オンライン憎悪(online hate)と憎悪犯罪(hate crime)やヘイト・スピーチ(hate speech)の規制強化にかかるEUや主要国の最新立法の動向

  筆者の手元に、米国連邦議会の独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)(注1)から標記レポートが届いた。

 この問題は単にオンライン憎悪(online hate)と憎悪犯罪(hate crime)やヘイト・スピーチ(hate speech)の規制強化の問題ではない。先に筆者が論じたデジタル社会の法制整備の一環でもある。

 今般のGAO の調査によると、選ばれた 6 社すべてが、人種や宗教などの実際の特徴または認識されている特徴に基づいて、自社ポリシーでヘイト・スピーチまたは人々に対する暴力的過激主義を促進していると定義しているコンテンツを削除するために何らかの措置を講じていることが判明した

 はたして、わが国では立法問題だけでなく企業等のポリシー等の調査がはたして適正に調査したりしているのか、疑問が湧いた。

 今回のブログは、(1)GAOレポートの概要紹介、(2)最近時のEU議会や欧州委員会の法規制の取り組み、(3)米国、ドイツ、フランスの立法の動向と更なる課題について解説を試みる。

12024.1.12 GAO レポートオンラインの過激主義:インターネット上で発生する憎悪犯罪について、より完全な情報が必要」の仮訳

 (1)概況報告(Fact Sheet)

 GAOが調査した調査によると、近年、かなりの数のインターネット・ユーザーがオンラインでのヘイトを経験している。

 GAOの研究と政府の報告書は、オンライン憎悪(online ate)と憎悪犯罪(hate crime)(注2)との関連性を示している。 たとえば、査読済みの研究(peer-reviewed study)では、パンデミック中に米国の一部の都市で、無作法なインターネット・コメントとアジア人に対するヘイト・クライムが関連付けられていることが判明した。

 連邦司法省(DOJ)は、執行機関から憎悪犯罪に関するデータを収集している。 司法省はヘイト・クライムの推定に全国世帯調査も行っているが、ヘイト関連のサイバー犯罪については調査対象でない。 ヘイトク・ライムをより深く理解し、対処するために、このデータを入手する方法を検討することを勧める。

【ハイライト】

*GAOが明らかとしたこと

 連邦司法省 は、次の 2 つの統計プログラムを使用して、ヘイト・クライム (例:人種、民族、性別、性同一性(gender identity)、宗教、身体障害、または性的指向に基づく偏見の証拠を示す犯罪等) に関するデータを収集している。

 連邦捜査局 (FBI) の「統一犯罪報告プログラム(Uniform Crime Reporting Program)」は、インターネット上で発生する憎悪犯罪を含む憎悪犯罪データを法執行機関から収集している。

 連邦司法省・司法統計局(Bureau of Justice Statistics:BJS)は、毎年実施する全国世帯調査「全国犯罪被害調査」を利用して、法執行機関に報告されたヘイト・クライムと報告されていないヘイト・クライムの蔓延の推定値を算出している。 ただし、BJS の調査は、インターネット上で発生するヘイト・クライムに関するデータを収集していない。

 「2022 年サイバー犯罪サイバー犯罪のより良い数値基準法(2022 Better Cybercrime Metrics Act)」では、BJS に対し、調査にサイバー犯罪被害に関する質問を含めることを義務付けている。BJS は、インターネット上の偏見に基づく被害を測定する 1 つの方法を調査する研究に資金を提供した。

 しかし、この調査では、対面でのヘイト・クライムを測定する方法と同様のアプローチなど、他の方法は検討されていない。 全国犯罪被害調査や補足調査でインターネット上の偏見に関連した犯罪被害を測定するための他の選択肢を模索することは、FBIのデータを補完し、司法省が憎悪の影響を受けるコミュニティを特定して支援を提供するのに役立であろう。

 GAO の調査によると、選ばれた 6 社すべてが、人種や宗教などの実際の特徴または認識されている特徴に基づいて、自社ポリシーでヘイト・スピーチまたは人々に対する暴力的過激主義を促進していると定義しているコンテンツを削除するために何らかの措置を講じていることが判明した。これら企業のデータによると、2018 年から 2022 年までに削除されたヘイト・コンテンツの量は、運営するプラットフォームによって異なった。これは、企業によるヘイト・コンテンツの定義と関連ポリシーのばらつきが部分的に原因であった。

インターネット上で発生するヘイト・スピーチ

 GAO調査によると、インターネット ユーザーの最大 3 分の 1 が、インターネット上でヘイト スピーチを経験したと報告しており、インターネット上でヘイト・スピーチや過激なスピーチを投稿するユーザーは、インターネットがヘイト・デオロギーの拡散に役立っているためにそうしている可能性があった。

 さらに、GAO調査や政府の報告書は、インターネット上のヘイト・スピーチとヘイト・クライムとの関連性を示している。 たとえば、ある査読済みの調査研究では、インターネット上の非礼なコメントと、米国の一部の都市におけるアジア人に対するヘイト・クライムとの間に関連性があることが判明した。 また、国土安全保障省(DHS)とFBIは、インターネットは、より大規模な暴力的過激派組織の支援なしに、個人が自己過激化し、単独犯による攻撃を行う機会を生み出したと報告した。

GAO がこの調査を行った背景・理由

 FBI に報告されたデータによると、米国では、ほぼ毎時間ごとにヘイト・クライムが発生している。最近のヘイト・クライムの調査では、インターネット上のヘイト・スピーチへの暴露が被害者に対する攻撃者の偏見に寄与した可能性があることが示唆されている。 2021年、FBIはヘイト・クライムを国内の暴力的過激主義の防止と同じ国家的脅威の優先順位に置いた。

 GAOは、インターネット上のヘイト・クライムとヘイト・スピーチに関する情報を調査するよう連邦議会から依頼された。この報告書は、(1) 司法省がインターネット上で発生するヘイト・クライムに関するデータをどの程度収集しているか、(2) 選ばれた企業がインターネット・プラットフォームからヘイト・スピーチや暴力的過激派の言論を削除するために講じた措置についてどのような企業データが示しているか、および( 3) インターネット上でのヘイト・スピーチに関するユーザーの経験や表現、ヘイト・クライムや家庭内暴力的過激主義との関係についてわかっていることを論じた。

 GAOは米国のヘイト・クライムデータを分析し、連邦司法省職員にインタビューした。 GAOはデータを分析し、ヘイトや暴力的な過激派の言論を禁止する公的ポリシーを定めたインターネット・プラットフォームを運営する厳選された6社の関係者にインタビューした。 GAOは、インターネット上のヘイト・スピーチ、ヘイト・クライム、国内の暴力的過激派事件について記述した査読付き(peer reviewed)の非営利研究を評価した。

2.米国連邦法のヘイト・クライムに関する従来の立法措置

(1)1968 年の法律「公民権法Civil Rights Act of 1968」P.L.90-284)の第Ⅰ編Title I: Hate crimes(18 U.S. Code § 249 - Hate crime acts)は、人種、肌の色、宗教、国籍を理由に、またその人が公教育など連邦政府によって保護されている活動に参加していることを理由に、雇用、陪審員サービス、旅行、公共宿泊施設の利用、または他人のそれを助けることは、いかなる人に対しても故意に干渉するために武力を行使する、または武力を行使すると脅すことを犯罪とした。同法の各権利の内容を解説から以下のとおり、抜粋する。

TITLE I--VOTING RIGHTS

TITLE II--INJUNCTIVE RELIEF AGAINST DISCRIMINATION IN PLACES OF PUBLIC ACCOMMODATION

TITLE III--DESEGREGATION OF PUBLIC FACILITIES

TITLE IV--DESEGREGATION OF PUBLIC EDUCATION

TITLE V--COMMISSION ON CIVIL RIGHTS

TITLE VI--NONDISCRIMINATION IN FEDERALLY ASSISTED PROGRAMS

TITLE VII--EQUAL EMPLOYMENT OPPORTUNITY

TITLE VIII--REGISTRATION AND VOTING STATISTICS

TITLE IX--INTERVENTION AND PROCEDURE AFTER REMOVAL IN CIVIL RIGHTS CASES

TITLE X--ESTABLISHMENT OF COMMUNITY RELATIONS SERVICE

TITLE XI--MISCELLANEOUS

 その後の同法の解釈を巡る追加立法、改正の経緯をまとめたサイト(Civil Rights Act of 1866 & Civil Rights Act of 1871 - CRA - 42 U.S. Code 21 §§1981, 1981A, 1983, & 1988)がある。(TITLE 42 - THE PUBLIC HEALTH AND WELFARE CHAPTER 21 - CIVIL RIGHTS)

1981条    Equal rights under the law.                      

1981a条   Damages in cases of intentional discrimination in employment

1983条    Civil action for deprivation of rights.          

1988条    Proceedings in vindication of civil rights.    

 1988 年には、家族状況と身体障害に基づく保護規定が追加された。1996 年には、連邦議会「教会放火防止法 (合衆国法典: 18 U.S. Code § 247 - Damage to religious property; obstruction of persons in the free exercise of religious beliefs) 」を可決した。この法律の下では、州際通商に影響を与える状況において、宗教/的不動産を汚損、損傷、破壊すること、あるいは個人の宗教的実践を妨害するとは犯罪であるとした。また、同法は宗教的財産に関係する人の人種、肌の色、民族性を理由に、宗教的財産を汚損、損傷、破壊することを禁じている。

(2)米国の近年のヘイト犯罪に関する法律

 連邦司法省が近年のHate Crime Laws一覧とリンクがまとめている。

以下で抜粋、仮訳する。

1.連邦により保護される諸活動保護法(18 U.S.C.§245 - Federally protected activities)

 人種、肌の色、宗教または民族的出自を理由に、連邦により保護される 6 つの行為について、その行為者に暴力または暴力の威嚇(暴力の行使を告知して威嚇すること)により、故意に傷害を与え、脅迫し、または妨害すること及びその未遂を禁ずる。

  1. B. The Public Health and Welfare § 3631. Violations; penalties (42 U.S.Code.§3631)

 法律に基づいて行動しているかどうかにかかわらず、武力または武力による脅迫によって、故意に傷害、脅迫、妨害を行った者、または傷害、脅迫、妨害を試みた者は誰でも、公正住宅権の妨害罪となる。

1.宗教関係財産等への損壊罪法(18 U.S. Code § 247 - Damage to religious property; obstruction of persons in the free exercise of religious beliefs)

 米国における宗教表現の自由と同様に、宗教施設は意図的な損害から保護されている。このため、連邦政府は宗教財産への損害を米国法第 18 編 247 に基づくヘイト・クライムと認定した。

 関係する状況、被害の深刻さ、犯罪の過程で誰かが負傷した場合、その刑罰は1年から40年の拘禁刑が科される可能性があり、または殺害された場合、裁判官はさらに死刑を科す可能性がある。

1.1990年ヘイト・クライム(憎悪犯罪)統計法(Hate Crime Statistics Act of 1990) 28 U.S.Code §534 noteAcquisition, preservation, and exchange of identification records and information; appointment of officials )ヘイト・ライムの発生状況や発生場所を把握し、再発防止のために連邦政府がデータ収集を行うことを定めた法律。

34 USC 41305: Hate crime statistics 2024.2.12により改正法が行われた。

 E.1994年ヘイト・クライム(憎悪犯罪)量刑強化法(Hate Crimes Sentencing Enhancement Act of 1994)」(H.R.1152)ヘイト・ライムを行った加害者に対して、通常の犯罪の刑罰より、厳しい罰則を適用する法律。

F地方及び部族当局が行うヘイト・クライムの調査、訴追への技術的・資金的援助法(42 U.S.C.§3716, 3716a)

42 U.S.Code §3716を仮訳する。

§3716: 州、地方、部族の法執行官による犯罪捜査と訴追のサポートに関する規定

(a) 資金援助以外の援助

(1) 一般

 州、地方、または部族の法執行機関の要請に応じて、司法長官は、犯罪捜査または犯罪の訴追において、技術的、フォレンジック的、検察的、またはその他の形式の支援を提供することができる。

(A) 暴力犯罪を構成する場合。

(B) 州法、地方法、部族法に基づく重罪に該当する場合。

(C) 被害者の実際のまたは認識されている人種、肌の色、宗教、出身国、性別、性的指向性自認、または身体障害に基づいた偏見によって動機付けられている場合、または州、地域または部族のヘイト・クライムに違反している場合 。

(2) 優先順位

 第 1 項(一般)に基づく支援を提供する際、司法長官は、複数の州で犯罪を犯した犯罪者による犯罪、および犯罪の捜査または訴追に関連する特別な費用を賄うことが困難な地方の管轄区域を優先するものとする。

(b) 助成金

(1) 一般規定

 連邦司法長官は、ヘイト・クライムの捜査と訴追に関連する特別な経費のために、州、地方、部族の法執行機関に助成金を与えることができる。

(2) 司法省のプログラム

 このサブセクションに基づく助成金プログラムを実施するにあたり、司法省プログラムは助成金受領者と緊密に連携し、コミュニティグループや学校、大学を含むすべての影響を受ける当事者の懸念とニーズが、このサブセクションに基づいて開発された地域インフラを通じて確実に助成金に対処されるようにするものとする。

(3) 申請手続

(A) 一般規定

 本項に基づく助成金を希望する各州、地方、部族の法執行機関は、司法長官が合理的に要求する情報を添付または含む方法で、その時点で申請書を司法長官に提出するものとする。

(B) 提出日

 サブパラグラフ (A) に従って提出される申請は、司法長官が指定する日付から 60 日間の期間内に提出されるものとする。

(C) 要件

 このサブセクションに基づいて助成金を申請する州、地方、および部族の法執行機関は、次のことを行うものとする。

(i) 助成金が必要とされる特別な目的を説明する。

(ii) 国家、地方自治体、またはインディアン部族にはヘイト・クライムの調査または訴追に必要なリソースが不足していることを証明する。

(iii) 補助金の実施計画を策定する際に、州、地方、部族の法執行機関が、ヘイトク・ライムの被害者にサービスを提供した経験のある非営利、非政府の被害者サービスプログラムと協議し、調整していることを証明する。

(iv) 本項に基づいて受領した連邦資金は、本項に基づいて資金提供される活動に利用できる非連邦資金に取って代わるのではなく、補完するために使用されることを証明する。

(4) 締切日

 本項に基づく補助金の申請は、連邦司法長官が申請を受領した日から 180 営業日以内に連邦司法長官によって承認または拒否されるものとする。

(5) 助成金

 このサブセクションに基づく助成金は、単一の管轄区域に対して 1 年間で 100,000 ドル(約1,510万円)を超えてはならない。

(6) 報告書

 連邦司法長官は、遅くとも 2011 年 12 月 31 日までに、本項に基づいて提出された補助金の申請、そのような補助金の授与、および補助金の支出目的を記載した報告書を議会に提出するものとする。

(7) 歳出の認可

 2010 年、2011 年、および 2012 年の各会計年度に、このサブセクションを実行するために 5,00万 ドル(約755億円)が割り当てられることが承認されている。

(Pub. L. 111–84、div. E、§4704、2009 年 10 月 28 日、123 Stat. 2837参照)

【法典化】

 このセクションは、「マシュー・シェパードおよびジェームス・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法」の一部として、また 2010 年度の国防権限法の一部として制定されたものであり、1968年オムニバス犯罪規制および安全な街路のタイトル I の一部として制定されたものではない。

連邦司法局の助成プログラム - 42 U.S.C. § 3716a (2012)

 以下、42 U.S.C. § 3716aを仮訳する。

(a) 補助金を与える権限

 連邦司法省の司法局プログラムは、連邦司法長官が定める規制に従って、ヘイト・クライムの特定、捜査、訴追、防止に携わる警察官に対し、地方の法執行機関を訓練するプログラムを含む、少年による憎悪犯罪と闘うことを目的とした州、地方、または部族のプログラムに助成金を与えることができる。

(b) 支出の認可

 このセクションを実行するために必要な金額が割り当てられることが許可される。

(Pub. L. 111–84、div. E、§4705、2009 年 10 月 28 日、123 Stat. 2838参照)

【法典化】

 このセクションは、「マシュー・シェパードおよびジェームス・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法」の一部として、また 2010 年度の国防権限法の一部として制定されたものであり、1968年オムニバス犯罪規制および安全な街路法のタイトル I の一部として制定されたものではない。

G.「マシューシェパードとジェームズバードジュニアのヘイト・クライム憎悪犯罪防止法(Title 18, U.S.Code §249 - Matthew Shepard and James Byrd, Jr., Hate Crimes Prevention Act)」

 連邦議会で、 2009年10月22日に可決され、2009年10月28日にオバマ大統領によって2010年の国防権限法の上乗せ法案(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2010/Division E) (HR 2647)に署名された。 1998年のマシューシェパードとジェームズバードジュニアの殺害への対応として考案されたこの法案は、1969年の米国連邦ヘイト・クライム法を拡大したもので、州、地方及び部族当局が行うヘイト・クライムの調査、訴追への技術的・資金的援助を規定するものである。

3.EUで進むオンライン・ヘイト・スピーチ規制議論と立法化

 ICT Global Trendの解説から一部抜粋する。なお、法律等の原本へのリンクや注書きは筆者が独自に行った。

 欧州委員会は2016年に「オンライン上の違法ヘイト・スピーチに対抗する行動規範(Code of Conduct on countering illegal hate speech online)」を策定するなど、長年に亘ってオンライン・ヘイト・スピーチ対策に取り組んできた。オンラインでの違法なヘイト・スピーチの拡散を防止および対抗するために、欧州委員会は 2016 年 5 月に FacebookMicrosoftTwitterYouTube と「オンラインでの違法なヘイト・スピーチ対策に関する行動規範」に合意した。

 2021年12月9日、欧州委員会EU運営条約TFEU(Treaty on the Functioning of European Union)第83条第1項(注3)の「EU犯罪(EU crimes)」の現在のリストをヘイト・クライムとヘイト・スピーチにまで拡大する理事会決定を促す通知を採択した。 (注4) この理事会の決定が採択されれば、欧州委員会は第二段階として、人種差別主義や外国人排斥の動機に加え、他の形態のヘイト・スピーチやヘイト・クライムをEUが犯罪化できる二次立法を提案することができるようになる。

 欧州委員会の政策「ツールボックス(The legal and policy framework in the EU)」には、2016 年から機能しているヘイト・スピーチとヘイト・クライムとの戦いに関するハイレベルグループの文脈において、各国当局を支援するための専用の交流機関やツールも含まれている。

 この取り組みは、被害者へのより良い支援に焦点を当てている。被害者の権利指令に沿って、法執行機関向けのヘイト・クライム訓練を強化し、ヘイト・クライムの記録、報告、データ収集を強化する。さらに、オンラインヘイトの課題に対処するために、欧州委員会は2016年に有名IT企業とともに、オンラインでの違法なヘイト・スピーチに対抗するための自主的な行動規範を開始した。

 この欧州委員会の政策は、反ユダヤ主義との戦いとユダヤ人の生活の育成に関するEU戦略(2021年から2030年)で言及されている反ユダヤ主義、反イスラム教徒の憎しみや反ユダヤ主義など、グループやコミュニティが経験する特定の形態のヘイト・スピーチやヘイト・クライムや反ジプシー主義にも特に注意を払っている。

 2018年中に、Instagram、Snapchat、Dailymotionが行動規範に参加し、2019年1月にJeuxvideo.com、2020年にTikTok、2021年にLinkedが参加した。2022年5月と6月に、Rakuten ViberとTwitchがそれぞれ行動規範への参加を発表した。

 2023年12月、欧州委員会と上級代表は「憎しみの余地はない:憎しみに対して団結する欧州」に関する共同声明を採択した。 この指針文書(communication)は、さまざまな政策にわたる行動を強化することにより、あらゆる形態の憎しみと戦うためのEUの取り組みを強化することを目的としている。 これらには、主要なオンライン・プラットフォームと合意した行動規範のアップグレードを通じて、オンラインでのヘイト・スピーチとの戦いの取り組みを強化すること、国内安全保障基金の予算の増額を通じて礼拝所の保護を強化する措置、および政府の役割のアップグレード、反ユダヤ主義との闘いとユダヤ人の生活の育成、反イスラム教徒の憎しみとの闘い、人種差別との闘いについての現調整官の特使を含む。

筆者追記】2024.1.18欧州議会サイトではヘイト・スピーチとへィト・クライム立法につき強い姿勢を見せている。抜粋し、仮訳する。

 欧州議会議員らは欧州連合理事会に対し、ヨーロッパのすべての人に対する憎しみからの適切なレベルの保護を確保するための法案を最終的に前進させるよう求めている。

 欧州議会は採択された報告書の中で、理事会はTFEU第83条第1項(いわゆる「EU犯罪」)(注4)の意味するところの刑事犯罪にヘイト・スピーチとヘイト・クライムを含める決定を現立法期間の終わりまでに採択すべきであると採択した法案2/12(49)の中で述べている 1月18日には賛成397票、反対121票、棄権26票であった。これらは国境を越えた側面を持つ特に重大な性質の犯罪であり、議会と評議会は刑事犯罪と制裁を定義するための最小限の規則を確立することができる。

4.ドイツの立法

 EU加盟国レベルでのオンライン・ヘイト・スピーチの取締まり規制は様々だが、先導的な立場に立ってきたのはドイツである。同国は2018年1月に、国内ユーザー数が200万人以上のプラットフォーム事業者に違法コンテンツを24時間以内に削除することを義務付ける法律を世界で初めて導入した。

 この法律は「ソーシャルネットワークにおける法執行を改善するための法律 (いわゆるネットワーク執行法 -Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken (Netzwerkdurchsetzungsgesetz - NetzDG))と名付けられ、違反した場合の罰金は最大5,000万ユーロ(約80億5,000万円)に上る。2020年に入ってからは同法の幅広い改正が並行して進行中で、同年6月18日にはその一環として、右翼過激主義と憎悪犯罪に対抗することを目的とした「CDU/CSU 及びSPD 法」が採択された。同法は、違法コンテンツに関する報告を受けたプラットフォーム事業者に、報告を受けた時点で当該コンテンツを連邦刑事庁に直接届けることを義務付けるもので、NetzDG法をより厳格化した形となる。

ドイツの憎悪犯罪の規制強化

(1)「ソーシャルネットワーク(SNS)における法執行の強化に関する法律(Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken (Netzwerkdurchsetzungsgesetz - NetzDG)」(以下、「SNS規制強化法」という)が 2017 年 9 月 7 日に公布され、同年 10 月 1 日施行された。SNS 事業者に対し、一定の違法情報への対応手続の策定等を求めるものであり、設定された高額な過料とともに各国で大きく報じられた。

 国立国会図書館の解説から概要を抜粋する。

1.対象と範囲

(1)対象となる SNS 事業者

対象となる事業者は、国内の利用登録者が 200 万人以上の一般 SNS 事業者である。

(2)違法なコンテンツの範囲

SNS 法で対応を義務付けられる「違法なコンテンツ」は、第 1 条第 3 項に掲げられた刑法典上の犯罪の構成要件を満たすものであって、かつ違法性が阻却されないものをいう。(注5)したがって、刑法典上違法とならない情報(一部のフェイクニュース等)(注6)は、同法の対象外ということになる。

2.報告義務

  違法なコンテンツへの対応に関する報告を義務付けられるのは、年間 100 件を超える苦情を受けた SNS 事業者である(第 2 条第 1 項)。該当する SNS 事業者は、半年に 1 度、報告書をドイツ語で作成し、連邦官報及び自社のウェブサイトで公開しなければならない(当該期間終了から 1 か月以内)。

3.苦情処理手続の策定義務

 SNS 事業者には、違法なコンテンツに関する苦情を送信するための方法を利用者に提供するとともに、苦情処理手続を策定することが義務付けられる。

(1)手続において保証されるべき内容

 苦情処理手続においては、以下のことが保証される必要がある。まず、遅滞なく苦情を認識し、当該コンテンツの違法性及び削除等を行う必要性について審査することである。次に、当該情報が明らかに違法である場合には、これを24 時間以内に削除することが求められる。それ以外の場合であっても、違法なコンテンツは原則として 7 日以内に削除される必要がある。ただし、主張されている事実の真実性が違法性の判断に関係する場合や規制された自主規制機関(後述)の判断に委ねる場合はこの限りではない。

(2)規制された自主規制機関

  規制された自主規制とは、法規制により事業者の自主規制を促進する手段ないし、自主規制の枠組みを決定する手段である

4 過料

 SNS 法による報告義務及び苦情処理手続の策定義務等に反した事業者等には、秩序違反として過料が科せられる。法人に対する過料は最大で 5,000 万ユーロ(約 74 億5000円)(秩序違反法第30 条の規定の適用による)である。ただし、苦情処理手続において保証されるべき事項について不備があったり、その運用について体制上の問題があったりする場合が対象であって、個別のコンテンツを削除しなかったことをもって過料が科されるわけではない。

(2)2021年「右派過激主義及びヘイト・クライムに対抗する法律」

 2021年4月1日に、「右派過激主義及びヘイト・クライムに対抗する法律(Gesetz zur Bekämpfung des Rechtsextremismus und der Hasskriminalität)」が公布され、同月3日に一部を除き施行された。(注7)

 同法は、前年の2020年7月に連邦参議院で可決されたが、同年5月の連邦憲法裁判所の違憲判決との関連から、連邦大統領が署名認証を行わなかったものである。

 ただし、同法は、同日(2021年4月1日)に公布された「既存データの開示に関する規則を2020年5月27日の連邦憲法裁判所の判決に由来する要件に適合させるための法律(Gesetz zur Anpassung der Regelungen über die Bestandsdatenauskunft an die Vorgaben aus der Entscheidung des Bundesverfassungsgerichts vom 27. Mai 2020)」(翌4月2日施行)の第15条によって、施行前に半分が廃止され、全5か条の条項法のみとなった。

5.フランスの立法

 フランスでは国務院(下院:Conseil d’État))が2020年5月14日に「インターネット上のヘイト・スピーチ対策法案(Loi du 24 juin 2020 visant à lutter contre les contenus haineux sur internet)」を可決、承認し、6月24日公布された。同法は、プラットフォーム事業者に対し、ネット上に投稿されたヘイト・スピーチや侮蔑表現を24時間以内に削除するよう義務付けるものである。違反企業には最大125万ユーロ (約2億125万円) の罰金が科され、悪質な場合には当該企業の全世界における年間収益の4%が罰金上限となる可能性もある。

 しかし、その後、保守野党の共和党上院議員団が同法の違憲審査を請求した。最終的に、フランスの憲法裁判所にあたる憲法院(Conseil constitutionnel)は2020年6月18日、24時間以内の削除義務が表現及び言論の自由を侵害するとして、Avia法の主要部分に違憲性があるとの判断を下した。憲法院は、プラットフォーム事業者が罰金を逃れるために過剰反応し、問題のないコンテンツまで削除されるリスクがあるとして、一連の関連条項の削除を命じた。(注8)

5.日本

 日本もSNS等を介した自殺事件等からも手本格的な立法の必要性は多く叫ばれている。

 その中で、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号)」、いわゆる「ヘイト・・スピーチ解消法」が成立し、平成28年6月3日に施行された。(法務省「ヘイトスピーチ、許さない」参照

 同法は、「本邦外出身者」に対する「不当な差別的言動は許されない」と宣言している。

 なお、同法が審議された国会の附帯決議のとおり、「本邦外出身者」に対するものであるか否かを問わず、国籍、人種、民族等を理由として、差別意識を助長し又は誘発する目的で行われる排他的言動は決してあってはならないものとされている。

 一般的には憎悪犯罪を特別に重く罰する法律は、思想・良心の自由・表現の自由を脅かす恐れがあり、日本国憲法の理念に反するという主張がある。また、何がヘイトに該当するかは必ずしも明確ではなく、恣意的な運用が懸念されることから、現状ではそのような法律は制定されていない。

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html#%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%AE%EF%BC%9F

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(注1)わが国でのGAOの訳語も多岐にわたる。しかし、筆者は2008年にブログで取り上げ訳語にこだわった。

2008.11.29 「連邦議会独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)による行政Watchdogの役割と機能」(Last Updated: Febuary 25,2022)の(注2)参照。

(注2) ヘイト・クライム( hate crime:憎悪犯罪)とは、人種、民族、宗教、などに係る、特定の属性を持つ個人や集団に対する偏見や憎悪が元で引き起こされる、嫌がらせ、脅迫、暴行等の犯罪行為を指す。アメリカ連邦公法によれば「人種・宗教・性的指向・民族への偏見が、動機として明白な犯罪 (Public Law101-275) 」と定義されている

(注3) EU運営条約TFEU(Treaty on the Functioning of European Union)第83条第1項を以下、仮訳する。

1.欧州議会欧州連合理事会は、通常の立法手続きに従って採択された指令により, そのような犯罪の性質または影響、または 共通して彼らと戦う特別な必要性から特に深刻な犯罪の分野における犯罪と制裁の定義に関する最低限のルールを確立できる。

 これらの犯罪分野は次のとおりである。テロ、人身売買、女性と子供の性的搾取、違法麻薬密売、違法武器売買、マネーロンダリング汚職, 支払い手段、コンピューター犯罪、組織犯罪の偽造。

 犯罪の進展に基づいて、欧州連合理事会は、この段落で指定された基準を満たす他の犯罪分野を特定する決定を採択することができる。欧州議会の同意を得た後、全会一致で行動するものとする。

(注4) 2021年12月9日、欧州委員会「より包括的で保護的な欧州:EU犯罪のリストをヘイトスピーチとヘイトクライムに拡大する」に関する指針文書(communication)」を採択した。これは、現在のEU犯罪リストにつき、EU運営条約(TFEU )第83条に規定されているいわゆる「EU犯罪」にヘイト・クライムヘイト・スピーチにまで拡張する理事会決定を引き起こすことを目的としている。 このような決定により、欧州委員会は第2段階で、EU全体でヘイト・スピーチやヘイト・クライムに取り組むうえで加盟国の法的枠組みを強化することが可能となる。

(注5) 対象となるのは、第 86 条(違憲な組織(ナチス等)のプロパガンダの制作・頒布)、第 86a 条(違憲な組織のシンボルの頒布、公然使用)、第 89a 条(国家を脅かす暴力行為の準備)、第 91 条(第 89a 条の罪を文書によりそそのかすこと)、第 100a 条(国家反逆的な事実の歪曲)、第 111 条(犯罪の扇動)、第 126 条(犯罪行為を実行するという脅迫により公共の平穏を乱すこと)、第 129 条から第 129b 条まで(テロ組織の結成等)、第 130 条(民衆扇動罪。ヘイト・スピーチやナチスの暴力的支配の賛美等)、第 131 条(暴力表現)、第 140 条(犯罪行為への報酬の支払い等)、第 166 条(他者の宗教観・世界観の誹謗)、第 184d 条に付随する第 184b 条(ポルノの放送等)、第 185 条から第 187 条まで(名誉毀損的表現)、第 201a 条(盗撮等高度に私的な領域の撮影)、第 241 条(脅迫罪)又は第 269 条(法律行為の証拠となるデータの改ざん)である。

(注6) 違法情報に該当するフェイク・ニュースとしては、名誉毀損的表現(刑法典第 187 条(悪評の流布)等)が代表的なものである。しかし、フェイク・ニュース対策として期待される成果は少ないとするものもある。

(注7) 国立国会図書館「【ドイツ】右派過激主義及びヘイトクライムに対抗する法律」の解説

(注8)フランスの公共政策や社会を動かす主要な議論を理解するための鍵を提供する無料の政府情報サイトVie-publique.frの解説を仮訳する。

 テロリストまたは児童ポルノのコンテンツについて、憲法院は新法律でいうコンテンツの違法性の判断はその明白な性質に基づくものではなく、行政の単独の評価に従うものであり、オペレーターが実行するために許可される時間は、オペレーターのみに許可されないものであると考え、あくまで裁判官から判決にもとづく判断を得るべきである。

 憲法院にとって、この法案上程議員は、追求される目的に適合したり、それに比例したりしていない表現の自由を侵害していることになる。 個人によって報告されたコンテンツについて、憲法院は、合法なものを含むすべての異議申し立てのコンテンツを削除するよう運営者に奨励されるリスクを強調しており、したがって、これは表現の自由に対する新たな攻撃といえると指摘している。

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