わが国の確定申告上の暗号資産の扱いの明確化が重要(日米比較)

 

 わが国の2024年提出分の所得税に関する確定申告と納税の期間は、2024216日(金)から2024315日(金)である。

 一方、筆者の手元に米国歳入庁の2023年の連邦所得税申告書提出の際に留意すべき「デジタル資産」の扱いに関する注意喚起通知が届いた。

 筆者は、新ためてそこにいう「デジタル資産」と具体的に何を指すのかを確認してみるとともに、わが国の国税庁の確定申告における暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)(平成 30 年 11 月(令和5年 12 月最終改訂)を比較してみた。

 そこで明らかとなったのは、わが国の暗号資産等に関する税務上の取扱いの曖昧性である。すなわち、暗号資産、暗号通貨、電子マネー等、その定義を国税庁サイトでみると、例えば「暗号資産」は、資金決済に関する法律第2条第14項に規定する暗号資産 (注1)をいい、また、「電子決済手段」とは同条第5項第1号から第3号までに規定する電子決済手段をいう(注2)等、法律上、かならずしも十分明確化されておらず巷には暗号資産交換事業者による不正確な説明に基づく情報戦略が横行している。

  税務上の扱いにとどまらず、ビットコイン(BTC)を筆頭とする暗号資産(仮想通貨)は、急速に普及したことや次々と新しい技術が生まれていることから、わが国の暗号資産を規制する法制は「資金決済法」、「金融商品取引法」「金融商品販売法」等を中心に現物暗号資産、暗号資産デリバティブICO(投資型(STO(Security Token Offering))や投資型以外のICO(Initial Coin Offering)、 ステーブルコイン(安定した価格を実現するよう設計された通貨)(注3)、CBDC(中央銀行デジタル通貨)(注4)、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)(注5)の法的位置や暗号資産上の位置づけ、電子マネーとの比較等の規制法を体系的に理解するのは、消費者や事業者にかなりの負担となっている。

 また、暗号資産交換業者の倒産時の対応や暗号資産の流出リスクへの対応等消費者保護、犯罪防止マネローダリング、暗号資産交換業にかかる取引に際しての情報提供義務、利用者の保護措置、暗号資産交換業者の広告規制等法律以下の資金決済に関する法律施行令(平成22年政令第19号)、暗号資産交換業者に関する内閣府令(平成29年内閣府令第7号)、金融庁事務ガイドライン等極めて多岐にわたる。

 これまで筆者は海外の動向につき「英国の暗号資産にかかる『金融サービスおよび市場法』の改正法案を巡る最新動向」を取り上げた。

 今回のブログは、(1)暗号資産にかかる法制につき理解をすすめるうえで参考となる解説サイトの評価をまとめて紹介, (2)わが国の暗号資産関係法の体系と改正経緯、(3)  英国や米国における暗号資産の法的解釈とのわが国の法整備との基本的相違点、最後に(4)税申告上の暗号資産の扱いの比較を試みる。

1.わが国の暗号資産にかかる法制につき理解をすすめるうえで参考となる解説サイトの評価

 関係法を一覧にするサイトは以下のとおりである。簡単にコメントする。

(1)法改正経緯

「暗号資産(仮想通貨)の法律を解説!規制整備の流れを把握しよう」

2017年の法改正で暗号資産(仮想通貨)に法的根拠~2023年6月1日施行の改正資金決済法

2023-10-11 更新 関係法の改正経緯を解説が詳しい。

NRI「ステーブルコインを規制する初めての法律が成立」(2022.6.6)

(2)個別法の改正内容

 金融庁の審議会資料「金融庁「暗号資産(仮想通貨)に関連する制度整備について」から引用。ただし2016年(平成28年)から2019年(平成31年)の法改正のみ解説している。なお、個別法の内容については、筆者が補筆した。

A.暗号資産に係る法制度の整備

 平成29年(2017年)4月1日施行された「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律」平成28年(2016年)3月4日提出、平成28年5月25日成立)その中に含まれている「資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」という)」(第11条関係)において、「第三章の二 仮想通貨」という箇所が付け加えられたのが、暗号資産(仮想通貨)に関する法律の始まりである。(注6)

暗号資産の交換業者に登録制を導入

・ 口座開設時における本人確認等を義務付け

・ 利用者保護の観点から、一定の制度的枠組みを整備

(最低資本金、顧客に対する情報提供、顧客財産と業者財産の分別管理、システムの安全管理 など)

B.資金決済法一部改正法および金融商品取引法等の一部改正(令和元年(2019)67日公布、令和2(2020)5月1日施行)

「情報通信技術の進展に伴う金融取引の多様化に対応するための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律」(令和元年法律第28,以下「改正法」という)

 利用者保護の確保やルールの明確化のための制度整備が中心である。

 国際的な動向等を踏まえ、法令上の呼称を「仮想通貨」から「暗号資産」に変更

③2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要①

ⅰ暗号資産の流出リスクへの対応 ⅱ過剰な広告・勧誘への対応、ⅲ暗号資産の管理のみを行う業者への対応

④2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要②

(暗号資産の取引の適正化等に向けた対応)

ⅰ問題がある暗号資産への対応、ⅱ暗号資産を用いた不公正な行為への対応、ⅲ暗号資産に関するその他の対応

⑤2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要③

(暗号資産を用いた証拠金取引への対応)

➅2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要④(ICO(STO)への対応①)

⑦2019年法改正(赤字で記載)及び今般の政府令改正等(青字で記載)の概要⑤(ICO(STO)への対応②)

「暗号資産」の定義に関して、金融商品取引法では、資金決済法に規定される暗号資産の定義と同様とすると規定されている(金融商品取引法第2条第24項第3号の2)。

C.2023(令和5)61日施行の改正資金決済法

 2022年(令和4年)6月3日、「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律(以下「改正資金決済法」という)が成立し、2023年6月1日に同法が施行された。

【令和4年(2022年)改正資金決済法等内容】

 改正法の範囲は、資金決済法や銀行法などの多岐にわたっているが、主要な改正内容としては、一般に、以下の三本柱があるといわれている。

①高額電子移転可能型前払式支払手段への対応

②電子決済手段等(いわゆるステーブルコイン)への対応

③銀行等による取引モニタリング等の共同化への対応

 この改正法で、注目されたのは「電子決済手段」が新設されたことであり、それまで規制としてはグレーゾーンとなっていたステーブルコインに関する規制が盛り込まれた点である。

D.消費者保護の観点から資金決済法の改正の解説例

【知っておきたい資金決済法】第6回 暗号資産(1)暗号資産(現物)取引に関する資金決済法の規律の解説

【知っておきたい資金決済法】最終回 暗号資産(2)最終回 ICOは電子的なトークン(証票)を発行して行う事業資金の調達をいう。

2.わが国の資金決済法の改正経緯とその背景(概要)

(1)金融庁の説明資料(図解で詳しい。専門家向け)

2022年3月「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」

 「資金決済法の一度目の改正案は2017年4月1日に、二度目は2020年5月1日、三度目は2023年6月1日にそれぞれ施行されてきた。

 また、もう1つの規制法「金融商品取引法」も電子的なトークン(証票)を発行して行う事業資金の調達を ICO(投資型(STO))につき規制している。なお、投資型ICOは暗号資産の規制法である「資金決済法」により規制される。

 また、消費者保護、犯罪防止マネローダリング、暗号資産交換業にかかる取引に際しての情報提供義務、利用者保護措置、暗号資産交換業者の広告規制等法律以下の資金決済に関する法律施行令(平成22年政令第19号)、暗号資産交換業者に関する内閣府令(平成29年内閣府令第7号)(注7)金融庁事務ガイドライン等極めて多岐にわたる。

(2)グローバルな暗号資産時価総額の見方と比較

 一例としてCoin Market Cop(日本語版)をあげる。

 

3.英国や米国における暗号資産の法的解釈とのわが国の法整備との基本的相違点

 以下の解説が詳しい。

(1)金融庁デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第12回)資料

日時:令和5年11月13日(月曜日)10時00分~12時00分「事務局説明資料2(国際的な規制動向)2023年11月13日

1.国際組織における動向

2.各法域における動向

(2) 野村資本市場クォータリー2020年春号「ステーブルコインと中央銀行デジタル通貨を巡って」

4.日米の税申告における暗号資産の扱いの比較

1)米国の暗号資産の申告の扱い

① 2024.1.22 内国歳入庁( IRS)「Taxpayers should continue to report all cryptocurrency, digital asset income」を以下、仮訳する。

 納税者は引き続きすべての暗号通貨、デジタル資産収入を報告する必要がある。

 内国歳入庁は1月22日、納税者に対し、2023年の連邦所得税申告書を提出する際には、2022年の連邦税申告書と同様に、デジタル資産の質問に答え、すべてのデジタル資産関連の収入を報告する必要があることを再度注意喚起した。

 納税者は引き続きすべての暗号通貨、デジタル資産収入を報告する必要がある。

 質問は様式上部に表示される。

(ⅰ) 個人所得税申告(U.S. Individual Income Tax Return) 様式1040;(ⅱ)高齢者への納税申告(U.S. Tax Return for Seniors) 様式 1040-SR 、(ⅲ) 非居住者外国人所得税申告(U.S. Nonresident Alien Income Tax Return) 様式1040-NR

  そして表現を更新するために今年改訂した。

 質問項目は、これらの追加の様式にも以下のとおり、追加した。

(ⅳ)不動産および信託の所得税申告(U.S. Income Tax Return for Estates and Trusts)様式 1041、; (ⅴ)パートナーシップ所得の収益(U.S. Return of Partnership Income)様式1065 ;(ⅵ)法人所得税申告(U.S. Corporation Income Tax Return U.S. Income Tax Return for an S Corporation)様式1120; そして S Corporationの所得税申告 様式1120s(U.S. Income Tax Return for an S Corporation)

 様式に応じて、以下のとおりデジタル資産に関する質問はこの基本的な質問を行う。適切なバリエーションは、企業、パートナーシップ、または不動産と信託の納税者に合わせて調整される。

 「申告において、2023年中のいつでも、次のことを行ったことが対象になる。(a)(報酬、賞、または財産またはサービスの支払いとして受け取った)。または(b)販売、交換, または、デジタル資産(またはデジタル資産の金銭的利益)を処分したことが対象となる」

デジタル資産とは何か?

 デジタル資産とは、暗号で保護された分散型台帳または類似のテクノロジーに記録される価値のデジタル表現である。一般的なデジタル資産は次のとおりである。

コンバーチブル仮想通貨(Convertible virtual currency)(注8)(注9)と暗号通貨(cryptocurrency)。

②ステーブルコイン

③非代替性トークン(NFT)。

 申告者は誰もが書式により各質問に答えなければならない

様式1040、1040-SR、1040-NR、1041、1065、1120、1120、および1120Sを提出するすべての納税者は、デジタルアセットの質問に「はい」または「いいえ」のいずれかに答える1つのボックスをチェックする必要がある。質問は、2023年にデジタル資産を含む取引に従事した人々だけでなく、すべての納税者が回答する必要がある。

いつ“はい”をチェックするのか?

 通常、納税者は次の場合に「はい」ボックスをチェックする必要がある。

 従業員がデジタル資産で支払われた場合、賃金として受け取った資産の価値を報告する必要がある。 同様に、独立した請負業者として働いており、デジタル資産で支払われている場合は、その収入をスケジュール C (フォーム 1040) の事業損益 (個人事業主) に報告する必要がある。 スケジュール C は、取引またはビジネスに関連して顧客にデジタル資産を販売、交換、または譲渡する人にも使用される。

“いいえ”をいつチェックするのか?

 通常、2023年にデジタル資産を所有しただけの納税者は、年間を通じてデジタル資産に関連する取引に従事していない限り、「いいえ」ボックスをチェックできる。アクティビティが次の1つ以上に制限されている場合は、「いいえ」ボックスをチェックすることもできる。

財布または口座にデジタル資産を保持する場合;

所有または管理する1つのウォレットまたはアカウントから、所有または管理する別のウォレットまたはアカウントにデジタル資産を転送する。または電子プラットフォームを含む、米国またはその他の実質通貨を使用したデジタル資産の購入があたる。

(2)わが国の暗号資産の確定申告時の扱い

 わが国の解説は以下のとおり、実態に合わせた解説ガイドやFAQはない。

暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)から抜粋する。

平成 30 年 11 月 (令和5年 12 月最終改訂)国税庁

  「暗号資産」とは、資金決済に関する法律第2条第14項に規定する暗号資産をいいます。また、「電子決済手段」とは同条第5項第1号から第3号までに規定する電子決済手段をいいます。

*******************************************************************:**::

(注1) 資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第14項:

 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第29条の2第1項第8号に規定する権利を表示するものを除く。

1号 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

2号 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

(注2) 資金決済に関する法律第2条第5項 

この法律において「電子決済手段」とは、次に掲げるものをいう。

一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されている通貨建資産に限り、有価証券、電子記録債権法(平成19年法律第102号)第二条第一項に規定する電子記録債権、第三条第一項に規定する前払式支払手段その他これらに類するものとして内閣府令で定めるもの(流通性その他の事情を勘案して内閣府令で定めるものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第三号に掲げるもの(特定信託受益権)に該当するものを除く。)

金融商品取引法第29条の2第1項第8号

 第2条第2項の規定により有価証券とみなされる権利(当該権利に係る記録又は移転の方法その他の事情を勘案し、公益又は投資者保護のため特に必要なものとして内閣府令で定めるものに限る。)又は当該権利若しくは金融指標(当該権利の価格及び利率等並びにこれらに基づいて算出した数値に限る。)に係るデリバティブ取引についての次に掲げる行為を業として行う場合にあつては、その旨

イ 当該権利についての第2条第8項第1号から第10号までに掲げる行為又は当該デリバティブ取引についての同項第1号から第5号までに掲げる行為

ロ 第二条第8項第12号、第14号又は第15号に掲げる行為

金融商品取引法第2条2項

 前項第1号から第15号までに掲げる有価証券、同項第17号に掲げる有価証券(同項第16号に掲げる有価証券の性質を有するものを除く。)及び同項第18号に掲げる有価証券に表示されるべき権利(同項第14号に掲げる有価証券及び同項第17号に掲げる有価証券(同項第14号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)に表示されるべき権利にあつては、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)第2条第5項第3号又は第4号に掲げるものに該当するもので有価証券とみなさなくても公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)並びに前項第16号に掲げる有価証券、同項第17号に掲げる有価証券(同項第16号に掲げる有価証券の性質を有するものに限る。)及び同項第19号から第21号までに掲げる有価証券であつて内閣府令で定めるものに表示されるべき権利(以下この項及び次項において「有価証券表示権利」と総称する。)は、有価証券表示権利について当該権利を表示する当該有価証券が発行されていない場合においても、当該権利を当該有価証券とみなし、電子記録債権電子記録債権法(平成19年法律第102号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。以下この項において同じ。)のうち、流通性その他の事情を勘案し、社債券その他の前項各号に掲げる有価証券とみなすことが必要と認められるものとして政令で定めるもの(第7号及び次項において「特定電子記録債権」という。)は、当該電子記録債権を当該有価証券とみなし、次に掲げる権利は、証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利であつても有価証券とみなして、この法律の規定を適用する。

一号 信託の受益権(前項第10号に規定する投資信託の受益証券に表示されるべきもの及び同項第12号から第14号までに掲げる有価証券に表示されるべきもの並びに資金決済に関する法律第2条第5項第3号又は第4号に掲げるものに該当するもので有価証券とみなさなくても公益又は投資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定めるものを除く。)

二号 外国の者に対する権利で前号に掲げる権利の性質を有するもの(前項第10号に規定する外国投資信託の受益証券に表示されるべきもの並びに同項第17号及び第18号に掲げる有価証券に表示されるべきものに該当するものを除く。)

三号 合名会社若しくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る。)又は合同会社の社員権

四号 外国法人の社員権で前号に掲げる権利の性質を有するもの

五号 民法明治29年法律第89号)第667条第1項に規定する組合契約、商法(明治32年法律第48号)第535条に規定する匿名組合契約、投資事業有限責任組合契約に関する法律(平成10年法律第90号)第3条第1項に規定する投資事業有限責任組合契約又は有限責任事業組合契約に関する法律(平成17年法律第40号)第三条第一項に規定する有限責任事業組合契約に基づく権利、社団法人の社員権その他の権利(外国の法令に基づくものを除く。)のうち、当該権利を有する者(以下この号において「出資者」という。)が出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業(以下この号において「出資対象事業」という。)から生ずる収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利であつて、次のいずれにも該当しないもの(前項各号に掲げる有価証券に表示される権利及びこの項(この号を除く。)の規定により有価証券とみなされる権利を除く。)

イ 出資者の全員が出資対象事業に関与する場合として政令で定める場合における当該出資者の権利

ロ 出資者がその出資又は拠出の額を超えて収益の配当又は出資対象事業に係る財産の分配を受けることがないことを内容とする当該出資者の権利(イに掲げる権利を除く。)

ハ 保険業法(平成7年法律第105号)第2条第1項に規定する保険業を行う者が保険者となる保険契約、農業協同組合法(昭和22年法律第132号)第十条第一項第十号に規定する事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、消費生活協同組合法(昭和23年法律第200号)第十条第二項に規定する共済事業を行う同法第四条に規定する組合と締結した共済契約、水産業協同組合法(昭和23年法律第242号)第11条第1項第12号、第93条第1項第6号の二若しくは第100条の2第1項第1号に規定する事業を行う同法第2条に規定する組合と締結した共済契約、中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)第9条の2第7項に規定する共済事業を行う同法第3条に規定する組合と締結した共済契約又は不動産特定共同事業法(平成6年法律第77号)第2条第3項に規定する不動産特定共同事業契約(同条第9項に規定する特例事業者と締結したものを除く。)に基づく権利(イ及びロに掲げる権利を除く。)

ニ イからハまでに掲げるもののほか、当該権利を有価証券とみなさなくても公益又は出資者の保護のため支障を生ずることがないと認められるものとして政令で定める権利

六号 外国の法令に基づく権利であつて、前号に掲げる権利に類するもの

七号 特定電子記録債権及び前各号に掲げるもののほか、前項に規定する有価証券及び前各号に掲げる権利と同様の経済的性質を有することその他の事情を勘案し、有価証券とみなすことにより公益又は投資者の保護を確保することが必要かつ適当と認められるものとして政令で定める権利

(注3) 価格の安定性を実現するように設計された暗号資産(仮想通貨)のこと。裏付け資産がないため価格変動が激しく、決済手段としての活用が進んでいない暗号資産の普及を促し、実用性を高めるために設計された。英語表記はStablecoin。

 価格を安定させる仕組みの違いから、ステーブルコインは主に4つの種類に分けられる。米ドルなどの法定通貨を担保にコインを発行し、その法定通貨との交換比率を固定する「法定通貨担保型」、特定の暗号資産を担保にコインを発行し、価格を連動させる「暗号資産担保型(仮想通貨担保型)」、金や原油などの商品(コモディティ)価格の値動きに連動させる「コモディティ型」、アルゴリズムによってコインの流通量を調整する「無担保型」がある。(野村証券:証券用語解説集から抜粋)

(注4)ステーブルコインとは別に、中央銀行が発行するデジタル通貨のCBDC(Central Bank Digital Currency)がある。ステーブルコインとCBDCの違いは、ステーブルコインが民間により開発、発行される金融サービスであるのに対し、CBDCは政府が法定通貨としての価値を保証して発行される点にある。(NTT DATA の解説(前編), 解説(後編)から一部抜粋)

 なお、令和5年12月13日 財務省「CBDC(中央銀行デジタル通貨)に関する有識者会議 取りまとめ参照。

(注5) NFTとは「Non-Fungible Token(非代替性トークン)」の略称で、ブロックチェーン技術を使ってデジタルデータの所有権を明確にできる技術。

 なお、解説では, ステーブルコインには法定通貨や別の仮想通貨などを担保にした「担保型」と、アルゴリズムによって価格を安定させる「無担保型」がある。

PWC 「NFTに関連する法規制と私法的な法律関係──ビジネスの発展に向けた検討」は (1)NFTに関連する法規制(2)私法的な法律関係(3)の概要解説がわが国では詳しい解説と思う。以下、一部、抜粋する。

NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)と呼ばれるものがある。NFTはデジタルデータではあるものの、複製や改ざんが事実上不可能であり、かつ、他のデジタルデータと区別される固有の特徴を有するものである。従来のデジタルデータは技術的には複製が容易であったため唯一性(オリジナルであること)の確保が非常に困難であったが、NFT自体は唯一性の確保が可能ある。

(注6) 資金決済に関する法律の一部改正(第11条関係)のうち「2.仮想通貨交換業に係る制度整備」を以下、抜粋、引用する。

 2.仮想通貨交換業に係る制度整備

(1)定義   「仮想通貨」の定義を定めることとする。 (資金決済に関する法律第2条関係)

(2)登録制の導入 ① 仮想通貨交換業(仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換等を業として行うことをいう。)は、登録を受けた法人でなければ行ってはならないこととする。  (資金決済に関する法律第63条の2関係) ② 仮想通貨交換業者の登録手続、登録拒否要件等を定めることとする。(資金決済に関する法律第63条の3~第63条の7関係)

(3)業務に関する規定の整備 ①  仮想通貨交換業者は、情報の安全管理のために必要な措置を講じなければならないこととする。 (資金決済に関する法律第63条の8関係) ②  仮想通貨交換業者は、利用者への情報提供など利用者の保護を図り、業務の適正かつ確実な遂行を確保するために必要な措置を講じなければならないこととする。(資金決済に関する法律第63条の10関係) ③  仮想通貨交換業者は、利用者の財産を自己の財産と分別して管理し、その管理の状況について、定期に公認会計士又は監査法人の監査を受けなければならないこととする。 (資金決済に関する法律第63条の11関係) ④  仮想通貨交換業者に関し、金融分野における裁判外紛争解決制度(いわ ゆる金融ADR制度)を設けることとし、紛争解決機関との間で契約を締結する措置等を講じなければならないこととする。資金決済に関する法律第63条の12、第99条~第101条関係)

(4)監督規定の整備 仮想通貨交換業者に関し、帳簿書類及び報告書の作成、公認会計士又は監査法人の監査報告書等を添付した当該報告書の提出、立入検査、業務改善命令等の監督規定を設けることとする。 (資金決済に関する法律第63条の13~第63条の19関係) (5)認定資金決済事業者協会に関する規定の整備 仮想通貨交換業者が設立した一般社団法人であって、仮想通貨交換業の適切な実施の確保を目的とすること等の要件に該当すると認められるものを、法令遵守のための会員に対する指導等を行う者として認定することができることとするなど、認定資金決済事業者協会に関する規定を設けることとする。 (資金決済に関する法律第87条、第88条、第90条~第92条、第97条関係)

 (6)罰則 仮想通貨交換業者に関し、所要の罰則規定の整備を行うこととする。(資金決済に関する法律第107条~第109条、第112条~第117条関係)

(注7) 暗号資産にかかる法令等の金融庁の暗号資産交換事業者への解説サイト

(注8) コンバーチブル仮想通貨は、取引所で法定通貨と交換できる、または正当な形態の商取引と支払いに直接使用される暗号通貨である。これらの通貨は、物理的な存在がなく、政府によって発行されないという点で、ドルやユーロなどの国が支援する通貨とは主に異なる。むしろ、分散型ブロックチェーンネットワークで実行される。ビットコインエーテル(注9)リップル(Ripple/XRP)は、変換可能な仮想通貨の例である。(Investopediaから抜粋、仮訳 )

(注9) エーテルトランザクショントークEthereumネットワークでの運用を容易にする。Ethereumネットワークにリンクされているすべてのプログラムとサービスには、計算能力、機器、インターネット接続、およびメンテナンスが必要である。Ethereumは、ユーザーがネットワーク上で要求された操作を実行するためにネットワーク参加者に与える支払手段である。(Investopediaから抜粋、仮訳 )

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オンライン憎悪(online hate)と憎悪犯罪(hate crime)やヘイト・スピーチ(hate speech)の規制強化にかかるEUや主要国の最新立法の動向

  筆者の手元に、米国連邦議会の独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)(注1)から標記レポートが届いた。

 この問題は単にオンライン憎悪(online hate)と憎悪犯罪(hate crime)やヘイト・スピーチ(hate speech)の規制強化の問題ではない。先に筆者が論じたデジタル社会の法制整備の一環でもある。

 今般のGAO の調査によると、選ばれた 6 社すべてが、人種や宗教などの実際の特徴または認識されている特徴に基づいて、自社ポリシーでヘイト・スピーチまたは人々に対する暴力的過激主義を促進していると定義しているコンテンツを削除するために何らかの措置を講じていることが判明した

 はたして、わが国では立法問題だけでなく企業等のポリシー等の調査がはたして適正に調査したりしているのか、疑問が湧いた。

 今回のブログは、(1)GAOレポートの概要紹介、(2)最近時のEU議会や欧州委員会の法規制の取り組み、(3)米国、ドイツ、フランスの立法の動向と更なる課題について解説を試みる。

12024.1.12 GAO レポートオンラインの過激主義:インターネット上で発生する憎悪犯罪について、より完全な情報が必要」の仮訳

 (1)概況報告(Fact Sheet)

 GAOが調査した調査によると、近年、かなりの数のインターネット・ユーザーがオンラインでのヘイトを経験している。

 GAOの研究と政府の報告書は、オンライン憎悪(online ate)と憎悪犯罪(hate crime)(注2)との関連性を示している。 たとえば、査読済みの研究(peer-reviewed study)では、パンデミック中に米国の一部の都市で、無作法なインターネット・コメントとアジア人に対するヘイト・クライムが関連付けられていることが判明した。

 連邦司法省(DOJ)は、執行機関から憎悪犯罪に関するデータを収集している。 司法省はヘイト・クライムの推定に全国世帯調査も行っているが、ヘイト関連のサイバー犯罪については調査対象でない。 ヘイトク・ライムをより深く理解し、対処するために、このデータを入手する方法を検討することを勧める。

【ハイライト】

*GAOが明らかとしたこと

 連邦司法省 は、次の 2 つの統計プログラムを使用して、ヘイト・クライム (例:人種、民族、性別、性同一性(gender identity)、宗教、身体障害、または性的指向に基づく偏見の証拠を示す犯罪等) に関するデータを収集している。

 連邦捜査局 (FBI) の「統一犯罪報告プログラム(Uniform Crime Reporting Program)」は、インターネット上で発生する憎悪犯罪を含む憎悪犯罪データを法執行機関から収集している。

 連邦司法省・司法統計局(Bureau of Justice Statistics:BJS)は、毎年実施する全国世帯調査「全国犯罪被害調査」を利用して、法執行機関に報告されたヘイト・クライムと報告されていないヘイト・クライムの蔓延の推定値を算出している。 ただし、BJS の調査は、インターネット上で発生するヘイト・クライムに関するデータを収集していない。

 「2022 年サイバー犯罪サイバー犯罪のより良い数値基準法(2022 Better Cybercrime Metrics Act)」では、BJS に対し、調査にサイバー犯罪被害に関する質問を含めることを義務付けている。BJS は、インターネット上の偏見に基づく被害を測定する 1 つの方法を調査する研究に資金を提供した。

 しかし、この調査では、対面でのヘイト・クライムを測定する方法と同様のアプローチなど、他の方法は検討されていない。 全国犯罪被害調査や補足調査でインターネット上の偏見に関連した犯罪被害を測定するための他の選択肢を模索することは、FBIのデータを補完し、司法省が憎悪の影響を受けるコミュニティを特定して支援を提供するのに役立であろう。

 GAO の調査によると、選ばれた 6 社すべてが、人種や宗教などの実際の特徴または認識されている特徴に基づいて、自社ポリシーでヘイト・スピーチまたは人々に対する暴力的過激主義を促進していると定義しているコンテンツを削除するために何らかの措置を講じていることが判明した。これら企業のデータによると、2018 年から 2022 年までに削除されたヘイト・コンテンツの量は、運営するプラットフォームによって異なった。これは、企業によるヘイト・コンテンツの定義と関連ポリシーのばらつきが部分的に原因であった。

インターネット上で発生するヘイト・スピーチ

 GAO調査によると、インターネット ユーザーの最大 3 分の 1 が、インターネット上でヘイト スピーチを経験したと報告しており、インターネット上でヘイト・スピーチや過激なスピーチを投稿するユーザーは、インターネットがヘイト・デオロギーの拡散に役立っているためにそうしている可能性があった。

 さらに、GAO調査や政府の報告書は、インターネット上のヘイト・スピーチとヘイト・クライムとの関連性を示している。 たとえば、ある査読済みの調査研究では、インターネット上の非礼なコメントと、米国の一部の都市におけるアジア人に対するヘイト・クライムとの間に関連性があることが判明した。 また、国土安全保障省(DHS)とFBIは、インターネットは、より大規模な暴力的過激派組織の支援なしに、個人が自己過激化し、単独犯による攻撃を行う機会を生み出したと報告した。

GAO がこの調査を行った背景・理由

 FBI に報告されたデータによると、米国では、ほぼ毎時間ごとにヘイト・クライムが発生している。最近のヘイト・クライムの調査では、インターネット上のヘイト・スピーチへの暴露が被害者に対する攻撃者の偏見に寄与した可能性があることが示唆されている。 2021年、FBIはヘイト・クライムを国内の暴力的過激主義の防止と同じ国家的脅威の優先順位に置いた。

 GAOは、インターネット上のヘイト・クライムとヘイト・スピーチに関する情報を調査するよう連邦議会から依頼された。この報告書は、(1) 司法省がインターネット上で発生するヘイト・クライムに関するデータをどの程度収集しているか、(2) 選ばれた企業がインターネット・プラットフォームからヘイト・スピーチや暴力的過激派の言論を削除するために講じた措置についてどのような企業データが示しているか、および( 3) インターネット上でのヘイト・スピーチに関するユーザーの経験や表現、ヘイト・クライムや家庭内暴力的過激主義との関係についてわかっていることを論じた。

 GAOは米国のヘイト・クライムデータを分析し、連邦司法省職員にインタビューした。 GAOはデータを分析し、ヘイトや暴力的な過激派の言論を禁止する公的ポリシーを定めたインターネット・プラットフォームを運営する厳選された6社の関係者にインタビューした。 GAOは、インターネット上のヘイト・スピーチ、ヘイト・クライム、国内の暴力的過激派事件について記述した査読付き(peer reviewed)の非営利研究を評価した。

2.米国連邦法のヘイト・クライムに関する従来の立法措置

(1)1968 年の法律「公民権法Civil Rights Act of 1968」P.L.90-284)の第Ⅰ編Title I: Hate crimes(18 U.S. Code § 249 - Hate crime acts)は、人種、肌の色、宗教、国籍を理由に、またその人が公教育など連邦政府によって保護されている活動に参加していることを理由に、雇用、陪審員サービス、旅行、公共宿泊施設の利用、または他人のそれを助けることは、いかなる人に対しても故意に干渉するために武力を行使する、または武力を行使すると脅すことを犯罪とした。同法の各権利の内容を解説から以下のとおり、抜粋する。

TITLE I--VOTING RIGHTS

TITLE II--INJUNCTIVE RELIEF AGAINST DISCRIMINATION IN PLACES OF PUBLIC ACCOMMODATION

TITLE III--DESEGREGATION OF PUBLIC FACILITIES

TITLE IV--DESEGREGATION OF PUBLIC EDUCATION

TITLE V--COMMISSION ON CIVIL RIGHTS

TITLE VI--NONDISCRIMINATION IN FEDERALLY ASSISTED PROGRAMS

TITLE VII--EQUAL EMPLOYMENT OPPORTUNITY

TITLE VIII--REGISTRATION AND VOTING STATISTICS

TITLE IX--INTERVENTION AND PROCEDURE AFTER REMOVAL IN CIVIL RIGHTS CASES

TITLE X--ESTABLISHMENT OF COMMUNITY RELATIONS SERVICE

TITLE XI--MISCELLANEOUS

 その後の同法の解釈を巡る追加立法、改正の経緯をまとめたサイト(Civil Rights Act of 1866 & Civil Rights Act of 1871 - CRA - 42 U.S. Code 21 §§1981, 1981A, 1983, & 1988)がある。(TITLE 42 - THE PUBLIC HEALTH AND WELFARE CHAPTER 21 - CIVIL RIGHTS)

1981条    Equal rights under the law.                      

1981a条   Damages in cases of intentional discrimination in employment

1983条    Civil action for deprivation of rights.          

1988条    Proceedings in vindication of civil rights.    

 1988 年には、家族状況と身体障害に基づく保護規定が追加された。1996 年には、連邦議会「教会放火防止法 (合衆国法典: 18 U.S. Code § 247 - Damage to religious property; obstruction of persons in the free exercise of religious beliefs) 」を可決した。この法律の下では、州際通商に影響を与える状況において、宗教/的不動産を汚損、損傷、破壊すること、あるいは個人の宗教的実践を妨害するとは犯罪であるとした。また、同法は宗教的財産に関係する人の人種、肌の色、民族性を理由に、宗教的財産を汚損、損傷、破壊することを禁じている。

(2)米国の近年のヘイト犯罪に関する法律

 連邦司法省が近年のHate Crime Laws一覧とリンクがまとめている。

以下で抜粋、仮訳する。

1.連邦により保護される諸活動保護法(18 U.S.C.§245 - Federally protected activities)

 人種、肌の色、宗教または民族的出自を理由に、連邦により保護される 6 つの行為について、その行為者に暴力または暴力の威嚇(暴力の行使を告知して威嚇すること)により、故意に傷害を与え、脅迫し、または妨害すること及びその未遂を禁ずる。

  1. B. The Public Health and Welfare § 3631. Violations; penalties (42 U.S.Code.§3631)

 法律に基づいて行動しているかどうかにかかわらず、武力または武力による脅迫によって、故意に傷害、脅迫、妨害を行った者、または傷害、脅迫、妨害を試みた者は誰でも、公正住宅権の妨害罪となる。

1.宗教関係財産等への損壊罪法(18 U.S. Code § 247 - Damage to religious property; obstruction of persons in the free exercise of religious beliefs)

 米国における宗教表現の自由と同様に、宗教施設は意図的な損害から保護されている。このため、連邦政府は宗教財産への損害を米国法第 18 編 247 に基づくヘイト・クライムと認定した。

 関係する状況、被害の深刻さ、犯罪の過程で誰かが負傷した場合、その刑罰は1年から40年の拘禁刑が科される可能性があり、または殺害された場合、裁判官はさらに死刑を科す可能性がある。

1.1990年ヘイト・クライム(憎悪犯罪)統計法(Hate Crime Statistics Act of 1990) 28 U.S.Code §534 noteAcquisition, preservation, and exchange of identification records and information; appointment of officials )ヘイト・ライムの発生状況や発生場所を把握し、再発防止のために連邦政府がデータ収集を行うことを定めた法律。

34 USC 41305: Hate crime statistics 2024.2.12により改正法が行われた。

 E.1994年ヘイト・クライム(憎悪犯罪)量刑強化法(Hate Crimes Sentencing Enhancement Act of 1994)」(H.R.1152)ヘイト・ライムを行った加害者に対して、通常の犯罪の刑罰より、厳しい罰則を適用する法律。

F地方及び部族当局が行うヘイト・クライムの調査、訴追への技術的・資金的援助法(42 U.S.C.§3716, 3716a)

42 U.S.Code §3716を仮訳する。

§3716: 州、地方、部族の法執行官による犯罪捜査と訴追のサポートに関する規定

(a) 資金援助以外の援助

(1) 一般

 州、地方、または部族の法執行機関の要請に応じて、司法長官は、犯罪捜査または犯罪の訴追において、技術的、フォレンジック的、検察的、またはその他の形式の支援を提供することができる。

(A) 暴力犯罪を構成する場合。

(B) 州法、地方法、部族法に基づく重罪に該当する場合。

(C) 被害者の実際のまたは認識されている人種、肌の色、宗教、出身国、性別、性的指向性自認、または身体障害に基づいた偏見によって動機付けられている場合、または州、地域または部族のヘイト・クライムに違反している場合 。

(2) 優先順位

 第 1 項(一般)に基づく支援を提供する際、司法長官は、複数の州で犯罪を犯した犯罪者による犯罪、および犯罪の捜査または訴追に関連する特別な費用を賄うことが困難な地方の管轄区域を優先するものとする。

(b) 助成金

(1) 一般規定

 連邦司法長官は、ヘイト・クライムの捜査と訴追に関連する特別な経費のために、州、地方、部族の法執行機関に助成金を与えることができる。

(2) 司法省のプログラム

 このサブセクションに基づく助成金プログラムを実施するにあたり、司法省プログラムは助成金受領者と緊密に連携し、コミュニティグループや学校、大学を含むすべての影響を受ける当事者の懸念とニーズが、このサブセクションに基づいて開発された地域インフラを通じて確実に助成金に対処されるようにするものとする。

(3) 申請手続

(A) 一般規定

 本項に基づく助成金を希望する各州、地方、部族の法執行機関は、司法長官が合理的に要求する情報を添付または含む方法で、その時点で申請書を司法長官に提出するものとする。

(B) 提出日

 サブパラグラフ (A) に従って提出される申請は、司法長官が指定する日付から 60 日間の期間内に提出されるものとする。

(C) 要件

 このサブセクションに基づいて助成金を申請する州、地方、および部族の法執行機関は、次のことを行うものとする。

(i) 助成金が必要とされる特別な目的を説明する。

(ii) 国家、地方自治体、またはインディアン部族にはヘイト・クライムの調査または訴追に必要なリソースが不足していることを証明する。

(iii) 補助金の実施計画を策定する際に、州、地方、部族の法執行機関が、ヘイトク・ライムの被害者にサービスを提供した経験のある非営利、非政府の被害者サービスプログラムと協議し、調整していることを証明する。

(iv) 本項に基づいて受領した連邦資金は、本項に基づいて資金提供される活動に利用できる非連邦資金に取って代わるのではなく、補完するために使用されることを証明する。

(4) 締切日

 本項に基づく補助金の申請は、連邦司法長官が申請を受領した日から 180 営業日以内に連邦司法長官によって承認または拒否されるものとする。

(5) 助成金

 このサブセクションに基づく助成金は、単一の管轄区域に対して 1 年間で 100,000 ドル(約1,510万円)を超えてはならない。

(6) 報告書

 連邦司法長官は、遅くとも 2011 年 12 月 31 日までに、本項に基づいて提出された補助金の申請、そのような補助金の授与、および補助金の支出目的を記載した報告書を議会に提出するものとする。

(7) 歳出の認可

 2010 年、2011 年、および 2012 年の各会計年度に、このサブセクションを実行するために 5,00万 ドル(約755億円)が割り当てられることが承認されている。

(Pub. L. 111–84、div. E、§4704、2009 年 10 月 28 日、123 Stat. 2837参照)

【法典化】

 このセクションは、「マシュー・シェパードおよびジェームス・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法」の一部として、また 2010 年度の国防権限法の一部として制定されたものであり、1968年オムニバス犯罪規制および安全な街路のタイトル I の一部として制定されたものではない。

連邦司法局の助成プログラム - 42 U.S.C. § 3716a (2012)

 以下、42 U.S.C. § 3716aを仮訳する。

(a) 補助金を与える権限

 連邦司法省の司法局プログラムは、連邦司法長官が定める規制に従って、ヘイト・クライムの特定、捜査、訴追、防止に携わる警察官に対し、地方の法執行機関を訓練するプログラムを含む、少年による憎悪犯罪と闘うことを目的とした州、地方、または部族のプログラムに助成金を与えることができる。

(b) 支出の認可

 このセクションを実行するために必要な金額が割り当てられることが許可される。

(Pub. L. 111–84、div. E、§4705、2009 年 10 月 28 日、123 Stat. 2838参照)

【法典化】

 このセクションは、「マシュー・シェパードおよびジェームス・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法」の一部として、また 2010 年度の国防権限法の一部として制定されたものであり、1968年オムニバス犯罪規制および安全な街路法のタイトル I の一部として制定されたものではない。

G.「マシューシェパードとジェームズバードジュニアのヘイト・クライム憎悪犯罪防止法(Title 18, U.S.Code §249 - Matthew Shepard and James Byrd, Jr., Hate Crimes Prevention Act)」

 連邦議会で、 2009年10月22日に可決され、2009年10月28日にオバマ大統領によって2010年の国防権限法の上乗せ法案(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2010/Division E) (HR 2647)に署名された。 1998年のマシューシェパードとジェームズバードジュニアの殺害への対応として考案されたこの法案は、1969年の米国連邦ヘイト・クライム法を拡大したもので、州、地方及び部族当局が行うヘイト・クライムの調査、訴追への技術的・資金的援助を規定するものである。

3.EUで進むオンライン・ヘイト・スピーチ規制議論と立法化

 ICT Global Trendの解説から一部抜粋する。なお、法律等の原本へのリンクや注書きは筆者が独自に行った。

 欧州委員会は2016年に「オンライン上の違法ヘイト・スピーチに対抗する行動規範(Code of Conduct on countering illegal hate speech online)」を策定するなど、長年に亘ってオンライン・ヘイト・スピーチ対策に取り組んできた。オンラインでの違法なヘイト・スピーチの拡散を防止および対抗するために、欧州委員会は 2016 年 5 月に FacebookMicrosoftTwitterYouTube と「オンラインでの違法なヘイト・スピーチ対策に関する行動規範」に合意した。

 2021年12月9日、欧州委員会EU運営条約TFEU(Treaty on the Functioning of European Union)第83条第1項(注3)の「EU犯罪(EU crimes)」の現在のリストをヘイト・クライムとヘイト・スピーチにまで拡大する理事会決定を促す通知を採択した。 (注4) この理事会の決定が採択されれば、欧州委員会は第二段階として、人種差別主義や外国人排斥の動機に加え、他の形態のヘイト・スピーチやヘイト・クライムをEUが犯罪化できる二次立法を提案することができるようになる。

 欧州委員会の政策「ツールボックス(The legal and policy framework in the EU)」には、2016 年から機能しているヘイト・スピーチとヘイト・クライムとの戦いに関するハイレベルグループの文脈において、各国当局を支援するための専用の交流機関やツールも含まれている。

 この取り組みは、被害者へのより良い支援に焦点を当てている。被害者の権利指令に沿って、法執行機関向けのヘイト・クライム訓練を強化し、ヘイト・クライムの記録、報告、データ収集を強化する。さらに、オンラインヘイトの課題に対処するために、欧州委員会は2016年に有名IT企業とともに、オンラインでの違法なヘイト・スピーチに対抗するための自主的な行動規範を開始した。

 この欧州委員会の政策は、反ユダヤ主義との戦いとユダヤ人の生活の育成に関するEU戦略(2021年から2030年)で言及されている反ユダヤ主義、反イスラム教徒の憎しみや反ユダヤ主義など、グループやコミュニティが経験する特定の形態のヘイト・スピーチやヘイト・クライムや反ジプシー主義にも特に注意を払っている。

 2018年中に、Instagram、Snapchat、Dailymotionが行動規範に参加し、2019年1月にJeuxvideo.com、2020年にTikTok、2021年にLinkedが参加した。2022年5月と6月に、Rakuten ViberとTwitchがそれぞれ行動規範への参加を発表した。

 2023年12月、欧州委員会と上級代表は「憎しみの余地はない:憎しみに対して団結する欧州」に関する共同声明を採択した。 この指針文書(communication)は、さまざまな政策にわたる行動を強化することにより、あらゆる形態の憎しみと戦うためのEUの取り組みを強化することを目的としている。 これらには、主要なオンライン・プラットフォームと合意した行動規範のアップグレードを通じて、オンラインでのヘイト・スピーチとの戦いの取り組みを強化すること、国内安全保障基金の予算の増額を通じて礼拝所の保護を強化する措置、および政府の役割のアップグレード、反ユダヤ主義との闘いとユダヤ人の生活の育成、反イスラム教徒の憎しみとの闘い、人種差別との闘いについての現調整官の特使を含む。

筆者追記】2024.1.18欧州議会サイトではヘイト・スピーチとへィト・クライム立法につき強い姿勢を見せている。抜粋し、仮訳する。

 欧州議会議員らは欧州連合理事会に対し、ヨーロッパのすべての人に対する憎しみからの適切なレベルの保護を確保するための法案を最終的に前進させるよう求めている。

 欧州議会は採択された報告書の中で、理事会はTFEU第83条第1項(いわゆる「EU犯罪」)(注4)の意味するところの刑事犯罪にヘイト・スピーチとヘイト・クライムを含める決定を現立法期間の終わりまでに採択すべきであると採択した法案2/12(49)の中で述べている 1月18日には賛成397票、反対121票、棄権26票であった。これらは国境を越えた側面を持つ特に重大な性質の犯罪であり、議会と評議会は刑事犯罪と制裁を定義するための最小限の規則を確立することができる。

4.ドイツの立法

 EU加盟国レベルでのオンライン・ヘイト・スピーチの取締まり規制は様々だが、先導的な立場に立ってきたのはドイツである。同国は2018年1月に、国内ユーザー数が200万人以上のプラットフォーム事業者に違法コンテンツを24時間以内に削除することを義務付ける法律を世界で初めて導入した。

 この法律は「ソーシャルネットワークにおける法執行を改善するための法律 (いわゆるネットワーク執行法 -Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken (Netzwerkdurchsetzungsgesetz - NetzDG))と名付けられ、違反した場合の罰金は最大5,000万ユーロ(約80億5,000万円)に上る。2020年に入ってからは同法の幅広い改正が並行して進行中で、同年6月18日にはその一環として、右翼過激主義と憎悪犯罪に対抗することを目的とした「CDU/CSU 及びSPD 法」が採択された。同法は、違法コンテンツに関する報告を受けたプラットフォーム事業者に、報告を受けた時点で当該コンテンツを連邦刑事庁に直接届けることを義務付けるもので、NetzDG法をより厳格化した形となる。

ドイツの憎悪犯罪の規制強化

(1)「ソーシャルネットワーク(SNS)における法執行の強化に関する法律(Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken (Netzwerkdurchsetzungsgesetz - NetzDG)」(以下、「SNS規制強化法」という)が 2017 年 9 月 7 日に公布され、同年 10 月 1 日施行された。SNS 事業者に対し、一定の違法情報への対応手続の策定等を求めるものであり、設定された高額な過料とともに各国で大きく報じられた。

 国立国会図書館の解説から概要を抜粋する。

1.対象と範囲

(1)対象となる SNS 事業者

対象となる事業者は、国内の利用登録者が 200 万人以上の一般 SNS 事業者である。

(2)違法なコンテンツの範囲

SNS 法で対応を義務付けられる「違法なコンテンツ」は、第 1 条第 3 項に掲げられた刑法典上の犯罪の構成要件を満たすものであって、かつ違法性が阻却されないものをいう。(注5)したがって、刑法典上違法とならない情報(一部のフェイクニュース等)(注6)は、同法の対象外ということになる。

2.報告義務

  違法なコンテンツへの対応に関する報告を義務付けられるのは、年間 100 件を超える苦情を受けた SNS 事業者である(第 2 条第 1 項)。該当する SNS 事業者は、半年に 1 度、報告書をドイツ語で作成し、連邦官報及び自社のウェブサイトで公開しなければならない(当該期間終了から 1 か月以内)。

3.苦情処理手続の策定義務

 SNS 事業者には、違法なコンテンツに関する苦情を送信するための方法を利用者に提供するとともに、苦情処理手続を策定することが義務付けられる。

(1)手続において保証されるべき内容

 苦情処理手続においては、以下のことが保証される必要がある。まず、遅滞なく苦情を認識し、当該コンテンツの違法性及び削除等を行う必要性について審査することである。次に、当該情報が明らかに違法である場合には、これを24 時間以内に削除することが求められる。それ以外の場合であっても、違法なコンテンツは原則として 7 日以内に削除される必要がある。ただし、主張されている事実の真実性が違法性の判断に関係する場合や規制された自主規制機関(後述)の判断に委ねる場合はこの限りではない。

(2)規制された自主規制機関

  規制された自主規制とは、法規制により事業者の自主規制を促進する手段ないし、自主規制の枠組みを決定する手段である

4 過料

 SNS 法による報告義務及び苦情処理手続の策定義務等に反した事業者等には、秩序違反として過料が科せられる。法人に対する過料は最大で 5,000 万ユーロ(約 74 億5000円)(秩序違反法第30 条の規定の適用による)である。ただし、苦情処理手続において保証されるべき事項について不備があったり、その運用について体制上の問題があったりする場合が対象であって、個別のコンテンツを削除しなかったことをもって過料が科されるわけではない。

(2)2021年「右派過激主義及びヘイト・クライムに対抗する法律」

 2021年4月1日に、「右派過激主義及びヘイト・クライムに対抗する法律(Gesetz zur Bekämpfung des Rechtsextremismus und der Hasskriminalität)」が公布され、同月3日に一部を除き施行された。(注7)

 同法は、前年の2020年7月に連邦参議院で可決されたが、同年5月の連邦憲法裁判所の違憲判決との関連から、連邦大統領が署名認証を行わなかったものである。

 ただし、同法は、同日(2021年4月1日)に公布された「既存データの開示に関する規則を2020年5月27日の連邦憲法裁判所の判決に由来する要件に適合させるための法律(Gesetz zur Anpassung der Regelungen über die Bestandsdatenauskunft an die Vorgaben aus der Entscheidung des Bundesverfassungsgerichts vom 27. Mai 2020)」(翌4月2日施行)の第15条によって、施行前に半分が廃止され、全5か条の条項法のみとなった。

5.フランスの立法

 フランスでは国務院(下院:Conseil d’État))が2020年5月14日に「インターネット上のヘイト・スピーチ対策法案(Loi du 24 juin 2020 visant à lutter contre les contenus haineux sur internet)」を可決、承認し、6月24日公布された。同法は、プラットフォーム事業者に対し、ネット上に投稿されたヘイト・スピーチや侮蔑表現を24時間以内に削除するよう義務付けるものである。違反企業には最大125万ユーロ (約2億125万円) の罰金が科され、悪質な場合には当該企業の全世界における年間収益の4%が罰金上限となる可能性もある。

 しかし、その後、保守野党の共和党上院議員団が同法の違憲審査を請求した。最終的に、フランスの憲法裁判所にあたる憲法院(Conseil constitutionnel)は2020年6月18日、24時間以内の削除義務が表現及び言論の自由を侵害するとして、Avia法の主要部分に違憲性があるとの判断を下した。憲法院は、プラットフォーム事業者が罰金を逃れるために過剰反応し、問題のないコンテンツまで削除されるリスクがあるとして、一連の関連条項の削除を命じた。(注8)

5.日本

 日本もSNS等を介した自殺事件等からも手本格的な立法の必要性は多く叫ばれている。

 その中で、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号)」、いわゆる「ヘイト・・スピーチ解消法」が成立し、平成28年6月3日に施行された。(法務省「ヘイトスピーチ、許さない」参照

 同法は、「本邦外出身者」に対する「不当な差別的言動は許されない」と宣言している。

 なお、同法が審議された国会の附帯決議のとおり、「本邦外出身者」に対するものであるか否かを問わず、国籍、人種、民族等を理由として、差別意識を助長し又は誘発する目的で行われる排他的言動は決してあってはならないものとされている。

 一般的には憎悪犯罪を特別に重く罰する法律は、思想・良心の自由・表現の自由を脅かす恐れがあり、日本国憲法の理念に反するという主張がある。また、何がヘイトに該当するかは必ずしも明確ではなく、恣意的な運用が懸念されることから、現状ではそのような法律は制定されていない。

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html#%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%AE%EF%BC%9F

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(注1)わが国でのGAOの訳語も多岐にわたる。しかし、筆者は2008年にブログで取り上げ訳語にこだわった。

2008.11.29 「連邦議会独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)による行政Watchdogの役割と機能」(Last Updated: Febuary 25,2022)の(注2)参照。

(注2) ヘイト・クライム( hate crime:憎悪犯罪)とは、人種、民族、宗教、などに係る、特定の属性を持つ個人や集団に対する偏見や憎悪が元で引き起こされる、嫌がらせ、脅迫、暴行等の犯罪行為を指す。アメリカ連邦公法によれば「人種・宗教・性的指向・民族への偏見が、動機として明白な犯罪 (Public Law101-275) 」と定義されている

(注3) EU運営条約TFEU(Treaty on the Functioning of European Union)第83条第1項を以下、仮訳する。

1.欧州議会欧州連合理事会は、通常の立法手続きに従って採択された指令により, そのような犯罪の性質または影響、または 共通して彼らと戦う特別な必要性から特に深刻な犯罪の分野における犯罪と制裁の定義に関する最低限のルールを確立できる。

 これらの犯罪分野は次のとおりである。テロ、人身売買、女性と子供の性的搾取、違法麻薬密売、違法武器売買、マネーロンダリング汚職, 支払い手段、コンピューター犯罪、組織犯罪の偽造。

 犯罪の進展に基づいて、欧州連合理事会は、この段落で指定された基準を満たす他の犯罪分野を特定する決定を採択することができる。欧州議会の同意を得た後、全会一致で行動するものとする。

(注4) 2021年12月9日、欧州委員会「より包括的で保護的な欧州:EU犯罪のリストをヘイトスピーチとヘイトクライムに拡大する」に関する指針文書(communication)」を採択した。これは、現在のEU犯罪リストにつき、EU運営条約(TFEU )第83条に規定されているいわゆる「EU犯罪」にヘイト・クライムヘイト・スピーチにまで拡張する理事会決定を引き起こすことを目的としている。 このような決定により、欧州委員会は第2段階で、EU全体でヘイト・スピーチやヘイト・クライムに取り組むうえで加盟国の法的枠組みを強化することが可能となる。

(注5) 対象となるのは、第 86 条(違憲な組織(ナチス等)のプロパガンダの制作・頒布)、第 86a 条(違憲な組織のシンボルの頒布、公然使用)、第 89a 条(国家を脅かす暴力行為の準備)、第 91 条(第 89a 条の罪を文書によりそそのかすこと)、第 100a 条(国家反逆的な事実の歪曲)、第 111 条(犯罪の扇動)、第 126 条(犯罪行為を実行するという脅迫により公共の平穏を乱すこと)、第 129 条から第 129b 条まで(テロ組織の結成等)、第 130 条(民衆扇動罪。ヘイト・スピーチやナチスの暴力的支配の賛美等)、第 131 条(暴力表現)、第 140 条(犯罪行為への報酬の支払い等)、第 166 条(他者の宗教観・世界観の誹謗)、第 184d 条に付随する第 184b 条(ポルノの放送等)、第 185 条から第 187 条まで(名誉毀損的表現)、第 201a 条(盗撮等高度に私的な領域の撮影)、第 241 条(脅迫罪)又は第 269 条(法律行為の証拠となるデータの改ざん)である。

(注6) 違法情報に該当するフェイク・ニュースとしては、名誉毀損的表現(刑法典第 187 条(悪評の流布)等)が代表的なものである。しかし、フェイク・ニュース対策として期待される成果は少ないとするものもある。

(注7) 国立国会図書館「【ドイツ】右派過激主義及びヘイトクライムに対抗する法律」の解説

(注8)フランスの公共政策や社会を動かす主要な議論を理解するための鍵を提供する無料の政府情報サイトVie-publique.frの解説を仮訳する。

 テロリストまたは児童ポルノのコンテンツについて、憲法院は新法律でいうコンテンツの違法性の判断はその明白な性質に基づくものではなく、行政の単独の評価に従うものであり、オペレーターが実行するために許可される時間は、オペレーターのみに許可されないものであると考え、あくまで裁判官から判決にもとづく判断を得るべきである。

 憲法院にとって、この法案上程議員は、追求される目的に適合したり、それに比例したりしていない表現の自由を侵害していることになる。 個人によって報告されたコンテンツについて、憲法院は、合法なものを含むすべての異議申し立てのコンテンツを削除するよう運営者に奨励されるリスクを強調しており、したがって、これは表現の自由に対する新たな攻撃といえると指摘している。

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米国の金融監督機関の暗号資産市場の急速な拡大とそのリスクに対する規制強化にかかる共同声明の内容

 筆者は暗号資産の SECやCFTCの規制強化について1月28日付け本ブログで取り上げたが、連邦準備制度理事会 (Federal Reserve)、連邦預金保険公社 (FDIC)および通貨監督庁 (OCC) (総称して各監督省庁) は、去る1月 3日、銀行組織における暗号資産のリスクについて共同声明を発表した。

 この声明は、暗号資産業界にとって1年間の紆余曲折を経て発表された。 これら監督機関は同声明で「暗号資産セクターにおける大幅な価格変動(significant volatility)と脆弱性リスクにさらされる(exposure of vulnerabilities)」を強調している。この内容を読むとステーブルコインも含め暗号資産に対する規制強化を強く訴えている、その背景には業界全体の不安定性や詐欺事件が多発していることは間違いない。

 以下、声明文(原文)を仮訳する。

  軽減または制御できない暗号資産セクターに関連するリスクが銀行システムに移行しないことが重要である。 これらの監督機関は、以下のような銀行組織を監督している。

 暗号資産セクターに起因するリスクにさらされる可能性があり、暗号資産を含む活動に従事する銀行組織からの提案を慎重に検討している。 これまでの各政府機関のケース・バイ・ケースのアプローチを通じて、各政府機関は、暗号資産が銀行組織、その顧客およびより広範な米国の金融システムにもたらす可能性のあるリスクについての知識、専門知識、理解を構築し続けており、これによって浮き彫りになった重大なリスクを考慮すると、大手暗号資産企業数社の最近の経営破綻を受けて、当局は各銀行組織における現在または計画されている暗号資産関連の活動やリスクにさらされる可能性に関して慎重かつ慎重なアプローチを続けている。

 銀行組織は、法律または規則で許可されている限り、特定の階級またはタイプの顧客に銀行サービスを提供することを禁止または抑制されていない。 政府機関は、銀行組織による現在および提案されている暗号資産関連活動が、安全性と健全性確保、消費者保護、マネーローンダリング(筆者ブログ)および違法な金融に関する法令および規則等法的許容性、および適用される法律および規制の遵守に適切に対処する方法で実施できるかどうか、またはその方法を引き続き評価している。

  これまでの政府機関の現在の理解と経験に基づき、政府機関は、オープン、パブリック、および/または分散型ネットワーク、あるいは同様のシステム上で発行、保管、転送される暗号資産を主要な暗号資産として発行または保有することは、安全で健全な銀行業務の慣行と矛盾すること可能性が非常に高いと考えている。 さらに、これらの政府機関は、暗号資産関連の活動に集中しているビジネスモデル、または暗号資産セクターへのエクスポージャーが集中しているビジネスモデルに関して、安全性と健全性について重大な懸念を抱いている。

 各政府機関は、銀行組織が提案されているおよび既存の暗号資産関連活動に関して強力な監督上の議論を行うプロセス(注1)  を開発した。

   銀行組織は、暗号資産関連の活動が安全かつ健全な方法で実行でき、法的に許容され、適用される法律や規制を遵守することを保証する必要がある。

 これには、消費者を保護するために設計されたものも含まれる(公正な融資に関する法律や規則(Fair Lending Laws and Regulations ) (注2)や、不当、欺瞞的、または虐待的な行為や慣行に対する禁止などがある。 銀行組織は、リスクを効果的に特定し管理するために、取締役会の監督、ポリシー、手順、リスク評価、制御、ゲートとガードレール、モニタリングを含む適切なリスク管理を確保する必要がある。(注3)

 これら当局は、「暗号資産」(通常、暗号技術を使用して実装されたデジタル資産を指す)および暗号資産セクターに関連する8つの主要なリスクを特定した。 銀行組織が認識すべき主なリスクには、以下が含まれるが、これらに限定されない。

 なお、今回のブログは、共同声明原文の8つの主要なリスクの仮訳に加え、2024.1.13 Morrison & Foerster LLPの解説に基づき内容を補完した。

①暗号資産セクターの参加者間での詐欺(fraud)類型詐欺(scams)のリスク。(注4)(注5)

②保管の実務慣行、償還、および所有権に関連する法的不確実性。その一部は現在、法的手続きおよび手続きの対象となっている。

③暗号資産会社による不正確または誤解を招く表現および開示(連邦預金保険布施に関する虚偽表示、およびその他の不公平、欺瞞的、または濫用の可能性のある行為を含む)は、個人投資家機関投資家、顧客、取引相手に重大な損害を与える原因となる。

④暗号資産市場の大幅な乱高下。その影響には、暗号資産企業に関連する預金の流れへの潜在的な影響が含まれる。

⑤ステーブルコインの感染に対する脆弱性はリスクにさらされやすく、さらにステーブルコインの準備金を保有する銀行組織に潜在的な預金流出を引き起こす。

➅不透明な融資、投資、資金調達、サービス、運営上の取り決めなど、特定の暗号資産参加者間の相互接続に起因する暗号資産セクター内の連鎖倒産リスク(contagion risk)がある。 これらの相互連鎖は、暗号資産セクターにリスクに直さらされる銀行組織に集中的リスクをもたらす可能性もある。

⑦暗号資産業界セクターにおけるリスク管理とガバナンスの実践内容は、成熟度と堅牢性の欠如を示している。

⑧暗号資産システムの監視を確立するガバナンス機構の欠如を含むがこれに限定されない、オープン、パブリック、および/または分散型ネットワーク、または同様のシステムに関連するリスクの増大問題である。すなわち、 (1)役割、責任や責任を明確に確立するための契約や基準がないこと, (2) サイバー攻撃、機能停止、資産の紛失または機能の閉じ込め、違法な金融に関連する脆弱性等である。

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(注1) (1)OCC Interpretive Letter 1179“Chief Counsel’s Interpretation Clarifying: (1) Authority of a Bank to Engage in Certain Cryptocurrency Activities; and (2) Authority of the OCC to Charter a National Trust Bank,” (November 18,2021)

(2)FRB: 連邦準備制度の監督下にある銀行機関による暗号資産関連活動への関与の在り方

(3)FDIC: 連邦行政規則集パート 364 - 安全性と健全性の基準(PART 364—Standards for Safety and Soundness)

(注2) “Fair Lending Laws and Regulations” とは、具体的には以下の法律や関連規則をいう。

① Equal Credit Opportunity Act (ECOA)

② Equal Credit Opportunity Act (Regulation B)

③ Fair Housing Act (FHAct)

(注3) 安全性と健全性の基準を確立する省庁間のガイドライン 12 CFR 30 付則 A (OCC)12 CFR 208付則 D-1 (連邦準備制度)および 12 CFR 364(STANDARDS FOR SAFETY AND SOUNDNESS)付則A (FDIC)

(注4) 筆者なりに「fraud(詐欺)」と「Scam(類型詐欺)」につき関係サイトを参考に厳格な法解釈を試みる。

fraud(詐欺)

  他人の金銭、財産、または法的権利を奪うために、欺瞞、トリック、または何らかの不正な手段を意図的に使用すること。

 詐欺により物を失った当事者は、不正行為を行った当事者に対して損害賠償訴訟を起こす権利があり、その損害賠償には、詐欺の悪質性による懲罰または公判として懲罰的損害賠償が含まれる場合がある。 多くの場合、詐欺計画には複数の人物が関与しており、全員が損害総額の責任を負う可能性がある。詐欺行為には、その個人や団体に損害を与える、他人に対する不当な利益が内在している。 これには、契約書やその他の文書(証書など)における既知の間違いを指摘しないこと、または土地が当初理解されていた20エーカーではではなく 10 エーカーしかないことを示す調査など、伝達する義務がある事実を明らかにしないことも含まれる。 建設的な詐欺は、詐欺の意図を直接証明しなくても、法的義務違反(他人のために保有している信託資金を自分のビジネスへの投資に使用するなど)を示すことで証明できる。

 外部的詐欺は、証拠を隠したり訴訟の相手方を誤解させたりすることによって、誰かが公正な裁判などの権利を行使するのを妨げるために欺瞞が使用される場合にも発生する。 詐欺は、不正行為を行って他人から金銭、財産、または権利を奪うことを目的としているため、詐欺行為を行った者が告発され、裁判を受け、有罪判決を受ける可能性がある犯罪でもある。例えば、 境界線を越えた行為や、少額の他人の純朴さを利用した行為は法執行機関によって見逃されることが多く、被害者が「民事救済」(つまり、訴訟)を求めることを示唆している。 しかし、大部分の国民が(個人的には少額であっても)被害に遭う詐欺がますます増えており、地方検事局や司法長官事務所の消費者詐欺部門の的となっている。

(Law.com のLegal Dictionaryから抜粋、仮訳)

Scam(類型詐欺)

 誰かを欺いたり詐欺したりするように設計された詐欺的なスキームまたはトリックを指し、被害者にまず 策略、欺瞞、または虚偽の約束を伴う不正または違法な活動について話したうえで、時として金銭や財産や個人情報等につき人々をだましたりすることを目的として詐欺的な内容につき事業者または企業に説明すること。具体的には、以下の例が挙げられる。

 scamの類型区分についてはFBIサイト(注5)参照。

 なお、法律の規定文言でwire fraudやmail fraudなどはあるがscamはない。ただし、法律名では“Fraud and Scam Reduction Act”の例はある。なお、オーストラリアの「オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)」サイト解説では“Types of scams”で以下の詐欺類型をも解説している。(FTCサイトから抜粋, 仮訳する)

①自動車保証更新詐欺(Auto Warranty Scam)

 詐欺師から、自動車保証や保険契約の更新に関するセールストークの電話がかかって来る。 詐欺師は、オファーの信頼性を高めるために、あらかじめあなたの車とその既存の保証に関する情報を入手した可能性がある。

②慈善詐欺(Charity Scams)

 詐欺師は、大規模な災害の後に慈善寄付を求める電話をかけてくることがよくある。 彼らは偽の慈善団体をでっち上げたり、本物の慈善団体になりすましてお金を騙し取ったりする可能性がある。

③中国領事館員なりすまし詐欺(Chinese Consulate Scam)

 詐欺師たちは北京語を話し、中国領事館の職員を装う。 困っているという家族のためにお金を要求したり、宅配便の配達のために個人情報を要求したりすることもある。 場合によっては、その電話が犯罪捜査や刑事連絡部門に関連していると主張することもある。連邦取引委員会(FTC) 内の事務所で、他の法執行機関と協力してこれら刑事詐欺事件を訴追する。

④災害救助寄付金詐欺(筆者ブログ,参照)

 大災害の後、詐欺師が慈善団体を装い、災害支援のための寄付を求める電話をかけることがある。 寄付する前に、その慈善活動が正当なものであることを確認してください。

⑤無料試用製品トライアル詐欺

 電話で受け取った無料試用製品のオファーは、あまりにもお得すぎて真実ではない可能性がある。 クレジットカードによる少額の手数料が必要な場合があり、これによりその他の望ましくない不正請求が発生したり、試用期間が終了した後にキャンセルできなくなり、問題の製品の支払いを余儀なくされたりする可能性がある。

➅雇用/在宅勤務詐欺

 偽の求人情報、電話、求人メール、オンライン広告は、多くの場合、正規の会社名を違法に使用しているが、これらはすべて、詐欺師が求職者をだますために使用するツールである。 高額な給与を伴う即時オファーしたり、コーチング、トレーニング、認定資格の前払いの要求には常に疑いを持ち、求人情報が正当なものであると確信するまで個人情報を決して共有しないでください。 雇用詐欺の多くは、物品の前払いも提供している。 これらの小切手は頻繁に不渡りとなり、費用がかかる。

ギフトカード詐欺

 電話詐欺の明らかな兆候は、発信者がギフトカードでの支払いを要求する場合である。 多くの詐欺師は、この返金不可で追跡が難しい支払い方法を好む。

⑧祖父母詐欺(いわゆるオレオレ詐欺)

 詐欺師が困っている家族を装って電話をかけ、保釈金や病院代などをすぐに送金するよう圧力をかける詐欺の一種。

助成金詐欺

 詐欺師は、あなたには政府の補助金や還付金を受け取る資格があると主張し、口座情報を提供するとすぐに当座預金口座にその補助金を転送すると持ちかけ、その情報を販売したり、あなたのお金を盗むために使用したりする。詐欺師は、政府助成金詐欺で、自分が代表していると主張する政府機関の番号を偽装する可能性がある。

⑩健康保険詐欺

 詐欺師は、偽の医療保険を割引料金で売りつける。 電話をかけてきた人は、政府関係者や保険会社になりすますために、なりすまし電話を使用することがある。 多くの場合、彼らが販売する商品は保険ではなく、医療提供者が受け付けていない医療割引カードである。 詐欺的な勧誘は一年中発生しているが、一般入学の時期には特に注意されたい。

 オーストラリアのSCAM WATCHサイトの詐欺類型も参照されたい。

Text or SMS scams

 メッセージ/SNS詐欺は、あなたの関心を捕捉しようとして、政府、あなたが取引している企業、さらにはあなた自身の家族や友人からのものであるかのように見せる。

 2023年中、最も報告された詐欺師からの連絡方法はテキストまたは SMS であった。その詐欺メッセージは、すぐに行動するよう緊急性を求めているように聞こえる。 また、多くの場合、詐欺 Web サイトに誘導するリンクが含まれている。 詐欺師は、これらの詐欺 Web サイトに入力された個人情報を盗み、それを使用してお金を奪ったり、あなたの名前で詐欺を働いたりする可能性がある。

 これらのメッセージを本物のように見せかけるために、詐欺師は企業や知り合いの電話番号と送信者 ID を偽装 (コピー) する。 この詐欺メッセージは、組織からの実際のメッセージと同じメッセージ文で表示されることもあるため、見分けるのがさらに困難になる。

電話による詐欺  (筆者ブログ参照)

  詐欺電話は迷惑なだけではない。2023年、オーストラリア国民は詐欺電話により 1 億 4,100 万ドル(約136億7,700万円)の損失を被つた。

 報告されている詐欺の 3 件に 1 件は電話によるものである。 詐欺師が、有名組織からの電話をかけてくる。 これには、政府機関、法執行機関、投資および法律事務所、銀行、通信プロバイダーが含まれる。

 彼らは、あなたにすぐに連絡して行動することを緊急性を感じさせる。 彼らは、あなたの個人口座や銀行口座の詳細、あるいはあなたのコンピュータへのリモート アクセス手段を提供するようあなたを説得しようとするかもしれない。 発信者は、あなたの名前や住所など、あなたに関する詳細をすでに知っている可能性もある。

電子メール詐欺

 詐欺メールは本物のように見えるが、お金や情報を盗むことを目的としたリンクや添付ファイルに注意されたい。

 オーストラリア人は2023年、電子メール詐欺により 7,700 万ドル(約74億6,900万円)を失った。 詐欺師は、政府、警察、企業からのメールを装って「緊急」メールを送信する。

 彼らは実際の組織と同じロゴと同様の電子メールアドレスを使用する。 詐欺師は、組織や企業の電子メールアドレスをコピーまたは「なりすまし」させ、詐欺メールをより本物に見せることもできる。

ソーシャルメディア詐欺

 ソーシャル メディアで突然連絡してくる人物を疑うべきである。ここでは詐欺による被害が増加している。

 オーストラリア人は2023年、ソーシャルメディア詐欺による被害額が8,020万ドル(約77億7940万円)だったと報告しており、前年比43%増となった。

 詐欺師はソーシャル メディア、メッセージング プラットフォーム、アプリに偽のプロファイルを設定する。 彼らは、政府、実在の企業、雇用主、投資会社、あるいは友人、家族、恋人の関係者のふりをする。

ウェブサイト詐欺

 詐欺師は、オンラインで誰かになりすまして、ユーザーを騙して信頼させることができる。

 オーストラリア人は2023年、オンライン詐欺により 7,400 万ドル(約71億7,800万円)を失った。

 詐欺師は、有名ブランドに見せかけた偽の Web サイトを作成する。 また有名人になりすまして、商品やサービスを推奨しているかのように見せかけ、 彼らはあなたを信頼させるために偽のレビューを使用する。

 偽の警告やエラー メッセージを含む広告バナーやポップアップ ウィンドウにより、行動を迫られる可能性もある。

訪問・対面詐欺(In-person scams)

 詐欺師はあなたの家のドアをノックしたり、公共の場であなたに近づき、何かを行うようう要求することがある。 彼らは次のようなことをするかもしれない。

(ⅰ)商品やサービスの前払いを要求する。

(ⅱ)個人情報を入手するためのアンケートへの回答を強要する。

(ⅲ)訪問販売の中には詐欺ではない場合もある。 正しい訪問販売員等からの問い合わせを行うことで、あなたの権利と保護について詳しく知ることができる。

脅迫と恐喝詐欺

  詐欺師はお金を払えと脅迫する。

 あなたを脅迫する人にお金を渡す前に、声を上げて報告してください。

 詐欺師は組織の一員であるふりをして、お金を支払う必要があると主張する。 すぐに支払うことに同意しない場合、逮捕、国外追放、さらには身体的危害を与えると脅迫される可能性がある。

 また、お金を送らない限り、あなたが送った裸の写真やビデオを共有すると脅迫することもある。

 脅しによって圧力をかけられないでください。 立ち止まってそれが本当かどうか確認してください。

予想外のお金の入手詐欺

 権利、リベート、賞金にアクセスしようとしてお金を失わないようにしてください。 無料のお金のオファーには多額の費用がかかる。

 詐欺師は、あなたが受け取ることを予期していなかったお金や賞金を受け取る義務がある、または受け取る権利があるとあなたに信じ込ませようとする。

 詐欺師は、お金や賞金を受け取るために、料金を支払うか、財務情報や身元情報を提供するよう求める。 無料のお金はなく、それを手に入れようとするとさらに多くのお金を失うことになる。

(注5)FBIのscam 類型解説を以下、引用する。

Common Scams and Crimes

Adoption Fraud
②Business and Investment Fraud

③Business Email Compromise

Charity and Disaster Fraud 

Consumer Fraud Schemes

➅Elder Fraud

⑦Election Crimes and Security

⑧Holiday Scams

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米国のGAO(連邦議会行政監査局)によるデジタル・フォレンジック技術・アルゴリズムの評価と更なる課題レポートおよびデジタル・フォレンジックに関する研究機関の最新情報

 筆者の手元に、邦議会独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)(注1)から「デジタル・フォレンジック技術・アルゴリズムは犯罪捜査に利点をもたらすが、一方で、攻撃の痕跡や手法などの技術的解析から、攻撃者の意図をめぐる地政学的背景まで、多様な状況証拠の収集と分析を通じ、匿名性が高いサイバー攻撃の攻撃者や背後の攻撃国を特定(判断)していくプロセスであるフォレンジック・アトリビューション(attribution )の難しさ、さらに偏見や誤用の可能性、結果を伝える難しさなど等さまざまな要因が結果に影響を与える可能性がある」というレポートが届いた。

 米国GAOには、この問題と関連するレポートが2つある。1つ目は

「デジタル・フォレンジック技術:連邦法執行で使用されるアルゴリズム(Forensic Technology:Algorithms Used in Federal Law Enforcement GAO-20-479SP Published: May 12, 2020. Publicly Released: May 12, 2020)」

 2つ目は、「デジタル・フォレンジック・アルゴリズムの技術で性犯罪者を追い詰めるNov 27,2020」である。今回のブログは後者レポートの概要も併せ引用する。

 筆者は従来からわが国で「フォレンジック」を「法医学」、「法廷証拠学」や「法科学」といった訳語が氾濫していることに懸念している。(注2) その中で、以下の令和4年6月 法務省刑事局作成の検察庁「各種犯罪への対応(時代に即した検察庁における人材育成)」を読んだ。

デジタル・フォレンジック=電子鑑識 ジタルフォレンジック(DF)とは、押収したデジタル機器内に保存されているデジタルデータを適正な手続により、全く同じ状態で抽出し(保全)、その抽出したデータの中から犯罪立証のための客観的証拠を見つける(解析)ための手法、技術。

 

法務省刑事局作成の検察庁「各種犯罪への対応(時代に即した検察庁における人材育成)から抜粋

 GAOレポートを簡易かつ正確に読むには、まず“Highlights”と「GAOが明らかとした事項」、および「GAO が本調査を行った背景」を概観することがポイントなるので、今回のブログでは、まず、その内容をまとめるとともに関連する注書きを追加した。

 なお、最後に法務省犯罪白書等によると性犯罪者の起訴の難しさや有罪化率の低さはわが国でも同様であろう。

1.2024.1.25 GAO レポートGAO-24-107206

 「デジタル・フォレンジック技術・アルゴリズムは犯罪捜査に利点をもたらすが、一方でさまざまな要因が結果に影響を与える可能性がある(Forensic Technology: Algorithms Offer Benefits for Criminal Investigations, but a Range of Factors Can Affect Outcomes)」(全文は16頁)を仮訳する。なお、3つのアルゴリズムの内容については、GAO-21-435SPが詳しく論じているので一部引用し、補筆した。

3つのアルゴリズムにつきGAO レポートから抜粋

(1) 概況報告(Fact Sheet)

 指紋やその他の物的証拠は長い間、法執行官や調査官が犯罪を解決するのに役立ってきた。しかし、デジタル・フォレンジックアルゴリズムの進歩により専門家はそのような証拠の調査を部分的に自動化できるようになった。

このアルゴリズムは、指紋や掌紋、顔画像、DNA を分析できる。我々は、これらのツールが多くの調査の速度と客観性を向上させることができることを証明した。

 しかし、一方でアナリストや調査員は、偏見や誤用の可能性、結果を伝える難しさなどの課題に直面している。

GAOの以前の研究2021.7.6 発表では、これらのアルゴリズムのテスト方法、成果や実績、使用時期の透明性の向上など、役立つ可能性のある政策オプションが特定された。

(2) GAOが明らかとした事項

 2020年と2021年のGAOの技術評価では、連邦法執行機関が証拠が個人に由来する可能性があるかどうかの評価に主に3種類のデジタル・フォレンジックアルゴリズム(①確率的ジェノタイピング(Probabilistic genotyping algorithms)、②指紋の潜在印刷物分析(Latent print analysis)、③顔認証(Face recognition))を使用していることが判明した。

①確率的ジェノタイピング・ アルゴリズム

 確率的ジェノタイピング・アルゴリズム(Probabilistic genotyping algorithms) (注3)は、分析者が従来の分析よりもさまざまな DNA 証拠 (複数の寄与因子を持つ DNA 証拠や部分的に分解された DNA など) を評価し、そのような証拠を対象者から採取した DNA サンプルと比較するのに役立つ。 これらのアルゴリズムは、尤度比(ゆうどひ)(注4)と呼ばれる証拠の強さの数値尺度を提供する。 これらのアルゴリズムを評価するために、法執行機関などは、DNA サンプルの品質、サンプル中の DNA の量、貢献者の数、民族性や家族関係など、尤度比に対するいくつかの要因の影響をテストする。 GAO は、これらのアルゴリズムの使用に対する 2 つの課題を特定した。 たとえば、尤度比は複雑であり、確率的ジェノタイピングに関連する結果を解釈したり伝達したりするための標準はない。

指紋の潜在印刷物分析

 分析者が一人で作業するよりも迅速かつ一貫して、指紋と掌紋の大規模なデータベースを検索できる。その精度は、画質、特定された画像特徴 (隆線パターンなど) の数、分析者が完成した特徴マークアップの変動など、さまざまな影響要因にわたって評価される。ただし、出力の使用に人間が関与すると、エラーや認知バイアス(cognitive bias:物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になる心理現象のことである)が発生する機会が生じる。

③顔認証(注5)アルゴリズム

 分析者が画像からデジタル詳細を抽出し、データベース内の画像と比較するのに役立つ。これらのアルゴリズムは、大規模なデータベースをより高速に検索でき、アナリストよりも正確である。これらのアルゴリズムの精度は、画質、データベース サイズ、人口統計など、さまざまな影響要因にわたって評価される。大規模なデータベースも検索できる。人間のアナリストだけで行うよりも精度が高くなる可能性があるが、連邦法執行機関では一般的に行われているように、アルゴリズムと訓練を受けたアナリストを組み合わせることで最高の精度が得られるとある研究では報告されている。 ただし、アルゴリズムの出力を人間が解釈するとエラーやバイアスが生じる可能性があり、一部の法執行機関のユーザーは結果が保証されているよりも確実であると認識する可能性がる。

  GAO は、これらのアルゴリズムの使用に対するいくつかの課題を特定した。 たとえば、人間の関与によりエラーが発生する可能性があり、政府機関は最も正確で、人口統計グループ間のパフォーマンスの差が最小限に抑えられるアルゴリズムをテストして調達するという課題に直面している。

 GAO の 2021 年報告書では、政策立案者がフォレンジックアルゴリズムの使用に対する主要な課題に対処するために検討できる 3 つの選択肢について説明した。① 政策立案者は、フォレンジックアルゴリズムの一貫した客観的な使用を改善するためのトレーニングの強化、②捜査におけるフォレンジックアルゴリズムの適切な使用に関する基準とポリシーの策定、および③アルゴリズム・ テストに関連する透明性の向上を支援することができるとした。

(3) GAO が本調査を行った理由

 1世紀以上にわたり、法執行機関は重要人物の特定、未解決事件の解決、行方不明者や搾取された人々の発見に役立つ物的証拠を調査してきた。 デジタル・フォレンジック専門家は現在、アルゴリズムを使用して犯罪捜査で収集された証拠の評価を部分的に自動化しており、捜査の速度と客観性が向上する可能性がある。

 GAO は、これまで法執行機関におけるフォレンジックアルゴリズムの使用に関する技術評価を実施してきた (GAO-21-435SPおよび GAO-20-479SP参照)。 今回のGAOレポートでは、確率的ジェノタイピング、指紋の潜在印刷物分析、顔認識という 3 つのアルゴリズム・タイプの利点と課題、およびこれらの課題に対処するために政策立案者が検討できるオプションについて言及した。

2.2020.5.12 GAOレポート(GAO-20-479SP)の概要

「フォレンジック技術:連邦法執行で使用されるアルゴリズム(Forensic Technology:Algorithms Used in Federal Law Enforcement) 」(全文は24頁)を仮訳する。

【概況報告】

 米国の法執行機関は永年、犯罪解決に指紋などの物的証拠を活用してきた。 現在、コンピュータ・アルゴリズムは、そのような証拠が特定の人物に関連しているかどうかを評価するのに役立つ。これはフォレンジック帰属(forensic attribution) (注6)として知られるプロセスである。

以下については前記1.の内容と重複するので略す。

3.デジタル・フォレンジックアルゴリズムの技術で性犯罪者を追い詰める(Using Algorithms to Track Down Sex Criminals) (2020.11.27 公表)

 GAOレポートと関連してデジタル・フォレンジックアルゴリズムに関する新たなintech.mediaポータルの日本語レポートを読んだ。このレポート(原文は英語はAI翻訳らしき内容で、翻訳文としてはいまいちであるが、リンクは確実である。以下、要旨とリンク先データの抜粋、仮訳を行う。

 なお、筆者は関連サイトを調べる中で“プロメガクラブ”の興味深い下記サイトDifferex Systemを見出した。まだ具体内容は読んでいないが、改めて研究したい。

(1)証拠収集上の課題

​ 性的暴力事件の起訴を実行するには、法執行機関と法制度に多くの課題がある。 性的暴行事件の起訴にいたる裁判化件数は、他のどの犯罪よりもはるかに少なく、最近の統計(注7)では、1,000人中5人が刑務所に収容されるにとどまっている。 弁護士は、性的暴行事件の起訴が困難であることを認めており、有罪判決の数が少ない理由の1つは、被疑者を暴行と結びつける物理的証拠がないことがあげられる。

 いわゆる「レイプキット(rape kit)」は、正しくは「性的暴行証拠キット」または「SAEK(Sexual Assault Evidence Kit)」と命名され、事件の捜査に役立つ。性的暴行の後、医療スタッフは性的暴行フォレンジック検査(Sexual Assault Medical Forensic Examination)を行い、この検査キットは被災者の衣服、所持品、身体に残された毛髪や精液などの身体的証拠を収集し保管するために使用される。これらのサンプルは、DNA検査を通して、犯罪者のDNAプロファイルの全国データベースであるODIS (注8)にアップロードして照合する。

 しかし、SAEKで採取した検体を検査するには時間がかかり、1キットあたり平均約1000ドルの費用がかかる。また、検査ができるのはデジタル・ォレンジックの専門家のみであり、DNAが採取できる可能性が最も高いと考えられる検体を絞り込むことで時間短縮をはかろうとするが、性的暴行事件の捜査に間に合うようにキットを処理して検査するのに膨大な時間がかかる。多くの都市では、キットは単に保管されているだけですが30日以上経過したキットは廃棄されることもあり、これはニューヨーク市で起きたことで、2012年以降、840個のキットが廃棄された。

 しかし、現在では、高度な機械学習(Machine Learning)によって、キットの検査やDNAサンプルのタイプをより迅速かつ正確に行うことが可能になり、収集された証拠を直ちに暴行事件の起訴に利用できるようになった。

​(2)機械学習による検査の高速化と正確性の向上

​ スタンフォード大学人間中心人工知能研究所(Stanford University Human-Centered ArtificiaIIntelligence)(HAI)の報告書によると、同大学のローレンス・M・ワイン(Lawrence M. Wein)教授は、SAEKのどの生体試料がDNAを提供する可能性が高く、その結果がヒトの検査官の推奨よりも正確であるかを予測できる機械学習アルゴリズムを開発した。

 ワイン教授の最初の研究は、サンフランシスコ警察(SFPD)データベースに基づいていた。同研究所は、SAEKのすべての要素を検査し、DNAを含む可能性が最も高いと考えられるすべてのサンプルに関する情報を収集し、保管するものであった。サンフランシスコ警察(SFPD)のデータベースには、2年間(2017~2019年)にわたって検査された868キットのデータが含まれており、Weinのチームは、SAEKのどの要素がCODIS(Combined DNA Index System)データベース(注9)にロードする価値のあるDNAサンプルを含む可能性が最も高いかを予測するのに十分な精度の機械学習モデルを開発することができた。

(3) ​機械学習の仕組み

​ 機械学習は、人工知能(AI)の多くの応用例の1つである。人工知能とは、コンピュータやその他のシステムに経験や過去の情報から学習する能力を与え、状況を評価し、人間の行動から独立した判断を下す能力を与える仕組みである。​機械学習の日常的なアプリケーションには、検索エンジンや、ユーザーの過去の行動に基づいて提案を行うプラットフォームなどがある。

 大量のデータへのアクセスは機械学習にとって不可欠であり、クラウドベースのストレージプラットフォームはこれまで以上に多くのデータを利用可能にする。​機械が操作できるデータが多ければ多いほど、機械のパフォーマンスはより正確になる。​これにより、大規模なデータセットに対して人間が同じことをするのに要する時間の数分の一で複雑な操作を行うことが可能になり、間違った結果や不完全な結果をもたらす「ヒューマンエラー」を減らすことができる。

 ​このように、高度な機械学習プロセスとSFPDが提供する大規模なデータセットの組み合わせによって、Wein教授の初期研究が可能になり、性的暴行事件の捜査と起訴の方法を良い方向に変えられる可能性があることを示した。

【参考】

わが国の犯罪白書や令和3年5月性犯罪に関する刑事法検討会「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書を読んでの感想

 わが国ではintech.mediaポータルの日本語レポートのような問題指摘は見当たらなかった。

1.犯罪白書

令和4年白書犯罪統計から性犯罪を抜粋

 

2.令和3年5月性犯罪に関する刑事法検討会「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書

デジタル・フォレンジックについての問題指摘は見当たらなかった。

**********************************************:

(注1)わが国でのGAOの訳語も多岐にわたる。しかし、筆者は2008年にブログで取り上げ訳語にこだわった。

2008.11.29 「連邦議会独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)による行政Watchdogの役割と機能」(Last Updated: Febuary 25,2022)の(注2)参照。

(注2) 原文は「フォレンジック」のみである。しかし、わが国で訳語につき、一律に「法医学」という訳語については大いなる疑問を抱いていた。特に企業情報システム部門にとってのフォレンジック対応はどう訳するのか。

その中で、立命館大学情報理工学部 上原哲太郎氏の発表資料を改めて読んだ。そこで筆者が選んだ訳語は「デジタル・フォレンジック」である。以下、一部抜粋する。

辞書的には「科学的な知見を法的解決のために役立てること:特に証拠の分析に使うこと」の意である。

  • Forensic Medicine 法医学
  • Forensic Chemistry 法化学
  • Forensic Science 鑑識学
  • デジタルなデータを法的に生かすためにComputer Forensics Digital Forensicsという語が産まれた
  • ここではデジタル・フォレンジックで総称

インシデント・レスポンス

  • コンピュータやネットワーク等の資源及び環境の不正使用、サービス妨害行為、 データの破壊、意図しない情報の開示等、並びにそれらへ至るための行為(事象)等への対応等を言う。

デジタル・フォレンジックとは、「 インシデント・レスポンスや法的紛争・訴訟に際し、電磁的記録の証拠保全及び調査・分析を行うとともに、電磁的記録の改ざん・毀損等についての分析・情報収集等を行う一連の科学的調査手法・技術を言う」と定義されている。

企業情報システム部門にとっての「フォレンジック対応」

  • 民事訴訟対応のため(特に欧米で)
  • 企業コンプライアンスのため
  • IT内部統制の健全性を確保する道具として
  • 内部不正調査の道具として
  • システム管理のため
  • インシデンスレスポンスの武器として

(注3) 「確率的ジェノタイピング(Probabilistic genotyping algorithms)」は、DNAプロファイリングにおける統計的手法と数学的アルゴリズムの使用をいう。サンプルが非常に少ない場合や、複数の個人のDNAの混合物が含まれている場合など、困難な状況では、手動による方法の代わり使用できる。

(注4) 尤度比((ゆうどひ:likelihood ratio)とは、感度と特異度の比を表すもので,感度÷(1-特異度)で計算する。感度または特異度が高いほど,大きな値をとる。これは正確には陽性尤度比と呼ばれるもので,10より大きくなると有効な検査と判断できる.これとは反対に,陰性尤度比というものもある。陰性尤度比は(1-感度)÷特異度で計算され,感度または特異度が高いほど,小さな値をとる。0.1よりも小さくなると有効な検査と判断できる。(尤度比 likelihood ratio - 一般社団法人 日本理学療法学会連合解説から抜粋)

(注5) 「顔認識」は顔の特徴や表情を読み取る技術で、「顔認証」は前もって取得した画像のデータと照合して本人かどうかを見分ける技術である。

(注6) アトリビューション(attribution )とは、攻撃の痕跡や手法などの技術的解析から、攻撃者の意図をめぐる地政学的背景まで、多様な状況証拠の収集と分析を通じ、匿名性が高いサイバー攻撃の攻撃者や背後の攻撃国を特定(判断)していくプロセスである。日本では「特定」や「帰属」とも訳され、「誰がやったのか(who did it)」の問題と呼ばれてきた。(防衛研究所「国家のサイバー攻撃とパブリック・アトリビューション」から抜粋)

米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の“(attribution”の)解釈を引用、以下、仮訳する。

 デジタル・フォレンジックと発生源の帰属者の特定(attribution)の能力は、デジタル・フォレンジックを実施し、テロ行為 (テロの手段と手法を含む) をその発生源に帰属させることとして説明されており、これには、最初の行為やその後の行為を防止するための取り組み、および/または対抗策を迅速に開発するための取り組みによるデジタル・フォレンジック分析と攻撃者の帰属および攻撃の準備が含まれる。

 デジタル・フォレンジックは、行為に関連する証拠の収集と検査である。発生源の帰属には、科学に基づいた技術フォレンジック検査の結果、あらゆる情報源からの諜報情報、およびその他の法執行/捜査情報の融合が含まれる。これらは、米国政府指導部に責任主体を通知し、初期またはその後のテロ行為の防止を支援するために共同で実施される。

(注7) 連邦司法省の最新の全国犯罪被害調査(2018年10月)は性的暴行の被害者のうち警察に犯罪を報告したのはわずか23%だった。

 FBI の統一犯罪報告データベース(Uniform Crime Reporting Program:UCR)によると、通報した者のうち、逮捕に至った通報はわずか約 20% である。 性的暴行と強姦に関する全国データを分析している非営利団体「強姦・虐待・近親相姦全国ネットワーク」によると、裁判につながる逮捕はわずか約半数だという。

 有罪判決率に関する最も信頼できるデータは、1990 年から 2009 年までの有罪判決を分析した司法省の調査によるものである。その調査では、レイプ裁判は約 35% の確率で有罪判決に終わると結論付けられている。

 これらを総合すると、有罪判決に至る暴行はわずか約 0.8% であることを意味する。

(注8) ODIS (Offender Data Information System) は、法執行データの取得、保守、品質を向上させるための Web ベースのコンピュータ化された記録管理ソフトウェア・アプリケーションであり、集中型または分散型ネットワーク環境の任意の組み合わせで実行できる。 これは Microsoft の DNA (分散型ネットワーク間アーキテクチャ) プログラミング・ モデルを使用して設計されており、ストレージ用のデータベース、ビジネス ロジックを処理するコンパイル済みアプリケーション コンポーネント、およびユーザーに表示されるプレゼンテーション層の 3 層を使用して構築されている。(Wikipediaから抜粋、仮訳)

(注9) Combined DNA Index System (CODIS) は、連邦捜査局によって作成および維持されている米国の国家 DNA データベースである。 CODIS は 3 つのレベルの情報で構成される。 DNA プロファイルが作成される Local DNA Index System (LDIS)、州内の研究所が情報を共有できるようにする State DNA Index System (SDIS)、および各州が DNA 情報を比較できるようにする National DNA Index System相互 (NDIS)がある。

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米国SECは17億ドルの暗号資産ピラミッド計画「ハイパーファンド」創設者とトッププロモーターを詐欺容疑で起訴 詐欺的な暗号資産スキームに対する厳しい警告

 米国の証券取引委員会(SEC)は1月30日、世界中の投資家から17億ドル(約2,499億円)以上を調達したハイパーファンド(HyperFund)として知られる詐欺的な暗号資産ねずみ講(pyramid scheme)に関与したとして、シュエ・サムエル・リー(Xue Samuel Lee a/k/a Sam Lee )別名サム・リー)(35歳)ブレンダ・インダ・チュンガ(Brenda Indah Chunga Brenda Chunga)別名ビットコイン・ボーティ)(43歳)を起訴した。

 今回のブログはSECのリリースの解説を中心に置きつつ、法執行機関がゆえに説明内容が限定されていることから、読者をロースクールの学生レベルを確保すべく、米国のJURIST等ロースクールの解説に準じつつ、補完的説明を試みた。

 なお、筆者は2020年7月9日付けブログで、FBIの証券詐欺の詳しい解説を行うとともに、2021年9月6日ブログ1/30(25)で今回と同様の暗号資産のねずみ講詐欺事件につき解説している。

1.SEC起訴リリースの詳細

 SECの訴状によると、リー氏とチュンガ氏は2020年6月から2022年初めにかけて、ハイパーファンド(Hyper Fund)の「会員制」パッケージを宣伝し、ハイパーファンドの想定される暗号資産マイニング事業やフォーチュン500企業との提携などから投資家に高い収益を保証すると主張した。しかし、訴状が主張しているように、リー氏とチュンガ氏は、ハイパーファンドがねずみ講(pyramid scheme)(注1)であり、投資家から受け取った資金以外に本当の収入源がないことを知っていたか、あるいは知らなかったという無謀な行為であった。結果、 2022年、ハイパーファンド計画は崩壊し、投資家は出資額の引き出しができなくなった。

 メリーランド州地区の連邦地方裁判所に提出されたSECの訴状は、リー氏とチュンガ氏を連邦証券法の詐欺防止および登録規定に違反した罪で告発している。訴状は、①被告がマルチ商法や暗号資産の提供に参加することを妨げる行為に基づく恒久的な差止めによる救済(permanent injunctive relief)、②不正に得た利益の剥奪(disgorgement of ill-gotten gains)および判決前の利益(prejudgment interest)(注2)、および③民事罰(civil penalties)を求めている。

  チュンガ氏は告訴に対し和解し、今後の告発条項違反やその他の特定の行為を永久に禁止され、将来裁判所が決定する額の不正に得た利益の剥奪(disgorgement of ill-gotten gains)および判決前の利益(prejudgment interest)および民事罰を支払うことに同意した。この和解には裁判所の承認が必要となる。なお、 リー氏に対する告訴は今後訴訟される予定である。

 これと並行して、メリーランド州連邦検事局は1月30日、リー氏とチュンガ氏に対する刑事告訴を発表した。 チュンガ氏は証券詐欺電信詐欺(注3)(注4)(注5)の共謀について有罪を認めた。

2.SEC 起訴の根拠法と条文

 SEC起訴状にもとづき以下で補完的に解説する。

1933年証券法第20(b)条, 20(d), and 22(a) of the Securities Act, 15 U.S.C. §§ 77t(b)、 77t(d), and 77v(a)

1934年証券取引所法Sections 21(d) and 27(a) of the Exchange Act, 15 U.S.C. §§ 78u(d) and 78aa(a).

3.米国の証券詐欺規定の概観

 証券詐欺:法律と罰則についてローファームEisner Gorin LLPの解説等から抜粋、仮訳する。

(1)証券詐欺とは何か?

 「セキュリティ(security)」という用語は、地方債、企業株、紙幣、投資契約など、さまざまな種類の投資を含む幅広い用語である。証券詐欺は、これらの投資の1つに関与している誰かが、金銭的な優位性を得るために嘘をついたり、騙したり、盗んだりしたときに発生する。証券詐欺はホワイトカラー犯罪と見なされ、個人だけでなく、専門の金融アナリスト、証券ブローカー、企業、さらには政府機関による活動も含まれる。

(2)証券詐欺に関する州法および連邦法

 連邦政府は、証券取引委員会(SEC)を通じて、証券詐欺の起訴を担当する主要な政府機関である。ただし、各州には、証券詐欺に関する独自の法律と独自の州証券委員会もある。証券詐欺犯罪は州または連邦法にもとづきどちらかで罰せられるかもしれないが、 彼らはしばしば 連邦犯罪として起訴される。

2つの主要な連邦法—「 1933年証券法」と「1934年証券取引法」は、証券詐欺事件が起訴される主要な連邦法である,

(3)主な証券詐欺の種類

株式と証券に関する不実表示(Misrepresentation)

 最も単純なレベルでは、証券で利益を上げることは、証券の現在の価値を知り、その価値が将来どうなるかを判断することにかかっている。証券の価値がどうなるかを知っているトレーダーは、その将来の価値から利益を得るように設計された投資を行うことができる。状況によっては、人は虚偽の記述や不実表示を行うことによってセキュリティの価値を操作しようとすることができる。たとえば、ソーシャルメディアで会社について故意に虚偽の 記述を行うブローカーは、株式への予想される影響から利益を得るために、証券詐欺を犯す。

インサイダー取引

 会社に関連付けられており、一般には公開されていない情報を知っていて、証券を売買して利益を上げようとする人は 多くの状況でインサイダー取引を行う。たとえば、企業の人物が会社の株式を売買し、その活動を証券規制当局に適切に報告する場合など一部のインサイダー取引は合法であるが、 他の形のインサイダー取引は違法である。

 たとえば、会社で働いていて、いったん明らかになると会社の株価が変わる秘密を知った場合、その情報を合法的に使用して証券を取引することはできない。その情報を使用して取引を選択した場合、あなたは証券詐欺の罪を犯したことになる。友人にその情報について話し、友人が取引を行った場合、当該友人も証券詐欺の罪を犯したことになる。

チャーニング(過剰な取引) Churning

 チャーニングは、ブローカーにより多くの手数料または手数料を生み出すことを意図して、クライアントに過度の取引に従事するよう説得する証券ブローカーの取引慣行をいう。ブローカーは受託者であり、ブローカーはクライアントの最善の利益になることを行う法的義務があり、ブローカーの利益のみに行動してはならないということである。ブローカーがチャーニングに従事するときは、彼または彼女はクライアントの最善の利益を念頭に置くことに失敗し、代わりにブローカーまたはブローカーに利益をもたらすためだけに取引を行うものである。

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(注1) 米国の証券詐欺とは何か? FBIの解説等をもとに、仮訳する。

 証券詐欺には、株や商品の売買、取引における虚偽の表示が含まれる。証券詐欺とは、株式、取引、または投資における窃盗、横領、または偽りのふりによる窃盗を含む広範な用語である。 米国の有価証券には、株式、企業の金銭的利益、手形や利息証書などが含まれる。 証券詐欺事件の種類には次のようなものがある。なお、筆者独自に補筆する。

インサイダー取引(Insider trading)

ねずみ講(Ponzi schemes) :基本的に、ポンジスキームは投資詐欺で新しい投資家から集めた資金を昔から投資をしていた投資家に支払うようになっている。このようなスキームの問題は、最後の方の投資家にはまったく支払いがなされないことである。

ポンプアンドダンプ方式(Pump-and-dump schemes):安く購入した株式をより高い価格 (ダンプ) で販売するために、虚偽の誤解を招く肯定的な記述 (ポンプ) によって所有する株式の価格を人為的につり上げる証券詐欺をいう。スキームの運営者が過大評価された株式を「処分」(売却)すると、価格が下落し、投資家は損失を被る。

前払い手数料詐欺(Advance processing fee scams):通常、少額の前払いと引き換えに被害者に多額の金銭のかなりの部分を約束し、詐欺師らはその支払いが多額の支払いに使用されると主張する。被害者がお金を支払った場合、詐欺師は被害者に支払わせるために一連の追加料金をでっち上げるか、そのまま姿を消す。

株価操作(Stock manipulation)

有価証券報告書詐欺(Financial report fraud)

証券会社による横領(Embezzlement by stockbrokers)

不正会計詐欺(Accounting fraud)

インターネット詐欺(Internet fraud)

高利回り投資詐欺(High-yield investment fraud)

ねずみ講(Pyramid schemes):そのスキームに参加するメンバーに対して報酬や支払いを約束するだけでなく、そのメンバーが新しいメンバーを誘うことに対しても報酬や支払いを約束するビジネス形態をいう。

前払い金詐欺(Advance fee schemes):貸付、契約、投資、ギフトなど、より価値の高いものを受け取ることを見越して被害者がお金を払い、その見返りはほとんどない、または、まったくないという時に発生する詐欺。

外国為替詐欺(Foreign currency fraud)外国為替市場での取引で高い利益が期待できるとトレーダーを騙すために使用される取引スキーム。外国為替市場はよく言ってもゼロサムゲームである。 言い換えれば、あるトレーダーが勝てば、別のトレーダーは負けとなる。ただし、FXはすべてのトレーダーのパフォーマンスから仲介手数料やその他の取引コストが差し引かれるため、マイナスサムゲームである。

 Late Day Trading:時間外に取引を実行し、その日の市場取引の終了前に実行されたかのように記録する方法をいう。レイトデイ・トレーディングでは、他の市場参加者がトレーディング時間中に利用できなかった可能性のある市場情報をトレーダーが使用できる。

 深夜の取引に従事することは重罪であり、そうすることは証券詐欺の民事上および刑事上の告発につながる可能性がある。

(注2) ”prejudgment interest”につき、筆者ブログ参照。

(注3) 18 U.S.C§ 1343-連邦電信詐欺法Fraud by wire, radio, or television

解説文及びDOJ解説文を抜粋、仮訳する。

 電信詐欺とは、あらゆる種類の電子通信を使用して犯罪を犯すことと定義される。通信が州の境界線または国境を越えた場合、電信詐欺は連邦犯罪として起訴される。この法律は、被告が州間通商で電信通信を送信することにより、偽装を使用して金銭または財産を詐欺または取得するスキームを考案したことで有罪判決を受けた場合、厳しい罰則を科す。

 しばしば Wire Fraud やMail Fraudは同じ事件で起訴される。(注4)特に、加害者は有罪判決を受けるために意図された犯罪を完了する必要はない。つまり、“試みられた“Wire Faud”詐欺は、完了したものと同じペナルティが科される。

1.Wire Fraud成立の要素

(1)詐欺のスキームまたは巧妙さ、 (2)被告が自発的かつ意図的に別の金銭を詐欺する計画を考案または参加したこと。 (3)被告が詐欺の意図(mens rea)(注5)で実際に行ったことたこと、 (3)州間電信通信が使用されることが合理的に予見可能であったこと。 (4)州間電信通信が実際に使用されたこと。

2.Wire Fraudの具体的手口例

Work-at-home schemes:インターネットで宣伝した在宅勤務高収入スキーム

Fraudulent online:偽の投資機会を提供する詐欺オンライン

Phishing scamsフィッシング詐欺: 不正な電子メールを送信して、パスワード、クレジットカード番号, および社会保障番号などの個人情報を開示するように人々を欺くなど、アカウントへの不正アクセス権を取得する。

Telemarketing fraudテレマーケティング詐欺: クレジットカード情報を放棄するよう説得するために隠匿している人々に電話をかけるなど,

False radio or TV ads:虚偽のラジオまたはテレビ広告:メデイアを利用して 存在しない、または著しく誇張された製品を販売する。

3.Wire Fraudの罰則

18 U.S. Code § 1343 - Fraud by wire, radio, or televisionの条文を仮訳する。

 高額な罰金や連邦刑務所での最長20年の拘禁刑が科せられる。また、被告は銀行のような金融機関に関係している場合、被告は最高30年の拘禁刑または罰金最高100万ドル(約1億4700万円)が科せられ、またはこれらの併科もある。

 特に、上記の文はWire Fraudの各訴因(カウント)に適用され、すべての個別のカウントは刑務所でかなりの時間を追加する可能性があり,たとえば、複数の被害者との10件の個別のWire Fraudで有罪判決を受けた場合、被告は最大200年の拘禁刑が科せられる。

(注4) Mail FraudとWire Fraudの明確な法的区別についてはサイトを参照されたい。

(注5)ラテン語“mens rea”とは「犯罪の意図」(故意)を指す。 ラテン語からの直訳は「罪深い心」である。 メンズレア(“mens rea”)とは、特定の犯罪で特定の被告に有罪判決を下すために法的に必要とされる精神状態をいう。 刑事裁判で有罪を証明するには、通常、犯罪行為(犯罪の身体的要素)に加えて、犯罪者の“mens rea”)領域を確立することが必要である。 検察は通常、被告が有罪の精神状態で犯罪を犯したことを合理的な疑いを超えて証明しなければならない。 かつて連邦最高裁ホームズ判事が「犬でも、つまずくことと蹴られることの違いは知っている」と意図の概念を説明したのは有名である。

 “mens rea”の要件は、人は罪の意識を持ち、自分の違法行為を認識していなければならないという考えを前提としている。ただし、被告は、犯罪を犯すために自分の行為が違法であることを知る必要はない。むしろ、被告は「自分の行為が犯罪の定義に適合する事実」を認識していなければならない。(Cornell Law Schoolの解説から抜粋、仮訳)

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世界の平和にとって1秒たりとも気が抜けない激務を担うオースティン国防総省長官の緊急入院・手術を巡る米国の軍事・防衛態勢の継続・維持問題

Last updated:January 29,2024


 筆者の手元に米国防総省からのリリースが複数届いている。要約すると国防総省オースティン長官(70歳)の前立腺がんによる緊急人院とその後の回復、トップ軍幹部の動向、野党共和党を含むホワイトハウスへの批判、国防長官の執行権限の委譲の法的問題等であろう。この問題に関する世界の情報メデイアが交錯している。いずれにしても大統領選挙を控えバイデン政権の不安定さや透明性の欠如批判に応える責任はあろう。

 この問題は自衛隊幹部の執務不能時における非常事態問題は東シナ海等の紛争問題や北朝鮮問題を抱えるわが国でも他山の石とすべき重要問題であることは言うまでもない。

 米国の国防総省ホワイトハウスに次ぐ巨大かつ重要組織であり、本ブログでも、わが国で日頃詳しい解説がない分野だけに立ち入った詳しい解説を心がけた。また、わが国のシビリアン・コントロールの在り方も併せて論じたい。

  本ブログの執筆中に米国と英国はイエメンにあるフーシ派武装勢力の標的約十カ所への攻撃を開始した旨の情報が配信されてきた。まさに重要な軍事決断時期であったといえる。

  なお、国防総省は1月29日、以下のリリースを行った。「ロイド・J・オースティン国防長官は本日、国防総省での勤務に復帰した。 同長官は、2024年1月15日にウォルター・リード国立軍事医療センターから退院して以来、自宅で職務を行っていた」

Ⅰ.18日、国防総省報道官のパット・ライダー少将(Major General Patrick S. Ryder)が撮影禁止、記録のみの筆記録(Transcripts)プレス・ブリーフィングの概要

Patrick S. Ryder少将

 私が最初に行いたいのは、記者の多くが持っている今後の予定(timeline)に関する質問のいくつかに対処することである。 次に、長官の健康状態に関する状況の最新情報を提供する。

 12月22日(金)、国防長官ロイド・J.オースティンIII(Secretary of Defense Lloyd J. Austin)は、ウォルターリード国立軍事医療センター(Walter Reed National Military Medical Center))で選択的医療処置を受けた。彼の手続き中および彼の入院中に、彼は特定の運用権限を国防副長官に移管した。その後、1223()にいったん退院し、休暇中も自宅で仕事を続けた。

 11()の夕方、彼は激しい痛みを経験し始め、救急車でウォルターリード国立軍事医療センターに移送され、そこで集中治療室に入院した。彼は意識はあったが、かなり苦痛であった。その夜、彼は医師による検査と評価を受けた。

 1月2日(火)の午後、長官の状態と医学的アドバイスに基づいて, 国防長官の特定の任務の権限移譲にかかる関係法(10 USC 132)201031付け 大統領令 EO13533 (Executive Order 13533)「国防総省内での継承命令の規定」にもとづき、国防総省キャスリーン・ヒックス国防副長官(Deputy Secretary of Defense Kathleen Anne Holland Hicks  )(筆者注1)に移管された。長官および副長官のスタッフと合同スタッフは、定期的な電子メール通知手続きを通じて移管が行われたことを通知された。

Kathleen H. Hicks 副長官

 1月4日(木)、副長官と国家安全保障顧問(National Security Advisor)は、長官から長官の入院について通知を受けた。国防長官のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官(National Security Advisor ,Jacob Jeremiah Sullivan) (筆者注2)はインフルエンザで病気になり、これらの通知が遅れた。現在、ホワイトハウスと議会の通知を含めるために、これらの通知手順を改善する方法を検討している。

Jacob Jeremiah Sullivan 氏

 1月4日の午後、副長官と国防長官の大統領補佐官は、公式声明の起草と議会のアウトリーチに直ちに従事し始めた。また副長官は、1月5日にワシントンDCに戻るための緊急時対応計画を立て始めた。しかし、副長官は同日午後、長官が1月5日に完全な通信能力と関連する運用上の責任を再開する準備をしていることを知らされた。したがって、副長官は暫定的に最良のコミュニケーション姿勢を確保するために適切な場所に留まった。

 国防長官の権限移管にかかる法律「10 U.S.C. § 132(b) 」(筆者注3)準拠し、および大統領令EO 13533「国防総省内での継承命令の規定」により、特定の状況下では、国防副長官が国防長官の代理を務め、その権限を行使するものとする。

 10 USC 132(b)と一致し, ヒックス副長官は、この期間に部局の日常的な運用および管理の決定を行い、完全に承認され、他の軍事問題について大統領を支援する準備ができていた。

 1月5日の午後、国防総省の長官と他の首席補佐官が国防長官の大統領補佐官から通知を受けた。

 オースティン長官は1月5日の夕方に任務を再開した。

 オースティン長官は現在、ウォルターリード国立軍事医療センターに入院しており、元気で順調に回復している。彼はもはや集中治療室にいないが、病院のよりプライベートな地域で回復にあったている。彼は体調には不快感を経験し続けているが、彼の予後は良好である。

 1月5日の夜に職務を再開して以来、長官は運用上の最新軍事情報を受け取り、必要なガイダンスを提供してきた。彼は必要な安全な通信機能に完全にアクセスでき、国防総省の日常業務として世界中で監視し続けている。

 また、ヒックス副長官、統合参謀本部議長であるCQブラウン・ジュニア大将(Chairman of the Joint Chiefs of Staff Gen. Charles Q. Brown, Jr.)、および上級スタッフとも密に連絡を取り合っている。

Gen. Charles Q. Brown, Jr.大将

 1月8日、彼は大統領デイリーブリーフ(PDB)(筆者注4)と運用アップデートを受け取った。彼が自分の回復に焦点を当てている間でも、彼は本日一日中、部局とホワイトハウスの上級指導者と接触することを期待している。

 現在、彼の退院の具体的な日付はまだ決まっていないが、長官が利用可能になった時点で、長官の健康、執務等ステータスに関する最新情報を提供し続ける。

 また、オースティン長官が透明性の問題について責任を負ったことを強調したいと思う。そして、同省は私たちの通知手順を改善するための措置を講じた。

 1月2日の午後、私は広報担当国防次官補 (ATSD (PA)(筆者注5)から、長官が入院していることを知らされた。彼には提供する追加情報がなかった。しかし、私はもっと学び、より以前に国民の承認を求めるべきだったと認識している。

 したがって、今回の経験から学ぶことをお詫び申し上げる。あなたが私たちに期待する基準を満たすために、私はできる限りのことを行う。1月8日遅くに国防総省報道協会と面会し、さらに話し合い、フィードバックとアドバイスを受けることを楽しみにしている。また、国防総省記者団から軍事記者・編集者協会などから受け取ったフィードバックにも感謝する。

 国防長官と国防総省にとって、私たちが奉仕するアメリカ国民の信頼ほど重要なものはない。そして我々は毎日その信頼を獲得し、それに値するために一生懸命働き続ける。

1月12日国防総省の追加リリースを仮訳する。

 パット・ライダー少将(Major General Patrick S. Ryder)は、国防長官ロイド・J.オースティンIII(Secretary of Defense Lloyd J. Austin)の健康状態について次のように最新情報を提供した。

 オースティン長官は引き続きウォルターリード国立軍事医療センターに入院しており、健康状態は良好である。

  彼はDODの上級スタッフと連絡を取り、必要な安全な通信機能に完全にアクセスし、世界中の国防総省の日常業務を監視し続けている。

 長官は今週、イエメンのフーシ派支配地域の軍事目標に対する1月11日夜の多国籍攻撃への米軍の参加の監督と指揮に積極的に従事した。 大統領の指示を受けて、11日米国中央軍に攻撃を実行するよう命令を出し、安全な通信機能一式を使って作戦をリアルタイムで監視した。 長官の多国籍攻撃後の声明はここで見ることができる。

 1月12日、オースティン長官は下院軍事委員会委員長のマイク・D・ロジャース下院議員(House Armed Services Committee Chairman Rep. Michael Dennis Rogers : D-Wash.)

Michael Dennis Rogers 氏

 上院軍事委員会のランキング上級委員のロジャー・F・ウィッカー上院議員(Roger Frederick Wicker)、下院軍事委員会ランキング委員のアダム・スミス下院議員(House Armed Services Committee Ranking Member Rep. Adam Smith: Washington's 9th congressional district.選出 民主党)と電話会談を行った。

Adam Smith 氏

 現時点ではオースティン長官の退院の具体的な日程は未定であるが、DODはそれまで毎日最新情報を提供し続ける。

 

 

Ⅱ.ウォルター・リード国立軍事医療センターの医療関係者の長官の治療内容・診断結果の詳細声明

 2024 年 1 月 9 日の声明を仮訳する。

 メリーランド州ベセスダにある「ウォルター・リード国立軍事医療センター」の外傷医療ディレクターのジョン・マドックス博士(Dr. John Maddox, Trauma Medical Director)とマーサがんセンター前立腺疾患研究センター長のグレゴリー・チェスナット博士(Dr. Gregory Chesnut, Center for Prostate Disease Research of the Murtha Cancer Center Director)は1g月9日、オースティン 長官に関して次の声明を発表した。

 長官は定期的に推奨する健康診断の一環として、定期的に前立腺特異抗原(PSA)監視を受けている。 2023 年 12 月初旬の検査室評価の変更により、治療が必要な前立腺がん(prostate cancer)が特定された。 2023年12月22日、医療チームと相談した後、ウォルター・リード国立軍事医療センターに入院し、前立腺がんの治療と治癒を目的とした前立腺切除術と呼ばれる待機的外科手術(elective medical procedure)を受けた。 この手術中、彼は全身麻酔下にあった。 長官は手術から順調に回復し、翌朝帰宅した。 彼の前立腺がんは早期に発見され、予後は良好である。

 2024年1月1日、長官は12月22日の手術処置による吐き気と激しい腹部、股関節、脚の痛みを伴う合併症のためウォルター・リード国立軍事医療センターに入院した。 初期の検査で尿路感染症が判明した。 1月2日、綿密な監視とより高度なケアのために彼をICUに移送する決定が下された。 さらなる検査により、腹水の貯留により小腸の機能が損なわれていることが判明した。その結果、腸の内容物が逆流してしまい、鼻からチューブを入れて胃の内容物を排出することで治療された。 腹水の貯留は非外科的ドレーン留置により排出された。 彼は入院中中着実に回復してきた。また 彼の感染症は治癒した。 彼は回復を続けており、時間はかかるかもしれないが、完全な回復が期待されている。 この入院中、長官は一度も意識を失うことはなく、全身麻酔も一度も受けなかった。

 前立腺がんアメリカ人男性のがんの最も一般的な原因であり、生涯のうち男性の8人に1人、アフリカ系アメリカ人男性の6人に1人が罹患する。 前立腺がんの発生頻度にもかかわらず、スクリーニング、治療、サポートに関する議論は非常に個人的でプライベートなものであることがよくある。 前立腺がんの発見と治療には早期のスクリーニングが重要であり、どのようなスクリーニングが自分にとって適切であるかについて医師に相談する必要がある。

Ⅲ.国防総省長官および副長官およびDOD上級役職員の覚書「標題: 国防長官の職務と義務の引継ぎに関する通知プロセスの見直し」の概要

 覚書を仮訳する。

DODサイト(2022年現在)から一部抜粋 上級幹部の顔写真が確認できる。

DODの国防長官府(OSD)の組織図 (筆者注8)

 本覚書は、合衆国法令集第10編第132(b)条(10 U.S.C. § 132(b)) に準拠し、 および大統領令 EO13533「国防総省内での継承命令の規定」により、特定の状況下では、国防副長官が国防長官の代理を務め、その権限を行使するものとする。これには、長官が職務の機能や職務を遂行できない場合も含まれる。 2024年1月1日の夜、オースティン国防長官は、最近の選択的医療処置後の合併症のためウォルターリード国立軍事医療センターに入院した。 2024 1 2 日、国防長官の特定の権限が国防副長官に移管された。 この移管は2024年 1 月 5 日(金)まで継続された。

 私(Kelly E. Magsamen)(筆者注9)はここに、総務管理部長のジェニファー・ウォルシュ(Jennifer Walsh)に対し、DOD法務顧問と相談の上、関連事実を特定するための調査を直ちに主導するよう指示した。

 緊急事態の期間中の状況を評価し、国防副長官が任務を十分に遂行するよう通知を受けたプロセスと手順をここに評価する。

Kelly E. Magsamen氏

 合衆国法典第10編§ 132(b)条および大統領令EO 13533に基づく国防長官の任務に関する任務の見直しの目的は、これらの出来事を取り巻く事実をより深く理解し、今後の適切なプロセスを推奨する。 このレビューの目的は、(1) 特定の権限が移譲されたと決定された場合の明確性と透明性を確保するのに役立たたせる、(2) 適切かつタイムリーな通知が大統領とホワイトハウス、および必要に応じて米国議会と米国国民に対して行われたこと。

 本レビューには次の内容を含める必要がある。

① 2024 年 1 月 1 日の国防長官の入院に始まる出来事と通知のタイムライン。

② 長官がその職務の機能や責務を遂行できるか、または遂行できないかどうか、およびそのような通知がどのように行われるかを判断するための現在のプロセスを調査する。

③ 必要に応じて、米国大統領、国防総省の高官、その他の関係者に対する既存の通知プロセスを改善するための勧告。

 私は、このレビュー審査を 30 日以内に完了するよう指示する。また、レビューは現在進行中であり、直ちに発効するが、さらに私は次のように指示する。

「権限の移譲」(transfer of authority TOAが発生した場合、上級幹部情報支援室(Cables Executive Support Office :ESO)(筆者注10)は、DOD法務顧問(General Counsel)、統合参謀本部議長および副議長(Chairman and Vice Chairman of the Joint Chiefs of Staff)、国防長官及び副長官の参謀本部(Deputy Chiefs of Staff to the Secretary and Deputy Secretary)、 統合軍司令官(Combatant Commanders)、陸軍長官(Service secretary means the secretary concerned as defined in 10 USC 101(a)(9))参謀本部の制服組の最高幹部(Service Chiefs of Staff)(筆者注11)ホワイトハウスのシユツエーション・ルーム(White House Situation Room) (筆者注12)、および長官および国防副長官の上級幹部。

② 電子メールのメッセージには、TOA の理由 (通信デバイスの圏外、定期的な治療、入院など) が含まれる。

③事前に計画された TOA を調整する際、国防長官の軍事補佐官 (Secretary's Military Assistant (MA) ) チームのメンバーが私、副長官の首席補佐官、副長官から長官、副長官、副長官の上級軍事補佐官に最新情報を伝える。その他の長官および副長官の軍事補佐官 MA は、事前に計画された TOA の予想スケジュールに基づいて 至急な連絡等を行う。

④緊急の TOA の場合、担当 軍事補佐官MA は少なくとも音声通信に依存し、電子メールでフォローアップする。ずれの場合も、Cables ESO からの電子メールは通知を記録する。

 上記の当面の措置は、30 日間のレビューの結果、さらに修正される可能性がある。

cc: DOD法務顧問

Ⅲ.今回の国防長官の緊急入院や軍最高幹部の対応の遅れ、ホワイトハウスへの情報遅れ等の問題

 今回のオースティン長官の緊急入院と権限移管に関する米国の議会等によるシビリアン・コントロールに関するメデイア等に見るさらなる課題につき1月7日のAP News 記事から抜粋、以下、仮訳する。

 オースティン国防長官(70歳)は、軽度の選択的医療処置後の合併症のため入院したままであると彼の報道官は述べた。 国防総省がウォルターリード国立軍事医療センターでの長官の入院に関する情報をどれほど密接に保持していたかがますます明らかになるにつれて、報道官は彼の当初の声明の中で、長官は回復中であり、すぐに国防総省に戻ることを楽しみにしていると述べたが、彼の病気について他の詳細を提供しなかった。

 国防総省報道官のパット・ライダー少将空軍少将は、ホワイトハウスと合同参謀本部はオースティン長官の入院について通知を受けたが、その通知がいつ起こったかは確認しなかったと語った。

 多くの米国当局者は1月6日、長官が入院していることを1月5日まで国防総省の最高幹部の多くが知らなかったと述べた。当局は匿名の条件で話し、プライベートな会話について話し合った。1月5日にホワイトハウスが彼の状態を知ったことを報告した最初の人物は米メデイアPolitico (筆者注13)であった。

 ライダー少将は、 議会のメンバーは1月5日の午後遅くに告げられ、他の当局者は議員が午後5時以降に通知されたと述べた。長官のスタッフの主要な上級メンバーにいつ伝わったかは明らかではないが、国防総省全体で, 多くのスタッフが、長官の病院滞在に関する声明を発表したときである5日の午後5時過ぎに知った。つまり、多くの軍幹部は長官が今週休暇を取っていると信じていた。

 長官が入院したときに引き継いだキャサリン・ヒックス国防副長官も不在であった。米国の当局者は、長官との間に彼女が仕事をすることを可能にするプエルトリコで彼女とのコミュニケーションセットアップを持っていたと述べた。 結果、米軍で41年間過ごし、2016年には4つ星の陸軍大将として引退した人は無力であった。

 ライダー少将は1月6日、長官の回復は順調で、1月5日の夕方、病院のベッドから全職務を再開したと語った。なぜ入院が長い間秘密にされているのかと尋ねられた少将は、5日にそれが“回復が進む状況であり、プライバシーと医療の問題のためであると述べ, 国防総省は長官の職務不在を公表しなかった。当時、少将はオースティンの医療処置または健康に関するその他の詳細を提供することを拒否した。

 連邦議会上院軍事委員会で最高位にある共和党ロジャー・ウィッカー(Mississippi Sen. Roger Frederick Wicker ) 氏(筆者注14)(筆者注15)(筆者注16)は「国防総省は、国防長官の病状を数日間故意に差し控えたことは受け入れられない。われわれ議会は、部局の衝撃的な法律違反について1時間ごとにさらに学習している」

Roger Frederick Wicker 氏

 また、アーカンソー州選出共和党のトム・コットン(Sen. Thomas Bryant Cotton , R-Arkansas)氏 (筆者注17)も大統領や議会等通知の遅れを次のとおり批判した。

Thomas Bryant Cotton 氏

 「国防長官は、核指揮系統を含む大統領と制服を着た軍部との間の指揮系統における主要なリンク責任者であり, 最も重要な決定を数分で行わなければならないとき、長官がホワイトハウスにすぐに伝えなかったことは, この衝撃的な内訳には影響があるはずである」

 国防総省をカバーするメディアメンバーを代表する国防総省報道協会(Pentagon Press Association:PPA)は、5日の夜にライダー少将とDOD広報担当次官補のクリス・ミーガー(Chris Meagher)氏に抗議の手紙を送った。

Chris Meagher氏

 PPAはその書簡で「長官がウォルターリード国立軍事医療センターに4日間滞在していて、国防総省が5日の夜遅くに国民一般に警告しているという事実は怒りそのものである。中東の米軍サービスメンバーに対する脅威が高まっている現在、米国はイスラエルウクライナでの戦争で主要な国家安全保障の役割を果たしている。アメリカの国民がその最高の防衛指導者の健康状態と意思決定能力について知らされることは特に重要である」

 これまで他の米国の上級指導者たちは、自身の入院についてはるかに透明であった。すなわち、メリックガーランド司法長官が2022年に通常の医療処置に参加したとき, 彼のオフィスは1週間前に国民に通知し、彼が外出することが予想される期間と彼がいつ仕事に戻るかを概説した。

 今回のオースティン長官の入院時期は、イランが支援する民兵が米軍がイラクとシリアに駐留している基地で繰り返し無人偵察機、ミサイル、ロケットを発射した時期である。バイデン政権を何度も反撃するように導いた。これらの攻撃には、長官や他の主要な軍事指導者によるデリケートでトップレベルの議論と決定が含まれることがよくある。

 また、アメリカはイエメンのフーシー過激派(Houthi militants)による商業船への持続的な攻撃を阻止するために南紅海をパトロールするために船と他の資産を使用する新しい国際海事連合の背後にある主要な主催者でもある。(筆者注18)

 さらに、オバマ政権、特にオースティン長官は、武器を供給し、ウクライナに訓練する取り組みの最前線にいる。 彼はまた、ハマスとの戦争についてイスラエル人と頻繁にコミュニケーションをとっている。

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(筆者注1)DODサイトのヒックス副長官の略歴を仮訳する。

 キャスリーン・H・ヒックス閣下は第35代国防副長官を務めている。彼女は2021年2月9日にその役職に宣誓した。

 副長官に就任する前は、ヒックス 氏はヘンリー A. キッシンジャー氏が代表する外交問題評議会(Foreign Policy and International Relations : Council on Foreign Relations ) (筆者注6)上級副代表、CSIS(戦略国際問題センター)の国際安全保障プログラムのディレクターを歴任した。

 2009 年から 2013 年まで、彼女は国防総省の高級文官を務めた。 2012年に米国上院によって政策担当首席国防次官に承認され、世界および地域の国防政策と戦略について国防長官に助言する責任を負った。

 また彼女は戦略、計画、戦力担当の国防副次官も務め、2012 年の国防戦略指針と 2010 年の 4 年ごとの国防見直しの開発を主導し、将来の戦力能力、海外での軍事態勢、緊急時および戦域作戦計画に関する指針の策定を主導した。

 Deputy Under Secretary of Defense for Strategy, Plans and Forces(SPF の DUSD) になる前の 2006 年から 2009 年まで、ヒックス氏は戦略国際問題研究所の上級研究員を務めていた。 ヒックス氏は国防長官室の公務員としてキャリアをスタートし、1993 年から 2006 年までさまざまな役職を務め、大統領管理インターンから上級行政職まで昇進した。

(筆者注2) ジェイコブ・ジェレマイア・サリバン(1976年11月28日生まれ)はアメリカの弁護士で、現在ジョー・バイデン大統領直属の国家安全保障担当大統領補佐官を務めている。 彼はこれまでに米国国務省バラク・オバマ大統領の政策局長、バイデン副大統領の国家安全保障担当補佐官、ヒラリー・クリントン長官の首席補佐官を務めた。また サリバン氏は、イラン核交渉における米国連邦政府上級顧問、クリントン長官の2016年大統領選挙キャンペーンにおける上級政策顧問、さらにイェール大学ロースクール客員教授も務めた。

 2020年11月23日、バイデン次期大統領はサリバン氏を米国国家安全保障担当大統領補佐官に任命すると発表し、2021年1月20日に就任した。

(筆者注3) (1)10 USC 132(b)条: Deputy Secretary of Defense を仮訳する。

(b) 副長官は、国防長官が定める職務を遂行し、権限を行使するものとする。 副長官は、長官が死亡、辞任した場合、またはその他の理由で長官の職責および職務を遂行できなくなった場合に、長官を代理し、その権限を行使するものとする。

(2)オバマ大統領時代に発令された2010.3.1 Executive Order 13533—Providing an Order of Succession Within the Department of Defenseを仮訳する。

 1998 年の連邦空員制度改革法 (修正版) を含むアメリカ合衆国憲法および法律により、大統領として私に与えられた権限により、5 U.S.C. 3345 以降では、以下のことが命じらた。

セクション 1. 継承順位。

(a) 本命令第 2 条の規定に従い、国防総省の以下の職員は、列記された順序で、次の期間中、国防長官 (長官) の職を務め、その職務と義務を遂行するものとする。 長官が死亡、辞任、またはその他の理由で長官の職務の機能および職務を遂行できなくなった期間、長官がその職務の職務および職務を遂行できるようになるまでの期間:

(1) 国防副長官。

(2) 陸軍長官。

(3) 海軍長官。

(4) 空軍長官。

(5) 防衛次官(調達、技術、兵站担当)。

(6) 政策担当の国防次官。

(7) 国防次官(監察官)。

(以下は略す)

(筆者注4) 大統領日報 ( President's Daily Brief, PDB) は、米国政府の担当部局が毎日作成し、米国大統領に毎朝届けられる最高機密文書。これは大統領が認めたごく限られた政府高官らにも渡される。日報の内容には、機密性の高い情報分析、CIAの秘密工作に関する情報、最も機密性の高い米国の情報源からの報告、同盟国の情報機関と共有している報告、といったものが含まれる。大統領日報は、大統領選で当選し就任を控えた次期大統領にも渡される。

 大統領日報は国家情報長官が作成し、中央情報局 (CIA)、国防情報局 (DIA)、国家安全保障局 (NSA)、連邦捜査局 (FBI)、そのほか米国のインテリジェンス・コミュニティーに属する機関から上がってきた情報を総合した内容になっている。(Wikipediaから抜粋 )

(筆者注5) 広報担当国防次官補 (ATSD (PA)) は、広報、内部情報、地域関係、情報訓練、視聴覚問題の主任参謀であり、国防長官および国防副長官の補佐を務める。 国防総省の取り組みを支援し、約 3,800 人の軍人および民間人からなる世界的な広報コミュニティを主導している。次官補は、長官の情報原則に従って国防総省の情報を国民、議会、メディアに提供する。 2012 年 10 月以前は、この役職は「広報担当国防次官補」として知られているが、2011 年の大統領任命効率化および合理化法に応じて名前が変更された。ATSD(PA) は重要な人物であるが、国家の重要人物ではなく、唯一の広報担当者である。(Academic Acceleratorから抜粋)

(筆者注6) 外交問題評議会(Council on Foreign Relations)は、アメリカ合衆国シンクタンクを含む超党派組織。 1921年に設立され、外交問題・世界情勢を分析・研究する非営利の会員制組織であり、アメリカの対外政策決定に対して著しい影響力を持つと言われている。超党派の組織であり、外交誌『フォーリン・アフェアーズ』の刊行などで知られる。本部所在地はニューヨーク。(Wikipediaから抜粋 )

(筆者注7) DODの行政管理部長 (Director of Administration and Management:DA&M) は、国防総省国防長官室 (Office of the Secretary of Defense OSD) 内の役職である。 DA&Mは、組織および行政管理事項に関する国防長官および国防副長官の主席補佐官および顧問として、以下の責任を負う。

  ①組織憲章の策定と維持、②国防総省委員会の管理、③国防総省の本部管理、③OSD歴史的記録などの割り当てられたプログラムの監督プログラム、④国防総省の情報自由法プログラム、⑤国防総省プライバシー・ プログラム、⑥国防総省市民の自由プログラム、⑦OSD 内部管理制御プログラム、および⑧ OSD 情報技術/CIO プログラムである。さらに、DA&M は国防総省軍保護局とワシントン本部サービスの管理と監督の責任を果たしている。従業員は約 1,300 名、現場活動予算は 13 億ドル(約1,872億円)に達している。

(筆者注8) 国防総省の国防長官府(Office of the Secretary of Defense :OSD)の解説の仮訳

 アメリカ合衆国国防長官府 (Office of the Secretary of Defense (OSD) は、アメリカ国防総省の本部である。国防長官直属の組織であり、主に文民職員 (いわゆる「背広組」)で組織されている。政策開発、国防計画、資材管理、会計、及び背策評価の責任分野で各種権限を行使し、国防総省に対する権限、指揮、統制を実行する長官を支援する。長官府は、統合参謀本部とともに、国防総省を管理する国防長官の支援部門であり、アメリカ合衆国において連邦行政部全体を管理する大統領の大統領行政府に相当する。

 長官府には、国防長官 (SecDef)と国防副長官 (DepSecDef)に直属する6人の国防次官 (研究・技術、取得・維持、政策、会計検査、人事・即応、諜報・安全保障) が置かれている。国防次官は、全て大統領によって任命され、国防長官や国防副長官と同様に、連邦議会上院の承認を要する。

 その他の役職として、国防次官補、国防長官補佐官、法律顧問、運用試験・評価局長、行政事務局長及び割り当てられた職務を遂行するために国防長官が設置した役職があり、それぞれ国防長官を補佐する。

 長官と副長官は、6人の次官を監督し、それぞれの次官は数人の次官補を監督している。その他に長官に直属する特別職員も数人置かれている。以下、略す。(Wikipediaから抜粋、なお、そこに引用されているOSDの組織図は古い、本ブログのものを参照されたい)

(Wikipedia から抜粋, 仮訳)

DODの国家情報機関機能】(青色部:筆者が説明を補筆した)

国防総省の組織の一部は、アメリカのインテリジェント・コミュニティ (IC)のメンバーとなっている。通常は国防総省の管轄下で活動する連邦レベルの諜報機関であるが、同時に国家情報長官の権限にも服している。これらの機関は、国家の政策立案者や戦争に関する権限を有する者が、その職務を遂行するために、戦闘支援機関として機能する。また中央情報局 (CIA)や連邦捜査局 (FBI)などの国防総省以外の諜報機関や法執行機関の支援も実施する。

 上記以外にも、各軍種には独自の諜報機関が置かれている。国防総省の管轄下にある国家情報機関とは別組織であるが、調整の対象とはなっている。国防総省は、シギント(signals intelligence:通信、電磁波、信号等の、主として傍受を利用した諜報・諜報活動のこと)、地理空間情報(Geospatial intelligence:地理空間情報を含む画像、信号、または署名の活用と分析から得られる、地球上の人間の活動に関するインテリジェンス。 GEOINT は、地球上の物理的特徴と地理的に参照された活動を記述、評価し、視覚的に表現する。 米国連邦法典で定義されている GEOINT は、画像、画像インテリジェンス (IMINT)、および地理空間情報で構成されている)、マジント(Measurement and Signature Intelligence :MASINT) は、情報収集の技術分野であり、固定または動的ターゲット・ソースの特有の特性 ンテリジェンス、音響インテリジェンス、核インテリジェンス、化学および生物学的インテリジェンスが含まれる)の各分野で国家情報機関の間の調整を担当している。また、これらの分野の資産を管理するとともに、情報衛星の打ち上げ、運用、情報網の構築を行っている。また国防総省は、CIAが実施するヒューミント(HUMINT; Human Intelligence):人が人に接触して収集するデータ、情報、知識。相手の経歴、身体的特徴、思想傾向、雰囲気、性癖、言語化されない暗黙知も含まれる)に協力すると同時に、軍事面での優先的なヒューミントを実施するために独自の機関 (国防情報局内の国防秘密局)を保有している。国防総省の国家情報機関は、国防次官 (諜報・安全保障担当)によって監督されている。

(Wikipedia等から抜粋) なお、日経XTECH「細分化が進むインテリジェンス」も参照されたい。

(筆者注9) ケリー・マグサメン(Kelly Magsamen)氏は、ロイド・J・オースティン3世国防長官の首席補佐官である。 国防長官の幹部スタッフを指揮し、国防長官に国防総省に関するすべての問題について助言やアドバイスを提供する責任を負う。

(筆者注10)覚書に出てくるCABLES EXECUTIVE SUPPORT OFFICEにつき補足する。SDCの解説を仮訳する。

 DISA(アメリカ国防情報システム局)は、軍事通信、電波監理や通信システムの開発などを担当する国防総省の内局) の戦略的コミュニケーションと広報を担当する部局である。

 国防総省長官通信局 (Secretary of Defense Communications:SDC)は、国防総省長官および国防総省副長官、その直属の事務所、および指定された特使に専用の通信サポート、意思決定サポート、および状況認識サービスを提供する。

 2017 年に国防情報システム局のミッション・ポートフォリオに統合された SDC は、すべての脅威シナリオおよび地理的位置にわたってグローバルな状況認識を提供する統合通信ソリューションを提供し、国防長官が合衆国法典第 10編 および第50 編1/8(22)で義務付けられている指揮統制権限と責任を行使できるようにする。

 国防長官の信頼できるプロバイダーとして機能する統合奉仕チームは、非常に小さな拠点を維持しながら、大きな任務を達成する。

 SDC の小さいながらも重要なコンポーネントの 1 つは、その使命をサポートする有能な軍人を継続的に探しているケーブル支局(Cables Branch)である。

 SDCの上級幹部支援官であるジョージ・ランドルフ(George Randolph)陸軍中佐ケーブル支局長は「SDCの作戦情報管理および指揮統制サポートセンターであり、約20人の軍人が配置され、3人チームで活動している。我々は、国防長官とその直属のスタッフに、場所に関係なく、複数のプラットフォームと分類にわたって包括的な音声、ビデオ、およびデータ機能を提供する」

 ケーブルズ支局のメンバーは、ホワイトハウス状況室、国務省国防総省の各機関、および外国の対応機関との連絡役としても機能する」と述べた。

(筆者注11) 統合参謀本部 (Joint Chiefs of Staff:JCS) は、米国国防総省内の制服を着た最高幹部の組織であり、軍事に関して米国大統領、国防長官、国土安全保障会議および国家安全保障会議に助言を与え、 重要な組織である。 統合参謀本部の構成は法令で定められており、議長(CJCS)、副議長(VJCS)、陸軍、海兵隊、海軍、空軍、宇宙軍の長官、および軍司令官から構成される。(Wikipedia を抜粋、仮訳)

(筆者注12) シチュエーションルーム ( White House Situation Room) は、アメリカ合衆国ホワイトハウスのウエストウイングの地下にある施設である。513.2平方メートルの会議室と情報管理センター機能を備える。

 シチュエーションルームは、アメリカ合衆国大統領とその顧問(国家安全保障問題担当大統領補佐官、国土安全保障担当大統領補佐官、大統領首席補佐官を含む)が、国内外の有事の監視と対応を行うため、そして外部機関(海外の機関を含む)と安全な通信を行うために利用すべく、国家安全保障会議のスタッフによって運営されている。(Wikipedia から抜粋)

 (筆者注13) ポリティコ(Politicoは、政治に特化したアメリカ合衆国のニュースメディアである。主にワシントンD.C.の議会やホワイトハウス、ロビー活動や報道機関の動向を取材し、テレビやインターネット、フリーペーパー、ラジオ、ポッドキャストなどの自社媒体を通じてコンテンツを配信している。(Wikipediaから抜粋 )

(筆者注14) ロジャー・F・ウィッカー(Roger Frederick Wicker)氏は、2007年12月から米国上院でミシシッピ州民の代表を務めている。上院議員時代、ウィッカー氏は雇用を創出し、連邦政府の行き過ぎを制限し、生命を守り、強力な国防を維持する成長促進政策を擁護してきた。

 ウィッカー氏は、第 118 連邦議会の上院軍事委員会のランキング上級委員(筆者注13)である。ウィッカー氏は上院商業・科学・運輸委員会の上級委員でもあり、以前はそれぞれ第116議会と第117議会で議長と幹部を務めていた。 彼の他の委員会の任務には、環境および公共事業委員会および規則および管理委員会が含まれる。

Roger Frederick Wicker氏

 ウィッカー氏は米国ヘルシンキ委員会の幹部であり、欧州安全保障協力会議 (CSCE)(筆者注16)の副議長でもある。また、ウィッカー氏は、米国商船アカデミー議会訪問者委員会のメンバーも務めている。(ウィッカー氏のHPから抜粋、仮訳)

(筆者注15) 連邦議会委員会構造は立法プロセスにおける主要部分である。委員会は一般的に、様々な政策分野にフォーカスを置き、与党議員が議長を務める(各委員会における最年長の少数派党員は「有力メンバー」(ranking member)と呼称される)。また各議会委員会には個別の職員も常駐している。

(筆者注16) 欧州安全保障協力機構(OSCE)は、ソビエト連邦が最初に全ヨーロッパ安全保障会議の設立を提案した1950年代初頭にその起源を持つ。1960年代半ばに、ワルシャワ協定はそのような会議の呼びかけを更新した。1969年5月、フィンランド政府はヘルシンキを会議場として提供する覚書をすべてのヨーロッパ諸国、米国、カナダに送った。1972年11月から、最初の35か国の代表が3年近く集まり、会議の手配と枠組みを策定し、1975年7月に作業を終えた。

1975年8月1日、最初の35の参加国の指導者がヘルシンキに集まり、ヨーロッパの安全保障協力会議の最終法に署名した。ヘルシンキ合意とも呼ばれる最終法は条約ではなく、非公式に“バスケットと呼ばれる3つの主要セクションで構成される政治的拘束力のある合意である「コンセンサス」に基づいて採用された。この包括的な法律には、バンクーバーからウラジオストクに及ぶ地域の安全と協力を強化するために設計された幅広い措置が含まれる。(OSCEサイトから抜粋、仮訳)

(筆者注17) トム・コットン氏はアーカンソー州出身のアメリカ合衆国上院の共和党議員である。 所属する委員会には、刑事司法およびテロ対策小委員会のランキングメンバーを務める司法委員会、情報委員会、空陸電力小委員会のランキングメンバーを務める軍事委員会が含まれる。(トム・コットン氏のHPから抜粋、仮訳した)

(筆者注18)1月11日の米国非営利公共メディアNational Public Radio(NPR) は以下のとおり報じている。抜粋、仮訳する。

 国防当局者が匿名を条件に語ったところによると、米国と英国はイエメンにあるフーシー派武装勢力の標的約十カ所への攻撃を開始した。今回の空爆は、紅海での国際貨物船と米軍艦に対するフーシー派による2カ月以上にわたる攻撃に続くもので、米当局が封じ込めに懸命に取り組んできた中東紛争が拡大している。

 バイデン大統領は書面による声明で、今回の共同攻撃はフーシ派の行動に対する防衛反応であり、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダの支持を得ていたと強調した。

 バイデン氏は「こうした標的型攻撃は、米国と米国のパートナーが米国人員への攻撃を容認したり、敵対勢力が世界で最も重要な商業航路の一つで航行の自由を脅かしたりすることを容認しないという明確なメッセージであり、私は必要に応じて我が国国民と国際商取引の自由を守るため、さらなる措置を躊躇なく指示するつもりである」と述べた。

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米国のデジタル資産のSECやCFTCの規制状況

 Grenn Growthのレポート「Crypto and the Law: SEC, CFTC, and State Jurisdictions Explained」を抜粋、仮訳する。

 このレポートはローファームやロースクールでないことから必ずも読者向け補足説明は十分でない。筆者の判断で注書き等補足した。

 なお、商品先物取引委員会(CFTC)のデジタル資産規制に関する説明は筆者ブログを参照されたい。

 米国における規制監督機関や大統領府等の具体的動きの中で暗号資産関係の出来事(事件、米国規制等)については、SBI金融経済研究所の解説を参照されたい。

(1)証券取引委員会(SEC)および米国の証券規制法

 暗号資産は、従来の資産カテゴリに正確かつ明確に適合しない独自の資産である。それらを規制するために、SECは既存の法的枠組みを利用している。このアプローチの中心は ハウエイテスト(Howey Test) (注1)、 1946年の連邦最高裁判所の訴訟判決 (注2) (注3)から派生した基準で、証券の販売を他の取引と区別するために使用された法理である。

 資産が一般的な企業へ“の投資である場合, 他の人の努力から得られる利益を合理的に期待する”それは証券と見なされ、証券取引委員会(SEC)の管轄下にあり、連邦証券規制法に準拠する必要がある。

 このため、SECの法規制のスタンスは、暗号通貨の性質によって異なる。たとえば、ビットコインエーテルライトコインは証券ではなく商品と見なされるが、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)で販売されたトークンなどの他の商品では, ハウエイテストの基準を満たしている場合、証券と見なされる場合がある。

 SECは、規制監督機関として暗号資産業界の証券法の遵守を確保するうえで断定的である。これにより、提供物を証券として登録できなかった暗号資産作成者およびプラットフォームに対して、多数の訴訟(2023年には23件)が提起された。これらの訴訟は、暗号業界の他のプレーヤーへの警告として機能し、将来の執行措置の先例を設定するものである。

(2) 商品先物取引委員会の暗号資産の監視

 商品先物取引委員会(CFTC)は、 米国の商品デリバティブ市場の監督を担当する主要な規制当局である。CFTCは、“商品”を含む州間取引、および先物スワップ、特定のタイプのオプションを含む商品デリバティブ市場に対する独占的な規制当局に幅広い管轄権を持っている。

 CEAの下では、CFTCは、誰がデリバティブを取引できるか、どこでどのように取引が行われるか、およびそれらが実施される条件を規制する権限を持っている。CFTCは、市場仲介業者を登録および規制する自主規制組織である“National Futures Association(NFA)とも連携して機能している。

 米国の抜本的な金融制度改革法である「2010年ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護に関する法律(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」(注4)は、「1936年商品取引所法Commodity Exchange Act (CEA)」を改正し、CEAスワップおよびオプションの店頭(OTC)市場を規制するCFTCの権限を拡大した。これらの規制は、デジタル資産を含むOTCデリバティブ取引にも同様に適用される。ただし、適格な契約参加者(ECP)のみが暗号通貨でスワップを取引できる。

 CFTCの管轄は、取引所市場を超えて小売商品市場を含むように拡大している。レバレッジド、マージン、またはファイナンスされた商品取引に従事する非ECPを含む小売商品取引は、CEAの特定の規定の対象となる。ただし、28日以内に商品が実際に配達される、または商品を配達する強制可能な義務を生み出す特定の契約は、ほとんどのCFTC規制から免除される。

 デジタル資産と暗号通貨は、CEAでは“商品”として明示的に定義されていないが、 CFTCは、ビットコインと他の仮想通貨が商品であり、その執行権限に該当するという2015年の和解命令で表明した。この立場は2018年の地方裁判所の決定によって支持された。CFTCは、デジタル資産のスポット市場に対する規制当局を引き続き主張し、現金デジタル資産商品市場の規制フレームワークを開発する立法当局の擁護者と述べている。

(3)暗号資産の連邦金融監督機関の評価

 連邦準備制度(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、財務省・通貨監督庁(OCC)などの金融監督規制当局も、暗号資産によってもたらされるリスクに対処する必要性を認識している。2023年1月3日に発表された共同声明とガイダンスで、これらの規制当局は、暗号資産業界から銀行部門への各種リスクの伝染を防ぐことの重要性を強調した。

 これらの規制当局が提供するガイダンスでは、銀行組織が適切なリスク管理を実証し、暗号資産関連の活動に従事する前に事前に通知する必要がある。規制当局は、銀行がこれらの活動に安全かつ健全に参加する能力を評価する。この共同声明は、以前の規制ガイダンスに基づいており、一般に暗号セクター、その参加者、および暗号企業に関連するリスクに関する懸念を反映している。

 これら連邦の健全性規制当局によって提供されたガイダンスは、暗号関連の活動を規制の範囲外に留めることを好むことを示している。このアプローチは、安全性と健全性に対する認識されたリスクが銀行システムに入るのを防ぐことを目的としているが、このスタンスは、シャドウ暗号バンキングシステムをさらに発展させる可能性がある。

 2023年1月の共同声明は、規制された金融機関と暗号セクターの間の関係に負担をかける可能性がある。暗号業界に関連する認識されたリスクは、銀行’暗号パートナーおよび顧客のリスクを軽減し、フィンテック・バンキングモデルを採用している従来の銀行に影響を与える可能性がある。

 さらに、暗号関連の活動を連邦規制の境界の外に押し出すことにより、前記共同声明は州の規制当局が暗号規制をリードするための扉を開いた。ワイオミング州ニューヨーク州(注5)カリフォルニア州 (注6)等は、管轄区域内で活動する暗号企業向けの包括的な法規制フレームワークをすでに開発している。

20231月の共同声明の主な要点

銀行等のバランスシートのリスクの制限:規制当局は、オープンでパブリックな分散型ネットワーク上で暗号資産を保有または発行することは、安全で健全な銀行業務の慣行に矛盾すると主張しています。 この立場は、そのようなネットワーク上で転送される暗号資産にも拡大し、従来の資産のトークン化された表現を含む可能性があります。

システミックリスクと伝染リスク: 規制当局は、規制された金融システム内の伝染リスクを軽減することの重要性を強調しています。 彼らは、仮想通貨セクターのリスクが銀行システムに移されるべきではないと警告している。

③安全性と健全性における集中リスク:暗号資産に関わる企業へのサービス提供に重点を置いている銀行組織は、安全性と健全性に関する重大な懸念に直面しています。 規制監督当局は、暗号資産セクターへのエクスポージャーが集中するビジネスモデルに懸念を表明している。

④市場リスク:共同声明では、暗号通貨セクターに関連する個人投資家機関投資家、顧客、取引相手に対するリスクを強調している。 これらのリスクは伝統的に市場規制当局の範囲内にあったが、現在では健全性にかかる規制当局にも関連するものとして認識されている。

⑤分散型金融のリスク:規制当局は、集中型暗号資産取引所に代わるリスクの低い代替手段と見なされていることが多い分散型金融について懸念を表明している。 分散型金融において単一の第三者に依存していないからといって、これらの活動に関連するリスクが排除されるわけではない。

(4) State Regulations

(5) Congressional Initiatives

の仮訳は略す。

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(注1) DMM Bitcoin「暗号資産(仮想通貨)が証券に該当するかを判断するハウェイテストとは」から引用する。(リンクは筆者が行った)なお、法律的な解説としてはFind Law の“What Is the Howey Test?”を参照されたい。

 「ハウェイテスト(Howey Test)」は、特定の取引が「投資契約」という有価証券取引の定義の一つに該当するかどうかを判定するアメリカにおけるテストの一つである。また、金融資産が有価証券に該当するかを判断する規定の一つにもなっている。

 ハウェイテストは、ある取引がアメリカの「1933年証券法(Securities Act of 1933)(15 U.S. Code Chapter 2A - SECURITIES AND TRUST INDENTURES)」および「1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)(15 U.S. Code Chapter 2B - SECURITIES EXCHANGES)」に基づく開示・登録義務のある証券とみなされるかどうかを判断するためのアメリカ連邦最高裁判所判例法理に基づいた判定テストである。

 ハウェイテストでは、特定の取引が「他人の努力から得られる利益を合理的に期待して、共通の事業に資金を投資する」場合、それは投資契約とみなし、有価証券取引であると判定される。

 アメリカでは、金融資産が有価証券に該当する場合は、SECの規制の対象になる。

(注2) ハウイーテストは、1946年に連邦最高裁判所に達したSEC対W.J.ハウイー社(W.J. Howey Co.)( 328 U.S. 293 (1946))の判決に基づいている。ハウイー社は柑橘類の果樹園の区画をフロリダの購入者に売却し、購入者はその土地をハウイーにリースバック(注3)することになった。 会社のスタッフが果樹園の手入れをし、所有者に代わって果物を販売していた。 両当事者は収益を共有した。 ほとんどの購入者は農業の経験がなく、自分で土地の手入れをする必要もなかった。

 ハウイー氏はリースバック取引の登録を怠っていたため、米国証券取引委員会(SEC)が介入した。 裁判所の最終判決は、リースバック契約が投資契約として適格であると判断した。

 最高裁判所の見解では、「証券法の目的における投資契約とは、個人が自分の資金を一般の事業に投資し、その努力のみから利益を期待させる契約、取引、またはスキームを意味する」と述べられている。

  この裁判所の判決ステートメントでは、現在 ハウイーテストとして使用されている 4 つの基準を明らかとした。

①お金の投資であること

②一般的な企業であること

③利益を期待できること

④他人の努力から得られるものであること

(Investopedia 解説「Howey Test Definition: What It Means and Implications for Cryptocurrency」から抜粋、仮訳)

(注3) リースバック( Leaseback)とは、セール・アンド・リースバック( sale-and-leaseback)とも呼ばれ、現在所有している物品(主に固定資産など)に相当するものを他に売って、そこからリースするという金融取引をいう。こうした取引の対象になるものは不動産などの固定資産や、飛行機や列車などの資本財などである。

リースバックを行なう際の当事者の理由は、これにより金融上、会計上、税務上の利点があるからである。大きな利点は二つあり、「まとまった現金を得ることが出来ること」、「維持管理などの手間を省くことが出来る」ことである。(Wikipediaから抜粋 )

(注4) 筆者ブログの(注1)にこれまでの筆者の「Dodd Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act:ウォール街改革および消費者保護に関する法律」に関するブログを引用している。

(注5) ニューヨーク州 ワイオミング州の暗号資産の法規制については「海外(米国)のステーブルコインのユースケース及び関連規制分析に関する調査 報告書」参照。

(注6) カルフォルニア州については、金融庁「海外(米国)のステーブルコインのユースケース及び関連規制分析に関する調査 報告書」参照。

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