米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンスガイダンスを発行

 2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁)を改定および置き換える健康製品等コンプライアンスガイダンスの発行を発表した。

Libbie Canter氏

Laura Kim氏

 筆者の手元にCovington & Burling LLPの解説記事が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。

 FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、解説記事を仮訳して紹介するものである。

1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義

 FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、①広告側の主張の解釈、②立証その他の広告問題などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。

(1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈

 改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。

 さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。

 欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格な情報の明確で目立つ開示を構成するものについての議論が含まれている。具体的には、改定ガイダンスでは、主張と同じ方法で開示を提供する必要があると述べている(つまり、主張が視覚的に行われる場合は、その開示が視覚的に行われる必要がある)。視覚的な主張は目立つ必要があり、①そのサイズ、②契約内容、③開示する場所、および④表示される時間の長さに基づいて、簡単に気づき、読み、理解する必要がある。また、可聴開示の場合は、聞き取りやすく理解しやすいように、音量、速度、リズムで行う必要がある。

 さらに、改定ガイダンスはソーシャルメディアでは、開示条件は「避けられない」べきであると述べているが、FTCはハイパーリンク(注1)を含まないことを明確にしている。対象となる情報には、製品に利点が「ある可能性がある」、または利益の達成に「役立つ」など、あいまいな修飾条件を含めるべきでないとしている。

(2) 製品等にかかる主張の立証の根拠

 次に、改定ガイダンスでは、製品と主張の種類、真実の主張の利点、立証を開発するコスト/実現可能性、虚偽の主張の結果、および分野の専門家が合理的であると信じる立証の量など、有能で信頼できる科学的証拠を構成するために必要な立証の量と種類を決定するために使用されるいくつかの要因を示している。

 改定ガイダンスでは、主張の証拠の裏付けの量、種類、または強さは正確でなければならないと述べている(たとえば、広告は、それが正確でない場合、科学者がコンセンサスに達したことを示唆してはならない)。

 改定ガイダンスは、ランダム化比較試験(randomized controlled trial:「RCT」)(注2)の使用を強調し、RCTは「最も信頼できる証拠の形式であり、一般的に専門家が健康上の利益の主張に必要とするタイプの立証である」ことを強調している。このガイダンスによると、有能で信頼できる科学的証拠の基準を満たすために特定の数のRCTは必要ない。研究の質は量よりも重要である。

 またガイダンスは、研究は統計的に有意な結果をもたらし、臨床的に意味のあるものでなければならないと述べている。さらに、事後分析の結果である統計的に有意な結果は、データマイニング(注3)または「p-hacking 」(注4)の疑いを引く可能性がある。一方、改定ガイダンスは、疫学または観察研究は限られた状況、すなわち(1)この分野の専門家がそれらを許容可能な代替物であると考える場合にのみ受け入れられることを示唆している。(2)RCTはそれ以外の方法では実行不可能である。同様に、動物および人工的に作られた環境の中(in vitro)研究、消費者の個々の経験に関する事例証拠、および公衆衛生上の推奨事項は、健康強調表示を立証するには不十分であると説明されている。

(3) その他の広告に関する問題

 最後に、改定ガイダンスでは、消費者の声や専門家の推薦代替医療に基づく主張FDA(アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)承認に関する主張など、健康関連の広告における他の一般的な問題として説明している。

 公式承認ガイドを強化するために、改定ガイダンスは、劇的な結果を描写する広告は、「典型的ではない結果」と述べることによって治癒することはできないことを強調している。また、専門家の承認者は適切な資格を持っている必要がある。

 改定ガイダンスの例によると、専門家が免許を受けておらず、製品とクレームに関連する分野で実践していない場合、専門家は広告で医師と呼ばれるべきではない。改定ガイダンスは、伝統的な使用/ホメオパシー(注5)製品の立証基準に例外がないことを強調している。—伝統的な使用について主張することはできるが、これらの製品は有能で信頼できる科学的証拠で立証されなければならない。

 今回改定されたガイダンスは、ビジネスガイダンスとしてのみ役立つことを目的としており、法的な強制力または効力はない。

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(注1) ハイパーリンクとは、文書データなどの情報資源の中に埋め込まれた、他の情報資源に対する参照情報。また、そのような参照が設定された、文字や画像など文書内の要素のこと。単に「リンク」(link)と略して呼ぶことが多い。(IT用語辞典から抜粋)

(注2) ランダム化比較試験(RCT) randomized controlled trial:ある試験的操作(介入・治療など)を行うこと以外は公平になるように,対象の集団(特定の疾患患者など)を無作為に複数の群(介入群と対照群や,通常+新治療を行う群と通常の治療のみの群など)に分け,その試験的操作の影響・効果を測定し,明らかにするための比較研究をいう。群分けをランダムに行うのは,背景因子の偏り(交絡因子)をできるだけ小さくするためであるが,コンピュータで乱数を発生させ,割り付け表を使用する方法が適切だとされている。ただし、くじ引きやサイコロの使用,患者番号などでの割り付けは準ランダム化となってしまい,真の意味でのランダム化とはならない。(EBPT用語集から抜粋)

(注3) データマイニング (Data mining)とは、大量のデータを統計学人工知能などの分析手法を駆使して、「知識」を見出すための技術である。データマイニングという言葉の示す通り、情報(データ)から有益なものを採掘(マイニング)できる。

 ITビジネスの分野では、近年「ビッグデータ」が注目を集めている。それに従い、ビッグデータを有効に活用するための手段として、データマイニングにも注目が集まっている。他にも(Customer Relationship Management、つまりは顧客との関係性を管理(CRM)で顧客情報を管理する際にも利用されている。

 データマイニングを行うことで得られる知識とは、どんなものか。情報を分類すると以下の4つに分けられる。

■データ(Data):整理されていない数値

■情報(Information):「データ」を整理・カテゴライズしたもの

■知識(Knowledge):「情報」から得られる傾向・知見

■知恵(Wisdom):「知識」を利用して人が判断する力

 これはDIKWモデルと呼ばれており、下に行くほど有用性の高いものと判断される。

 データマイニングで行えるのは「知識」を見出すところまでであって、実際にその「知識」に有用性があるのか、どう活用するのかは『人』の判断力にかかって来る。また、このデータの蓄積から分析を生かして課題を解決するのが、データサイエンスの領域になる。(ITトレンドの解説から抜粋)

(注4) 教育・経験・先入観など,何らかの影響を受けて偏ってしまうことを「バイアスがかかる」と言う。

そして,p-hackingはバイアスの1つである。

 具体的には,研究者が複数の統計解析を試し,有意な結果が得られたものを選択的に報告する行為を指す。

 加えて,研究者が複数のデータを吟味し,有意な結果が得られるものを選択的に採択する行為もp-hackingとされている。

(注5) ホメオパシー医療としても知られるホメオパシーは200年以上前にドイツで確立された医療体系で異なる2つの理論を基にしている。

 一つは「類似したものは類似したものを治す(同種の法則)」で、ある物質を健康な人に投与すると起こる症状に関して、その症状がある人にその物質を投与すると治るという考えである。

 もう一つは「超微量の法則」という考えで、薬剤が微量であるほど、その有効性が高くなるという考えである。多くのホメオパシー製品は、元の物質の分子が残らないほど非常に希釈されている。

 ホメオパシー製品には、植物(赤タマネギ、アルニカ[山岳地帯の薬草]、ツタウルシ、ベラドンナイラクサ)、鉱物(ヒ素など)、動物(蜂を丸ごと潰したものなど)がある。ホメオパシー製品は、砂糖玉にしたものを舌下に置いて服用する。他には、軟膏、ゲル、点滴、クリーム、タブレット錠などの形状がある。治療は人それぞれに「個別化」または最適化されている。同じ症状のある人たちが、異なる治療を受けることはよくある。(厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』解説から抜粋)

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