米国の金融監督機関の暗号資産市場の急速な拡大とそのリスクに対する規制強化にかかる共同声明の内容

 筆者は暗号資産の SECやCFTCの規制強化について1月28日付け本ブログで取り上げたが、連邦準備制度理事会 (Federal Reserve)、連邦預金保険公社 (FDIC)および通貨監督庁 (OCC) (総称して各監督省庁) は、去る1月 3日、銀行組織における暗号資産のリスクについて共同声明を発表した。

 この声明は、暗号資産業界にとって1年間の紆余曲折を経て発表された。 これら監督機関は同声明で「暗号資産セクターにおける大幅な価格変動(significant volatility)と脆弱性リスクにさらされる(exposure of vulnerabilities)」を強調している。この内容を読むとステーブルコインも含め暗号資産に対する規制強化を強く訴えている、その背景には業界全体の不安定性や詐欺事件が多発していることは間違いない。

 以下、声明文(原文)を仮訳する。

  軽減または制御できない暗号資産セクターに関連するリスクが銀行システムに移行しないことが重要である。 これらの監督機関は、以下のような銀行組織を監督している。

 暗号資産セクターに起因するリスクにさらされる可能性があり、暗号資産を含む活動に従事する銀行組織からの提案を慎重に検討している。 これまでの各政府機関のケース・バイ・ケースのアプローチを通じて、各政府機関は、暗号資産が銀行組織、その顧客およびより広範な米国の金融システムにもたらす可能性のあるリスクについての知識、専門知識、理解を構築し続けており、これによって浮き彫りになった重大なリスクを考慮すると、大手暗号資産企業数社の最近の経営破綻を受けて、当局は各銀行組織における現在または計画されている暗号資産関連の活動やリスクにさらされる可能性に関して慎重かつ慎重なアプローチを続けている。

 銀行組織は、法律または規則で許可されている限り、特定の階級またはタイプの顧客に銀行サービスを提供することを禁止または抑制されていない。 政府機関は、銀行組織による現在および提案されている暗号資産関連活動が、安全性と健全性確保、消費者保護、マネーローンダリング(筆者ブログ)および違法な金融に関する法令および規則等法的許容性、および適用される法律および規制の遵守に適切に対処する方法で実施できるかどうか、またはその方法を引き続き評価している。

  これまでの政府機関の現在の理解と経験に基づき、政府機関は、オープン、パブリック、および/または分散型ネットワーク、あるいは同様のシステム上で発行、保管、転送される暗号資産を主要な暗号資産として発行または保有することは、安全で健全な銀行業務の慣行と矛盾すること可能性が非常に高いと考えている。 さらに、これらの政府機関は、暗号資産関連の活動に集中しているビジネスモデル、または暗号資産セクターへのエクスポージャーが集中しているビジネスモデルに関して、安全性と健全性について重大な懸念を抱いている。

 各政府機関は、銀行組織が提案されているおよび既存の暗号資産関連活動に関して強力な監督上の議論を行うプロセス(注1)  を開発した。

   銀行組織は、暗号資産関連の活動が安全かつ健全な方法で実行でき、法的に許容され、適用される法律や規制を遵守することを保証する必要がある。

 これには、消費者を保護するために設計されたものも含まれる(公正な融資に関する法律や規則(Fair Lending Laws and Regulations ) (注2)や、不当、欺瞞的、または虐待的な行為や慣行に対する禁止などがある。 銀行組織は、リスクを効果的に特定し管理するために、取締役会の監督、ポリシー、手順、リスク評価、制御、ゲートとガードレール、モニタリングを含む適切なリスク管理を確保する必要がある。(注3)

 これら当局は、「暗号資産」(通常、暗号技術を使用して実装されたデジタル資産を指す)および暗号資産セクターに関連する8つの主要なリスクを特定した。 銀行組織が認識すべき主なリスクには、以下が含まれるが、これらに限定されない。

 なお、今回のブログは、共同声明原文の8つの主要なリスクの仮訳に加え、2024.1.13 Morrison & Foerster LLPの解説に基づき内容を補完した。

①暗号資産セクターの参加者間での詐欺(fraud)類型詐欺(scams)のリスク。(注4)(注5)

②保管の実務慣行、償還、および所有権に関連する法的不確実性。その一部は現在、法的手続きおよび手続きの対象となっている。

③暗号資産会社による不正確または誤解を招く表現および開示(連邦預金保険布施に関する虚偽表示、およびその他の不公平、欺瞞的、または濫用の可能性のある行為を含む)は、個人投資家機関投資家、顧客、取引相手に重大な損害を与える原因となる。

④暗号資産市場の大幅な乱高下。その影響には、暗号資産企業に関連する預金の流れへの潜在的な影響が含まれる。

⑤ステーブルコインの感染に対する脆弱性はリスクにさらされやすく、さらにステーブルコインの準備金を保有する銀行組織に潜在的な預金流出を引き起こす。

➅不透明な融資、投資、資金調達、サービス、運営上の取り決めなど、特定の暗号資産参加者間の相互接続に起因する暗号資産セクター内の連鎖倒産リスク(contagion risk)がある。 これらの相互連鎖は、暗号資産セクターにリスクに直さらされる銀行組織に集中的リスクをもたらす可能性もある。

⑦暗号資産業界セクターにおけるリスク管理とガバナンスの実践内容は、成熟度と堅牢性の欠如を示している。

⑧暗号資産システムの監視を確立するガバナンス機構の欠如を含むがこれに限定されない、オープン、パブリック、および/または分散型ネットワーク、または同様のシステムに関連するリスクの増大問題である。すなわち、 (1)役割、責任や責任を明確に確立するための契約や基準がないこと, (2) サイバー攻撃、機能停止、資産の紛失または機能の閉じ込め、違法な金融に関連する脆弱性等である。

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(注1) (1)OCC Interpretive Letter 1179“Chief Counsel’s Interpretation Clarifying: (1) Authority of a Bank to Engage in Certain Cryptocurrency Activities; and (2) Authority of the OCC to Charter a National Trust Bank,” (November 18,2021)

(2)FRB: 連邦準備制度の監督下にある銀行機関による暗号資産関連活動への関与の在り方

(3)FDIC: 連邦行政規則集パート 364 - 安全性と健全性の基準(PART 364—Standards for Safety and Soundness)

(注2) “Fair Lending Laws and Regulations” とは、具体的には以下の法律や関連規則をいう。

① Equal Credit Opportunity Act (ECOA)

② Equal Credit Opportunity Act (Regulation B)

③ Fair Housing Act (FHAct)

(注3) 安全性と健全性の基準を確立する省庁間のガイドライン 12 CFR 30 付則 A (OCC)12 CFR 208付則 D-1 (連邦準備制度)および 12 CFR 364(STANDARDS FOR SAFETY AND SOUNDNESS)付則A (FDIC)

(注4) 筆者なりに「fraud(詐欺)」と「Scam(類型詐欺)」につき関係サイトを参考に厳格な法解釈を試みる。

fraud(詐欺)

  他人の金銭、財産、または法的権利を奪うために、欺瞞、トリック、または何らかの不正な手段を意図的に使用すること。

 詐欺により物を失った当事者は、不正行為を行った当事者に対して損害賠償訴訟を起こす権利があり、その損害賠償には、詐欺の悪質性による懲罰または公判として懲罰的損害賠償が含まれる場合がある。 多くの場合、詐欺計画には複数の人物が関与しており、全員が損害総額の責任を負う可能性がある。詐欺行為には、その個人や団体に損害を与える、他人に対する不当な利益が内在している。 これには、契約書やその他の文書(証書など)における既知の間違いを指摘しないこと、または土地が当初理解されていた20エーカーではではなく 10 エーカーしかないことを示す調査など、伝達する義務がある事実を明らかにしないことも含まれる。 建設的な詐欺は、詐欺の意図を直接証明しなくても、法的義務違反(他人のために保有している信託資金を自分のビジネスへの投資に使用するなど)を示すことで証明できる。

 外部的詐欺は、証拠を隠したり訴訟の相手方を誤解させたりすることによって、誰かが公正な裁判などの権利を行使するのを妨げるために欺瞞が使用される場合にも発生する。 詐欺は、不正行為を行って他人から金銭、財産、または権利を奪うことを目的としているため、詐欺行為を行った者が告発され、裁判を受け、有罪判決を受ける可能性がある犯罪でもある。例えば、 境界線を越えた行為や、少額の他人の純朴さを利用した行為は法執行機関によって見逃されることが多く、被害者が「民事救済」(つまり、訴訟)を求めることを示唆している。 しかし、大部分の国民が(個人的には少額であっても)被害に遭う詐欺がますます増えており、地方検事局や司法長官事務所の消費者詐欺部門の的となっている。

(Law.com のLegal Dictionaryから抜粋、仮訳)

Scam(類型詐欺)

 誰かを欺いたり詐欺したりするように設計された詐欺的なスキームまたはトリックを指し、被害者にまず 策略、欺瞞、または虚偽の約束を伴う不正または違法な活動について話したうえで、時として金銭や財産や個人情報等につき人々をだましたりすることを目的として詐欺的な内容につき事業者または企業に説明すること。具体的には、以下の例が挙げられる。

 scamの類型区分についてはFBIサイト(注5)参照。

 なお、法律の規定文言でwire fraudやmail fraudなどはあるがscamはない。ただし、法律名では“Fraud and Scam Reduction Act”の例はある。なお、オーストラリアの「オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)」サイト解説では“Types of scams”で以下の詐欺類型をも解説している。(FTCサイトから抜粋, 仮訳する)

①自動車保証更新詐欺(Auto Warranty Scam)

 詐欺師から、自動車保証や保険契約の更新に関するセールストークの電話がかかって来る。 詐欺師は、オファーの信頼性を高めるために、あらかじめあなたの車とその既存の保証に関する情報を入手した可能性がある。

②慈善詐欺(Charity Scams)

 詐欺師は、大規模な災害の後に慈善寄付を求める電話をかけてくることがよくある。 彼らは偽の慈善団体をでっち上げたり、本物の慈善団体になりすましてお金を騙し取ったりする可能性がある。

③中国領事館員なりすまし詐欺(Chinese Consulate Scam)

 詐欺師たちは北京語を話し、中国領事館の職員を装う。 困っているという家族のためにお金を要求したり、宅配便の配達のために個人情報を要求したりすることもある。 場合によっては、その電話が犯罪捜査や刑事連絡部門に関連していると主張することもある。連邦取引委員会(FTC) 内の事務所で、他の法執行機関と協力してこれら刑事詐欺事件を訴追する。

④災害救助寄付金詐欺(筆者ブログ,参照)

 大災害の後、詐欺師が慈善団体を装い、災害支援のための寄付を求める電話をかけることがある。 寄付する前に、その慈善活動が正当なものであることを確認してください。

⑤無料試用製品トライアル詐欺

 電話で受け取った無料試用製品のオファーは、あまりにもお得すぎて真実ではない可能性がある。 クレジットカードによる少額の手数料が必要な場合があり、これによりその他の望ましくない不正請求が発生したり、試用期間が終了した後にキャンセルできなくなり、問題の製品の支払いを余儀なくされたりする可能性がある。

➅雇用/在宅勤務詐欺

 偽の求人情報、電話、求人メール、オンライン広告は、多くの場合、正規の会社名を違法に使用しているが、これらはすべて、詐欺師が求職者をだますために使用するツールである。 高額な給与を伴う即時オファーしたり、コーチング、トレーニング、認定資格の前払いの要求には常に疑いを持ち、求人情報が正当なものであると確信するまで個人情報を決して共有しないでください。 雇用詐欺の多くは、物品の前払いも提供している。 これらの小切手は頻繁に不渡りとなり、費用がかかる。

ギフトカード詐欺

 電話詐欺の明らかな兆候は、発信者がギフトカードでの支払いを要求する場合である。 多くの詐欺師は、この返金不可で追跡が難しい支払い方法を好む。

⑧祖父母詐欺(いわゆるオレオレ詐欺)

 詐欺師が困っている家族を装って電話をかけ、保釈金や病院代などをすぐに送金するよう圧力をかける詐欺の一種。

助成金詐欺

 詐欺師は、あなたには政府の補助金や還付金を受け取る資格があると主張し、口座情報を提供するとすぐに当座預金口座にその補助金を転送すると持ちかけ、その情報を販売したり、あなたのお金を盗むために使用したりする。詐欺師は、政府助成金詐欺で、自分が代表していると主張する政府機関の番号を偽装する可能性がある。

⑩健康保険詐欺

 詐欺師は、偽の医療保険を割引料金で売りつける。 電話をかけてきた人は、政府関係者や保険会社になりすますために、なりすまし電話を使用することがある。 多くの場合、彼らが販売する商品は保険ではなく、医療提供者が受け付けていない医療割引カードである。 詐欺的な勧誘は一年中発生しているが、一般入学の時期には特に注意されたい。

 オーストラリアのSCAM WATCHサイトの詐欺類型も参照されたい。

Text or SMS scams

 メッセージ/SNS詐欺は、あなたの関心を捕捉しようとして、政府、あなたが取引している企業、さらにはあなた自身の家族や友人からのものであるかのように見せる。

 2023年中、最も報告された詐欺師からの連絡方法はテキストまたは SMS であった。その詐欺メッセージは、すぐに行動するよう緊急性を求めているように聞こえる。 また、多くの場合、詐欺 Web サイトに誘導するリンクが含まれている。 詐欺師は、これらの詐欺 Web サイトに入力された個人情報を盗み、それを使用してお金を奪ったり、あなたの名前で詐欺を働いたりする可能性がある。

 これらのメッセージを本物のように見せかけるために、詐欺師は企業や知り合いの電話番号と送信者 ID を偽装 (コピー) する。 この詐欺メッセージは、組織からの実際のメッセージと同じメッセージ文で表示されることもあるため、見分けるのがさらに困難になる。

電話による詐欺  (筆者ブログ参照)

  詐欺電話は迷惑なだけではない。2023年、オーストラリア国民は詐欺電話により 1 億 4,100 万ドル(約136億7,700万円)の損失を被つた。

 報告されている詐欺の 3 件に 1 件は電話によるものである。 詐欺師が、有名組織からの電話をかけてくる。 これには、政府機関、法執行機関、投資および法律事務所、銀行、通信プロバイダーが含まれる。

 彼らは、あなたにすぐに連絡して行動することを緊急性を感じさせる。 彼らは、あなたの個人口座や銀行口座の詳細、あるいはあなたのコンピュータへのリモート アクセス手段を提供するようあなたを説得しようとするかもしれない。 発信者は、あなたの名前や住所など、あなたに関する詳細をすでに知っている可能性もある。

電子メール詐欺

 詐欺メールは本物のように見えるが、お金や情報を盗むことを目的としたリンクや添付ファイルに注意されたい。

 オーストラリア人は2023年、電子メール詐欺により 7,700 万ドル(約74億6,900万円)を失った。 詐欺師は、政府、警察、企業からのメールを装って「緊急」メールを送信する。

 彼らは実際の組織と同じロゴと同様の電子メールアドレスを使用する。 詐欺師は、組織や企業の電子メールアドレスをコピーまたは「なりすまし」させ、詐欺メールをより本物に見せることもできる。

ソーシャルメディア詐欺

 ソーシャル メディアで突然連絡してくる人物を疑うべきである。ここでは詐欺による被害が増加している。

 オーストラリア人は2023年、ソーシャルメディア詐欺による被害額が8,020万ドル(約77億7940万円)だったと報告しており、前年比43%増となった。

 詐欺師はソーシャル メディア、メッセージング プラットフォーム、アプリに偽のプロファイルを設定する。 彼らは、政府、実在の企業、雇用主、投資会社、あるいは友人、家族、恋人の関係者のふりをする。

ウェブサイト詐欺

 詐欺師は、オンラインで誰かになりすまして、ユーザーを騙して信頼させることができる。

 オーストラリア人は2023年、オンライン詐欺により 7,400 万ドル(約71億7,800万円)を失った。

 詐欺師は、有名ブランドに見せかけた偽の Web サイトを作成する。 また有名人になりすまして、商品やサービスを推奨しているかのように見せかけ、 彼らはあなたを信頼させるために偽のレビューを使用する。

 偽の警告やエラー メッセージを含む広告バナーやポップアップ ウィンドウにより、行動を迫られる可能性もある。

訪問・対面詐欺(In-person scams)

 詐欺師はあなたの家のドアをノックしたり、公共の場であなたに近づき、何かを行うようう要求することがある。 彼らは次のようなことをするかもしれない。

(ⅰ)商品やサービスの前払いを要求する。

(ⅱ)個人情報を入手するためのアンケートへの回答を強要する。

(ⅲ)訪問販売の中には詐欺ではない場合もある。 正しい訪問販売員等からの問い合わせを行うことで、あなたの権利と保護について詳しく知ることができる。

脅迫と恐喝詐欺

  詐欺師はお金を払えと脅迫する。

 あなたを脅迫する人にお金を渡す前に、声を上げて報告してください。

 詐欺師は組織の一員であるふりをして、お金を支払う必要があると主張する。 すぐに支払うことに同意しない場合、逮捕、国外追放、さらには身体的危害を与えると脅迫される可能性がある。

 また、お金を送らない限り、あなたが送った裸の写真やビデオを共有すると脅迫することもある。

 脅しによって圧力をかけられないでください。 立ち止まってそれが本当かどうか確認してください。

予想外のお金の入手詐欺

 権利、リベート、賞金にアクセスしようとしてお金を失わないようにしてください。 無料のお金のオファーには多額の費用がかかる。

 詐欺師は、あなたが受け取ることを予期していなかったお金や賞金を受け取る義務がある、または受け取る権利があるとあなたに信じ込ませようとする。

 詐欺師は、お金や賞金を受け取るために、料金を支払うか、財務情報や身元情報を提供するよう求める。 無料のお金はなく、それを手に入れようとするとさらに多くのお金を失うことになる。

(注5)FBIのscam 類型解説を以下、引用する。

Common Scams and Crimes

Adoption Fraud
②Business and Investment Fraud

③Business Email Compromise

Charity and Disaster Fraud 

Consumer Fraud Schemes

➅Elder Fraud

⑦Election Crimes and Security

⑧Holiday Scams

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