ検索の送信) に、報道機関や通信社のドメインのコンテンツを使用していたことを発見した。 ユーザーが提起した質問に対する回答を提供するため)および表示(ユーザーへの回答を表示する)段階で、報道機関や出版社、または委員会にこれらの用途が通知されることはなかった。

 人工知能サービスの一環としての報道出版物の使用が関連著作権規制に基づく保護の対象となるかどうかという問題は、まだ解決されていない。 少なくとも、委員会 は、Google が自社のコンテンツが Bard ソフトウェアに使用されることを報道者等に通知しなかったことにより、約束 1 に違反したと考えられている。

 さらに、Googleは、少なくとも2023年9月28日とそのツール「Google Extended」の開始まで、報道機関や出版社が、このコンテンツの表示に影響を与えずに他のGoogleサービスでBardによるコンテンツの使用に異議を唱えるための技術的解決策を提案しなかった。 この日まで、この使用をオプトアウトしたい報道機関や出版社は、検索、ディスカバー、Google ニュース サービスを含む Google によるコンテンツのクロールに反対する指示を挿入する必要があり、これらのサービスは報酬の交渉の対象となっていた。 関連する権利。 今後、委員会は、Google が導入したオプトアウト・システムの有効性に関して特に注意を払うことになる。

 委員会は、Google が自社サービス Bard によるコンテンツの使用について編集者や報道機関に通知しなかったという事実は、約束No. 1 に基づく透明性義務違反であるとみなしている。

 Google は、自社の人工知能サービスによる報道機関や出版社のコンテンツの使用を、検索、ディスカバー、ニュースなどのサービスでの保護されたコンテンツの表示と結び付けることで、約束No. 6 に違反した。

(E) 委員会は25000万ユーロの罰金を課した

 Google は申し立てられた慣行には異議を唱えず、事実に異議を唱えない企業は、総報告者が提案した範囲内で罰金の上限と下限を設定し、罰金を科せられるという和解手続きの恩恵を求めた。Googleは交渉手続きの文脈で、委員会は Alphabet Inc.、Google LLC、Google Ireland Ltd、および Google France に総額 2 億 5,000 万ユーロの罰金を課した。

 またGoogle は、特定された侵害に対処するために設計された一連の是正措置を提示しており、委員会はこれに注目している。

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(注1) 米国の独占禁止法(反トラスト法)は、単一の法律ではなく、幾つかの法律の総称である。反トラスト法は、主に以下の三つの法律及びこれらの修正法から構成されている。

  ① シャーマン法(1890年制定)

  ② クレイトン法(1914年制定)

  ③ 連邦取引委員会法(1914年制定)

 シャーマン法は、カルテルなどの取引制限(Restraint of Trade)及び独占化行為(Monopolization)を禁止し、その違反に対する差止め、刑事罰等を規定している。

 クレイトン法は、シャーマン法違反の予防的規制を目的とし、競争を阻害する価格差別の禁止、不当な排他的条件付取引の禁止、企業結合の規制、3倍額損害賠償制度等について定めている。

 連邦取引委員会法は、不公正な競争方法(Unfair Methods of Competition)及び不公正又は欺瞞的な行為又は慣行(Unfair or Deceptive Acts or Practices)を禁止しているほか、連邦取引委員会の権限、手続等を規定している。

 なお、反トラスト3法と違反行為類型の関係については下表のとおりである。

イ このほか、ほとんどの州が、独自の反トラスト州法を制定している。(以下、略す)

(公正取引委員会サイトから一部抜粋、引用)

(注2) ユーザー・エクスペリエンス(user experience、UX)はシステムとの出会いに由来してユーザーが得る経験である。ユーザー経験、ユーザー体験ともいう。

(注3)サブスクリプションオファー:利用にあたってのお試し利用推薦

(注3-2) EFTA 監視庁 (ESA) は、アイスランドリヒテンシュタインノルウェー (EEA EFTA[1] 加盟国) における欧州経済領域 (EEA) 協定の遵守を監視している。 ESA は国家から独立して運営され、EEA 協定に基づいて個人と事業の権利を保護し、自由な移動、公正な競争、国家援助の管理を保証する。

(注4) 同指令の正式名「Directive 2014/104/EU of the European Parliament and of the Council of 26 November 2014 on certain rules governing actions for damages under national law for infringements of the competition law provisions of the Member States and of the European Union Text with EEA relevance」

(注5)フランス競争委員会(L’Autorité de la concurrence)は、独立した行政機関であり、自由な競争を確保し、欧州及び国際レベルでの市場の競争的機能に貢献する(L.461-1条I項)。また、競争委員会は、反競争的行為の審査(L.462-5条)、企業結合規制(L.430-5条~430-7条)、競争政策に関する意見及び勧告の公表(L.462-4条)等を行う。(公正取引委員会サイトから抜粋、引用) なお、リンクは筆者が行った。

ウ 権限(L.462-1条からL.462-10条まで)

 競争委員会の権限は、①個別の事案について審査を行い、排除措置命令、制裁金賦課命令等を行う法執行機関的側面と、②議会、政府等から諮問を受けて意見を述べる諮問機関的側面とに大別される。

 フランスの競争法は、商法典第4部「価格の自由及び競争」(Livre IV : De la liberté de prix et de la concurrence, Code de Commerce)(L.410-1条)からL.490-14条まで。ウ 権限(L.462-1条からL.462-10条まで)

(注6)Google Bard」とは、Googleが開発した対話型AIサービス。人間との会話のような自然なやり取りが可能な対話型AIに、Googleが誇る検索サービスを連携しており、チャットで質問をするだけで、AIがビッグデータから自然かつ正確な回答を出力してくれる。ちなみに「Bard」という単語は、日本語の「吟遊詩人」「歌人」という意味があり、その名の通り人間が使うような自然な文章で回答することを見込んで名付けられている。

 Chat GPTを含む他の対話型AIモデルと同様に、ユーザーの質問への回答や文章の自動生成、言語翻訳、ソースコードの生成、要約といった対応が可能となっている。Google Bardでは、世界中の幅広い知識を大規模言語モデルの知能やクリエイティビティと組み合わせることを目的としている。(Smileyの解説から抜粋)

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦

Last Updated: March 17,2024

 すなわち内外のメデイア記事の多くがトランプ裁判につき、誹謗中傷合戦を紹介しているものの、一部の米国のロースクールを除き法的点からの詳しい解析はほとんど行っていない。

 メデイアではトランプ氏やトランプ・オーガニゼーションに関する裁判数は民事、刑事事件で計4つと書いているのが多数である。しかし、例えば、本ブログの第Ⅲ-2章で述べるとおりニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズは、不動産価値を不当に水増ししたとしてトランプ前大統領・オーガニゼーションに2億5,000万ドル(約3,725億円)の損害賠償と州内での事業の禁止を求めている。その裁判は2023年10月に始まった。この関連でR&D保険詐欺問題も取り上げられている

 筆者はこのような背景にうんざりしつつ、改めて厳秘な意味で法解釈を試みようと考えた。例えば、本ブログで取り上げるジョージア州フルトン郡の検事が組織犯罪取締法である「同州RICO法(威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations :RICO) Act)」をもとにトランプ・オーガニゼーションを刑事起訴に持ち込んでいる。この起訴・裁判方法は従来のトランプ裁判法理では見られなかっただけに興味深い点が多い。これに関し、2021年1月6日の連邦議会議事堂占拠犯人らの起訴を含む裁判の一括審理の法的の有罪化の可能性等についても研究したい。(RICO法の問題点は本文や(注1)で述べた)

 また、トランプ前大統領は英国では逆に原告となった裁判で、英国高等法院(High Court of Justice)はクリストファー・スティール(Christopher Steele)氏の会社に対する風評被害とデータ保護の権利侵害に対する訴えを却下し、スティール氏に訴訟費用として30万ポンド(約2,670万円)を支払わなければならないとの判決を2024年2月1日に下した。(この裁判で原告側が前述の米国RICO法を援用をして、却下されている点が興味深い)

 さらにいうと大統領選挙と並行して進められるトランプ裁判特にスーパー・ロイヤーをうたい文句にトランプ元大統領の弁護士となった弁護士各位の弁論技術を見極めたいというのも本音である。また、司法取引後 トランプ氏から離反した多くの著名な弁護士らはどこに行ったのか。

 最後にもう1点、11月の大統領選挙に絡んで両候補の社会保障費の考え方の差をあえて取りあげる。この問題は司法判断以上にきわめて重要な投票判断材料となろう。

 これまで筆者ブログで取り上げたトランプ裁判について、以下のとおり整理する。その都度の断片的解説という問題があるが、少なくとも一般メデイア記事に比べ読むに堪えられよう。

 さらに2019年12月以降の連邦議会のトランプ前大統領に対する弾劾裁判の失敗もなおトランプ氏裁判に大きな影を投げかけていることは間違いない。((注11)参照)

2022.8.27 「フロリダ州連邦地裁の治安判事がドナルド・トランプ氏の領地マー・ア・ラーゴでのFBI捜査宣誓供述書の公開を命じた」

2022.11.7「ニュ―ヨーク州最高裁判所裁判官はニューヨーク州司法長官の要請に基づくトランプ一家(Trump Organization)の財務報告等を監督する独立した監視人(monitor)の任命を承認」

2023.1.15「米メリック・B・ガーランド連邦司法長官は1月12日、バイデン大統領の機密文書問題の特別顧問としてメリーランド地区の元米国検事ロバート・ハー氏を任命したと発表」

2023.12.19「二ューヨーク州上訴裁判所は民事詐欺裁判でトランプ前大統領が申し立てた(法廷で審議中の事柄の)発言禁止令を支持」

2023.12.26「2024年秋の米大統領選挙や同年3月の一部裁判の最高裁判決等を控えスピードアップするトランプ裁判の動向と争点」

 

トランプ裁判の鳥瞰レポート

Ⅰ.国際法曹協会(International Bar Association) 米国特派員たるフリーランスの記者ウィリアム・ロバーツ氏のレポート「裁判中のトランプ–と法の支配–」(2023年12月日)仮訳する。

 元米国大統領ドナルド・トランプ氏は、大統領再選挙に立候補している一方で、4つの刑事訴追と民事詐欺裁判に直面している。IBAグローバルインサイト は法の支配への影響を評価するレポートをまとめた。

 2023年11月中旬に米国ニューハンプシャー州で行われた選挙集会で、ドナルド・トランプ前大統領は、「アメリカを破壊するために嘘をつき、選挙で不正行為をする」敵対者を「害虫」のように「根絶する」と約束した。この文言は、トランプ大統領が再選されれば司法省を利用して現米国大統領ジョー・バイデン氏らを追及するという脅しに不気味な光を投げかけた。

 これは、2024年の大統領選の共和党候補を獲得しようとしているトランプ前大統領の最新の攻撃路線だ。アイオワ州ニューハンプシャー州では期日前投票が2024年1月に予定されており、米国大統領選挙まで1年を切っている。 刑事訴追と民事訴訟に直面し、トランプ前大統領の選挙戦での発言はますます過激になっている。 例えば、彼は自分を起訴したワシントンD.C.の米国連邦特別検事(US special Counsel )ジャック・スミス(Jack J.Smith)氏を「気が狂っている人物」と呼んだ。(注2) 

 トランプ氏は現在、合計4つの刑事訴追と連邦および州当局によって提起された1つの民事詐欺事件で裁判にかけられている。事件は広範囲に及び、元大統領の内外の行動に移る。トランプ氏は全面的にこれら告訴に異議を唱えた。これら組み合わせで、トランプ氏の主張は民主主義の規範と法の支配を公然と無視する危険な扇動者の絵を描いている。

(1)わが国の司法・政治システムは、ここ米国でいくつかの重要な方法で失敗した

 クリス・エデルソン(Chris Edelsons)(ワシントンD.C.アメリカ大学・政治学部・有期助教)Assistant Professor of Government, American Universityは次のとおり述べた。

Chris Edelsons氏

 「ここ米国では、私たちのシステムはいくつかの重要な点で失敗した。わが国が機能し健全な自由民主主義が行われていれば、ドナルド・トランプ氏が1月6日の連邦議会議事堂襲撃を奨励し称賛し、その後、下院で弾劾されたとき、彼は罷免されていただろう。しかし、彼はそうならなかったので、我われに残されたのは、彼の責任を問う方法としての裁判訴追だけである。」

 さらのエデルソン氏は「米国の選挙制度では、ドナルド・トランプ氏がまだ大統領選に立候補することが認められていることが一つの理由だが、次に何が起こるかは不透明だと(トランプ氏が)望んでいるのは、選挙に勝って、これらの刑事事件での責任を回避できることだ」と彼は言う。 「彼は刑務所から逃れるために戦うだろう。彼は刑務所から出ないための最善の道は選挙に勝つことだと期待しており、それができる可能性はある」と付け加えた。

 ニューヨーク州では、トランプ大統領がアダルト映画スターのストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels)氏とプレイボーイのモデル、カレン・マクドゥーガル(Karen McDougal)氏への口止め料の支払いを隠蔽するために業務記録を改ざんした疑いで州により起訴されているが、トランプ氏はこれを否認している。この裁判は2024年3月下旬に開始される予定である。

 一方、ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズ(New York State Attorney General Letitia A.James)氏は、不動産価値を不当に水増ししたとしてトランプ前大統領に2億5000万ドル(約372億5,000万円)の損害賠償と州内での事業の禁止を求めている。 その裁判は2023年10月に始まった。

Letitia A.James 氏

 ジョージア州では、フルトン郡地方検事のファニ・T・ウィリス(Fani Taifa Willis)氏が、同州の「威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(RICO Act)」に基づき、トランプ氏とその他18名を告発した。 トランプ元大統領の元法律顧問のうち3人目と4人目の被告が罪状を軽減して有罪を認め(司法取引)、国を代表して真実を証言することに同意した。 トランプ氏と他の被告(全員が無罪を主張)の公判期日はまだ設定されていない。

 スミス連邦特別検事はトランプ氏に対して2つの別々の告訴を提起しており、1件目は機密文書の取り扱いに関わるフロリダ州南部地区で、2件目は2020年大統領選挙を覆そうとするトランプ氏の試みに関連してワシントンD.C.で行われている。

 機密文書事件の裁判は2024年5月に始まる可能性があるが、延期される可能性がある。 選挙不正問題の裁判は3月上旬に始まる可能性がある。 トランプ前大統領は両方の疑惑を否定している。

(2) 無駄のない卑劣な起訴

 2020年の大統領選挙結果を覆そうとするトランプ元大統領の試みに関連した2つの事件(1つは連邦レベル、もう1つは州レベル)は、おそらくアメリカ国民にとって最も政治的に爆発的な事件である。 2020年の全米一般投票ではジョー・バイデン大統領がトランプ大統領の7,420万票に対して8,130万票の差で勝利したが、米国の選挙制度の古風な18世紀の構造により、実際の選挙戦はさらに狭かった。

 米国大統領は直接選出されるのではなく、1789 年に合衆国憲法に基づいて設立され、選挙人団(United States electoral college)内の「選挙人」を人口に基づいて各州に割り当てる機関である選挙人団によって選出される。2016年にトランプ氏が勝利したミシガン州ペンシルベニア州ウィスコンシン州で勝利し、バイデン氏は選挙人獲得数306人、トランプ氏の232人で勝利した。バイデン氏は、これまで共和党に投票していたアリゾナ州ジョージア州でも勝利した。これら5つの激戦州ではバイデン氏が僅差で勝利し、合計27万7,000票を獲得した。もしこれら5州のうち3州が逆の方向に進んでいたら、トランプ氏は一般投票で敗れたものの、ホワイトハウスを維持していたかもしれない。

 トランプ氏と彼の政治的同盟者は、州と地方レベルでの選挙結果に異議を唱える76の訴訟をもたらした。2人を除くすべてが証拠の欠如のために解雇されたか、またはメリットに失敗した。成功した2人は未成年であり、詐欺を主張しなかった。

 それにもかかわらず、トランプ氏は選挙が不正に決定されたという根拠のない主張を展開した。彼は、連邦議会が選挙人投票の集計と検証を行うための正式な議会を開会する予定だったその日に、ワシントンD.C.で支持者の大規模な集会を組織した。 数千人の暴力的な親トランプデモ参加者が国会議事堂の警察のバリケードを突破し、議会議事堂に侵入し、議事は数時間の遅延を余儀なくされた。 2022年夏の米下院1月6日委員会に提出された証言によると、同氏のチームは主要州の偽の選挙人を代用しようとしたという。

 元米国大統領が数多くの重大な容疑で刑事告発され、係争中であることは米国歴史上、本当に異常なことだ。

 (3) ジョン・T.ショー(John T. Shaw) (南イリノイ大学ポールサイモン公共政策研究所(Paul Simon Public Policy Institute)所長)の発言

John T. Shaw 氏

 1年に及ぶ議会調査でトランプ氏の行為に関する忌まわしい証拠が山ほど明らかになった後、特別検事スミス氏は2023年8月1日に元大統領に対して4件の訴追を行った。 トランプ氏は米国に対する詐欺を共謀し、有権者の権利を剥奪し、公式手続きを妨害しようとした罪で起訴されている。

「最も重要な容疑は選挙人投票の認証を阻止する陰謀行為だ」とワシントンD.C.の法律事務所カールトン・フィールズの株主で元米国司法省検事のジーン・ロッシ(Gene Rossi)氏は述べた。

 

Gene Rossi 氏

「ロッシ氏はこの起訴はドナルド・トランプ個人に対するものである。 これは無駄がなく卑劣な起訴であり、彼は非常に深刻な結果に直面している。2024年11月に行われる大統領選挙前に、トランプ氏が陪審によって有罪とされる可能性がある。元大統領がこれほど重大な罪に問われていること自体、歴史的で注目すべきことであり、まったく衝撃的だ」と述べた。

 2021年1月6日の連邦議会暴動からほぼ3年間で、議事堂侵入に関連した罪で1,200人以上が起訴された。400人以上が暴行や法執行妨害の罪で起訴された。右翼団体プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」(注3)(注3-2)や「オース・キーパーズ(Oath Keepers)」(注4)の主催者や国会議事堂を襲撃した暴徒の先兵らに10年以上の長期拘禁刑が言い渡された。 「彼らの主な目的は、議会、つまり下院と上院が(1月6日)に任務を遂行するのを阻止することであった」とロッシ氏は言う。「あの日、元大統領の指示と彼の激励と熱烈な支援を受けて国会議事堂に押し入った人々は、彼らがしたかったことは[…]議員たちに危害を加えるまではいかなくても、議員たちを脅かして白昼の光を奪うことだった」

 デモ参加者が国会議事堂に侵入したとき、マイク・ペンス元副大統領は選挙人集計を主宰していた。 大統領のツイートに反応して、親トランプ派の群衆は「マイク・ペンスを吊るせ」と叫んだ。 国会議事堂の敷地内には間に合わせの足場が建てられた。 約114人の警察官が負傷し、中にはクマよけスプレー、野球バット、盾、槍を振り回したデモ参加者との白兵戦で重傷を負った人もいた。

Former Vice President Mike Pence氏

 現在、ワシントンD.C.でのトランプの連邦裁判は、連邦地方判事のターニャ・S・チュトカン(US District Judge Tanya S Chutkan.)氏が主宰している。 バラク・オバマ前大統領によって任命されたチュトカン氏は、トランプ大統領に対し、「顧問弁護士」による弁護(被告が専門家の弁護に従ったと主張する、有罪を回避するための危険な戦略)につき、申し立てられた犯罪の実行につながる法的アドバイスを利用するつもりかどうかを2024年1月15日までに裁判所に通知するよう命じた。同裁判は、米国の15の州と2つの準州共和党大統領候補の予備投票が行われる「スーパー・チューズデー」の前日である3月4日に始まる予定である。

Tanya S Chutkan氏

 重要なことは、またトランプ氏は、2020年の大統領選挙を覆そうとする試みに関連して、ジョージア州フルトン郡で非常に深刻な恐喝罪に直面していることである。同州の大陪審が提出した41件の広範囲にわたる起訴状は、偽の選挙人投票を連邦議会に提出し、選挙を不正に覆そうと共謀した罪でトランプ氏と他の18人を起訴した。 おそらくこの事件は今後の大統領選挙戦で大きく取り上げられることになるだろう。トランプ氏はこの不正行為を否定している。

 つまり、ジョージア州には連邦法以上に広範なRICO法があり、フルトン郡地方検事のファニ・T・ウィリス(Fani T.Willis)氏に対し、州の選挙結果を取り消すためにトランプ大統領に加わった多数の共謀者容疑者を起訴する裁量権を与えている。 RICO法では、ウィリス被告が他の州で被告がとった可能性のある行為を含め、幅広い事実を証拠として提出することが認められている。

(4) 権力を握る(Going to stay in power)

 トランプ裁判の重要な進展として、元トランプ弁護士のケネス・j・チェセブロ(Kenneth John Chesebro) (注5)シドニー・パウエル(Sidney Powell) (注6)、ジェナ・エリス(Jenna Ellis) (注7)へのインタビュー’の検察官のビデオ録画の抜粋が、3つの司法取引に達した後、オンラインで公開された。

Kenneth John Chesebro 氏

Sidney Powell 氏

Jenna Ellis 氏 (右)

ジョージア州検察局は去る2023年10月20日、トランプ前大統領らが選挙結果を覆すために共謀したとされる事件で、起訴対象者の一人、ケネス・チェスブロ弁護士(62歳)が有罪を認め、今後の裁判でトランプ氏らにとって不利な証言をすることに同意したと発表した。

 エリスは、2020年12月にホワイトハウスクリスマスパーティートランプ大統領補佐官のダン・スカヴィーノ Jr.( Daniel Scavino Jr.)との出会いを語った。エリスはバイデンの勝利に対する法的挑戦が失敗したことをスカヴィーノに後悔を申し出た。スカヴィーノ氏は、トランプは関係なくホワイトハウスに滞在するつもりだったと答えた。

Daniel Scavino Jr.氏

 ジョージア州の刑事訴訟におけるトランプ裁判の主任弁護士であるスティーブ・サドウ(Steven H.Sadow)氏は、エリスが‘絶対に意味のない’を詳述した‘のプライベート会話’を呼び出した。

Steven H.Sadow 氏

 残りの15人の被告の1人を代表する主任弁護人は、報道機関にビデオを提供したことを認めた。ウィリス検事は事件の保護命令を求め、裁判官はこれに同意した。

 ハーバード大学ロースクール憲法を学んだチェセブロ弁護士は、16人のジョージア共和党がトランプ氏が同州で勝利し、自らを宣言したと主張する計画を考案し、調整したとされている。

 チェセブロ氏は州の当初の陰謀容疑を認めず、代わりに虚偽の文書を提出したことによる単一の重罪の容疑で有罪を認めた。チェセブロ弁護士は、検察官との契約では、彼がいかなる種類の偽の選挙人計画やそのようなものの構築者でも決してなかったことを証明していると述べた。

 パウエル氏は、2020年のトランプの敗北後、外国の行為者がトランプからバイデンに電子投票システムへの投票を反転させる方法を設計したという陰謀論を促進した。彼女はトランプの法務チームに参加し、トランプとのホワイトハウス会議に参加し、トランプの誤った主張を推進する上で重要な役割を果たした。

 ジョージア州フリントン郡地方検事ウィリス氏は、裁判が2024年半ばまで開始されないと予測しており、大統領選挙の最中に裁判が継続されることを意味し、2024年後半または2025年初頭までは結論が出ないと考えている。

 仮にトランプ氏が共和党の指名を獲得し、2024年の総選挙に勝利した場合、彼は2025年1月20日に大統領になる。その場合, トランプ氏は、州検察官が選出または現職の大統領に対して起訴することにより米国政府の事業に干渉することを許されるべきではないという強い憲法上の議論を利用できるであろう。

 特に珍しいのは、トランプ氏が対立する当事者間の平和的な権力の移転を阻止しようとする罪で起訴されていることある。そしてその後、彼の検察は共和党有権者の間で彼を助けたように見えるがが、彼の裁判の結果は彼の立候補と総選挙での党のための災害を意味するかもしれない。

 トランプ氏は、大統領選挙の干渉があったことを明示的に主張しており、自身の裁判にかかる裁判官、検察官、書記官を政治的に偏っているとして攻撃している。2023年6月、彼はバイデン大統領を米国連邦司法省を兵器化していると非難した。それは本当に私たちの民主主義の本質、民主主義の核心、つまり平和的な権力の移転に行く。それは250年の間アメリカのシステムの魔法の1つあった、とジョン・T.ショー(John T. Shaw)氏は以下のとおり述べた。

 「米国には、行政機関が司法省と検察官を使用して政治的反対者を追いかけることができないことを明確にする法律がある」とフIBAのフォーラム共同副議長(Secretary, IBA Rule of Law Forum)ロバート・バーンスタイン氏は個人的な立場でコメントする。現職の大統領が司法省を武器にしていると誰かが言ったときはいつでも、それは私たちの司法制度の公平性、そして私たちの法執行機関全般に対する信頼を損なう, これは法の支配に対する脅威である」

(5)トランプ裁判はフロリダからニューヨークへ

 一方、トランプ氏は他の理由で法的措置に直面しています。元大統領, 元大統領が取った何百もの機密文書を不適切に処理した罪で、2023年8月に個人補佐官とMar-a-Lagoのボデーマンが起訴された–政府が違法に– ホワイトハウスフロリダ州パームビーチのマール・ア・ラゴ(Mar-a-Lago)にに向かい、全員が無罪を主張した。2017年から2021年まで大統領として、トランプは定期的な諜報ブリーフィングから受け取った秘密資料を含め、数十箱の紙資料と記念品を蓄積していた。

 大統領の記録を保持する責任を負う米国の機関である国立公文書館が資料を要求したとき、トランプはいくつかを返却した, しかし、他の人々を守り、彼自身の弁護士による彼が持っていたものをカタログ化して返却するためのフォローアップの試みを回避したとされている。

 FBIは2023年8月にマール・ア・ラゴを捜査のため襲撃し、102の秘密の米国文書を押収した。明らかに、国家安全保障文書について話しているとき、それは大きなノーノーです’、現在ワシントンDCで実務訴訟担当者である司法省の元最高検察官であるポールペルティエは言います。

 IBA 法の支配フォーラム共同副議長(Secretary, IBA Rule of Law Forum)のロバート・ステイーブン・バーンスタイン(Robert Steven Bernstein)氏は以下のとおり語った。

 「現在起こっているように、法的プロセスの信頼性と正当性が疑われるとき、それは私たちの司法制度全体への信頼を損なう風土を作り出す。」

 Mar-a-Lagoの文書事件は2024年5月までに裁判にかけられるとは予想されておらず、おそらくさらに遅れるであろうし、選挙後まで遅れる可能性は十分にある。大統領であった2020年にトランプによってベンチに指名された米国地方裁判所のエイリーン・キャノン(Aileen Cannon)裁判官が事件を処理している。彼女は、トランプの弁護側に、事件の根底にある機密文書を検討する十分な時間を与える意欲を示した。これは、別個の複雑な一連の米国の証拠手続きを呼び起こす。他の裁判の場合と同様に、トランプは不正行為を否定した。

 一方、ニューヨークでは、トランプの民事詐欺事件で非陪審裁判を監督しているアーサー・F・エンゴロン州裁判官が, これはトランプ側から控訴されているが、トランプ・グループが銀行や保険会社に虚偽の財務諸表を提出したことをすでに決定している。訴訟で問題となっているのは、どのような救済策と罰則を適用すべきかである。

 トランプ氏と彼の3人の大人の子供たちは、事件の裁判で証言するために裁判所に呼ばれた。公判では、トランプ氏は裁判官に偏見があると非難し、ニューヨーク州司法長官ジェームズ氏を攻撃し、彼女を「政治的ハック(political hack)」と呼んだ。特に、裁判官はトランプがソーシャルメディアで彼の法務書記官を攻撃することを禁止する「ギャグ命令(裁判にかかわった参加者による情報またはコメントを制限する裁判所命令)」を出した、そしてそれはトランプがそれに違反した場合、10,000ドル(約148万円)の罰金を引きだした。(注7-2)

(6)権威主義対民主主義

 トランプ氏が2024年に共和党の大統領候補になるかどうかの最初の実際のテストは、1月15日にアイオワ州中西部で行われる。共和党員は、州全体のコミュニティセンターや地元の講堂で‘コーカサス’として知られる党会議に出席する。世論調査では、トランプ氏がアイオワ州で最も近いライバルであるフロリダ州知事のロンデサンティスと元サウスカロライナ州知事および国連大使のニッキーヘイリー氏よりも強いリードを示している。

 これは、ドナルド・トランプが提示する多くの前例のない状況の1つである。アイオワ州デモインにあるドレイク大学の政治学部教授兼共同議長であるレイチェル・ペイン・コーフィールド(Rachel Paine Caufield)氏は、トランプ氏はこれまでに見たことのない’とは別の大統領候補者である。彼はまさにこのノミネートフィールドのフロントランナーである。

Rachel Paine Caufield氏

 コーフィールド氏は「トランプ氏に対する起訴状は、少なくとも最初は、ドナルド・トランプ氏を助けているようである。ニューヨークでの最初の起訴により、彼は世論調査で批判を跳ね返ったという。彼の後に来る設立エリートがいるという考えに彼はよく仕えているようで、彼らは政治的に動機付けられており、彼らは悪意を持っている。これらの犯罪容疑者の顔写真(mug shot)」がジョージア州フルトン郡から出てきたとき、それはドナルド・トランプを傷つけなかったと彼女は付け加えた。すなわち、それはドナルド・トランプを助け、彼は犯罪容疑者の顔写真(mug shot)」で選挙資金を調達した」

 世論調査では、共和党有権者の最大70%が、トランプが2020年の大統領選挙に勝利したとまだ信じており、2024年に再びそれを実行できると考えている。その理由の1つと米国の政治情勢の厄介な側面の1つは、トランプ氏と彼の基地の間のフォックス・ニュース・テレビや、彼の方針を踏襲し続けている政治家などの支持メディアの自己強化フィードバックループである。ジョン・T.ショーショー氏は、2021年1月6日に米国議会議事堂にいて、事件を目撃したが、それでもトランプを支持している主要な政治家がいると語った。彼らは中世の戦闘が展開するのを見て、誰がそれを引き起こしたかを正確に知っている’とショーは述べた。‘彼らの即時の反応は非常に批判的で非常に内臓的でした。しかし、彼らは最も重要なことは、基地がどこにあるかを理解することであると決定した。そして共和党の基地がトランプを許すことをいとわないとき,この神聖な規範の違反でさえ、議員たちは一列に並んだ。

 アン・ランバーグ(Anne Ramberg)氏は、IBAの人権研究所評議会の共同議長である。法の支配に基づいて構築された民主主義は、米国では深刻な[危険]である。これまでのところ、チェックとバランスは司法府によって支持されている。しかし、トランプ氏は民主主義と法の支配を妨害するためにできる限りのことをしている。その結果はもちろん、米国と民主主義世界全体にとって壊滅的なものである。[...]より多くの独裁者が大規模で重要な国で権力を握るようになることを踏まえると、それは危険な進展である。いくつかの国で民主主義が弱体化しているという明らかなパターンがある。

 アイオワの後、共和党の大統領指名コンテストはすぐに展開される。有権者は、2024年1月23日にニューハンプシャー、2月8日にネバダ、2月24日にサウスカロライナの投票に行く。コロンビア特別区アイダホ州ミシガン州ミズーリ州ノースダコタ州が3月の第1週に投票する。3月5日までに– ‘として知られるスーパー・チューズデイ共和党の指名大会への代表のほぼ半分が決定される。

■4つのトランプ裁判につきアクターも含め法的な意味で争点を整理する。

. フロリダ州での連邦政府機密文書の違法な収集と保管裁判

1.裁判概要 (刑事事件)

裁判所:フロリダ州南部地区連邦地方裁判所

裁判官:US District Judge :エイリーン・キャノン(Aileen Cannon)

Aileen Cannon 氏

検事:ジャック・L.スミス連邦特別検事(Special Counsel :Jack L.Smith)(注2)

Jack L.Smith 氏

②事件の概要

政府機密文書の違法収集と保管問題

 当初のDOJ起訴状(全49頁)は、トランプ氏が大統領として米国が所有する何百もの機密文書を収集し、それらをホワイトハウス段ボール箱に保管したと主張している。一部の文書には、米国と外国の両方の米国の核計画含む米国とその同盟国の軍事攻撃に対する潜在的脆弱性、そして外国からの攻撃に対応して報復の可能性を計画している防衛および兵器能力に関する情報が含まれていた、と述べている。

Mar-a-Lagoのトランプ邸内の機密文書の山(起訴状に添付されている)

 2023年6月8日、ドナルド・トランプ元大統領と彼の補佐官であるワルティン・T .ナウタ Jr. (Waltine Torre Nauta Jr.)氏はフロリダ州 Mar-a-Lagoのトランプ邸での機密文書の取り扱いの誤りに関連する容疑でフロリダ州南部地区の連邦大陪審により起訴された。取って代わる 起訴 2023年7月27日に封印が解除され、追加の被告カルロス・ド・オリベィラ(Carlos De Oliveira)が起訴され、トランプに対する証拠の改ざんに対する国防情報を故意に保持し, そして捜査官に嘘をついたとする3つの追加告発が含まれる。(2023年7月27日付け最終起訴状(全60頁))

 なお、起訴状によると計36訴因のうち主たる訴因1~31は「全米の国防に関する故意の保管(Willful Retention of National Defense Information:18 U.S.C.§793(e))」(注8)である。

 より具体的に言うと2021年1月から、トランプがホワイトハウスを去る準備をしていたので、 連邦検事は、トランプ氏がホワイトハウスのスタッフに、“数百の機密文書[。] ”を含む、彼の出発を見越してさまざまなアイテムを箱に入れるように個人的に指示したと主張している トランプ氏の共同被告のボディーマン、元米国海軍メンバーのウォルティン・T.ナウタ(Waltine Torre Nauta Jr.)氏は、この文書の転送を支援するよう指示されたグループの一部であった。

(機密資料の保管が明らかになった理由については、起訴状の他に2023.6.9付けLawFare記事2/6(42)を参照されたい。

 共同被告

Mar-a-Lagoの不動産マネージャーであるカルロス・ド・オリベィラ(Carlos De Oliveira)氏、ワルティン・T .ナウタ Jr. (Waltine Torre Nauta Jr.)氏

Carlos De Oliveira 氏

Waltine Torre Nauta Jr.氏

2.フロリダ州南部地区連邦地方裁判所アイリーン・キャノン連邦判事は機密文書裁判でトランプ前大統領の起訴棄却申し立てを却下(2024.3.17 追記分)

 3月14日のJURIST解説を仮訳する。一部、筆者の判断でリンクを追加した。

 ドナルド・トランプ前大統領の機密文書不当拘留容疑に関する刑事訴訟を管轄する米連邦判事は3月14日、2ページにわたる短い命令で前大統領の棄却申し立てを却下(rejected)した。 トランプ前大統領は、この事件で係争中の自身に対する刑事告発40件のうち32告発の却下を求めていた。 しかし、アイリーン・キャノン判事は、32件の刑事告発違憲でかつ曖昧であるとするトランプ氏の主張を否定した。

 キャノン氏は最終的に、「提示された問題全体の解決策は、法定用語や語句の法定用語や語句の依然として変動する定義についての、争点となっている指導上の質問に大きく依存している」と結論付けた。 また判事は、トランプ前大統領の却下動議はいくつかの事実上の問題を提起したが、それらは本件の「事実認定者(finder of fact)」である陪審によって最もよく解決されるべきであると判示した。

 キャノン氏は3月14日初め、この却下動議に関して連邦検察官とトランプ氏の弁護士から3時間半に及ぶ弁論(arguments)を聞いた。 トランプ氏の弁護士は、トランプ氏が起訴されている刑法規定内のいくつかの文言に異議を唱えた。 これらの文言の中には、「不正所持」「国防に関する」「受け取る権利がある」などの文言が含まれていた。

 2月22日に裁判所に提出された棄却を求める動議の中で、トランプ前大統領は刑法の文言が「曖昧さの原則を生む適正手続きの原則や権力分立の懸念と矛盾している」と主張した。 彼の主張は、トランプ前大統領が「大統領記録・連邦記録法2014年改正」(Presidential and Federal Records Act Amendments of 2014, 法令番号113-187)に基づいて私的使用のために文書を保持し、機密解除したと主張したが、この訴訟の以前の提出文書のエコーであった。

 曖昧さの原則は、刑法が処罰される行為の種類を明示的に規定し、定義することを要求する憲法の原則である。 該当する刑法規定(18 U.S. Code § 793 - Gathering, transmitting or losing defense information)のあいまいな文言は法律の過度に広範な適用と恣意的な執行につながる可能性があるという懸念があるため、過度に曖昧な法律は適正手続きの懸念に基づいて廃止されるべきである。

 しかし、ジャック・スミス特別検事が率いる連邦検察当局はトランプ前大統領の主張を拒否した。 トランプ氏の棄却動議に対する返答の中で、連邦検察当局はトランプ氏の主張を「理由がない」として却下した。 検察側は、トランプ氏の行為は刑法で禁止されている明確に定義された行為に完全に該当すると主張した。 すなわち、連邦検察官は次のように主張した。

    「 [A] 元大統領であるトランプ氏が、国防情報を不正に取得したり故意に保持したりしない義務を含む、国家安全保障と軍事機密を保護することの最も重要性を理解していないはずがない。」

 トランプ氏に対するこの訴訟での40件の刑事告訴は、元大統領が2021年1月20日ホワイトハウスを出発する際に政府の機密文書を不当に持ち出したという主張に端を発している。これらの文書には、米国と外国の同盟国の防衛兵器能力、核情報、米国の潜在的脆弱性、報復計画や防衛に関する機密記述と分析が含まれていた。起訴状には、トランプ前大統領が2021年1月20日米大統領としての任期を終えた後、これらの機密文書を所有または保持する権限がなかったことが明確に述べられている。しかし、この文書は2022年8月のトランプ大統領フロリダ州にあるア・ラーゴの私邸の捜索中にFBIによって発見された。

 キャノン氏がトランプ前大統領の訴えの棄却動議を偏見なく拒否したことは注目に値する。 これは、トランプ前大統領が後日の裁判で憲法の曖昧さに対して再び同じ異議を唱える可能性があることを意味する。

 キャノン氏は3月4日、前大統領の大統領特権(presidential immunity.)の主張に基づくトランプ氏の棄却動議についての弁論も聞いた。 しかし、キャノン氏は、この件におけるトランプ前大統領の免責の可能性の問題についてはまだ決定を下していない。

 米国連邦最高裁判所は2024年4月に、連邦検察によるトランプ氏に対する2020年の選挙干渉事件における別の免責請求に関する弁論を審理する予定である。 機密文書事件をめぐる事実と状況は2020年の選挙妨害事件とは異なるが、最高裁判所の判決はトランプ大統領の免責主張に関するあらゆる決定に影響を与える可能性がある。

Ⅱ.ワシントンD.C.連邦議会議事堂攻撃の陰謀および2020年の大統領選挙の結果を覆そうとした刑事裁判

1.裁判概要

裁判所;Wasington D.C連邦地方裁判所

事件の概要

 2023年8月1日、ワシントンD.C.の大陪審(grand jury)は、2021年1月6日の米国連邦議会攻撃に関連して元トランプ大統領を起訴することを投票した。また2020年の大統領選挙の結果を覆そうとする彼の主張された試みにつき起訴した。

裁判官

連邦地方判事ターニャ・S・チャッキン(US District Judge Tanya S. Chutkan)氏

起訴検察官

連邦特別検事ジャック・L.スミス(Jack L. Smith)

起訴状原本

ワシントンD.C. 巡回区控訴裁所判決(以下、「D.C.控訴裁判所」という)(judgment)(3裁判官:Karen LeCraft Henderson, J.Michelle  Child, Florence  Pan)

C-SPAN画像から引用

 2024年2月6日、D.C.控訴裁判所は、ドナルド・トランプ前大統領が2021年1月6日の連邦議会議事堂攻撃での彼の役割について彼に対する政府の訴訟で起訴から免除されないことを決定した。(米政治専門ケーブルチャンネルC-SPANで裁判内容は動画で音声とテキストで確認できる)

 トランプ氏は以前に持っていた 解任に移動 彼の起訴は 元大統領の刑事責任追及が大胆かつ公平に行動する大統領の能力を阻害すると主張し、検察からの行政免責を主張し、併せて大統領特権、特にデリケートな義務と大胆で躊躇しない行動の必要性を引用した。

 全会一致の57ページの意見書(opinion)同裁判所判決で、同裁判所はトランプ氏と他の元大統領—が在職中に犯した犯罪容疑で起訴できると裁定した。裁判所は、免責に関するトランプの主張は説得力がなく、元大統領が無益な連邦刑事訴追によって過度に嫌がらせを受けるリスクはわずかであると結論付けた。

 さらに、同裁判所は、「この刑事事件の目的のために、トランプ元大統領が他の刑事被告のすべての抗弁とともに市民たるトランプになったと決定した。しかし、彼が大統領を務めている間に彼を保護したかもしれないいかなる大統領の行政免除も、もはやこの起訴から彼を保護しない」と述べた。(注8-2)

 トランプ氏は2024年2月12日までに連邦最高裁判所に対し、D.C.控訴裁判所判決につき上訴できることとなっていた。

連邦最高裁判所SCOTUSの解説から抜粋、仮訳

 ジャック・スミス特別検事は連邦最高裁判所に対し、トランプ前大統領が起訴された犯罪は「我が国の民主主義の根幹を揺るがす」ものであり、これらの容疑が「速やかに解決」されることには「国益がある」と述べ、ターニャ・S・チャッキン判事らに求めた。 2020年大統領選挙の結果を覆す共謀の罪でトランプ氏が裁判を受ける道を開くため、2月14日の夜に開かれた。

 スミス氏の申し立ては、トランプ氏が裁判所に対し、自身の免責請求を却下するD.C.控訴裁判所の決定を一時的に差し止めるよう要請してからわずか2日後、ワシントン地裁がスミス氏にトランプ氏の要請に応じるよう設定した期限の6日前に提出された。

 米国連邦地方裁判所判事のターニャ・S・チャッキン氏は当初、トランプ氏の訴訟の公判期日を34に設定していた。2023年 12月初旬、彼女は、大統領としての公務の一部である行為については訴追を免除されるとして、トランプ氏に対する告訴却下を求める動議を拒否した。

 その時点で、スミス氏は連邦最高裁判所に出向き、D.C.控訴裁判所がトランプ氏の上訴に対する判決を下すのを待たずに、判事らに免責問題について早急に検討するよう求めた。

 連邦最高裁判所はその時点では介入を拒否し、D.C.控訴裁判所は2月6日に判決を下した。3人の裁判官からなる合議体は全員一致の意見でチャッキン判決を支持し、「トランプ前大統領はトランプ国民となった」と強調した。 彼が大統領を務めていた間に彼を守っていたかもしれない行政特権は、もはや今回の訴追から彼を守ってくれない」と述べた。

 トランプ前大統領側は2月5日に連邦最高裁判所に出廷し、最高裁判所の審査を申し立てる時間を与えるためにD.C.控訴裁判所の判決を一時的に差し止めようと求めた。 同氏は判事に対し、「刑事訴追からの免除がなければ、我々が知っている大統領職は消滅するだろう」と語った。

 しかし、連邦最高裁判所で100件以上の訴訟を弁論してきた連邦最高裁判所で政府の刑事事件を担当してきた元法務長官代理(Deputy Solicitor General)マイケル・ドリーベン(Michael Dreeben)氏(注9)署名した提出文書の中で、スミス氏は、トランプ氏は単に自分の事件の裁判を遅らせようとしているだけだと反論した。「これらの容疑の解決の遅れは、迅速かつ公正な判決に対する公共の利益を挫折させる恐れがある。これはあらゆる刑事事件における切実な利益であり、犯罪容疑による前大統領に対する連邦刑事告訴を伴うものであるため、ここでは国家的に独特の重要性を持っている。公権力の行使を含め、大統領選挙の結果を覆そうとする努力を行っているのみである」とスミス氏は記した。

 スミス氏は、既に弾劾され議会で有罪判決を受けていない限り、大統領としての公式行為の一部である行為に対する免責を求めるトランプ氏の主張は「過激な」もので、仮に受け入れられれば「大統領の責任についての歴史を通じて広く浸透してきた理解を根底から覆すことになり、民主主義と法の支配を損なうものだ」と述べた。 実際、スミス氏は、大統領が「選挙を覆し、後継者への平和的権力移譲を妨害しようとする犯罪計画とされるものは、連邦刑法からの新たな形の絶対免除を認める最後の場所であるべきだ」と示唆した。

 スミス氏は、裁判の続行を認めれば、将来の大統領が退任後の自らの行為で起訴されるのではないかと懸念することになるというトランプ氏の提案に激しく反発した。同氏は、刑事訴追の可能性が過去に大統領の行動を妨げてきたという「証拠はない」とし、将来的には構造的安全策によって純粋に政治的な理由による訴追は阻止されるだろうと強調した。

 他に米国大統領に対する刑事訴追がないことは、トランプ大統領の主張を裏付けるものではないとスミス氏は述べ、トランプ大統領は「前例のない」犯罪容疑の「前例のない」規模、性質、重大さ、つまり有権者の意志に反して大統領職に留まろうとする不正な取組みを見逃していると述べた。

 そしてスミス氏は、トランプ元大統領が自身の事件の公判前手続きを延期することにどのような関心を持っていても、彼に対する刑事告発の解決を延期することによる「政府と国民への深刻な損害」の方がはるかに大きいと続けた。スミス氏は、裁判を予定通り進めることに対する国民の関心が最も高まるのは、「今回のように、元大統領が大統領職に留まるために選挙プロセスを破壊する共謀の罪で起訴されたとき」であると示唆した。

 スミス氏はチャッキン判事に対し、トランプ氏の執行猶予申請と、その後に起こる可能性のあるD.C.巡回控訴裁判所の判決の見直しを求める申し立てを却下するよう求めた。しかし、別の選択肢として、裁判所はD.C.巡回裁判所の判決を保留するというトランプ大統領の要請を審査請求として扱い、紛争が迅速に解決されるよう、3月下旬に口頭弁論に向けて迅速に手続きを進める必要があると同氏は続けた。

刑事および民事訴訟に対する大統領の免責に関する論文例

 なお、Find Law 解説サイト「刑事および民事訴訟に対する大統領の免責(Presidential Immunity to Criminal and Civil Suits)」に関する論文を一部抜粋、仮訳する。

 合衆国憲法は、刑事または民事訴訟からの大統領の免責については直接規定していない。代わりに、この特権は、1860年代の連邦最高裁判所による第II条、セクション2、第3項(Article II, Section 2, Clause 3)の解釈を通じて、時間の経過とともに以下のとおり、発展してきた。

〇大統領は民事責任から免除されるか?

 大統領は、公務に関連する訴訟から生じる訴訟について、民事責任から免除される。これには、これらの職務の「外周」でのすべての行為が含まれる。しかし、大統領は非公式な行為から生じる行動から免除されない。

〇元大統領は責任から免除されるか?

 裁判所は、在職中の公式行動の「外周」で取られた措置について、元大統領に免責が及ぶかどうかはまだ決定していない。しかし、現職の大統領と同様に、元大統領は在職中の非公式な行為から生じる行動から免除されない, 就任前に発生した行為および退社後に発生した行為につき免除されない。

〇大統領の免責は何をカバーしているか?

 大統領の免責は、大統領の公務に関連する行動をカバーする。これには、それらの職務の「外周」にあるものも含まれる。免責は、非公式な行為、犯罪行為、および就任前に発生する行為には適用されない。

-2.ワシントンD.C.連邦巡回区控訴裁判所での決定

 2024年2月6日、米国のワシントンD.C.連邦巡回区控訴裁判所は、トランプ氏が2020年の連邦選挙干渉事件で起訴から免除されないことを決定

US appeals court rules Trump not immune from prosecution in federal 2020 election interference case

 JURIST解説から、抜粋、仮訳する。

 米国ワシントンD.C.の連邦巡回区控訴裁判所(以下、「D.C.控訴裁判所」という)の3人の裁判官からなる合議体は、2月6日、2020年の連邦選挙干渉事件ドナルド・トランプ前大統領には訴追の免除権がないと判示(No. 23-3228)した。

 裁判所は全会一致の判決で、トランプ氏が米国大統領としての公務中に行ったと主張する行為について「絶対的な」大統領訴追免責を受ける権利はないとの判断を下した。 この裁判所の判決は、「元大統領は連邦刑事責任に関して特別な条件を享受していない」としたコロンビア地区タニヤ・チュトカン連邦地方裁判所判事の2023.12.2判決を支持した。

 さらに巡回控訴裁判所は以下の点を明らかとした。

「この刑事事件の目的のために、トランプ前大統領は他の刑事被告の弁護をすべて引き受けてすなわちトランプは一市民となった。 しかし、大統領在任中に彼を守っていたかもしれない行政特権は、もはや今回の訴追から彼を守ってくれない。」

 D.C.控訴裁判所の3人の裁判官の合議体での控訴の訴えにおいて、トランプ氏は彼の免責主張を支持して次の3つの主要な論点を主張した。

三権分立の原則により、裁判所は大統領が行った公式行為を審査することができない。

三権分立の原則に根ざした機能政策の考慮事項では、行政府の機能への侵入を防ぐために免責が必要である。

③元大統領は、弾劾判決条項に基づいて連邦議会によって最初に弾劾され、有罪判決を受けた場合にのみ起訴される可能性がある。

 しかし、2月6日の判決では、D.C.控訴裁判所はトランプ側の3つの主張の根拠すべてを拒否した。

 トランプ前大統領の最初の主張に関して、裁判所は「正しく理解されているように、三権分立の原則は合法的な裁量的行為を免責する可能性があるが、あらゆる公的行為について前大統領を連邦刑事訴追することを妨げるものではない」と認定した。

 3 人の裁判官からなる合議体は、2024年1 月 9 日の口頭弁論中で、特に 1803 年の米国連邦最高裁判所のマーベリー対マディソン事件(Marbury v. Madison, 5 U.S. 137 (1803))に関連して、権力分立の問題も提起した。この画期的な訴訟において、裁判所は、裁量的行為(discretionary)と羈束行為(ministerial:行政の執行に、自由裁量の余地がないこと)という 2 つのタイプの公的行為を概説した。 裁量的行為は裁判所によって決して審査されることはないが(政治的プロセスを通じて対処するのが最善であるため)、同裁判所は、羈束行為を遂行する義務が法律によって課されているため、羈束行為は審査の対象となる可能性があると認定した。

 トランプ氏は、この訴訟で問題となっている行為は公的行為であるため、免責を受ける必要があると主張したため、合議体はトランプ氏の弁護士にマーベリー事件の先例について話すよう求めた。 最終的に同裁判所は判決の中で、トランプ前大統領の行動は、もし公式行為とみなされるのであれば、行政行為(ministerial.)であると結論づけた。このため裁判所は、トランプ氏は連邦刑法に従って行動したとして起訴されたが、それを怠ったと推論した。したがって、裁判所は、「トランプ前大統領の行為は連邦刑法に反するいかなる法的裁量権も欠如しており、その行為については法廷での責任がある」と認定した。

 次に裁判所は、政策上の懸念に関するトランプ前大統領の2番目の主張に焦点を当てた。 裁判所は、この訴訟で争点となっている2つの政策上の懸念につき、(1) 行政府の権限と機能に対する侵害の可能性、(2) 大統領選挙の完全性と有権者の民主的に大統領を選ぶ能力の維持問題であると述べた。

 裁判所は「国民と行政府の双方が抱く刑事責任への関心は、大統領の行動を萎縮させ、厄介な訴訟を容認するという潜在的なリスクを上回る」と結論付けた。 トランプ大統領は、こうした責任は将来の大統領が危険な決断を下す意欲を抑制するだろうと主張したが、裁判所はそのような責任は「権力乱用や犯罪行為の可能性を阻止する」ことで政府に利益をもたらすと認定した。 裁判所は、合衆国憲法の下では、大統領が米国の法律を忠実に執行することを求めるテイク・ケア条項(Take Care Clause)(注10)の対象となると指摘した。「もし大統領が…処罰されずにこれらの法律に反抗できる唯一の役人だったとしたら、それは顕著な矛盾となるであろう」と裁判所は述べた。 そうすることは、「個々の国民が投票し、投票を数えてもらう権利」を損なう可能性があることになる。

 トランプ氏の3番目の主張を検討した結果、裁判所は弾劾判決条項(注11)が実際に「前大統領に対する最も強力な証拠」を提供したと認定した。トランプ元大統領は、この条項は大統領の責任は議会弾劾によってのみ問われることを意味していると主張したが、裁判所はその文言が「『法律に従って』弾劾された当局者の刑事訴追の選択肢を明示的に保持している」と認定した。

 D.C 控訴裁判所は、トランプ氏側の主張を却下し、「トランプ前大統領の解釈では、容易に弾劾の対象に分類されない犯罪(すなわち、「反逆罪、贈収賄、またはその他の重罪および軽罪」)の犯行も許可されることになり、上院議員30人が正しければ」犯罪は大統領が退任するまで発見されない」と述べた。同裁判所は、このような条項の解釈は、大統領が国王になることを阻止するという法制定者の目的と根本的に矛盾していると認定した。

 また裁判所は、この事件でのトランプ氏に対する告発は二重の危険(double jeopardy)(注12)に相当するというトランプ氏の主張も棄却した。 トランプ氏は以前、2021年1月6日のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件での役割を理由に下院(民主党が多数)で裁判にかけられ弾劾されたが、上院は弾劾罪で同氏に有罪判決を下さなかった。 たとえ弾劾があったとしても、裁判所は、そのような弾劾は同一または類似の事実に基づく将来の訴追を妨げるものではないと認定した。 裁判所は次のように書いている。

 「二重危険条項の先例の解釈によれば、トランプ前大統領の弾劾無罪は、次の 2 つの理由により、その後の刑事訴追を妨げるものではない。(1) 弾劾は刑事罰をもたらさない。 (2) 起訴状は、弾劾決議の単一の罪状と同じ罪を告発していない。」

Ⅲ-1.ニューヨーク州ニューヨーク郡裁判所係属の刑事事件

1.裁判概要

裁判所:

 ニューヨーク州ニューヨーク郡最高裁判所(supreme court)

起訴者

Manhattan district attorneyニューヨーク州マンハッタン地方検事(連邦裁判所管轄区の首席検事DA)アービン・L・ブラグ(lvin L.Bragg)

lvin L.Bragg氏

③事件の概要

  トランプ氏は2023年3月、2016年のアダルト映画スター(ストーミー・ダニエルズ(Stormy Danielss)氏 との不倫疑惑への13万ドル(約1950万円)の秘密保持契約(non-disclosure agreement )にもとづく口止め料(hush money)支払いや関連した重罪容疑等でマンハッタン地方検事によって刑事事件で初めて起訴された。すなわち検察は、トランプ氏が2016年の選挙の公平性・健全性を損なう違法な陰謀(Conspiring)に参加していたと主張した。 さらに、同検事は違法な業務・財務記録の改ざん等情報を隠蔽する違法な計画に参加していたと主張している。 一方、トランプ氏側は無罪を主張した。

 statement of facts URL:https://www.documentcloud.org/documents/23741577-read-trump-indictment-related-to-hush-money-payment

 ④裁判官

ファン・メルチャン(Juan Merchan)New York Supreme Court Judge(元検察官)

 Juan Merchan 氏

⑤トランプ側弁護士(Trump’s legal team)    

Todd Blanche 氏(Blanche Law com設立者 )(注13)

Susan Necheles 氏(Necheles Law LLP代表)

Joe Tacopina 氏(Tacopina Seigel & DeOreo代表)

 ⑤証人

Michael Cohen(元トランプ氏の顧問弁護士:2018年)(注14)

 

David Pecker氏  (右)

Stormy Danielss氏(45歳)

Karen McDougal 氏 (53歳)(右)

 ➅刑事責任

ニューヨーク州刑法第175.10に基づく第一級の業務記録等の改ざん等(FALSIFYING BUSINESS RECORDS IN THE FIRST  DEGREE Penal Law § 175.10)起訴状原本

ニューヨーク州刑法第175.10第一級業務記録偽造罪は、第二級業務記録改ざん罪を犯し、かつ、その詐欺の意図に別の犯罪を犯したり、その行為を幇助したり隠蔽したりする意図が含まれている場合に有罪となる。

第一級の業務記録の改ざんはクラス E の重罪である。

合計訴因数 34

 

 JURISTの法事実の詳細解説       

 

根拠法 

(ⅰ)Conspiring to defraud the US (18 U.S. Code § 371 - Conspiracy to commit offense or to defraud United States)                             

(ⅱ)Conspiring to corruptly obstruct and impede the US Congress (18 U.S. Code § 1512 - Tampering with a witness, victim, or an informant)                            

(ⅲ)Conspiring against US citizens’ right to vote (https://www.law.cornell.edu/uscode/text/18/241)                                      

 ⑨今後の裁判予定

 2024.2.26 The Hill記事「トランプ前大統領はストーミー・ダニエルズ、マイケル・コーエンがニューヨークの静けさのお金刑事裁判で証言することをブロックしようとしている」仮訳する。

 2024年2月26日の元トランプ大統領の口止め料審理(hush-money trial)でトンプ氏の弁護士は、ニューヨークの連邦裁判所の裁判官がトランプの最初の刑事裁判で証言することから主要な目撃者をブロックすることを要求した。

 トランプ氏の弁護士であるトッド・ブランシュ(Todd Blanche)氏は、トランプの元フィクサーであるマイケル・コーエン(Michael Cohen)とポルノ女優 ストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels) 元プレイボーイモデルのカレン・マクドゥガル(Karen McDougal)につき、トランプとの申し立てについて口止め料に支払った2人の女性からの証言を阻止するために移動した。

 トランプ氏のコーエン氏への賠償金の支払いは、マンハッタン地方検事アービン・L・ブラグ(lvin L.Bragg)(民主党)によるトランプ氏の刑事訴追の推進策でもある。ブラッグ氏は同事件を否認し、業務記録文書偽造の34件の容疑でコーエン氏や他の証人につき無罪を主張した。

 トランプ側の47頁にわたる動議(motion)は、証人の信頼性を徹底的に攻撃し、コーエン氏を「嘘つき」と非難し、ダニエルズが「虚偽」で「卑劣な」証言をするだろうと示唆している。

 またトランプ氏の弁護士らは、検察が口止め料の支払いを、2016年の大統領選挙前にトランプ氏に関する否定的な情報を隠蔽するための「捕まえて殺す」計画であると述べたことにも焦点を当てた。

  2月26日の検査官へのmotionの提出は、トランプ氏が裁判で特定の証言を導入することを阻止するため行われた。これには、トランプ氏が選択的に起訴されている主張や、コーエンの信頼性に疑問を投げかける司法省の提出書類が含まれていた。

 弁護人は、トランプ氏の民事詐欺裁判で、1月に終了したコーエン氏の証言内容を指摘し、コーエンは詐欺裁判で、彼とワイセルバーグ“リバースエンジニアリング”元大統領が好む数に到達するためのトランプの資産であると証言しましたが、反対尋問では、彼の発言を取り上げた。

 すなわち、「マイケル・コーエン 嘘つきである」トランプの弁護士が書いた。「彼は最近、トランプ大統領を含む民事裁判で、証言台と宣誓の下で偽証を犯した。彼の公式声明が何らかの兆候である場合、彼はこの刑事裁判で再びそうすることを計画している。裁判所は、この裁判所の完全性と正義のプロセスを保護するために、コーエンの証言を排除する必要がある」と述べた。

 トランプ氏の口止め料審理(hush-money trial)裁判は、3月25日にニューヨークで開始される予定である。これは、彼が直面する最初の刑事裁判—であり、元大統領がこれまでに直面したことのないものである。

 ブラッグ氏は2023年春、当時トランプ氏のフィクサーだったマイケル・コーエン氏への支払いに関連し、業務記録を改ざんした34件の罪でトランプ氏を起訴した。 コーエン氏は複数の女性に対し、トランプ氏との不倫疑惑について沈黙を守るよう報酬を与えていた。

 トランプ氏はこの事実を否定し、無罪を主張した。

 起訴直後、トランプ氏には秘密保持命令(protective order)が出され、証拠開示によって受け取った資料を公に開示することが禁止された。

 しかし、トランプ元大統領の証人らの言論制限要求は、トランプ氏が2024年3月25日に裁判に臨む数週間前に大きなエスカレーションを示している。

 トランプ氏は他の2件の事件でも自身に課されたgag orderを攻撃している。 同氏の弁護士らは法廷で、これらの制限はトランプ氏の核心的な政治的演説を抑圧し、大統領候補としての地位を強調するものだと説明し、依頼者の合衆国憲法修正第1条の権利を侵害していると主張した。

 NY裁判の陪審の選考は2024年3月25日に行われる予定。

 「そのような保護の必要性は切実である」と検察側は申し立ての中で書いている。 「被告には、陪審員、証人、弁護士、裁判所職員など、被告に対するさまざまな裁判の参加者について、公の場で扇動的な発言をしてきた長い歴史がある。これらの発言は、被告の追随者や同盟者から誘発される避けられない反応と同様に、この刑事訴訟の秩序ある運営に重大かつ差し迫った脅威をもたらし、重大な偏見を引き起こす可能性がかなり高い」と付け加えた。 gag orderは事件を監督するフアン・メルチャン判事の承認が必要となる。

-2. ニューヨーク州ニューヨーク郡裁判所の民事裁判

 ドナルド・トランプ前大統領の民事詐欺裁判判決の詳細とりわけD&O 保険および保証保険の調達詐欺裁判について、筆者の手元に弁護士Kevin M. LaCroix氏のブログ「The Insurance Part of the Massive Trump Civil Fraud Verdict」が届いた。

 その内容は、2月6日のニューヨ―ク州最高裁判所(注14-2)ドナルド・トランプ前大統領の民事詐欺裁判判決の詳細内容と、有罪判断の根拠である不正行為の疑いのある行為の中で、不実表示の疑いによる D&O 保険および保証保険の調達があったことの注目した点である。

 わが国メデイアでは詳しい判決内容は言及されていないことから(1) Kevin M. LaCroix氏のブログを仮訳、(2)は司法長官府の解説を引用する。

(1) Kevin M. LaCroix氏のブログの仮訳

 本ブログの読者は間違いなく、2024年2月16日、ドナルド・トランプ氏に対するニューヨーク民事詐欺裁判を主宰する判事、トランプ・オーガニゼーション(The Trump Organization)およびその関連団体、そしてさまざまなオーガニゼーションの幹部(トランプの息子2人を含む)が、被告に対して次のような裁判後の評決を下したことを知っているであろう。

 最終判決前の利息(pre-judgment interest )(注15)と合わせると、その価値は4億5,000万ドル(約670億5,000万円)を超える。 裁定の際、判事はトランプ氏と他の被告が銀行、保険会社、公務員に対し組織とトランプ氏の財務状況を不正に虚偽報告したと結論づけた。

 本ブログの読者にとって興味深いのは、不正行為の疑いのある行為の中に、不実表示の疑いによる D&O 保険および保証保険の調達があったことである。

 以下で説明するように、裁判所の判決の保険に関する部分には興味深い点がいくつかある。 2024 年 2 月 16 日のニューヨーク州 (ニューヨーク郡) 最高裁判所判事アーサー F. エンゴロン判事による判決および命令のコピーは、ここでご覧いただける。

1.事件の背景

  ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームス(Letitia James)は、2022年9月21日にドナルド・トランプ氏と他の被告に対して初めて民事訴訟を起こした。訴状では、ニューヨーク州司法長官法執行法第63条(12)に違反する詐欺的または違法な金融活動の疑いを含む7つの訴訟原因が主張されていた。) (1)業務記録の意図的な改ざん(intentional falsification of business records)、(2) 業務記録を改ざんに関する共謀(conspiracy to falsify business records)、 (3)虚偽の財務諸表の提出に関する共謀(conspiracy to submit false financial statements.)。

 訴状の第6訴因は、被告のアレン・ワイセルバーグ(Allen Weisselberg)氏とジェフリー・マコニー(Jeffrey McConney)氏(それぞれトランプ・オーガニゼーションのCFOと管理者(controller))が、ニューヨーク州司法長官法執行法第63条第12項ニューヨーク刑法第176.05条に違反して保険詐欺を犯したと主張した。 第 7 訴因では、被告全員に対する保険詐欺の共謀を主張した。

Allen Weisselberg氏(76歳) (左)

Jeffrey McConney 氏(69歳)

 保険詐欺疑惑は、トランプ・オーガニゼーションによる2017年1月のD&O保険の買収(ちょうどトランプが大統領に就任しようとしていた頃)と、2017年から2020年の期間中の保証保険の買収に関連していた。

 2023年9月26日、アーサー・エンゲロン(Arthur F. Engoron)判事は、訴状の最初の訴因(つまり、被告がニューヨーク州司法長官法執行法第63条(12)に違反する詐欺的または違法行為に従事したと主張する最初の訴因)に対する略式判決を求める司法長官の申し立てを認め、他の6件の訴因については2023年10月2日から裁判が始まった。

Arthur F. Engoron 氏

 エンゲロン判事が最近の判決で述べたように、司法長官は公平な救済(不当利得の吐き出し(disgorgement)  :差止命令(injunction)の付随的命令による救済の形で)のみを求めていたため、被告には陪審裁判を受ける権利がないと裁判所は述べた。 この事件はエンゲロン判事によって審理された。 法廷は最終的に43日間の公判で40人の証人の証言を聞いた。 裁判は2023年12月13日に結審し、裁判所は2024年1月11日に最終弁論を行った。

2.エンゴロン判決の概要

 エンゴロン判事の判決に要約されているように、公判証言の多くはトランプ大統領の財務状況報告書(SFC)の財務情報に関連していた。 ニューヨーク州の司法長官は基本的に、被告らはトランプ・オーガニゼーションのさまざまな不動産資産の高騰評価を反映してSFCを利用して、有利な金利での不動産ローンやその他の利益を得るため利用したと主張した。

 エンゴロン判事が要約した裁判証言の多くは、不動産資産の評価の問題に関連していた。 裁判証言の朗読は興味深い読み物となる。 多くの例の中で、さまざまな裁判証言によると、ブライアクリフ・ゴルフ・クラブの潜在的な付属ユニット71戸の評価額は4,350万ドル(約64億8,150万円)から4,500万ドル(約67億500万円)の範囲であったが、その資産は2016年、2017年、2018年のSFCに1億100万ドル(約150億4,900万円)強で引き継がれていたことが示されている。 トランプ ナショナル ゴルフ クラブ LA の評価額は 1 億 700 万ドル(約159億4,300万円)でしたが、2015 年の SFC では資産が 1 億 4,000 万ドル(約208億6,000万円)と評価された。 セブン・スプリングスの特定の建設用地の潜在的な建設地役権は、総合的に550万ドル(8億1,950万円)と評価されたが、2014年のSFCのバックアップデータでは、資産は「驚異的な」1億6,100万ドル(約239億8,900万円)とされていた。

 トランプの不動産資産に関する誇張の中には、本当に情けないものもあった。 トランプ氏はトランプタワーにある高級アパートの広さを水増ししたようだ。 2015年と2016年の財務諸表で、トランプ氏は自身のトリプレックス・アパートの広さは3万平方フィートを超え、評価額は3億2,700万ドル(約487億2,300万円)だと主張した。 アパートの実際の広さは10,996平方フィートであった。 トランプ大統領またはトランプ・オーガニゼーションがトランプ大統領の特定のオフィスビルの階数を誇張したとする裁判証言もあった。 例えば、トランプ大統領は、マンハッタンにある58階建てのトランプタワーは68階建てであると主張したと伝えられている。 判決の裁判概要には、他にも多数の同様の例が挙げられている。

 SFC で使用される資産評価が重要だったのは、SFC が、ドイツ銀行やその他の貸し手がトランプ・オーガナイゼーションへの信用供与と不動産融資を行うことに合意し、より有利な条件でそうすることに同意したための基礎だったためであり、信用と融資は延長された トランプ氏の個人保証に基づいてより有利な金利での支払いであったが、SFCに基づいて十分であると受け入れられた。 裁判所は最終的に、トランプ・オーガニゼーションがこの方法で確保した金利コストの削減は相当なものであったと結論付けた。 実際、エンゴロン判事が認めた巨額の金額のかなりの部分は、この方法で同社が確保した想定される利息コストの削減額を反映している。

 司法長官はまた、トランプ・オーガニゼーションが財務上の不正表示の疑いに基づいてD&O保険と保証保険を取得したと主張した。裁判所は、国際的な専門保険グループである HCC Global (「HCC」) の従業員マイケル・ホール(Michael Holl )氏と、2010 年から 2020 年までチューリッヒ保険の引受人を務めてたクラウディア・マルカリアン(Claudia Markarian)氏の証言を聞いた。

 ホール氏は、2016年12月にトランプ・オーガニゼーションの保険ブローカーから、同社のD&O保険の更新に関して連絡を受けたと証言した。 どうやら、トランプ大統領の就任式が近づいていることを考慮して、同社はD&O保険プログラムの責任限度額を500万ドルから5,000万ドルに引き上げたいと考えていたようだ。 ホール氏は、組織の財務諸表を見るためには、トランプタワーにある同社のオフィスで財務諸表を見る必要があったと証言した。 同氏のメモには、「財務資料はほとんど見ていなかった」が、2015年の貸借対照表は見たことが記されている。 貸借対照表には1億9,200万ドル(約286億800万円)の現金が反映されており、ホール氏はこれが「流動性の尺度」として意味があると証言した。 ホール氏のメモには、「重大な訴訟や誰からの連絡もなかった」と言われたことも反映されていた。 ホール氏は、財務情報と表明に基づいて、HCC が補償範囲を更新することを決定したと証言した。

 一方、マルカリアン氏は、トランプ会社の保証保険を引き受けるために、彼女も会社のオフィスを訪れて財務諸表を見る必要があったと証言した。 アレン・ワイセルバーグ(Allen Weisselberg)氏と同社のCFO監査役のジェフリー・マコニー(Jeffrey McConney)氏に会った。

 また彼女は、ワイセルバーグ氏がマルカリアン氏に代理した不動産保有物件が外部の評価会社によって毎年決定されたものである2018年と2019年のSFCも見せられた。 (エンゴロン氏は、トランプ・オーガニゼーションが専門の評価会社を一度も雇っていないことを明らかにした。)マルカリアン氏のメモには、彼女が会社の流動性の指標として手元現金の額を具体的に調べたことも反映されている。 ワイスルバーグ氏が公判で、トランプ・オーガニゼーションが不動産評価に専門の鑑定士を雇っていないと証言したことを知らされると、それが更新を承認するための分析に「重要」になっただろうと彼女は述べた。 彼女はまた、現金の額についての虚偽の表示が更新を承認するという彼女の決定に「大きな影響を与えた」だろうと証言した。

 エンゴロン判事はその調査結果と結論の中で、特に「チューリヒは、トランプ・オーガナイゼーションの保険契約の引受を決定する際に、ワイセルバーグ氏とマコニー氏による虚偽の表明と、SFCにある手持ち現金の額に関する意図的に虚偽で誤解を招く情報に依存した」と認定した。

 D&Oの更新に関して、エンゴロン判事は、2017年1月10日の会合の時点では捜査が進行中であったため、ホール氏に対する「重大な訴訟や誰からの連絡もなかった」という陳述は「虚偽」であると明示的に認定した。 司法長官室は、トランプ財団とトランプ家族のドナルド・トランプドナルド・トランプ・ジュニアイヴァンカ・トランプエリック・トランプに捜査を依頼した。彼らは全員トランプ・オーガニゼーションの理事および役員であり、捜査を知っていた。 エンゴロン判事は、更新方針が拘束される以前には、トランプ・オーガニゼーションの誰もが調査の存在をHCCに知らせていなかった、と認定した。 しかし、トランプ・オーガニゼーションは2年後、司法長官の捜査に起因する執行措置を求める申し立てを保険会社に提出した。

 エンゴロン判事の意見書には、「HCCが請求を認識したとき、引受会社はリスクのエクスポージャーが価格設定よりも大幅に高いと判断し、既存の保険料の5倍を超える更新保険を提示した」と述べられている。 また、エンゴロン判事は、2015年のSFCに反映されているように、HCCドナルド・トランプが手元に1億9,200万ドルの現金を持っているという虚偽の表示にさらに依存していたと認定し、「これは、SFCが約款にSFCを書くべきかどうかについてのHCCの分析に重要な役割を果たした」とエンゴロン判事は結論づけた。

 エンゴロン判事は法的結論の中で、ワイセルバーグ氏とマコニー氏がそれぞれ第6の訴因に基づき、「ニューヨーク行政執行法第63条(12)およびニューヨーク州刑法第176.05条(保険詐欺)に違反して、繰り返しかつ執拗に保険詐欺を行った」として責任を負っていると認定した。 エンゴロンによれば、ワイセルバーグ氏とマコニー氏は、両氏とも保険会議に参加し、「彼らはドナルド・トランプ氏のSFCについて、保険代理店に対し、彼の現金資産の価値を偽るなどの虚偽の説明を行った。 SFCは外部の評価から来ており、トランプ・オーガニゼーションに対する潜在的な請求権の存在について嘘をついていた。」 これらの行為のそれぞれにより、保険申請書に「保険会社を誤解させる目的で重大な虚偽の情報が含まれる」ことになった。

 エンゴロン判事は、保険金詐欺の公然行為を行ったのはワイセルバーグ氏とマコニー氏だけであると認定したにもかかわらず、保険金詐欺の共謀の第7の訴訟原因に基づいて被告全員が責任を負うと認定し、法的権限を引用して、公然行為は1人のみであると主張した。 陰謀を促進した共謀者の実態を明らかにする必要がある。 さらに同判事は、「各被告は事業記録や評価額を改ざんするという個々の行為によって、保険詐欺の陰謀を幇助し教唆し、実質的に詐欺的なSFCを意図的に保険会社に提出させた」と付け加えた。

 エンゴロン判事は、被告らが保険詐欺を犯した(または保険詐欺を共謀した)と結論づけたが、認められた救済は主に不動産ローンに関する虚偽表示の疑いに関連していた。 したがって、授与された巨額のうち約1億6,800万ドルは、トランプ・オーガナイゼーションが偽のSFCの使用を通じて確保した金利コストの節約に関連したものであった。 残りの裁定額のかなりの部分は、被告らがワシントンの旧郵便局ビルなど、特定の実質的な不動産資産の有益な売却を通じて確保した「不正に得た利益」に関係する。(資産売却益の返還に関する理論は、財務上の虚偽の表示がなければ、被告には資産を購入する余裕も、売却から利益を得る立場にもいなかったであろうということのようである)

 エンゴロン判事は、不当利得の吐き出し(disgorgement)という形での金銭的救済に加えて、さまざまな形での差し止めによる救済も認めた。トランプ氏、ワイスルバーグ氏、マコニー氏は、ニューヨーク企業の役員を3年間禁止される。 ドナルド・トランプ・ジュニアとエリック・トランプは2年間、ニューヨークの企業の役員または取締役としての勤務を禁止される。 トランプ大統領はニューヨークの金融機関からの融資申請を3年間禁止される。 トランプ・オーガニゼーションに内部統制と財務報告義務を確立し、遵守することを保証するために、新しい独立コンプライアンス担当ディレクターがトランプ・オーガニゼーションに設置された。 そして、エンゴロン判事が以前に命じた現在の監視員は引き続き同社の財務取引を監督することになる。

3.議論すべき同裁判判決の法的問題

 ニューヨーク州司法長官の申し立ての闇の中心は、トランプ、トランプ・オーガナイゼーション、およびその他のさまざまな個人被告が、その組織のさまざまな不動産資産の評価額を水増ししたということである。 認められた巨額の不当利得の吐き出し額は主に、トランプ・オーガニゼーションがSFC資産の虚偽表示を通じて達成したとされる利息コストの削減約1億6,800万ドルで構成されており、残り(判決前の利息適用前)は主に「不正行為」に関連している。 トランプ氏らは特定の不動産資産(ワシントンの旧郵便局ビルを含む)の売却を通じて利益を得たことを実感した。

 エンゴロン判事は、同社のD&O保険と保証保険の更新が保険詐欺によって調達されたことを明示的に認定したが、保険取引に関連して授与された不当利得の吐き出し額の一部は存在しない。 エンゴロン判事の判決では、保険申請の虚偽表示により、トランプ・オーガニゼーションが保険を取得できたか、あるいは本来受け取れていたであろうより有利な条件で保険を取得できたことが、明示的ではなく暗黙的に示されている。

 エンゴロン判事の判決は、虚偽報道の疑いによって組織がどのような利益を得たかを、それほど多くの言葉で明確に述べていない。 確かに、保険に関する裁判所の認定は、間違いなく、彼のさまざまな差止命令による救済(例えば、役員の禁止を含む)の裁定を裏付けた。 しかし、この決定は、保険の不当表示の申し立てと差し止め命令による救済との間に直接の関連性を示していない。

 保険の世界を長年観察してきた著者(Kevin M. LaCroix)にとって、保険の調達に関連した重大な虚偽表示が、州の司法長官による訴訟での不正認定の根拠となっているということは、ある意味新鮮なことのように思える。 通常、申請の虚偽表示の申し立ては、誤解を招くとされる保険会社によって主張され、求められる救済は、誤解を招くように調達された保険契約の取り消しである。 確かに、申請の虚偽表示が保険契約取り消しの根拠となる可能性があるというだけで、その虚偽表示が詐欺容疑の根拠となる可能性を排除するものではない。 政策撤回の代替手段の方がより馴染みのあるアプローチであるというだけである。

 少なくとも、エンゴロン判事による公判証言の朗読によれば、トランプ・オーガニゼーションが保険会社の代表者に対する虚偽の説明によってD&O保険と保証保険を調達したという実質的な裁判証拠が存在したようだ。 しかし、ワイセルバーグ氏とマコニー氏が保険会社の代表者に対して積極的な虚偽の陳述を行ったという証言はあるものの、その証拠を拡張して、被告全員が保険詐欺を行う共謀に関与したというさらなる法的結論を導き出すことは、説得力に欠ける。

  さまざまな被告がトランプとトランプ・オーガニゼーションの財務状況を強迫的に虚偽報告する常習的かつカジュアルな方法は、保険詐欺の任務を含む一般的な陰謀を包含するのに十分広範であったと述べている。 確かに、ワイセルバーグ氏とマコニー氏のあからさまな保険詐欺行為は、他の被告の利益のために行われた。 同様に、他の被告に対する保険詐欺陰謀の判決も説得力に欠けるようだ。

 財務状況報告書が水増しされた資産評価を反映しており、さまざまな被告がSFCを利用してトランプ、トランプ・オーガナイゼーション、およびさまざまな関連団体にさまざまな利益を調達したことは、おそらく、実質的な公判証言やその他の証拠によって裏付けられている。 同様に、裁判所の不正行為の認定にも不可解な点がいくつかある。 例えば、被告らが繰り返し指摘したように、被告らがSFCを利用して調達したさまざまな信用枠やローンはすべて意図したとおりに機能した。 すべての債務は期限内に全額返済された。 信用枠と融資は、最終的にはドイツ銀行にとって利益となった。

 エンゴロン判事は意見書でこれらの事実を明示的に認めたが、次のようにも述べた。「適時に全額返済したからといって、虚偽の陳述が市場に与える損害は消えるわけではない…虚偽の陳述にもかかわらず、被告が行ったことは議論の余地がない。 必要なすべての支払いを期限内に行う。 次のグループの貸し手はそれほど幸運ではないかもしれない。」

 市場を保護することは訴訟を正当化するかもしれないが、それが巨額の賠償金を正当化するのだろうか? 巨額の賞金の計算方法には奇妙な点がある。 前で述べたように、賞金総額のうち約 1 億 6,800 万ドルは、トランプ オーガニゼーションが詐欺的な SFC を使用して確保したと想定される利息コストの削減に相当する。 事実上、裁判所は、トランプ・オーガニゼーションがドイツ銀行から1億6,800万ドルをだまし取ったと主張しているようだ。 しかし、ドイツ銀行が一瞬でも 1 億 6,800 万ドルを騙し取られたと考えたとしたら、銀行自体が独自の詐欺救済策を追求するのではないではないか?

 そしてドイツ銀行は結局、どの程度まで騙されたのだろうか? ドイツ銀行関係者らは公判で、富裕層から個人財務諸表を提示されると、銀行は日常的かつ当然のこととして50%のヘアカットを適用していると証言した。 同行自身のやり方は、トランプ氏のような富裕層が定期的に資産を膨らませているという認識を反映しているようだ。 50%のヘアカットを考えると、実際のところ同銀行は誤解さえあったのだろうか? あるいは、別の言い方をすれば、虚偽表示とされる内容を誰も信じず、詐欺の被害者とされる人が被害を受けたと信じていない場合、本当に詐欺はあり得たのであろうか?

 そうは言っても、エンゴロン判事の書面による決定書は、被告たちが定期的かつ日常的にトランプとトランプ・オーガナイゼーションの財務状況を虚偽報告していたという強い印象を与えている。 また、エンゴロン判事は、デゴルジュマン賞の巨額と差し止めによる救済の厳しさを説明する際、被告が誤りを認めようとしないことだけでなく(「悔悟と反省の完全な欠如は病的ともいえる」)、 また、トランプ・オーガニゼーションの広範な「企業不正行為」の歴史についても言及し、とりわけエンゴロン判事は、トランプ大学に対する詐欺容疑と和解について言及した。 トランプ財団に対する詐欺疑惑とその解散。 トランプ大統領の就任に関連してトランプ・オーガニゼーションが過剰な手数料を受け取ったという告発の和解。 そして、事業記録の改ざん疑惑を含む15件の税金詐欺の刑事訴追に対する同社CFO(ワイスルバーグ)の有罪答弁。 これらの考察に基づいて、エンゴロン判事は、「裁判所が大幅な差止め命令を認めない限り、被告は不正行為を続ける可能性が高いと判断した」と述べた。

 被告であるトランプ氏らは間違いなく控訴するだろうが、 控訴がどうなるかはまだ分からない。 控訴裁判所は、公判証言に基づいて、差し止めによる救済の一部または全部が正当であり、適切であると結論付ける可能性が十分にある。 その一方で、控訴裁判所が巨額の不当利得の吐き出し(disgorgement)についてどう判断するかは非常に興味深い。 当該の金額が訴えに耐えられるかどうかを見るのは興味深いことになるであろう。

 なお、エンゴロン判事の判決の保険的側面に注意を促し、判決のコピーを提供してくれた忠実な読者に特に感謝する。

(2)ニューヨーク州司法長官府の解説

 内容的に上記と重複するのでプレスリリース参照。

Ⅳ.ジョージア州府フルトン郡検事がジョージア州RICO(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Act)違反で起訴

裁判所

ジョージア州フルトン郡上位裁判所(Superior Court of Fulton County)(注16)

② 裁判官

Judge :Scott McAfee 氏

Scott McAfee 氏

③起訴者:Fulton County District Attorney Fani T.Willis:

 Fani T.Willis 氏

④裁判の概要や経緯につき2023.8.15 JURIST blogを以下、抜粋し、仮訳する。

 ジョージア州フルトン郡大陪審は 2023年8月14日の夜遅くに13件の刑事告訴に関する元米国大統領ドナルド・トランプ氏を起訴した。合計41訴因の起訴状は、トランプが、同じく起訴された他の18人の個人とともに、2020年米国大統領選挙においてジョージア州の選挙プロセス中に干渉するために共謀したと主張している。トランプ氏は第4番目の刑事告発中のおいても、2024年の大統領選挙に向けてキャンペーンを続けている。

 これらの容疑には、ジョージア州での ①「威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations :RICO) Act)(注17)反1訴因、②公務員による宣誓違反)の教唆3訴因、③公務員になりすます陰謀1訴因、④陰謀のコミットにかかる2訴因、⑤ 第一級の文書偽造による陰謀のコミットにかかる2訴因、➅陰謀にコミットした2訴因、⑦実際に虚偽の陳述や書面を行った罪2訴因、⑧虚偽文書提出の陰謀1訴因、⑨虚偽の文書提出1訴因が含まれる。

 98ページにわたる起訴状には、トランプ氏と共同被告らが「(2020年11月3日の)選挙の結果を不法にトランプ氏に有利に変える」ために「関連する様々な犯罪行為に関与」した経緯を詳しく説明している。ジョージア州大統領選挙は接戦となったが、最終的に州内の有権者過半数が現大統領ジョー・バイデンに投票した。

 起訴状では、被告らの犯罪行為は2020年大統領選挙でジョージア州の選挙人が投票してから約2年後の2022年9月15日まで続いたと主張している。 大陪審はまた、アリゾナ、ミシガン、ネバダニューメキシコペンシルベニアウィスコンシンなどの州でも同様の取り組みへの言及があり、ジョージア州以外でも選挙干渉の取り組みの証拠を審問するようである。

 起訴状には、最初の訴因であるRICO法違反だけでも161件の犯罪行為が挙げられている。 起訴状によると、選挙当局が2020年大統領選挙の結果をバイデン有利と認定するのを阻止するために、トランプ氏と共同被告らはジョージア州議会議員、ジョージア州知事ブライアン・ケンプ(Brian Kemp)(共和党:60歳)ジョージア州務長官ブラッド・ラフェンスペルガー(Brad Raffensperger)(共和党:68歳)に対して影響力を行使しようとしたという。 ブラッド・ラフェンスペルガーは、トランプ前大統領が州選挙当局に対し、同州でのバイデン氏の選挙におけるリードを逆転するのに十分な票を獲得できるよう要求した悪名高い電話( NBC newsのyoutube音声)の受け手であった。

Brian Kemp 氏

Brad Raffensperger 氏

 また、起訴状は被告がジョージア州選挙運動員に嫌がらせをし、大統領(副大統領)選挙人(有権者)の偽の酷評(slate)を作成して普及させ、州から選挙データを盗んだと主張している, そして起訴につながったまさにその調査を妨害したとある。

 起訴状の公表後、フルトン郡地方検事ファニ・ウィリス(Fani Willis)は記者団に記者会見を行い、そこで彼女は以下のとおり語った。

 「ここにいる皆さんに思い出していただきたいのは、起訴とは、告訴を裏付ける相当の理由(probable cause)(注18)についての大陪審の決定に基づいた一連の告発にすぎないということである。 現在、公判において合理的な疑いを超えて、起訴状におけるこれらの罪状を証明することが私の検事局の義務である」

 起訴に応じて、トランプの大統領選挙キャンペーンは 起訴ステートメント。その中で、彼らはウィリス氏の調査は党派的であると主張し、それが2024年の大統領選挙におけるトランプの選挙入札に干渉する可能性があることを示唆した。起訴ステートメントは次のとおりである。

 「トランプ大統領に対する法的二重基準セットは終了しなければならない。… これらの活動は...アメリカの民主主義に対する重大な脅威を構成し、大統領に投票する正当な選択からアメリカ国民を奪おうとする直接の試みである。それを選挙の干渉または選挙の操作と呼ぶ—それは人々の選択を抑制するための支配階級による危険な努力である。それは反アメリカ人の行動ありで間違っています。

 また大陪審は、トランプの18人の共同被告の起訴を支持するのに十分な証拠を見出した。元トランプの弁護士であるルディ・ジュリアーニ氏やジョン・イーストマン氏などの一部の個人は、他の人物で頻繁に発生した名前である 係争中の訴訟 そして 周囲の放射性降下物 2020年の大統領選挙から。その他は、ジョージア州の選挙干渉のこれらの主張に固有である。さらに、起訴状には、起訴状の発行を担当する大陪審に知られていない30人の起訴されていない共謀者およびその他の個人の追加のキャッシュへの参照がある。

 8月14日の起訴で起訴された19人の個人はすべて、同日の午後12時(EST)まで、逮捕の令状に従って自発的にフルトン郡の役人に引き渡さなければならない。

【補足】Open Caucasus Media 記事「 ジョージア州民・ドリーム、トランプ大統領の選挙法拒否権を「不正に」覆すよう起訴」から抜粋、仮訳する。

 米国のジョージア州が再び大統領選挙を巡る政治的激動の中心にある。

 ファニ・ウィリス(Fani T. Willis)検察官は2023年7月、ドナルド・トランプ氏に対する数年にわたる捜査の一環として、大陪審に証拠を提示する予定だ。

 差し迫った起訴の最も明らかな兆候として、ウィリス氏は2023年8月14日と8月15日の陪審審理で証言するよう証人を呼んでおり、大陪審は同週起訴状を採決する可能性がある。

 ウィリス氏は同州での2020年大統領選挙の結果を覆そうとしたとされるトランプ氏の試みに焦点を当ててきた。

 陪審結果の発表の可能性を前に、司法当局はすでにアトランタのフルトン郡裁判所の外にバリケードを築いている。

 トランプ氏は不正行為を否定し、捜査は政治的動機に基づくものだと攻撃した。 同氏は依然として2024年の大統領選の共和党指名獲得の最有力候補である。

 本記事は2023年8月14日の週に何が起こるかについてのガイドである。

1.トランプ大統領ジョージア州でどのような罪に問われる可能性があるか?

 元連邦検事のニーマ・ラフマニ(Neama Rahmani)氏は、トランプ氏は不正投票や選挙不正など、詐欺や陰謀関連の罪に問われる可能性ならびに司法妨害の可能性もあると指摘している。

Neama Rahmani 氏

 ジョージア州の法律専門家も、ウィリス氏が前大統領をRICO法により恐喝容疑で告発すると予想している。この法律は組織犯罪に適用されることで有名である。しかし、ウィリス氏は、他の広大な事件でもそれを使用しているという評判を築いている。

 トランプのホワイトハウス時代の首席補佐官マーク・メドウズ(Mark Meadows)氏、弁護士ルディ・ジュリアーニ–(Rudolph William Louis "Rudy" Giuliani III)氏は、主張されているように、カリフォルニアの弁護士と政治家は、起訴された人々の中におり、すべてが不正行為を否定している。

Mark Meadows 氏

Rudolph William Louis "Rudy" Giuliani III 氏

 RICO法としても知られる同州の「恐喝・腐敗組織取締法」は、検察官が共通の目的や目的によって結びついたさまざまな犯罪を告発することを認めている。 また、首謀者と疑われる人物を指摘することも可能になる。

 エモリー大学の法学教授モーガン・クラウド(Morgan Cloud:Charles Howard Candler Professor of Law Emer)氏)(注19)は、「恐喝とは、州法か連邦法、あるいはその両方で違法とされている特定の行為を行うことと定義される。一つの犯罪だけでなく、相互に関連した一連の犯罪を行うことだ」と述べた。

 この場合、裁判の具体的な共通の目的はジョージア州の選挙結果を覆すことであるとクラウド氏は述べた。

2.ドナルド・トランプ裁判の法的問題はどれくらい大きいのか?

 米国の大陪審とは何か?トランプ氏がこの件で起訴されるのは初めてではない。

 2週間前、連邦司法省は複数のレベルでの大統領選挙干渉でトランプ氏等を起訴し、起訴状ではジョージア州での同氏の行為に多くの時間を割いた。

3.トランプ氏が起訴されたらどうなるのか?

 大陪審がトランプ氏の起訴を可決した場合、同氏は罪状認否手続きのため数日以内にフルトン郡裁判所に出廷する可能性がある。

 ある意味で、このプロセスは日常的なものとなっており、これは2020年の選挙介入、不正な口止め料の支払い疑惑、フロリダ州の政府機密ファイルの保管をめぐる連邦告発に加えて、トランプ氏にとって4度目の刑事告発となる。

 しかし、ジョージア州アトランタでの起訴はいくつかの重要な点で目立つ可能性がある。

 過去3回の起訴では、連邦裁判所の規定によりテレビカメラの使用が禁止されたが、マンハッタンの法廷ではフォトジャーナリストの入場が一時的に許可された。

 ただし、この件は地方裁判所の規則によりテレビで放送される可能性がある。 NBCニュースの報道によると、最終決定権は裁判長にあるが、申請は認められることが多いという。

1)トランプ氏が勝つのが最も難しいと思われる刑事事件はいずれか?

 3 つの全く異なるトランプ裁判について法廷研究者が語る。

 元連邦検察官のパトリック・コッター氏は、この呼び出しはおそらく今後のトランプ氏らの起訴の「最高の宝石」になるだろうと述べた。

 この被告らの電話による会話のニュースを受けて、ウィリス氏は2021年2月に捜査を開始した。

 起訴状によると、トランプ氏は司法長官やブライアン・ケンプ州知事など、州内の他の共和党幹部らにも支援を求めたというが、彼らはその事実を拒否した。

2)議員へのプレゼンテーション

 トランプ氏の仲間、特に弁護士のルディ・ジュリアーニ氏も、ジョージア州で不正投票やその他の陰謀論について虚偽の主張を広めた。

 連邦政府の起訴状によると、これにはジュリアーニ氏がジョージア州議員らに行ったプレゼンテーションにも含まれており、その中で彼は根拠のない主張を数多く行った。

 これらには、何千人もの死者が州内で投票したという主張が含まれていた。 ジョージア州世論調査員が投票に干渉し、議員が同州の正当な選挙人団の結果を認定を取り消す権限を持っていたことを主張した。 トランプ氏はソーシャルメディア上でこうした主張を拡大した。

 さらにジュュリアーニ氏は、フルトン郡の捜査の対象であることも明らかにした。

3) 偽の選挙人団計画

 また前大統領の同盟者らは、選挙人団(技術的に米国大統領を選出するシステム)の偽選挙人に、ジョージア州で同州で勝利し支持を得たバイデン氏ではなく、トランプ氏に投票させる計画を調整したとされる。 その選挙人団の投票計画は失敗した。

 連邦特別検事のジャック・スミス氏とジョージア州検察官のファニ・ウィリス氏はともに捜査において偽の選挙計画に焦点を当ててきた。

4) 選挙データの違法侵害

 最後に、トランプ陣営の弁護士がデータ会社と協力して、ジョージア州コーヒー郡の選挙システムから機密データをコピーしたと伝えられている。

 ワシントン・ポスト紙の調査によると、この事件はトランプ氏の弁護士らによる複数の州で投票機器にアクセスしようとする試みの一環だった。 ウィリス氏はこの事件に注目していると言われている。

5)元大統領はすべての不正行為を否定した。

 同氏の弁護士らはおそらく、同氏がジョージア州当局に投票の改ざんを明示的に依頼したことはないと主張するだろう。

 同氏は2020年4月、ラフェンスペルガー氏との電話会談は「まったく完璧」であり、電話に応じた弁護士の誰も不適切な指摘をしなかったと述べた。

 「何も間違ったことは言われなかった。実際、電話の終わりに、特にジョージア州における選挙不正について話し合いを続けることで合意したのみである」

米国大統領選挙の本来の争点とは?社会保障費に注目?(2024.3.17 補筆分)

  米国の社会保障支援事業団体である“Social Security Works”と連邦社会保障庁(Social Security Administration)(注20)の説明等から引用、仮訳する。

1.社会保障予算を巡る民主党共和党の対立

 米国社会保障団体であるSical Security  Works (注21)の予算案関係サイトから抜粋、仮訳する。

 3月11日、ドナルド・トランプ元大統領が社会保障の削減を呼びかける一方、ジョー・バイデン大統領は社会保障の保護と拡大を求める2025年度予算案を発表した。

 以下は、ソーシャル・セキュリティ・ワークスの理事長、ナンシー・アルトマン(Nancy Altman)氏の声明である。

Nancy Altman 氏

 3月11日朝、ドナルド・トランプはテレビに出演し、メディケアとメディケイドとともに社会保障の削減を要求した。これは、大統領候補としてあらゆる予算の削減を提案し、社会保障専用の資金を永久に廃止しようとしたトランプ大統領の記録と一致している。 さらに、社会保障の民営化と退職年齢の引き上げを求めるトランプ氏の過去の主張や、それを「ねずみ講」と中傷したことと一致している。

 これは、密室での社会保障とメディケアを削減することを目的とした委員会の創設を提案している下院共和党の2025年度予算案とも一致している。

 ジョー・バイデン大統領は本日、社会保障の将来について全く異なるビジョンを掲げた2025会計年度予算案を発表した。 バイデンの予算案では、社会保障の保護と拡充が求められており、億万長者や億万長者に応分の拠出を義務付けることでその費用を支払うことが求められている。

(2) 1月18日、下院予算委員会(House Budget Committee : Chairman Jodey C.Arrington (テキサス州選出・共和党)は、いわゆる 「2023年財政委員会法(Fiscal Commission Act of 2023)」を進めることを投票した。出席したすべての共和党員委員が賛成に投票した。

Jodey C.Arrington 氏

 *ビデオ: 公聴会中に、Social Security Worksのアレックスローソン事務局長は、委員会に反対する50万件を超える請願書を提出した。ジョディ・C・アーリントン委員長は、ローソン氏を逮捕することで対応した。

 「共和党は、社会保障とメディケアを削減するために設計された非公開の委員会を進めている。共和党員の多くはそれが彼らの目標ではないと主張しようとしたが、彼らは民主党の修正案を投票してそれらのプログラムの削減を除外し、代わりに億万長者に公平な分配を支払うことを要求した。

 委員会の民主党の大多数は委員会に合法的に反対した。ただし、少数の例外に民主党委員3人Scott Peters(D-CA)、Jimmy Panetta(D-CA)、Earl Blumenauer(D-OR)は賛成した(彼らはアメリカ人を後ろから突き刺し、ジョー・バイデン大統領を弱体化させた)。

 3月7日、ジョディ・アリントン委員長が仕切る下院予算委員会は、下院共和党「2025会計年度予算決議案(House Republican FY2025 budget resolution)」の審議を行った。 予算決議案は出席した共和党員全員の支持を得て委員会外で報告されたが、民主党員全員が反対票を投じた。

以下は、ナンシー・アルトマン氏の声明である。

 「この予算にはいわゆる『財政委員会』が含まれており、ホワイトハウスはこれを正確には社会保障とメディケアのための委員会と呼んでいる。 この委員会は、共和党が政治的責任を回避できるようにすることを目的とした、迅速かつ非公開のプロセスを通じて、重要な獲得利益を削減することを目的としている。この予算案に賛成票を投じた共和党議員全員が社会保障とメディケアの削減に投票した。法案上程の際、民主党社会保障とメディケアを保護するための多数の修正案を提案したが、共和党はそれらすべてを否決した。」

2. 大統領選挙で大きな争点となると考える米国の公的扶助制度

 わが国と大きく制度が異なるので補足する。厚生労働省の解説[2014 年の海外情勢]第2節 アメリカ合衆国(United States of America)社会保障施策から以下、抜粋(P.7以下)する。なお、SSIについては、野田 博也「アメリカの補足的保障所得(SSI)の展開― 就労自活が困難な人々に対する扶助の在り方をめぐって ―」を参照されたい。

(1)米国の公的扶助制度

 日本の生活保護制度のような、連邦政府による包括的な公的扶助制度はない。高齢者、障害者、児童など対象者の属性に応じて各制度が分立している。また、州政府独自の制度も存在している。

  主 要 な 制 度 は、 貧 困 家 庭 一 時 扶 助(Temporary Assistance for Needy Families:TANF)、補足的所得 保 障(Supplement Security Income:SSI)、 メディケイド、補足的栄養支援(Supplemental Nutrition

Assistance Program: SNAP(2008年10月より 食料スタンプ(Food Stamp)から名称変更))、一般扶助(General Assistance:GA)の5つである。

(2)特に筆者は補足的所得保障(Supplement Security Income:SSI)に注目し、SSAの2025年予算案に関する部分を仮訳する。

 連邦社会保障庁(SSA)では、2025バイデン・ハリス大統領予算案は次のことを行う。

(A)アメリカ人が自ら稼いだ社会保障給付を保護する。主管庁(SSA)は社会保障の保護と強化に力を注いでおり、社会保障給付を削減しようとするあらゆる試みや社会保障を民営化する提案に反対している。

社会保障の保護は、最高所得のアメリカ人に公平な負担を払うように求めることから始めるべきであると信じている。

②高齢者や障害を持つ人々、特に目的を達成するための最大の課題に直面している人々のために、社会保障給付とSSI給付を改善する取り組みを支援し、サービス提供を改善する。

SSAは、600万人を超える退職者、生存者、およびメディケア請求者のサービス提供を改善することを約束し, また、毎年200万人を超える個人が障害と補足的所得保障(SSI) (注22)を申請している。

④予算では、SSAの現地事務所、州の障害決定サービスでの退職者、障害のある個人、およびその家族のためのテレサービスセンターでのカスタマーサービスを改善するために、154億ドル(約2兆2,946億円)の裁量予算権限—  13億ドル(約1937億円)または9%の増加を2023年の制定レベル—に要求し、また,予算は、待ち時間を短縮することにより、SSAのサービスへのアクセスを改善する。

(B)事前資本とアクセシビリティの改善。

 この予算により、社会保障プログラムの厳格な管理と監視を維持しながら、対象となるすべての個人にアクセス可能な社会保障サービスを提供できる。SSAプログラムは、サービスが行き届いていないコミュニティや、サービスへのアクセスの障壁に直面している人々(低所得、限られた英語能力、精神的および知的障害を持つ個人、ホームレスに直面している人々など)に到達する必要がある。

 また予算案は、SSI申請プロセスを簡素化および更新し、特にサービスが行き届いていないコミュニティのためのアウトリーチ活動を通じてSSAプログラムおよびサービスへのアクセスを拡大するためのSSAの取り組みをサポートする。さらにITシステムを改善して、顧客により一貫性があり、公平で、アクセス可能な体験等を提供する。

 さらに従業員の面倒な手動プロセスを削減させる、すなわち National 800番号のセルフサービスオプションを増やし(注23); サイバー・セキュリティ・プログラムを拡張する。さらに、予算案は不適切な支払いの防止と解決を優先させる。

(C)全米規模で包括的な有給家族および医療休暇を提供

アメリカの労働者の大多数は、民間部門の労働者の73%を含む、雇用主が提供する有給の家族休暇を利用できていない。不釣り合いに女性と有色労働者である最低賃金の労働者のうち、94%は雇用主を通じて有給の家族休暇を利用できない。

 さらに、5人に1人の退職者が退職計画よりも早く退職し、国家の労働供給と生産性に悪影響するだけでなく、病気の家族の世話させるなど家族に悪影響を与える。

②予算案は、SSAが管理する全国的な包括的な有給家族および医療休暇プログラムを確立することを提案している。プログラムは次のことを行う。

1)家族や医療上の理由で休暇を取るために、労働者に進歩的で部分的な賃金交換を提供する。堅牢 な管理資金を含めるため、包括的な家族の定義を使用させる。

2)予算案は、適格な労働者が休暇を取ることができるように、最大12週間の休暇を提供する。重病の愛する人の世話; 彼ら自身の深刻な病気から癒させるとともに、愛する人の軍事展開から生じる状況に対処する。

3)家庭内暴力、性的暴行、またはストーカー行為からの安全を見つける—それ以外の場合は“安全休暇”として知られている。

4)予算案は、愛する人の死を悲しむために最大3日間を提供する。

3.2025年予算案のファクトシートのポイント

 バイデン氏の予算案はSSAのスタッフ、情報技術、その他の改善にも資金を提供し、同局の資金を2023年に制定された水準から9%増加させると述べている。

 また社会保障庁長官のマーティン・J・オマリー(Martin J.O’Malley)氏(民主党)は3月11日、声明で「政権は高齢者や障害者、特に家計のやりくりに大きな困難に直面している人たちに対する社会保障給付やSSI給付金を改善する取り組みを支援する」と述べた。一方、トランプ大統領「予算削減に関してはできることはたくさんある」と述べた。

Martin J.O’Malley氏

********************************************************************:

(注1) 川崎友巳「アメリカ経済刑法における RICO 法違反の罪の意義」(同志社法学 71巻6号[通巻409号](2020))参照。なお、同論文は、ジョージア州RICO法(注17)参照)には言及していない。

(注2) On November 18, 2022, Jack Smith was appointed by Attorney General Merrick B. Garland to serve as the Special Counsel by Order No. 5559-2022.

連邦司法省のJack J.Smith特別検事に関するリンクサイト

(注3) プラウド・ボーイズ( Proud Boysとは、アメリカ合衆国およびカナダの男性のみによって構成されるネオ・ファシズム思想を有するオルタナ右翼団体。カナダ公安省によりテロ組織登録されている。

アメリカで2021年1月にあった連邦議会襲撃事件をめぐる裁判で、極右団体「プラウド・ボーイズ」の元リーダー:ヘンリー・"エンリケ"・タリオ(Henry "Enrique" Tarrio,Henry:40歳)に2023年9月5日、扇動共謀罪などで拘禁刑22年が言い渡された。同国の民主主義の中枢を襲ったこの事件の首謀者に対する量刑としては、これまでで最も重い。(2023年9月6日BBC news日本語版から抜粋)

*2023.5.5 BBCnews: 2021年1月6日の米連邦議会襲撃事件について、首都ワシントンの連邦地方裁判所陪審は5月4日、極右団体プラウド・ボーイズの4人に対して扇動共謀の罪で有罪の評決を下した。同じ罪で起訴されていた5人目についても、同罪では無罪評決を出したものの、他の複数の重罪で有罪と評決した。

連邦議会襲撃事件では、2020年米大統領選でジョー・バイデン氏の当選を認めず、選挙結果を覆そうとしたドナルド・トランプ氏の支持者らが、バイデン氏の当選認定手続きを阻止しようと議事堂に乱入した。プラウド・ボーイズは当日、100人以上がこの襲撃に参加し、大きな役割を果たしたとされる。

*2023.9.1 BBCnews:および米連邦司法省のリリース

 アメリカで2021年1月にあった連邦議会襲撃事件をめぐる裁判で、極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダーのジョー・ビッグス(Joe R.Biggs 39)は2023年8月31日、拘禁刑17年の刑と監視付き釈放36か月の判決を受けた。また共同被告ザカリー・レール(Zachary Rehl)被告( 38歳)は拘禁刑15年と監視付き釈放36カ月の判決を受けた。

 2人は2021年1月6日の連邦議会議事堂侵入に関連した扇動陰謀およびその他の容疑であり、彼らの行動は、2020年大統領選挙の認定に必要な選挙人票の確認と集計の過程にあった米国議会の合同会議を混乱させたというものである。

 首都ワシントンの連邦地裁で開かれた裁判で、検察側は陸軍退役軍人で陰謀論サイト「インフォウォーズ」の特派員だったビッグス被告について、議会襲撃の「扇動者」だったと主張していた。同被告は2023年5月、扇動共謀罪18 U.S. Code § 2384 - Seditious conspiracy(注3-2)などで有罪評決を受けていた。

Joe R.Biggs ジョー・ビッグス被告(BBC new から抜粋)

(注3-2) 扇動共謀罪(18 U.S. Code § 2384 - Seditious conspiracy): いずれかの州または準州、あるいは米国の管轄下にある場所で、二人以上の人物が、米国政府を打倒、鎮圧、武力破壊すること、または米国政府に対して戦争を起こそうと共謀した場合、 またはその権限に武力で反対すること、または米国法の執行を武力で阻止、妨害、遅延させること、あるいはその権限に反して米国の財産を武力で押収、奪取、占有したときは 、彼らはそれぞれ、本編に基づいて罰金を科されるか、20年以下の拘禁刑、あるいはその両方が科せられる。(コーネル大学ロースクールの解説2/6(109)を仮訳)

(注4) Oath Keepers:護憲派(を自称する極右団体)。“oath”(誓い)は、アメリカ合衆国憲法に記された国民の権利、とりわけ「政府の横暴に対して実力で抵抗する権利」への誓いを意味する。彼らの目には、オバマ政権による医療保険改革も金融業規制も「政府の横暴」と映っている。(Imidas  から抜粋)

(注5) ケネス・j・チェセブロ(Kenneth John Chesebro) 

(注6) テキサス州の弁護士、シドニー・パウエル氏(68歳)は 2020年の選挙で敗北した後、ドナルド・トランプ前大統領の法務チームに加わった, ジョージア州の選挙干渉事件でいくつかの軽犯罪につき有罪を認めた。

 フルトン郡フルトン郡上位裁判所のスコット・マカフィー裁判官の前に現れ、彼女は6年間の保護観察を行い、 6,000ドル(約88万8,000円)の罰金を支払うこと、 2,700ドル(約39万9,600円)をジョージア州国務長官の事務所に支払うこと、ならびに共同被告たる裁判で誠実に証言することに同意した。

 パウエル氏は選挙詐欺に関する陰謀論を広めるのを助けた。当初、パウエル氏はジョージア州の訴訟で7件の重罪容疑に直面した。これには、選挙詐欺を犯すための威力脅迫および腐敗組織に関する陰謀が含まれ。検察官との交渉により、パウエル氏は元の容疑で有罪とされた場合に直面したよりもはるかに低い罪で判決が下された。

 パウエル氏は、彼女の裁判のための陪審員の選択が始まる予定の1日前に有罪の嘆願書に入った。彼女は起訴状で指名されたトランプ氏を含む19人の被告の1人であり、司法取引を受け入れた2人目である。

(注7)元トランプ氏キャンペーン弁護士ジェナ・エリス(Jenna Ellis) 氏は ジョージア州の選挙転覆事件で2023年10月23日に有罪を認め、フルトン郡の検察官–過去1週間で3番目の有罪の嘆願に協力した。

 アトランタ裁判所での予定外の公開審理で、エリス氏は虚偽の発言を支援および禁ずる1カウントにつき有罪を認め, 選挙に起因する重罪の背景は、エリスと他のトランプ氏の弁護士が2020年12月にジョージア州の議員に売り出したことである。

 彼女は5年間の保護観察の判決を受け、 5,000ドル(約74万円)の賠償金を支払うよう命じられた。

 エリス氏は10月23日に有罪を認めながら裁判官に涙の声明を発表し、2020年の選挙を覆そうとするトランプ氏の前例のない試みへの彼女の参加を否定した。

 エリス氏、チェセブロ氏、パウエル氏はすべて、将来の裁判で検察に代わって証言することに同意した。裁判ではじきだされたこれらのかつてのトランプ弁護士は現在、主要なトランプ氏の悪の元凶になるために軌道に乗っている。彼らはすべて弁護士であり、起訴側に2020年に舞台裏で起こっていたことに光を当てることができる。

 検察官にとって、もともと19人を請求するという 広大な裁判ケースで。これまでのところ、4人が有罪を認めている。(2023.10.24 CNN new から抜粋、仮訳)

(注7-2) 2023.9.16 BBC news 「米特別検察官、トランプ前大統領による裁判関係者の威圧や中傷を禁止するよう裁判所に請求」

(注8) 18 U.S. Code § 793 - Gathering, transmitting or losing defense information

(e)Whoever having unauthorized possession of, access to, or control over any document, writing, code book, signal book, sketch, photograph, photographic negative, blueprint, plan, map, model, instrument, appliance, or note relating to the national defense, or information relating to the national defense which information the possessor has reason to believe could be used to the injury of the United States or to the advantage of any foreign nation, willfully communicates, delivers, transmits or causes to be communicated, delivered, or transmitted, or attempts to communicate, deliver, transmit or cause to be communicated, delivered, or transmitted the same to any person not entitled to receive it, or willfully retains the same and fails to deliver it to the officer or employee of the United States entitled to receive it; or

(注8-2) 2023.9.15 米特別検察官がコロンビア地区連邦地裁「政府は裁判所に対し、司法の適正な運営と公正かつ公平な陪審を確保するために以下の即時措置を講じることの超法規的措置を確保するための政府の要請申立て:本声明はこれらの訴訟を不利にするものではない(GOVERNMENT’S OPPOSED MOTION TO ENSURE THAT EXTRAJUDICIAL :STATEMENTS DO NOT PREJUDICE THESE PROCEEDINGS)」(全19頁)から一部抜粋、仮訳する。

 この事件で大陪審が起訴状を差し戻して以来、被告(ドナルド・J・トランプ)はコロンビア特別区の住民、裁判所、検察官、証人候補者を攻撃する公式声明を繰り返し広く広めてきた。 被告は供述を通じて、我が国の司法制度において陪審の評決は「公開法廷での証拠と弁論によってのみ導かれる」という「逸脱の原則」に反して、これらの訴訟手続きの健全性を損ない、陪審員に偏見を与えると脅している。 外部からの影響によるものではない」 シェパード対マクスウェル、384 US 333, 351 (1966) (引用は省略)。

 「外部からの不利な干渉からプロセスを保護する」という裁判所の義務に従って、同上。 第 363 条で、政府は裁判所に対し、司法の適正な運営と公正かつ公平な陪審を確保するために以下の即時措置を講じることを要請する: (1) 地方刑事規則 57.7(c) に従って、特定の不利な超法規的判決を制限する、厳密に調整された命令を下すこと。 声明。 (2) いずれかの当事者がこの地区の住民との接触を伴う陪審調査を実施する場合、陪審調査が裁判員に不利にならない方法で実施されることを裁判所が保証できる命令を締結する。 政府は被告の弁護士から被告の立場を聴取しており、被告はこの動議に反対している。」

(注9) マイケル・ドリーベン(Michael Dreeben)氏は、米国連邦司法省の法務長官室に 30 年以上勤務し、そのうち 24 年間は連邦最高裁判所で政府の刑事事件を担当する法務長官代理(Deputy Solicitor General)を務めた。現在O’Melveny & Myers LLP.のパートナー、ハーバード大学ロースクール講師、ジョージワシントン大学ロースクール名誉講師を任務。

(注10)テイク・ケア条項(Take Care Clause)

 合衆国憲法ArtII.S3.3.1は大統領が「法律が忠実に執行されるよう配慮しなければならない義務」と規定している。 この義務には、少なくとも 5 つのカテゴリーの行政権が含まれる可能性がある。(1) 第 2 条の冒頭および後続の条項によって、憲法が大統領に直接与える権限、 (2) 議会の法律によって大統領に直接与えられる権限、 (3) 議会法によって連邦政府の各省およびその他の執行機関の長に与えられる権限、 (4) 米国の刑法を執行する義務から暗黙のうちに生じる権力、 (5) いわゆる「公務」を遂行する権限。これに関して連邦政府最高幹部は、解任の機会や方法に関して限られた裁量権を行使できる。

 以下の解説では、1)憲法や法令が大統領に与えている権限を大統領がどのように行使するのか、2)テイク・ケア条項と大統領の罷免権ひいては監督権との関係、3) 誰が彼に代わって行政権を行使するのか、そして4)議会が行政府職員の行動をどこまで指示できるのか等、これらの行政権によって提起される疑問のいくつかを検討する。(以下は略す。)(コーネル大学ロースクールの解説から抜粋、仮訳)

(注11) ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾手続の経緯

 合衆国憲法第2章第4条は、「第 4 条 [弾劾]大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる」と規定している。

 同憲法の第1章第2条第5項は、下院は、議長その他の役員を選任する。弾劾の訴追権限は下院に専属する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

 これを受けて下院は2019年12月18日、権力乱用と議会妨害の2項目について大統領を弾劾訴追した。

 下院民主党による弾劾調査は、情報機関の匿名告発者が2019年9月に、トランプ氏とウクライナ大統領との電話会談に問題があったと議会に報告したことを機に始まった。

 ホワイトハウスが公表した通話記録によると、トランプ氏は7月25日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話で、2020年の大統領選で対立候補になるかもしれない民主党のジョー・バイデン前副大統領とその息子について捜査するよう働きかけていた。

 民主党が進めた調査で複数の関係者が証言したところによると、トランプ氏は政敵に対する捜査要求と引き換えに、すでに米議会が承認していたウクライナへの軍事援助4億ドルの凍結解除を提示したほか、ホワイトハウスでの首脳会談の実現を提示したとされている。下院本会議をこれを権力乱用と認めて、大統領を弾劾訴追した。

 下院民主党が2019年9月に、トランプ氏がウクライナ大統領に何を働きかけたのか調査を開始すると、トランプ氏はホワイトハウス関係者の証言を次々と阻止した。下院本会議はこれを、議会妨害と認めて、大統領を弾劾訴追した。

【上院の弾劾権限】とは

 弾劾に関する合衆国憲法の規定はあいまいで、第1章第2条第5項では下院が「弾劾の権限を専有する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

 そして、憲法第1章第3条第6項は「すべての弾劾を裁判する権限は、上院に専属する。この目的のために集会するときには、議員は、宣誓または宣誓に代る確約*をしなければならない。合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合には、最高裁判所長官が裁判長となる。何人も、出席議員の 3 分の 2 の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない。」

*宗教上の理由などから宣誓できない場合に、これに代えて行う宣誓同様の陳述

 第1章第3条第 7 項は「弾劾事件の判決は、職務からの罷免、および名誉、信任または報酬を伴う合衆国の官職に就任し在職する資格の剥奪以上に及んではならない。但し、弾劾につき有罪判決を受けた者が、法にもとづいて、起訴、公判、判決、または処罰の対象となることを妨げない。

 1868年2月に始まった当時のアンドリュー・ジョンソン( Andrew Johnson, 1808年12月29日 - 1875年7月31日)は、アメリカ合衆国の政治家。第16代副大統領および第17代大統領を歴任)に対するものがアメリカ建国史上、大統領への初の弾劾裁判となり、この時に定まった手続きがその後も総則として引き継がれている。しかし、究極的には、今回の弾劾裁判で証拠や証人をどう扱うか、審理の期間や弁論をどうするかなどを決めるのは、共和党幹部のアディソン・ミッチェル・マコーネル Jr.(Addison Mitchell McConnell, Jr.)上院院内総務(2024年11月退任予定: 82歳)と、民主党のチャック・シューマー(Charles Ellis "Chuck" Schumer)民主党:72歳)上院院内総務ということになる。

(注12)米国の二重の危険(double jeopardy):同一の行為に関して民事制裁金と刑事処分を課すことは、一般に二重の危険には当たらないとされている(1997年Hudson vs. United States連邦最高裁判例

(注13)トッド・ブランシュ(Todd Blsnche) :トップクラスのホワイトカラー刑事弁護人で元連邦検察官。

(注14) Michael Cohen(元トランプ氏の顧問弁護士)

 アメリカ人の元弁護士で、2006年から2018年までドナルド・トランプ元大統領の弁護士を務めた。コーエン氏はトランプ・オーガニゼーションの副社長およびトランプ氏の個人顧問を務め、しばしばトランプ氏のフィクサーと言われている。 コーエン氏はトランプ・エンターテインメントの共同社長を務め、子供の健康慈善団体であるエリック・トランプ財団の理事も務めた。 2017年から2018年まで、コーエン氏は共和党全国委員会の財務副委員長を務めた。

 トランプ元大統領は、2016年の米選挙へのロシア介入に関する特別検察官の捜査が始まった1年後の2018年5月までコーエン氏を雇用していた。 2018年8月、コーエンは選挙資金違反、税金詐欺、銀行詐欺など8つの罪状で有罪を認めた。 コーエン氏は、2016年の大統領選挙に「影響を与えることを主な目的として」トランプ大統領の指示で選挙資金法に違反したと証言した。 2018年11月、コーエン氏はモスクワのトランプ・タワー建設の取り組みについて米連邦議会委員会に虚偽を述べたとして有罪を認めた。(Wikipedia から抜粋し、仮訳)

(注14-2)ニューヨーク州最高裁判所の詳細については筆者ブログ(注1)を参照。

(注15) 最終判決前の利息(pre-judgment interest ); prejudgment interest: 裁判で勝訴が決定された時点から、最終判決が下される時点までの金銭の使用の損失の補償として、訴訟の勝訴当事者に与えられる利息(Marriam -Websterを仮訳)

(筆者ブログ(注2)参照)。

(注16) ジョージア州フルトン郡上位裁判所(Superior Court of Fulton County)

(注17) Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Actにつき  Poole Huffman 弁護士事務所の解説から抜粋、仮訳する。

 ジョージア州Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Act)法は、州の恐喝者および腐敗組織取締法を作成する際、州議会は連邦の RICO 法をモデルとして使用した。 ただし、ジョージア州 RICO 法 (OCGA 16-14-4) にはいくつかの相違点があり、連邦法に比べてはるかに広範である。

  最も重要な 2 つの違いは、連邦 RICO 法では継続性と企業の証明が必要であることです。 対照的に、ジョージア州 RICO 法は、短期間しか活動していない個人や計画を訴追するために使用できる。

 民事訴訟において、RICO法 は被害を受けた企業や個人が損害を回復するために使用できるツールである。 すなわち、RICO 請求を提起する場合、当事者は私設司法長官または公益弁護士(private attorneys general)になる。 彼らは3倍(原告の損害賠償額の3倍)を回収でき、場合によっては弁護士費用も回収できる。

 残念なことに、RICO 法は訴訟で乱用されており、単純な契約事項違反がしばしば持ち込まれています。 本質的に被告は犯罪行為で告発されているため、これらの問題を弁護することは困難であり、賭け金も高くなる。

 通常、ジョージア州 RICO 法に基づいて起訴される犯罪の種類は、数千件の取引または複数の被害者が関与する複雑な犯罪計画です。 ジョージア州RICOに基づいて起訴されるためには、その基礎となる犯罪が恐喝行為である必要があります。 恐喝行為として認定される犯罪類型は、OCGA 16-14-3 にリストされている。

 RICO法 は当初は組織犯罪と闘うためのツールとしてスタートしたが、今日の検察は従業員の横領事件、ポンジスキーム(ねずみ講詐欺)、クレジットスキーム(credit schemes)、複雑な投資スキーム、または総額 10 万ドルを超える一連の窃盗事件を起訴するために RICO を使用している。 この法律は、商業賭博事件、鎮痛剤(オピオイド)クリニック(または丸薬製造所)(pain management (opioid) clinics (or pill mills)、公務員の訴追にもよく使用されている。

 RICO 法は OCGA 16-14-4で成文化されている。 RICO 犯罪には最高 20 年の拘禁刑と、25,000 ドルまたは金銭的不当利得の 3 倍のいずれか大きい方の罰金が科せられる。両罰の併科もある。

(注18) 推定原因(probable cause)は、警察が逮捕、捜索を行う、または令状を受け取る前に通常満たされる必要がある憲法修正第 4 条にある要件である。 裁判所は通常、犯罪が行われたと信じる合理的な根拠がある場合(逮捕の場合)、または捜索する場所に犯罪の証拠が存在する場合(捜索の場合)に相当原因を認定する。緊急の状況では、推定の原因によって令状のない捜索や押収が正当化される場合もある。令状なしで逮捕された者は、推定原因の迅速な司法判断のため、逮捕直後に管轄当局に連行されることが義務付けられている。

コーネル大学ロースクールの解説から抜粋、仮訳

 合衆国憲法修正第4条(仮訳)は、「不合理な捜索および押収に対し、身体、家屋、書類および所有物の安全を保障されるという人民の権利は、これを侵してはならない。令状は、宣誓または確約によって裏付けられた推定原因(probable cause)に基づいてのみ発行され、かつ捜索すべき場所、および逮捕すべき人、または押収すべき物件を特定して示したものでなければならない。」 本条は直接には捜索・押収(Search and Seizure)についての規定であるが、ここにいう押収には、「人の押収」すなわち逮捕(Arrest)が含まれるとするのが米国における判例・通説である」(Weblio 辞書から抜粋)

Amendment IV

The right of the people to be secure in their persons, houses, papers, and effects, against unreasonable searches and seizures, shall not be violated, and no warrants shall issue, but upon probable cause, supported by oath or affirmation, and particularly describing the place to be searched, and the persons or things to be seized.

(注19)クラウド教授のサイトでは、ファニ・ウィリス検事のトランプ氏等の起訴にかかる各種報告等をリンクさせている。

(以下、2024.3.17 補筆分)

(注20)  社会保障庁(Social Security Administration:SSA)は、アメリカ合衆国連邦政府の独立機関の1つ。社会保障(ソーシャルセキュリティ)および社会保険プログラム(年金・障害者保険・公的扶助)を扱う。これらの福祉を支えるため、アメリカの労働者のほとんどが所得から社会保障税を支払っている。(Wikipedia から抜粋)

(注21) Social Security Works(社会保障事業団)のHPから仮訳する。

 社会保障事業の任務・使命は、以下のとおり。

①恵まれない人々やリスクにさらされている人々の経済的安全を保護し、改善する。

②現在または将来、社会保障に依存している人々の経済的安全を守る。

③社会正義の手段として社会保障を維持する。

 社会保障事業団の資金は、一般からの寄付と、オープン ソサエティー財団、退職研究財団、CREDO、市民参加活動基金などの財団からの助成金によって賄われている。 社会保障事業団 は、Atlantic Philanthropies からの寛大な助成金を受けて設立された。

(注22) 補足的所得保障(Supplement Security Income:SSI)は、連邦政府による低所得者に対する現金給付制度であり、65歳以上の高齢者又は障害者のうち資産及び所得に関する受給資格要件を満たす者が対象となる。新規無資産受給者に対する連邦の所得保障の給付上限月額は、710ドル(2013年)である。なお、他からの収入がある場合やOASDIなど他から給付所得がある場合には、補足的所得保障の給付額は減額される。また、多くの州において連邦所得保障に州独自の上乗せ支給を行っている。2013年12月現在のSSIの受給者は約840万人であり、約54億ドルが給付されている。

(注23) SSA現地事務所とNational 800 番に関する社会保障計画に関する解説仮訳する。

 月曜日が来ると、社会保障庁の現地事務所ほど忙しい場所はない。 多くの人が週末後にやって来て、給付金について問い合わせたり、新しい社会保障カードを申請したり、保険請求に関して社会保障に必要な情報を提供したりする。 現場事務所でのサービスの待ち時間は非常に長い場合がある。

 社会保障のNational 800番 から情報を入手しようとすることは、多くの人が実際の人と話すまでに電話で 1 時間以上待つのと同じくらい難しいことである。 現地事務所やNationall800番への電話での待ち時間に応えて、社会保障庁は、2019年度予算で提供される以下の情報により、これらの問題を是正するという目標を発表した。(以下、略す)

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わが国のAI立法の在り方を見据える観点からEUのAI規則案(AI法案:Artificial Intelligence Act)の最終段階を改めて探る

Last Updated:March 14, 2024

 EU欧州議会は3月14日、史上初の人工知能(AI)法を可決した。 この法案は議員の85%の賛成多数で可決された。 AI システムがプライバシー、人間の尊厳、基本的権利を確実に守りながら、AI に関連するリスクを軽減することを目的としている。

 ChatGPTなどの汎用人工知能(General-purpose AI models )テクノロジーは、AIシステムの構築と展開の方法を急速に変革している。これらのテクノロジーは今後数年間で大きなメリットをもたらし、多くのセクターでイノベーションを促進することが期待されているが、一方でその破壊的な性質は、プライバシーと知的財産権、責任と説明責任に関する政策問題等を提起する。

 そして、偽情報と誤った情報を広めるこれら技術導入の可能性についての大きな懸念も生じている。

 EU議会の議員は、適切な保護手段が整っていることを確認しながら、これらのテクノロジーの導入を促進することの間で微妙なバランスをとる必要があり、2018年以降取り組んできたAIに関する史上初の法的枠組みにつき、欧州議会213 日、欧州議会の「域内市場および消費者保護に関する委員会IMCO)」と、「市民的自由・司法・内務委員会 (LIBE)」は、EU が提案した AI 法案の採択を圧倒的多数で可決、本年4月の最終可決段階に入る。

 本ブログは最終段階の法案の修正内容を改めて整理する目的でまとめた。また、ブログの執筆のあたり、欧州議会や委員会の公式資料だけでなく、EUの主要AI研究者の顔ぶれ等についても補足、言及した。(その他、欧州 AI 事務局(European AI Office)の青写真問題などがあるが、別途整理する)

 なお、本ブログで引用するとおり、わが国のAI法案の検討は2月中旬に自民党「党AIの進化と実装に関する社会推進本部の下にあるプロジェクトチーム(PT、座長・平将明衆院議員)は、責任あるAI利活用を推進するための法制度の在り方について検討を進めている」という。

 また、文化庁「公開時点において議論・検討中である AI と著作権に関する論点整理の項目立て及び記載内容案の概要」等を公開しているのみである。

  

1.EU委員会の AIに関する史上初の法的枠組み検討経緯(European approach to artificial intelligence Milestones)サイト解説

 欧州委員会サイト“European approach to artificial intelligence”から一部抜粋、仮訳する。

 同委員会はAIに関する史上初の法的枠組みを提案しており、これはAIのリスクに対処し、欧州が世界的に主導的な役割を果たす立場を確立するものである。

  AI 法は、AI の開発者、導入者、ユーザーに、AI の特定の用途に関する明確な要件と義務を提供することを目的としている。 同時に、この規則は企業、特に中小企業(SME)の管理的および財政的負担を軽減することを目指している。

 AI は、より広範な AI パッケージの一部であり、AI に関する最新の調整計画も含まれています。 規制の枠組みと調整計画が連携することで、AI に関して人々と企業の安全と基本的権利が保証される。 そして、EU全体でAIの導入、投資、イノベーションを強化することになる。

2.2021年以降のAI規則案(AI法案)の検討経緯

  前述のとおり、欧州委員会が2021年4月21日にAI規則案(AI法案)の検討開始を公表しているが、主要なAI規則案の検討経緯をまとめたレポートがあるので、以下引用する。

 2023年 7月 6日国際社会経済研究所 小泉雄介氏「EUのAI規則案の欧州議会修正案と顔識別システム等に対する規制動向」から以下、一部抜粋する。

◎AI規則案の審議状況

3.2024 2 13 日、欧州議会の「域内市場および消費者保護に関する委員会(IMCO)」と、「市民的自由・司法・内務委員会 (LIBE)」は、EU が提案した AI 法案の採択を圧倒的多数で可決

 2024.2.28 Inside privacy blog EU AI : 侵害本文からの重要なポイントから抜粋、仮訳する。なお、必要に応じ筆者はリンクや注書きを追加した。

 2024 年 2 月 13 日、欧州議会「域内市場および消費者保護に関する委員会(Committee on the Internal Market and Consumer Protection:IMCO)」と、「市民的自由・司法・内務委員会 (Commission des libertés civiles, de la justice et des affaires intérieures:LIBE)」 (以下、「議会委員会」という) は、EU が提案した AI 法案の採択を圧倒的多数で可決した。 これは、2月初めに閣僚理事会の常任代表委員会(Council of Ministers’ Permanent Representatives Committee (以下、「Coreper委員会」という)による文書承認の投票に続くものである。これにより、この法案は最終版に近づきつつある。 立法プロセスの最後のステップは欧州議会全体による投票であり、現時点では2024年4月に行われる予定である。

 Coreper 委員会と議会委員会によって承認された暫定合意法案には、以前の法案と比較して多くの重要な変更が含まれており、このブログでは以下のとおり、いくつかの重要なポイントを説明する。

(1) 汎用 AI モデル(General-purpose AI models)多くの議論の結果、最終法案は「汎用 AI (「GPAI」) 」モデルを規制することになるようである。 他の要件の中でも、GPAI モデルのプロバイダーは、特定の最小限の要素を含むモデルの技術文書を作成および維持し、これらのモデルを自社の AI システムに統合するプロバイダーに詳細な情報と文書を提供し、EU 著作権法を尊重するポリシーを採用し、GPAI モデルのトレーニングに使用されるコンテンツの「十分に」詳細な概要が公開されている。

(2) システミックリスクを伴う汎用 AI モデル: この法律は、「システミックリスクを伴う」GPAI モデルの提供者に高い義務を課している。 これらには、モデルの敵対的テストを含むモデル評価を実行し、起こり得る EU レベルのシステムリスクを評価および軽減し、適切なサイバーセキュリティ保護を確保するための要件が含まれる。

(3) 高リスク AI システムの適格性の例外: 本文の以前のバージョンと一致して、この法案の最も広範な義務は「高リスク」 AI システムに適用される。 この法律では、リスクの高い 2 種類の AI システムが特定されている。(注1)(1) 法案の附属書 II P.243以下 にリストされている特定の EU 法の対象となる製品 (または製品の安全コンポーネント) として使用されることを目的とした AI システム、および (2)  遠隔生体認証システムの特定の用途や法執行に使用される特定の AI システムなど、法案の附属書 IIIP.248以下に記載されている目的に使用される AI システム。 ただし、合意案にはこの要件の例外も含まれている。

 附属書 III の範囲内にある AI システムが「自然人の健康、安全、または基本的権利に危害を及ぼす重大なリスクを引き起こさない」場合、プロバイダーは文書化することができる。

 これに基づき、そのシステムをそのようなシステムに対するAI法の義務から除外される。EU加盟国の市場監視当局(注2)には、誤って分類されたとみなす理由があるシステムを評価し、是正措置を命令する権限が与えられている。

  また、プロバイダーが高リスク AI システムに対する義務の適用を回避するために AI システムを誤って分類したと市場監視当局が判断した場合、当該プロバイダーは罰金の対象となる。

(4) 銀行、保険会社、政府に対する顧客の基本的権利の影響評価(impact assessment): 公法に準拠する機関である派遣会社、公共サービスを提供する民間事業者、および (一部の例外を除く) 自然人の信用力を評価するために高リスクの AI システムを導入する事業者、または個人の信用スコアを評価したり、自然人の生命保険や健康保険に関連するリスクと価格を評価したりするには、P.247以下の附属書 III (ANNEX III High-risk AI systems referred to in article 6(2))(注1)にリストされている高リスク AI システムを導入する前に、基本的権利への影響評価を実行する必要がある。これには、これらの事業体は、以下を評価する必要がある。

①高リスク AI システムが意図された目的に沿って使用される導入者のプロセス。

②高リスク AI システムが使用される予定の期間と頻度の説明。

③特定の状況での使用によって影響を受ける可能性のある自然人およびグループのカテゴリー。

④法案第 13 条(P.108以下)に基づく透明性義務に従ってプロバイダーによって提供される情報を考慮した、影響を受ける可能性が高いと特定された個人または個人のグループのカテゴリーに影響を与える可能性がある危害の具体的なリスク。

⑤使用説明書に従った人間による監視措置の実施の説明。

➅内部ガバナンスおよび苦情メカニズムの取り決めを含む、これらのリスクが現実化した場合にとるべき措置。

(5)透明性義務: AI 法は、(1) 合成音声、画像、ビデオ、またはテキスト コンテンツを生成する AI および GPAI システムのプロバイダー、(2) 感情認識(注3)(注4)の導入者を含む、特定の AI システムおよび GPAI モデルのプロバイダーおよびユーザーに透明性義務を課している。 (3) ディープフェイクを構成する画像、音声、またはビデオ コンテンツを生成または操作する AI システムの導入者、および (4) 問題について公衆に知らせることを目的として公開されたテキストを生成または操作するシステムの導入者 公共の利益(この法案は、特定の附属書 III 高リスク AI システムの導入者に追加の透明性義務を課している。 場合によっては、コンテンツが人工的に生成または操作されたものであることを識別できるように、コンテンツに機械可読な方法でラベルを付ける必要がある。 AI 法案では、AI システムが芸術、風刺、創造、または同様の目的で使用される場合など、一部の状況では例外が規定されている。

(6)AI法の発効日: AI 法は EU 官報に掲載されてから 20 日後に発効し、通常、発効から 2 年後に組織に適用され始めるが、一部の例外がある。特定の AI 慣行の禁止は 6 か月後に適用される。GPAI モデルに関する規則は 12 か月後に適用される (この日より前に市場に投入された GPAI モデルを除き、これらはさらに 24 か月後に適用される)。法案附属書 II の高リスク AI システムに適用される規則は36 か月後に適用される。

3.EUシンクタンクがEUの急速なAI技術の進展に対する一方でその破壊的な性質は、プライバシーと知的財産権、責任と説明責任に関する政策問題を提起するとともに偽情報と誤った情報を広めるAI技術者の取組みの可能性についての大きな懸念を表明

 2023.3.30「汎用人工知能のAt Glance」から一部抜粋、仮訳する。なお、ここに紹介されるAI研究者の論文等については別途本ブログでまとめたい。

EU AI法案における汎用AI(基礎モデル)

 EU議会の議員らは現在、「高リスク」AIシステムにEU内の一連の要件と義務を課す、AIに関するEU規制枠組みを定義するための長期交渉に取り組んでいる。 提案されている人工知能法案 (AI 法案) の正確な範囲は議論の骨子である。 欧州委員会の当初の提案には汎用 AI 技術に関する具体的な規定は含まれていなかったが、EU理事会はそれらを検討する必要があると提案した。 一方、科学者たちは、次のようなことが起こると警告している。

 将来の AI 法では、AI アプリケーションの特定の用途は規制されるものの、その基礎となる基盤モデルは規制されないため、意図された目的に応じて AI システムを高リスクかそうでないかに分類するアプローチは、汎用システムの抜け穴を生み出すことになる。

 これに関連して、Future of Life Institute などの多くのAI関係者は、汎用 AI を AI 法の範囲に含めるよう求めている。このアプローチを支持する一部の学者は、それに応じて提案を修正することを提案した。アムステル大学法学部教授Natali Helberger 氏と米国ノースウェスターン大学Communication Studies and Computer Science 教授Nick Diakopoulos 氏は、汎用 AI システム用に別のリスク カテゴリーを作成することを検討することを提案している。これらは、その特性に合った法的義務と要件、およびデジタルサービス法 (DSA) に基づくものと同様のシステミックリスク監視システムの対象となる。

Natali Helberger 氏

Nick Diakopoulos 氏

 フィッリプ・ハッカー(Philipp Hacker)氏(European New School of Digital Studies, European University Viadrina, Germany)、アンドレア・エンゲル(Andreas Engel)氏(Faculty of Law, Heidelberg University, Germany)、マルコ・マウアー(Marco Mauer)氏(Faculty of Law, Humboldt-University of Berlin)は、AI法は汎用AIのリスクの高い特定の用途に焦点を当て、透明性、リスク管理、非差別に関する義務を含めるべきだと主張している。 DSA のコンテンツ ・モデレーション(注5)・ルール (通知とアクションのメカニズムなど)および信頼できるフラッガーなど)を、そのような汎用 AI をカバーするように拡張する必要があると主張している。「Regulating ChatGPT and other Large Generative AI Models 」(注6)参照。

  1. 6.12 公表「ChatGPTおよびその他の大規模生成AIモデルの調整」参照。

Philipp Hacker 氏

Andreas Engel 氏

 サブリナ・キュスパール(Sabrina Küspert)氏(German tech think tank Stiftung Neue Verantwortung)(注7)、ニコラ・モエ( Nicolas Moës)氏(注8)、コナー・ダンロップ(Connor Dunlop)氏は、特にバリューチェーンの複雑さに対処し、オープンソース戦略を考慮し、コンプライアンスとポリシー施行をさまざまなビジネスモデルに適応させることによって、汎用AI規制を将来にわたって使用できるものにするよう求めている。 アレックス・エングラー(Alex Engler)氏(注9)アンドレア・レンダ(Andrea Renda)氏(注10)にとって、この法律はリスクの高いAIシステムでの汎用AI利用のためのAPIアクセスを阻止し、汎用AIシステムプロバイダーに対するソフトコミットメント(自主的な行動規範など)を導入し、バリューチェーンに沿ったプレーヤーの責任を明確にするべきであると指摘している。

Sabrina Küspert 氏

Nicolas  Moës 氏

Connor Dunlop氏

Alex C.Engler 氏

Andrea Renda 氏

 

4.IMCO およびLEBEリリース文「Artificial Intelligence Act: committees confirm landmark agreement

 以下、要旨を仮訳する。

【要旨】

①汎用型人工知能に関する保護措置が合意された。

②法執行機関による生体認証システムの使用の制限を加えた。

③ユーザーの脆弱性を操作または悪用するために使用されるソーシャル・ スコアリングにつき AI の禁止。

④消費者が苦情を申し立て、意味のある説明を受ける権利を保障する。

 欧州議会の議員は、安全性を確保し基本的権利を遵守する人工知能法に関する暫定合意(provisional agreement) (注11)を委員会レベルで承認した。

 2月13日、域内市場委員会(IMCO)と市民的自由委員会(LIBE)は、人工知能法に関する加盟国との交渉結果を71対8(棄権7)で承認した。

 この規則法案は、基本的権利、民主主義、法の支配、環境の持続可能性を高リスクの AI から守ることを目的としている。 同時に、イノベーションを促進し、ヨーロッパを AI 分野のリーダーとして確立することを目指している。 この規制法案は、AI の潜在的なリスクと影響のレベルに基づいて AI に対する義務を定めている。

(1)禁止されるAIアプリケーション(Banned applications

 この暫定合意では、①機密特性に基づく生体認証分類システム、②顔認識データベース用のインターネットまたは監視カメラ映像からの顔画像の対象外のスクレイピング、③職場や学校での感情認識(emotion recognition )、社会的スコアリング、予測ポリシングに基づく警察など、国民の権利を脅かす特定の AI アプリケーションが禁止されている。これらAIアプリは 人間のプロファイリングや特性の評価のみを目的としており、AI は人間の行動を操作したり、人々の脆弱性を突いたりする。

(2) 法執行機関へのAI法適用除外(Law enforcement exemptions)

 法執行機関による生体認証識別システム (Remote Biometric Identification:RBI) (注12)の使用は、網羅的にリストされている狭義の状況を除き、原則として禁止される。「リアルタイム」RBI は、厳格な保護下でのみ展開できる。 事前の司法または行政の許可があれば、時間と地理的範囲が制限される。このような用途には、例えば、行方不明者の捜索やテロ攻撃の防止などが含まれる。 このようなシステムを事後的に使用する (「ポスト・リモート RBI」こともリスクが高いと考えられており、司法の許可が必要であり、刑事犯罪と関連付けられる必要がある。

(3) 高リスクAIシステムに対する義務の明確化

 健康、安全、基本的権利、環境、民主主義、法の支配に重大な影響を与える可能性がある他の高リスク AI システムについても、明確な義務が合意されたた。 高リスクの用途には、重要なインフラ、教育および職業訓練、雇用、必須サービス(医療、銀行など)、法執行における特定のシステム、移民および国境管理、司法および民主的プロセス(選挙への影響など)が含まれる。 国民はAIシステムについて苦情を申し立て、自分たちの権利に影響を与えるリスクの高いAIシステムに基づく決定について説明を受ける権利を有することになる。

(4) 透明性の要件

 汎用 AI (GPAI) システムとそのベースとなるモデルは、トレーニング中に一定の透明性要件を満たし、EU 著作権法に準拠する必要がある。 システミックリスクを引き起こす可能性のあるより強力な GPAI モデルには、モデルの評価、リスク評価、インシデントのレポートの実行など、追加の要件が必要になる。 さらに、人工または操作された画像、音声、またはビデオ コンテンツ (「ディープフェイク」(注13) には、そのように明確にラベル付けする必要がある。

(5)イノベーション・中小企業(SMEs)支援策

 AI規制のサンドボックス(AI Regulatory Sandboxes)と現実世界でのテストが国家レベルで確立され、中小企業や新興企業に市場投入前に革新的な AI を開発およびトレーニングする機会が提供される。

 AIサンドボックスにつき新旧規則案も含めた法案逐条解説サイトである「EU AI ACT」サイトから抜粋、仮訳する

第53条 AI 規制サンドボックス

‍ 2024年2月2日にCoreper Iによって承認されたバージョンに基づいて、2024年2月6日に更新された‍。

1.加盟国は、管轄当局が国家レベルで少なくとも 1 つの AI 規制サンドボックスを設立することを保証し、発効後 24 か月以内に運用を開始するものとする。このサンドボックスは、他の 1 つまたは複数の加盟国の管轄当局と共同で設立される場合もある。欧州委員会は、AI 規制サンドボックスの確立と運用のための技術サポート、アドバイス、ツールを提供する場合がある。

 前の段落で定められた義務は、EU参加加盟国に同等レベルの全国範囲を提供する限り、既存のサンドボックスに参加することによっても履行することができる。

1a. 追加の AI 規制サンドボックスが、地域レベルまたは地方レベルで、または他の加盟国の管轄当局と共同で設立される場合もある。

1b. 欧州データ保護監督者は、EU の機関、団体、機関向けに AI 規制サンドボックスを確立し、本章に従って国内管轄当局の役割と任務を遂行することもできる。

1c.EU 加盟国は、第 1 項および第 1a 項で言及されている権限ある当局が、本条を効果的かつ適時に遵守するために十分な資源を割り当てることを確保するものとする。必要に応じて、国の管轄当局は他の関連当局と協力し、AI エコシステム内での他の関係者の関与を許可する場合がある。

この条項は、国内法または連合法に基づいて確立された他の規制サンドボックスには影響を与えないものとする。EU加盟国は、他のサンドボックスを監督する当局と国内の管轄当局との間で適切なレベルの協力を確保するものとする。

1d. 本規則の第 53 条(1)に基づいて設立された AI 規制サンドボックスは、第 53 条および第 53a 条に従って、市場での配置または使用開始に当たりイノベーションを促進し、革新的な AI システムの開発、トレーニング、テスト、検証を促進する制御された環境を提供するものとする。

将来のプロバイダーと管轄当局の間で合意された特定のサンドボックス計画に従われたい。 このような規制サンドボックスには、サンドボックス内で監視された現実世界の条件でのテストが含まれる場合がある。

1e. 所管当局は、リスク、特に基本的権利、健康と安全、検査、緩和策、およびこの義務と要件に関連したそれらの有効性を特定することを目的として、本規則、および関連する場合には、サンドボックス内で監督されるその他の連合および加盟国の法律に基づきサンドボックス内で必要に応じて指導、監督、および支援を提供するものとする。

1f. 所管当局は、プロバイダーおよび将来のプロバイダーに、規制上の期待および本規則に定められた要件および義務を履行する方法に関するガイダンスを提供するものとする。

AI システムのプロバイダーまたは将来のプロバイダーの要請に応じて、管轄当局はサンドボックス内で正常に実行されたアクティビティの書面による証拠を提供するものとする。また管轄当局は、サンドボックス内で実施された活動、関連する結果および学習成果を詳述した終了報告書を提供するものとする。 プロバイダーは、そのような文書を使用して、適合性評価プロセスまたは関連する市場監視活動を通じて本規則への準拠を証明することができる。 この点に関して、国内所轄官庁が提供する出口報告書と書面による証明は、適合性評価手続きを合理的な範囲で迅速化することを目的として、市場監視当局と通知機関によって積極的に考慮されるものとする。

1fa. 法案 第 70 条の機密保持規定(Confidentiality)に従い、サンドボックスプロバイダー/プロバイダー候補者の同意を得た上で、欧州委員会と理事会は出口レポートにアクセスする権限を与えられ、本条に基づく任務を遂行する際には、必要に応じて出口レポートを考慮するものとする。プロバイダーと将来のプロバイダーの両方、および国の管轄当局がこれに明示的に同意した場合、終了レポートは、この記事で言及されている単一の情報プラットフォームを通じて公開できる。

1g. AI 規制サンドボックスの設立は、以下の目的に貢献することを目的とする。

a本規則、または関連する場合には他の該当する連合および加盟国の法律への規制遵守を達成するために法的確実性を向上させる。

b.AI 規制サンドボックスに関与する当局との協力を通じてベスト プラクティスの共有をサポートする。

c.イノベーションと競争力を促進し、AI エコシステムの開発を促進させる。

d.証拠に基づいた規則の学習に貢献する。

e.特に新興企業を含む中小企業 (SME) が提供する場合、AI システムの欧州連合市場へのアクセスを促進および加速させる。

2.国の管轄当局は、革新的な AI システムが個人データの処理に関係する場合、またはその他のデータへのアクセスを提供またはサポートする他の国内当局または管轄当局、国のデータ保護当局、およびその他の管轄当局の監督上の権限に該当する限り、これらの他の国家当局は、AI 規制サンドボックスの運用に関連しており、該当する場合、それぞれの任務と権限の範囲内でそれらの側面の監督に関与する。

3.AI 規制サンドボックスは、地域レベルまたは地方レベルを含む、サンドボックスを監督する管轄当局の監督および是正権限に影響を与えないものとする。 かかる AI システムの開発およびテスト中に特定された健康と安全および基本的権利に対する重大なリスクは、適切に軽減されるものとする。加盟国の管轄当局は、一時的にまたは定期的に次のことを行う権限を有するものとする。

(以下、略す)

(6)AI法の最終成立に向けた次のステップ

 この法案文書は、今後の欧州議会の本会議での正式な採択と最終的な理事会の承認を待っている。このAI法は発効後 24 か月後に完全に施行、適用されるが、(ⅰ)発効後 6 か月後に適用される禁止行為の禁止、(ⅱ)行動規範(発効後 9 か月に適用される)を除き、 (ⅲ)ガバナンスを含む汎用 AI ルール (発効後 12 か月)、(ⅳ)高リスクシステムに対する義務 (36 か月)を除く。

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(注0)(2024.3.7 追加))3月7日欧州委員会は以下のリリースを行った。仮訳する。

2024.3.7 欧州委員会欧州連合 AI オフィスでの雇用機会活動開始」

  欧州委員会は、欧州連合AI事務局の新しいメンバーを募集するための関心表明の募集を2分野で開始した。 信頼できる AI を形成するユニークな機会を得るために、テクノロジー スペシャリストまたは管理アシスタントとして今すぐ応募されたい。

 欧州連合 AI オフィス(European AI Office)は、最初の雇用活動を開始した。 EU の AI 専門知識の中心地として、欧州連合AIオフィスは、AI 法の施行、特に汎用 AI(general-purpose AI) に関して重要な役割を果たし、信頼できる AI の開発と使用、および国際協力を促進する。今回の最初の採用ラウンドでは、(1)テクノロジーのスペシャリストと(2)管理事務補助スタッフ(administrative assistants)を募集している。

 関心表明の申込期限は、2024 年 3 月 27 日の 12:00 CET である。 テクノロジースペシャリストと管理事務補助スタッフのそれぞれの応募フォームを通じて興味を表明できる。

我われの協力は、情熱を持った個人にとって、ヨーロッパやその他の国で信頼できる AI の形成に大きく貢献できる、ユニークでスリリングな機会を提供する。 我われは、AI に関する世界初の包括的な法的枠組みとして AI 法を施行し、信頼できる AI への世界的なアプローチに向けて取り組んでいく。 AI オフィスは、コミュニケーションネットワーク・コンテンツと技術総局(DG-CONNECT)の一部として欧州委員会内に設立され、世界的な AI 政策とイノベーションの最前線に立っている。(以下、略す)

(注1) AI法案第 6 条 (2) に基づく高リスク AI システムとは、以下のいずれかの分野にリストされている AI システムをいう。

ANNEX III High-risk AI systems referred to in article 6(2)(P.222以下)を仮訳する。

1.関連する欧州連合法または参加国の国内法で使用が許可されている限り、生体認証:

 (a) 遠隔生体認証識別システム。 これには、特定の自然人が本人であると主張する本人であることを確認することを唯一の目的とする生体認証に使用することを目的とした AI システムは含まれないものとする。

 (aa) 機密属性または保護された属性または特性の推論に基づく、生体認証の分類に使用することを目的とした AI システム。

 (ab) 感情認識に使用することを目的とした AI システム。

2.重要なインフラストラクチャ: (a) 重要なデジタル・インフラストラクチャ、道路交通、水道、ガス、暖房、電気の供給の管理と運用における安全コンポーネントとして使用することを目的とした AI システム。

3.教育および職業訓練

(a)あらゆるレベルの教育および職業訓練機関へのアクセスまたは入学を決定する、または自然人を割り当てるために使用されることを目的とした AI システム。

 (b) 学習成果を評価するために使用することを目的とした AI システム。これには、あらゆるレベルの教育機関および職業訓練機関における自然人の学習プロセスを導くためにその成果が使用される場合も含まれます。

 (ba) 教育および職業訓練機関内で、またはその内部で、個人が受ける、またはアクセスできる適切な教育レベルを評価する目的で使用されることを目的とした AI システム。

(bb) 教育および職業訓練機関内でのテスト中の学生の禁止行為を監視および検出するために使用することを目的とした AI システム。

4.雇用、労働者の管理、および自営業へのアクセス:

(a) 自然人の採用または選択、特にターゲットを絞った求人広告の掲載、求人応募の分析とフィルタリング、および候補者の評価に使用することを目的とした AI システム。

 (b) 仕事関連の関係条件、仕事関連の契約関係の促進と終了に影響を与える決定を下し、個人の行動や個人の特性や特性に基づいてタスクを割り当て、従業員のパフォーマンスと行動を監視および評価するために使用されることを目的とした AI そのような関係にある人。

5.必須の民間サービスおよび必須の公共サービスおよび給付金へのアクセスおよび享受:

(a) 必須の公的扶助給付金およびサービスに対する自然人の適格性を評価するために、公的機関または公的機関に代わって使用されることを目的とした AI システム。 ヘルスケア サービス、およびそのような特典やサービスの付与、削減、取り消し、または回収を含む。

 (b) 金融詐欺を検出する目的で使用される AI システムを除く、自然人の信用度を評価したり、信用スコアを確立したりするために使用することを目的とした AI システム。

 (c) 自然人による緊急通報を評価および分類することを目的とした AI システム、または警察、消防士、医療援助や救急医療を含む緊急初期対応サービスの派遣、または派遣における優先順位の確立に使用することを目的とした AI システム 患者トリアージシステム。

 (ca) 生命保険や健康保険の場合、自然人に関するリスク評価と価格設定に使用することを目的とした AI システム。

6.関連する連合法または加盟国の国内法で使用が許可されている場合の法執行機関:

(a) 自然人が被害者になるリスクを評価するために、法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関、代理店、事務所もしくは団体によって、または法執行機関に代わって使用されることを目的とした事犯罪の AI システム 刑。

 (b) 法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関、団体、機関によって、ポリグラフや同様のツールとして使用されることを目的とした AI システム。

 (d) 刑事犯罪の捜査または訴追の過程で証拠の信頼性を評価するために、法執行機関によって、または法執行機関に代わって、あるいは法執行機関を支援する連合の機関、機関、事務所もしくは団体によって使用されることを目的とした AI システム

 (e) 法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関、代理店、事務所もしくは団体によって、単独ではなく自然人の犯罪または再犯のリスクを評価するために使用されることを目的とした AI システム 指令 (EU) 2016/680 の第 3 条(4) に記載されている自然人のプロファイリング、または自然人または集団の性格特性および特性、または過去の犯罪行為を評価すること。

 (f) 指令第 3 条 (4) に記載されている自然人のプロファイリングのために、法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関の機関、機関、事務所、または団体によって使用されることを目的とした AI システム (EU) 2016/680 刑事犯罪の発見、捜査、または起訴の過程において。

7.関連する連合法または国内法で使用が許可されている場合に限り、移住、亡命、および国境管理の管理:

(a) 管轄の公的機関によってポリグラフおよび同様のツールとして使用されることを目的とした AI システム。

 (b) 自然災害によってもたらされる安全上のリスク、不規則な移住のリスク、または健康上のリスクを含むリスクを評価するために、権限のある公的機関、またはその代理として、または連合の機関、事務所、団体によって使用されることを目的とした AI システム。 加盟国の領土に入国しようとする、または加盟国の領土に入った人。

(d) 庇護、ビザ、居住許可の申請および資格に関する関連する苦情の審査のために管轄の公的当局を支援するために、管轄の公的当局によって、またはその代理として、または連合の機関、事務所、団体によって使用されることを目的とした AI システム。 証拠の信頼性に関する関連評価を含む、ステータスを申請する自然人の情報。

 (da) 移住、亡命、国境管理の文脈において、以下の症状を有する自然人を検出、認識、または識別する目的で、連合機関、事務所、または団体を含む権限のある公的機関によって、またはその代理として使用されることを目的とした AI システム。 渡航書類の確認を除く。

8.司法の管理と民主的プロセス:

(a) 司法当局による、またはその代理として、司法当局が事実と法律を調査および解釈し、法律を一連の具体的な事実に適用するのを支援するために使用することを目的とした AI システム または裁判外紛争解決において同様の方法で使用されます。

 (aa) 選挙や国民投票の結果、あるいは選挙や国民投票における自然人の投票行動に影響を与えるために使用されることを目的とした AI システム。 これには、管理上およびロジスティック上の観点から政治キャンペーンを組織、最適化、構築するために使用されるツールなど、自然人が出力に直接さらされない AI システムは含まれない。

(注2) 市場監視当局の役割につき欧州委員会サイトから抜粋、仮訳した(加盟国の市場監視当局詳細内容は、EUサイト参照)

 市場監視は、市場にある製品が適用される法律や規制に準拠し、既存の EU の健康と安全要件に準拠していることを確認するために当局によって実施される活動である。 欧州市場の安全を維持し、消費者と経済運営者間の信頼を育むことが重要である。また、準拠する企業に対して平等な競争条件を維持し、不正なトレーダーによる市場シェアの損失を回避するのにも役立つ。

 市場監視には、市場の監視と制御、必要に応じて是正措置や罰則の賦課を含むあらゆる範囲の行為が含まれる。 これには、当局と経済事業者(メーカー、輸入業者、流通業者、オンラインプラットフォーム、小売店)、および消費者および消費者団体との密接な接触が含まれる。

 EU では、各国の市場監視当局が市場監視を実施する責任を負う。 また、危険な製品を発見した場合には適切な措置を講じる責任もある。この目的を達成するため、検査用のサンプルを採取したり、実店舗だけでなくオンライン市場からサンプルを集めて専門の研究所でテストしたりすることもある。

 さらに市場監視当局は税関と緊密に連携しており、安全でない製品や規格に準拠していない製品が EU 市場に流入するのを防ぐことができ、輸入品を管理する最初のフィルターとなる。

(注3) EUのAI規則案の定義

・ 「感情認識システム(emotion recognition system)とは、生体データに基づいて自然人の感情または意図を識別または推測することを目的としたAIシステムを意味する。」(AI規則案第3条(34):  ‘emotion recognition system’ means an AI system for the purpose of identifying or inferring emotions or intentions of natural persons on the basis of their biometric data;

 ・感情認識技術は比較的新しい技術として、様々なサービスへの応用が期待されており、日本でも人事採用やドライバーモニタリング、マーケティング、パブリックセキュリティ等の分野で実用化されつつある。

 ・しかし欧米では、感情認識技術に対して様々な懸念・批判が専門家・市民団体・メディア等から提示されている。

EUのAI規則案など、感情認識技術の使用を法令やガイドラインで規制しようとする動きが2021年になって顕著になりつつある。(2022年5月(株)国際社会経済研究所 小泉 雄介氏の鋭い分析「海外における感情認識サービスと規制の動向」から抜粋)。

 (注4) 感情認識技術に対する主な懸念・批判は、以下の4点にまとめることができる。

(1)個人に対する透明性の欠如。

(2)感情認識技術は科学的根拠が薄弱である。

(3)内心の自由表現の自由などの基本的権利を侵害する

(4)感情認識技術における偏見・先入感

(注5) 不正・不適切な投稿内容監視(content modulation)とは、誤った情報であると判断された音声やコンテンツの配信を制限、制約、削除する、または誤った情報であると判断された音声やコンテンツに対して発言者を制裁するための、ソーシャル メディア プラットフォームによるあらゆる行為を意味する。(Law Insiderから抜粋、仮訳)

(注6) この論文につき機械翻訳を読んでみた。

「ChatGPTと他の大規模生成AIモデルの調節【JST・京大機械翻訳】」を一部抜粋する。特に専門用語については注記がないととても理解できない。ちなみに、筆者なりに赤字で補足した。

抄録/ポイント:

ChatGPT,GPT-4または安定拡散(画像生成AI(Stable Diffusion)とは、ユーザーが入力したテキストを頼りに、AIがオリジナルの画像を数秒~数十秒程度で自動生成するシステムを指す。日本でよく知られている画像生成AIには「Stable Diffusion(ステーブルディフュージョン)」や「Midjourney(ミッドジャーニー)」があり、デザイン業界の常識を覆す存在として注目を浴びている)のような大規模生成AIモデル(LGAIM)は,著者らが通信し,説明し,創造する方法を迅速に変換する。しかし,EUとそれ以上(以外の地域)におけるAI調節は,LGAIMではなく,従来のAIモデルに主に焦点を合わせている。本論文は,信頼できるAI規制に関する現在の議論において,これらの新しい生成モデルをin situ化し(据えて),その法則がそれらの能力にいかに調整できるかを問う。技術的基礎を敷設した後,論文の法的部分は,(1)直接規制,(2)データ保護,(3)コンテンツ・モデレーション(ウェブサイトまたはSNSに投稿されたコンテンツをチェックし、不適切なものを削除する作業),(4)政策提案をカバーする4段階で進行する。それは,LGAIM開発者,展開者,専門的および非専門的(家)ユーザー,ならびにLGAIM出力のレシピエントを区別することにより,LGAIM設定におけるAI値チェーンを捉える新しい用語を示唆する。(以下、略す)

Large generative AI models (LGAIMs), such as ChatGPT, GPT-4 or Stable Diffusion, are rapidly transforming the way we communicate, illustrate, and create. However, AI regulation, in the EU and beyond, has primarily focused on conventional AI models, not LGAIMs. This paper will situate these new generative models in the current debate on trustworthy AI regulation, and ask how the law can be tailored to their capabilities. After laying technical foundations, the legal part of the paper proceeds in four steps, covering (1) direct regulation, (2) data protection, (3) content moderation, and (4) policy proposals. It suggests a novel terminology to capture the AI value chain in LGAIM settings by differentiating between LGAIM developers, deployers, professional and non-professional users, as well as recipients of LGAIM output. We tailor regulatory duties to these different actors along the value chain and suggest strategies to ensure that LGAIMs are trustworthy and deployed for the benefit of society at large. Rules in the AI Act and other direct regulation must match the specificities of pre-trained models. The paper argues for three layers of obligations concerning LGAIMs (minimum standards for all LGAIMs; high-risk obligations for high-risk use cases; collaborations along the AI value chain).

(注7) 2023.2.10 Blog  Sabrina Küspert , Nicolas Moës , Connor Dunlop共著「The value chain of general-purpose AI」:A closer look at the implications of API and open-source accessible GPAI for the EU AI Act

(注8) ニコラス氏は、地政学、経済、産業に対する汎用人工知能 (GPAI) の影響に焦点を当てたトレーニングを受けたベルギーの経済学者です。 彼は 独立系NPO“The Future Society” のエグゼクティブ・ ディレクターを務めており、組織の管理、戦略、ステークホルダーとの関わりに取り組んでいる。 彼は以前、AI を取り巻く法的枠組みにおけるヨーロッパの発展を研究および監視しており、EU AI 法の起草とその施行メカニズムの構築に積極的に取り組んでいる。

 ニコラス氏は、国際標準化機構の SC42 および CEN-CENELEC JTC 21 の人工知能委員会のベルギー代表として、AI 標準化の取り組みにも携わっている。 ニコラス氏は、OECD.AI 政策監視機関の AI インシデントおよびリスクと説明責任に関する作業部会の専門家である。 The Future Society に入社する前は、ブリュッセルに本拠を置く経済政策シンクタンクブリューゲルEU のテクノロジー、AI、イノベーション戦略に携わっていた。 彼の出版物は AI と自動化の影響に焦点を当てていますが、世界貿易と投資、EU と中国の関係、大西洋を越えたパートナーシップに関する研究も行っている。

(注9) Alex C. Engler氏 は、Senior Policy Advisor, AI @ White House Office of Science and Technology Policy

ブルッキングス研究所のガバナンス研究フェローであり、人工知能と新興データ技術が社会とガバナンスに与える影響を研究している。

(注10)Andrea Renda氏はSenior Research Fellow and Head of Global Governance, Regulation, Innovation and the Digital Economy (GRID) - Centre for European Policy Studies.

(注11) PROVISIONAL AGREEMENT RESULTING FROM INTERINSTITUTIONAL NEGOTIATIONS暫定合意の原本(全245頁)

暫定合意の主題:人工知能に関する調和のとれたルールを定める規則案の提案(人工知能法案) および特定の欧州連合の立法行為の改正(Proposal for a regulation laying down harmonised rules on Artificial Intelligence (Artificial Intelligence Act) and amending certain Union legislative acts) 2021/0106(COD)

(注12) 許容できないリスクをもたらすため、禁止されているAIシステム(第5条)

公的にアクセス可能な空間における法執行の目的での「リアルタイム」リモート生体識別システムの使用。ただし、そのような使用が以下の目的の1つに厳密に必要な場合を除く。

欧州基本権機関(European Union Agency for Fundamental Rights:FRA)のRemote biometric identification for law enforcement purposes: fundamental rights considerations参照。

(注13)ディープフェイクとは、「ディープラーニング」と「フェイク」を組み合わせた造語で、AI(人工知能)を用いて、人物の動画や音声を人工的に合成する処理技術を指す。もともとは映画製作など、エンターテインメントの現場での作業効率化を目的に開発されたものである。しかし、あまりにリアルで高精細であることから、悪用されるケースが増えたことで、昨今ではフェイク(ニセ)動画の代名詞になりつつある。(docomo busuiness Watchから抜粋)

(2024.3.8 追加)米国連邦取引委員会は2 年以上にわたる協議と検討を経て、2024 年 2 月 15 日、連邦取引委員会 (以下、「FTC」 または「委員会」という) は、「商業に関わる、または商業に影響を及ぼす」問題において政府機関または企業のなりすまし(impersonation)を禁止する規則を最終決定した。なお、AIの進歩により、最終決定された規則では不十分になったという。 そこでFTCは、「直接的または暗示的に、商取引において、または商取引に影響を与える個人を実質的かつ虚偽に装うこと」、または「直接的または暗示的に、重大な虚偽の表示をすること」をFTC法違反とする補足規則案を提案している。

 AI を利用したなりすましは、多くの場合、「ディープフェイク(deepfakes)」、つまり、個人が実際に言ったり行ったりしていないことを言ったり行ったりしているかのように見せる加工された画像、ビデオ、または録音の作成を通じて行われる。 最近の AI ツールの普及により、ディープフェイクの作成はかつてないほど簡単になり、規制当局や専門家は、ディープフェイクがすでにリベンジポルノの作成、誤った情報の拡散、消費者への詐欺に使用されているのではないかと懸念している。

(米国FTCの政府機関または企業のAIなりすまし(impersonation)を禁止する規則については、別途取りまとめる予定)

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日本における血糖値監視デバイスの利用を巡る米国食品医薬品局(FDA)の警告文書とその意義および健康監視デバイスの新規参入動向

 わが国のメデイアでは毎日のように生活習慣病である高血圧や高血糖値の予防が報じられている。その中で、スマートウオッチによる血圧、心電図(注1)等の健康状態のモニタリング機能を宣伝するサイトが多くなっている。

 今回のブログは、2018年ころからApple Watch等により活発になりつつある血糖値のモニタリング機能付きスマートウオッチに注目し、先手を打った米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)のFDA の安全性に関する伝達文書(FDA Safety Communication)の意義を明らかにするため、以下の項目につき解説を試みるものである。なお、今のところこの問題につき、わが国厚生労働省の具体的対応は見えてこない。

  (1)高血糖値のリスクの概要の説明、(2)FDAの警告内容のわが国のメデイアの記事概要、(3) 今回のFDAの警告は厚生労働省の安全サイトでは取り上げられていない、(4) ネット広告では、スマートウォッチ(Smartwatches)やスマートリング(Smart Rings) のうち特にスマートウォッチの血糖値モニタリング機能広告での使用例、(5) わが国では、まだ普及がいまいちである健康管理スマートリングの機能の概観とFDAスマートデバイスの認可動向である。

1.高血糖値のリスクの概要の説明例

(1) Kyowa Kirin Co., Ltd. 「糖 尿 病 っ て ど ん な 病 気 ?」から一部抜粋する。

糖尿病の診断には、血液検査が必要です。次の4項目を測定します。

HbA1cヘモグロビンA1c

②早朝空腹時血糖値

③75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験

④随時血糖値

(2) 2022.2.10 NHK 東京慈恵会医科大学 主任教授 西村 理明「血糖値を24時間モニターできる装置で隠れた高血糖・低血糖を発見」参照。

2.Apple Watch等も目指す血糖値測定機能についてFDAがスマートウォッチの非穿刺型(注2)血糖値測定機能を使用しないでと警告を報じるわが国のメディア記事例

(1)2024年2月22日、Forbes japan記事「 Apple Watchも目指す血糖値測定機能について規制当局のFDAが「スマートウォッチの非穿刺型(注2)の血糖値測定機能を使用しないで」と警告

 AppleApple Watchの新機能として血糖値測定機能を計画していると長らくウワサされている。しかし、スマートウォッチなどで非穿刺的な方法で血糖値を測定する機能について、アメリカの規制当局であるアメリカ食品医薬品局(FDA)が反対の姿勢を表明した。

(2) 2024年2月22日、Gigazine.net記事「Apple Watchも目指す血糖値測定機能について規制当局のFDAが「スマートウォッチの非侵襲的な血糖値測定機能を使用しないで」と警告」 この記事はFDA Communication等にリンクを貼っている。

3.FDAの警告文書

 (1)今回のFDAの警告は厚生労働省の安全サイトでは取り上げられていない

 現時点で厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報」には出てこない。

(2)  FDAの安全性に関する伝達文書(FDA Safety Communication)の意義の警告内容

2024.2.21 FDA「血糖値の測定にスマートウォッチやスマート リングを使用しないでください: FDA Safety Communicationを以下、仮訳する。

■米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)は、消費者、患者、介護者、医療提供者に対し、非穿刺型の血糖値(血糖値)を測定できると広告等で主張するスマートウォッチやスマートリングの使用に関連するリスクについて警告する。

 これらのデバイスは、持続血糖モニター(continuous glucose monitoring devices :CGM) バイスなど、穿刺型 FDA 認可の血糖測定デバイスからのデータを表示するスマートウォッチ ・アプリケーションとは異なる。

FDA は、血糖値を独自の方法で測定または推定することを目的としたスマートウォッチまたはスマートリングは正式認可(authorized)、認可(cleared)、承認(approved)していない。

■糖尿病患者の場合、不正確な血糖値測定(モニタリング)は、インスリン(insulin)、スルホニルウレア剤(sulfonylureas)(注3)、または血糖を急激に下げる可能性のあるその他の薬剤の誤った用量の摂取など、糖尿病管理における誤りにつながる可能性がある。すなわち これらの薬を過剰に摂取すると、すぐに危険な低血糖状態に陥り、誤って数時間以内に精神的混乱、昏睡、または死に至る可能性がある。

■消費者、患者、介護者への推奨事項

① 血糖値を測定すると宣伝・主張するスマートウォッチやスマートリングを購入または使用しないでください。 これらのデバイスは、医師の診断を介せずオンライン マーケットプレイスを通じて、または販売者から直接販売される場合がある。

 ②これらの機器の安全性と有効性は FDA によって審査されていないため、これらの機器を使用すると血糖値が不正確に測定される可能性ならびに過剰な薬の投与があることに注意されたい。

 ③医療ケアが正確な血糖値測定に依存している場合は、あなたのニーズに合った適切な FDA 認可の機器について必ず医療提供者に相談されたい。

■医療提供者への勧奨事項

①消費者、患者、介護者向けの推奨事項を読んでそれに従ってください。

② 未承認の血糖測定装置を使用するリスクについて患者と話し合ってください。

③必要に応じて、患者が適切な FDA 認可の血糖測定装置を選択できるように支援してほしい。

■デバイスの使用説明上の重要事項

 これらのスマートウォッチやスマートリングの販売者は、自社のデバイスが穿刺で穴を開けたりすることなく安全・確実に血糖値を測定できると主張し、かつ 彼らは非穿刺的な技術を使用していると主張している。しかし、これらのスマートウォッチとスマートリングは、血糖値を血液採取により直接検査するものではない。

 これらのスマートウォッチとスマート リングは数十の企業によって製造され、複数のブランド名で販売されている。 このFDA の安全性に関する伝達文書(FDA Safety Communication)は、メーカーやブランドに関係なく、穿刺方式の血糖値を測定すると広告・主張するスマートウォッチまたはスマートリングすべてに適用される。(注4)

FDAの医療機器の監視行動

 FDA は医療機器市場を定期的に監視しており、無許可の製品が消費者に販売されていることを認識している。 同庁は、メーカー、流通業者、販売業者が、血糖値を測定すると称する未承認のスマートウォッチやスマートリングを違法に販売しないように取り組んでいる。 さらに、FDAは消費者にこの問題について警告し、スマートウォッチやスマートリングを血糖値の測定に使用すべきではないことを一般に周知させている。

 FDA は、重要な新しい情報が入手可能になった場合には、常に国民に情報を提供する。

 ■デバイスの問題を報告する

 不正確な血糖測定に問題があると思われる場合、または未承認のスマートウォッチまたはスマート リングの使用により有害事象が発生したと思われる場合、FDA は MedWatch 自主報告フォームを通じて問題を報告することを推奨している。

 FDA のユーザー施設報告要件の対象となる施設に雇用されている医療従事者は、その施設が定めた報告手順に従う必要がある。

 迅速な報告は、FDA が医療機器に関連するリスクを特定し、より深く理解することで患者の安全性を向上させるのに役立つ。

■本件の質問窓口

 質問がある場合は、産業消費者教育部門 (DICE) (DICE@FDA.HHS.GOV) にメールでお問い合わせいただくか、800-638-2041 または 301-796-7100 までお電話ください。

■本通達の影響を受けるデバイス

 ブランド名に関係なく、血糖値を測定すると主張するスマートウォッチまたはスマートリング。

(3) 今回のFDAの警告はCGM(持続グルコースモニタリング技術)バイスは対象外である。

 持続グルコースモニタリング技術に関する解説例

①TERUMO の解説「CGMはContinuous Glucose Monitoringの略で、SMBGで測定している血液中のグルコース濃度(血糖値)ではなく、間質液中のグルコース濃度を測定している。一般的に、間質液中のグルコース濃度は血糖値よりも遅れて変化することが知られている」

Dexcom の「CGM を理解する」から抜粋引用:

1 型または 2 型糖尿病 (T1D/T2D) の患者は、食事の決定がグルコース濃度に与える影響、インスリンを効果的に調整する方法、運動やその他の活動のタイミングが治療に与える影響を理解するのに苦労している。

 持続グルコースモニタリング技術は、これらの問題などの対処に役立つ。Dexcom G6 CGM システムなどのリアルタイム CGM (RT-CGM) システムは、Bluetooth を介して、ウェアラブル センサーから近くのモニターまたは互換性のあるモバイル機器*に定期的にグルコース測定値を送信する。

4.ネット広告でのスマートウォッチ(Smartwatches)やスマートリング(Smart Rings) の現状

  特にわが国ではスマートウォッチの広告がこのような使用例が跡を絶たないが、今後FDA通達を受けた対応が注目される。

 (1)わが国で血糖値のモニタリング機能を謳うスマートウオッチ

(2) 指輪型ウェアラブルのOura Health 製スマートリングの広告サイト

5.スマートリングの有用性による新規利用形態

 米国でもスマートリングは2018年8月2日、FDAから避妊用基礎体温モニター・デバイスとして認可されている

 「高精度なデータ入手において指は、心拍数、体表温、血中酸素飽和度など、20以上の生体情報を最も正確に測定できる部位である。(Ouraの広告サイトから抜粋)

 一例として指輪型ウェアラブルのOura Healthと避妊アプリのNatural Cyclesとの提携記事がある。

指輪型のヘルストラッカー「Oura Ring」を提供するOura Healthは8月2日、FDA承認済みの避妊アプリ「NC° Birth Control」の開発企業であるNatural Cyclesと提携したことを明らかにした。これにより、Oura Ringが計測した体温データはNC° Birth Controlアプリに同期され、毎朝基礎体温をマニュアルで計測する煩わしさからユーザーを解放した。(一部抜粋)

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(注1)2018年9月11日、Apple Watch Series 4が心電図(electrocardiogram (ECG) )測定機能につきFDAの認可(clearnce)を得たと報じられている(Apple社の記事)。 一方で、日本でApple Watch Series 4の販売が始まった時、国内展開されるApple Watch series4からはApple Watch ECG appの機能が取り除かれていた。理由は、「心電図測定」「脈の不整通知」という機能が医療機器に該当するため、国内での医療機器として認可を得る必要があり、当時その過程をApple社が取っていなかったためである。(Digital Health Times 記事から抜粋)

(注2)わが国メデイアはほとんどがFDAの伝達文書中の“without piercing the skin”.を「非侵襲的」と訳している。これは誤訳であり、「非穿刺」が正しい。

(注3) 厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.275:新規作用機序の糖尿病治療薬(DPP-4 阻害剤及びGLP-1 受容体作動薬)の安全対策について」

スルホニルウレア系経口血糖降下薬の解説

(注4) 米Movanoが現地時間2022年5月12日、非穿刺(針を刺さない)血糖値測定と、カフ(空気袋)を用いない血圧測定が可能なウェアラブルバイスを実現するためのセンサーの開発が完了、機能試験が成功したと発表した。同社は2022年2月に、非穿刺型ウェアラブル血糖値測定器に関し、米食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)での医療機器承認取得に向けた、臨床治験の第2段階が終了したことも発表済みである。 (iphon mania 記事から抜粋。この記事の信ぴょう性は如何。同社のリリース文参照)。

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多様化する暗号資産を巡る米英やEUの法制整備と裁判法制の最新動向

 筆者の手元に国際的ローファームCleary Gottlieb Steen & Hamilton LLP のレポートが届いた。その要旨は、以下の内容である。

 暗号資産業界では2023年中、大きな活動が見られ、2024 年以降も新たな訴訟リスクが生じ続けると予想されている。その背景には、(1)暗号通貨の価値の急激な変動性、(2)テクノロジーの複雑な性質、(3)徹底した法規制の欠如、(4)規制当局の理解の欠如等がすべてこの傾向に寄与している。

  暗号資産関連の訴訟は、個人またはクラス・アクションとして提起された申し立てには、法規制上の問題を含め、広範囲に及んでいる。

  今回のブログは、同レポートの要旨を仮訳するとともに、英国法務委員会等の取組みにつき、筆者なりに法的観点から補足説明を加えた。この問題につき、わが国の解説は金融庁の審議会資料が詳しいし、有益である。併読されたい。

  なお、解説文中の判決文原本や裁判官の写真等必要なリンクは独自に筆者が行った。

1.米国や英国の暗号資産の法規制強化への取組み

米国では暗号資産の価値の変動に対応して、規制当局、法執行機関、さらには個人が2023年に暗号資産取扱企業に対してさまざまな訴訟を起こした。包括的な法規制がないため、これらの申し立ては多くの場合、SEC等が証券法等の法律違反、投資家を誤解させたこと、詐欺、窃盗などの従来の訴訟原因に依存している。(注1)

 一方、英国の裁判所は、暗号資産ベースの訴訟に対して、管轄権や準拠法に関し、ますますオープンなアプローチを採用している。 たとえば、2022 年 10 月に、「ゲートウェイ 25」として知られる新しい管轄ゲートウェイが発効し、英国の管轄外にある潜在的な被告に関連する情報命令を求めている原告の請求を容易にした。この措置は、潜在的な暗号通貨詐欺の被害者に実行力を与えることを目的としていた。

 同月、英国の法務委員会(Law Commission)は、管轄権や準拠法など、暗号資産ベースの訴訟から生じる法の抵触問題に対処するための協議プロセスを開始した。 英国の高等法院(English High Court)(注2)2023年1月13日判決、被告への送達の代替手段として、非代替性トークン(NFTによる送達を認めた。暗号資産裁判の場合、被告の身元が請求者に知られていない可能性が高いため、クレームの内容 (注3)において被告を特定し、通知できる可能性が高い。

 英国は、暗号資産に関連する裁判請求の急増により、進化し続ける技術環境の中で新たな法的問題が生じている(注4)。 これらの裁判での主張は、(i) NFT の盗難(注5)、 (ii) 暗号資産ネットワークを監督するソフトウェア開発者の受託者義務(注6)、(iii) 暗号交換(注7)に対する責任など、さまざまな問題を扱っている。

 一方、米国では一部の州裁判所が分散型自律組織(Decentralised Autonomous Organizations :DAO」)(注8)に対する訴訟請求を認め始めている。DAOは中央のリーダーシップや階層を持たずに機能し、スマート・コントラクト(注9)または同様のソフトウェア・プロトコルを通じてメンバーに依存している。 DAO には投資目的を含むさまざまな用途がある。

 英国は、今後どのようにDAOを規制するかを決定することを目的として、関連する利害関係者とともにDAOの性質を依然として調査中である(注10)。 我々は、これらの複雑な問題と、それらに直面した裁判所がとった斬新なアプローチが、今後の暗号資産訴訟でも引き続き取り上げられると予想している。

2.英国の具体的法規制強化に向けた取組み

 2022.10.18英国法務委員会のリリース「Digital assets: which court, which law?」によると、法務委員会はデジタル資産やその他の新興テクノロジーに国際私法がどのように適用されるかにつき検討を開始した。

 英国法務委員会のデジタル資産専門サイト「Digital assets: which court, which law?」

 適用される法律と管轄区域の規制が、ますますデジタル化が進む世界に対応できるようにすることが目的である。

 2023 年 6 月、英国法務委員会は、暗号資産を含むデジタル資産の規制に関する政府に対するいくつかの勧告を発表した。(注11) 英国では、暗号資産に関連する多くの法規制の進展も見られる。 「2000年金融サービス・市場法(Financial Services and Market Act of 2000:以下、「FSMA」)という」(注12)は「デジタル決済資産」規制の基礎を築き、政府と金融行為規制機構(以下、「 FCA」という)は2024年に英国内外での法定通貨担保型ステーブル・コインの発行と保管を規制する法律と規則を制定することを目指している 。

 このような体制下で、 2023年8月17日、FCA世界的な金融活動作業部会(FATF)と協力して「トラベル・ルール」(注13)採択した。 この規則は、国境を越えた暗号資産移転の透明性を高めることを目的としており、英国の暗号資産ビジネスは英国内外の暗号資産移転に関する情報を収集、検証、共有することが義務付けられている。 2023年10月、財務省は暗号資産に対する将来の金融サービス規制体制に関する協議回答を公表し(2024年に関連法の制定を目指すと表明)、さらにFCAは、2023年6月FSMAを改正「適格暗号資産(qualifying cryptoassets)」のマーケティング・プロモーションの制限を金融規制の対象とした。

  一方、EUでは段階的なアプローチを採用するのではなく、2023年5月16日の「暗号資産市場規則(Markets in Crypto-Assets Regulation :MiCAR)」(筆者ブログ(その1)同(その2完)の採択・制定により、暗号資産関連の金融サービスを規制するための単一の統一された新しい枠組みが導入された。この分野における規制の枠組みも規制当局の監督アプローチもまだ発展途上であるが、たとえば FCA はすでに暗号資産の金融プロモーションの特定の側面について不満を表明している。したがって、米国SECなどで見られるように、英国でも 2024 年に暗号資産分野での取締まり活動が強化される可能性がある。

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 (注1) たとえば米国では、証券取引委員会サイトは、2024年2月7日の時点で、投資家を誤解させるなど多数の証券法違反容疑で「バイナンス(Binance)」のような大手暗号資産取引所に対する訴訟を含む、少なくとも317件の暗号資産およびサイバー法執行訴訟を起こしている。(裁判件数は筆者がSECサイトに基づき修正した)。

(注2) 英国の高等法院(The High Court of Justice in London)

 高等法院(High Court of Justice)は、刑事法院(Crown Court)および控訴院(Court of Appeal))とともに、イングランドウェールズ高等裁判所(Senior Courts of England and Wales)の一部門をなす裁判所である。High Court of England and Wales、あるいはそれを略してEWHCとも呼ぶ。(英国司法制度図参照)。

(注3) ダロイア対パーソンズ・アンノウン(D’ALOIA V PERSONS UNKNOWN)事件 [2022] EWHC 1723 (Ch) およびオズボーン対パーソンズ・アンノウン(OSBOURNE V PERSONS UNKNOWN)事件 [2023] EWHC 39 (KB)参照。 米国を含む他の法域でも同様の傾向が見られた。(例: LCX AG 対 John Doe Nos 1 ~ 25、原因証明命令および一時的接近禁止命令 (インデックス番号 154644/2022ニューヨーク州最高裁判所 2022 年 6 月 2 日)。

(注4) 「Thought Leaders 4主宰の暗号資産紛争カンファレンス」(2023 年 6 月 28 日)での講演:暗号通貨詐欺の申し立ての問題最新情報

マーク・ペリング(Mark Pelling KC(King's Counsel)判事:英国の高位判事

Mark Pelling 判事

マーク・ペリング判事は、2019年にロンドン巡回商事裁判所の担当判事に任命された。

彼は、商事裁判所および巡回商事裁判所だけでなく、Chancery Division、国王法廷部門、行政裁判所、技術および建設裁判所で判事着席する権限を与えられている。

(注5) Tulip Trading Ltd 対 van der Laan 事件他 [2023] EWCA Civ 83 (2023.2.3 控訴裁判所は、ソフトウェア開発者がネットワーク上の暗号資産の所有者に対して受託者責任を負う可能性があり、これらの義務により、例えば 所有者の秘密鍵が紛失または盗難された場合、特定の状況では所有者の資産が安全に移されるという効果をもたらすソフトウェアパッチの導入を開発者に要求する可能性があることは正当に議論の余地があると認定した。

 詳細は、 Cleary Gottlieb LLP著「英国控訴裁判所: Cryptoasset Network Software Developers May Owe Fiduciary Duties to Token Holders (2023 年 2 月 21 日)」を参照。

(注6) 2023 年 2 月 3 日、イングランドおよびウェールズ控訴院民事部は、4 ビットコイン・ネットワークに関する Tulip Trading Limited (「TTL」) とソフトウェアの中核開発会社数社との間の訴訟で判決(Tulip Trading Ltd 対 van der Laan and others [2023] EWCA Civ 83)を言い渡した。

(注7) Piroozzadeh 対 Peoples Unknown [2023] EWHC 1024 (Ch) (2023.5.4 )高等法院大法官部(High Court:Chancery Division)は、当初、Binance が請求者に対する詐欺行為で追跡可能な収益を受け取ったという根拠で認められていた、暗号資産会社 Binance に対する差し止め命令を取り消した。

(注8) DAO(Decentralized Autonomous Organization、分散型自律組織)とは、中央集権的な管理を必要とせず、ブロックチェーンを基盤にして、世界中の人々が協力しながら管理・運営をおこなう組織のことである。DAOは独自のガバナンス・トークンを発行しており、参加者はそれを保有することで、意思決定のための投票権を得られる仕組みであり、コミュニティに貢献したインセンティブも、ガバナンス・トークンを含むさまざまなトークンで支払われる。(INSIGHT
powered サイト解説
から抜粋)

(注9) 「スマート・コントラクト」とは、ブロックチェーン・システム上の概念であり、あらかじめ設定されたルールに従って、ブロックチェーン上のトランザクション(取引)、もしくはブロックチェーン外から取り込まれた情報をトリガーにして実行されるプログラムを指す。ここでの「スマート」とは「賢い」ではなく、「自動的に実行される」という意味で用いられている。(https://www.sbbit.jp/article/fj/40394から抜粋)。

(注10)英国法務委員会のDAO専門サイト

 法務委員会は、2022 年 11 月 16 日に証拠の公開募集を開始しました。証拠の募集では、ユーザーや他の専門家に、DAO をどのように特徴付けることができる (またそうすべきである) か、またイングランドウェールズの法律が現在および将来どのように DAO に対応できるかについての情報を求めている。

 英国政府は法務委員会に対し、ブロックチェーン、スマート・コントラクト(注9)、または同様のテクノロジーをよく使用する新しいタイプの集団組織構造である DAO の説明と法的地位を調査するスコープペーパーを作成するよう依頼した。

  Evident paper Call for Evidenceを求める法務委員会の文書(全96頁)を参照されたい。

*Evident paper Call for Evidenceとは、政府のモデル分析などについて、その根拠となる仮定やデータが適当であり、利用可能な最善の根拠に基づくものあるかを検証するため、広く国民各位、専門家、事業者、NGOなどに対して、質問票の照会事項に沿った、根拠に基づく情報の提供を照会するもの。(内閣官房の解説参照)。

(注11)2023.6.27 英国法務委員会報告「Digital assets: Final report」(Law Com No 412:全304頁) (1965 年法務委員会法第 3 条(2) に従って英国議会に提出:議会下院により 2023 年 6 月 27 日に印刷するよう命令あり)

(注12)「 2000 年金融サービスおよび市場法」はその後、更新が行われており、2024 年 2 月 19 日までに発効されている。

(注13) トラベル・ルールとは、「利用者の依頼を受けて暗号資産の送付を行う暗号資産交換業者は、送付依頼人と受取人に関する一定の事項を、送付先となる受取人側の暗号資産交換業者に通知しなければならない」というルールである。このルールは、FATF(金融活動作業部会)が、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策についての国際基準(FATF 基準)において、各国の規制当局に対して導入を求めているものである。

トラベル・ルールの目的は?

テロリストその他の犯罪者が自由に電子的な資金移転システムを利用することを防ぎ、

不正利用があった場合にその追跡を可能とすることを目的とするものである。

トラベル・ルールはどのように日本に導入されるか?

FATF 第4次対日相互審査において、我が国は、電信送金(為替取引)だけでなく暗号資産の移転についても、トラベル・ルールの対象とすべきと指摘されており、犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)の改正が行われることが想定される。ただし、トラベル・ルールは世界的に見ても全く新しい規制であり、その実施に向けて技術的にも課題が多いので、協会は、金融庁からの要請を踏まえ、法改正に先立ち協会の自主規制規則においてトラベル・ルールを導入し、その課題を解決していくこととした。(日本暗号資産取引業協会サイトから抜粋)

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