米商品先物取引委員会(CFTC)の顧客宛て勧告:人工知能(AI)詐欺に注意するよう広く国民に警告

 米国の証券取引の監督機関であるSECや商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局 (OCEO)などからAI利用を謳う詐欺行為に対する消費者宛て注意勧告が頻繁に出ている。

 今回のブログは、まず(1)AI詐欺被害に遭わないためには消費者は如何なる点に留意すべきかCFTC勧告の内容を概観し、(2)規制監督機関の設置経緯や法規制、消費者教育の実態を見る、(3) AI詐欺被害に遭わないための具体的手段、方法等(4)わが国ではあまり論じられていないCFTC 顧客保護基金や内部通報に基づく報奨金制度の実態等につき言及する。

1.商品先物取引委員会(CFTC)および同委員会の顧客教育・支援局(OCEO)AI利用を謳う詐欺行為に対する消費者宛て注意勧告

 商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局(Commodity Futures Trading Commission’s Office of Customer Education and Outreach) (注1)は1月25日、人工知能 (AI) 詐欺について一般の人々に警告する顧客宛て勧告を発行した。 顧客向け情報支援: 今回、AI は取引BOTをマネーマシンに変えない、詐欺師たちがどのように AI テクノロジーの可能性を利用して虚偽の主張で投資家を騙し、資金を不正利用して投資家を騙す詐欺師に資金やその他の資産を引き渡すように誘惑するのかについて説明すべく以下の注意勧告を行った。

 日常生活における AI の使用が増えるにつれ、詐欺師は、ボット(BOT) (注2)(注3)(注4) 、トレード・シグナル(trade signal) (注5)アルゴリズム、暗号資産裁定取引(crypto-asset arbitrage) (注6)アルゴリズム、およびその他の AI 支援テクノロジーを使用して莫大な利益を生み出すことができると主張する。さらにソーシャル・メディア・プラットフォームと「インフルエンサー」の普及により、詐欺師が虚偽の情報を拡散することがますます容易になっている。 今回のCFTC勧告は投資家に対し、詐欺師の高額または収益保証の主張は詐欺の危険信号であり、これらの主張をオンラインで宣伝する見知らぬ人からの勧誘は無視すべきであると警告している。

 OCEO局長のメラニー・T・デヴォー(Melanie T. Devoe)氏は、「AIに関しては、この勧告は投資家に『誇大宣伝に気をつけろ』と告げている。残念なことに、AI は、悪意のある者が疑いを持たない投資家をだますための新たな手段となっている」と述べた。

Melanie T. Devoe氏

 この勧告は、投資家が潜在的な詐欺を特定して回避するのに役立ち、AI テクノロジーは未来を予測できないという注意喚起も含まれている。 また、投資家がトレーディング・ボット(Trading Bot) やトレード・シグナル・プロバイダーに資金を預ける前に、企業やトレーダーの背景を調査するなど、投資家が考慮すべき4つの重要な項目もリストアップしている。

2.商品先物取引委員会(CFTC)の顧客教育・支援局 (OCEO) について

 CTFCサイトの関連箇所を抜粋、以下、仮訳する。

(1)CFTCの概要

 CFTC は、1975 年に先物市場を規制・監督する独立行政機関として活動を開始し、以後 30年以上にわたって、急速に拡大、技術革新を続ける米国の先物市場を規制してきた。CFTC は、不公正取引や不適切な販売・勧誘行為などの違法行為に対して、強力な法執行(enforcement)権限が認められている。

CFTC は、先物業界の自主規制を尊重する立場をとりながらも、市場の効率性や公平性を害し、先物市場の経済的機能を損なうような行為に対しては、厳しい処分を行ってきた。規制と自由のバランスをとりながらの CFTC の活動については、時として規制の緩さを批判される場面があったものの、おおむね肯定的に評価されてきたといえる。

(2)OCEO

 OCEO は、CFTC の顧客保護基金 (Customer Protection Fund:CPF) を創設した金融改革法たる「ドッド・フランク・ウォール街改革および消費者保護法(Dodd Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)」の施行の一環として設立された。 CPFは、内部告発者への報奨金(award)の支払いと、商品取引所法の「顧客が詐欺やその他の違反から身を守ることを目的とした顧客教育活動」の費用を支払うために、CFTCが追加の充当や会計年度の制限なしで利用できる回転基金である。 CFTC は毎年、OCEO の顧客教育活動、内部告発プログラム、CPF に関する年次報告書を連邦議会に提出している。

  OCEO は、効果的な金融教育資料や取り組みの研究開発を通じて、顧客が詐欺や商品取引法違反から身を守るよう支援することに専念している。 OCEO は、個人投資家、トレーダー、業界団体、農業コミュニティへの支援と教育に取り組んでいる また。OCEDは、連邦および州の規制当局、消費者保護団体とも頻繁に提携している。 CFTC の顧客教育資料の完全なリポジトリ(収納物)は、https://www.cftc.gov/LearnAndProtect で閲覧できる。

 顧客およびその他の個人は、www.cftc.gov/complaint に内部告発または苦情を提出することにより、商品取引法規および規制の違反の可能性など、疑わしい活動または情報を法執行部門に報告できる。 内部告発者(whistle blower)は、法執行措置が成功した場合に徴収された金銭制裁の 10 ~ 30 パーセントを受け取る資格がある場合がある。すべての内部告発者に対する報奨金は、CFTC に支払われる金銭制裁によって資金提供される CFTC 顧客保護基金から支払われる。CFTC の内部告発者プログラムの詳細については、www.whistleblower.gov を参照されたい。

3.AI詐欺被害に遭わないためには

 詐欺師は、人工知能 (AI) に対する世間の関心を利用して、不当に高額または保証された収益を約束する自動取引アルゴリズム、取引シグナル戦略、暗号資産取引スキームを一方的に宣伝している。 詐欺師を信じないでほしい。 AI テクノロジーでは、将来や市場の突然の変化を予測することはできない。

 詐欺師らは、AI が作成したアルゴリズムが巨額の利益 (場合によっては数万パーセント) を生み出す、または 100 パーセントの「勝率」を生み出すことができると主張する。 これらの疑わしい主張は、とりわけ、「Bot」として知られる自動的に取引を行うアルゴリズムや、加入者に売買のタイミングにシグナルを提供するアルゴリズムに関して行われている。

 近年、CFTCは、AIを利用して定期的に平均を上回る収益を約束する商品プール、デジタル資産、または「投資プログラム」を運営またはマーケティングすることで、複数の被告が顧客をだまし取ったと主張している。 しかし、これらの約束は虚偽であり、顧客は自動収益機を手に入れる代わりに、数千万ドルを失い、場合によっては、当時約 17 億ドルに相当する 30,000 ビットコイン近くを失った。(注7)

 AI が作成したアルゴリズムが巨額の利益を生み出す可能性があると主張する取引プラットフォームに顧客はその資金を預ける前に、次のことを必ず行う必要がある。

   ① 当該会社やトレーダーの活動実態、背景を精査する。主要人物に対しては、逆画像検索(reverse image search) (注8)を実施し、正確な身元を確認する。

   ②  ICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers) (注9)のlookup.icann.orgでドメイン登録時期を確認して、取引 Web サイトのこれまでの履歴を調べる。詐欺ドメイン・チェックにはCTFCの「暗号資産詐欺や外国為替取引ウェブサイト詐欺の 10 の兆候」を参照する。

   ③ 投資前に必ずセカンドオピニオンを受ける。 投資については財務アドバイザー、信頼できる友人、家族に相談されたい。

   ④ 原資産に関連するリスクを理解する。 また、手数料、スプレッド、先物取引にかかるサブスクリプション・コストが利益に与える影響も考慮されたい。

 AI に関する誇大宣伝には、特にソーシャルメディアインフルエンサーやオンラインで出会った見知らぬ人によって宣伝される場合には注意されたい。 詐欺行為は CFTC および FBI に報告できる。

4.CFTCサイトにおけるAI詐欺ケース・スタディ: ミラー トレーディング インターナショナルのケースの仮訳

(1) CFTCの2023.4.27付けリリースの仮訳

商品先物取引委員会は4月27日、テキサス州西部地区連邦地方裁判所のリー・イェーケル判事が、南アフリカ共和国西ケープ州ステレンボッシュ住民のコーネリアスヨハネス・スタインバーグ(Cornelius Johannes Steynberg)に対し、不履行判決と永久差し止め命令を出したと発表した。 この命令は、スタインバーグに対し、詐欺被害者への賠償金として173,3838,372ドル(2566807万円)と、CFTC訴訟で命じられた民事罰金としては最高額となる173,3838,372ドルの民事罰金を支払うよう求めている。 この訴訟は、CFTCの訴訟で告発されたビットコインに関わる最大の詐欺計画でもある。

Cornelius Johannes Steynberg氏

 さらに、この裁判所命令に基づき、スタインバーグ氏は告訴されている商品取引法(Commodity Exchange Act :CEA)に違反する行為への従事、CFTCへの登録、およびCFTC規制の市場での取引を永久に禁止された。

 この命令では、南アフリカ共和国で現在清算中のミラー・トレーディング・インターナショナル・プロプライエタリー・リミテッド(MTI)の創設者兼最高経営責任者(CEO)であるスタインバーグ氏が、①小売外国為替取引に関連した詐欺、コモディティ・プール・オペレーター(CPO)の関連金融業者による詐欺の責任、登録違反、および CPO 規制の不遵守の責任を負うと認定された。

 一方、CFTCは、被害者への資金の支払いを求める裁判所命令は、被告が十分な資金や資産を持っていない可能性があるため、損失を取り戻せない可能性があると警告している。

(2)CFTCの補足解説

 南アフリカ共和国国民のコーネリアスヨハネス・スタインバーグ(Cornelius Johannes Steynberg)氏は、約3年間にわたって、いくつかのWebサイトとFacebookInstagramYouTubeのアカウントを使用して、少なくとも23,000人から17億ドル(約2516億円)以上のビットコインを盗んだ。

 顧客は、わずか 100 ドルのビットコインで、「暗号資産取引経験は不要」で、少なくとも月間 10 パーセント(または年間 200 パーセント以上)の配当を保証する独自のボット取引プログラムを使用する彼の商品先物基金(commodity pool) (注10)(注11)に購入することができた。  顧客は友人を紹介したり、アフィリエイトマーケティング担当者として働いたりして、紹介ボーナスを受け取ることができた。 また、スタインバーグ氏は、MetaTrader デモ口座を使用して偽の顧客口座と残高を作成した。

 実際には、実際に取引された資金はほとんどなかった。 その代わりに、新しい投資家からの資金の一部を古い投資家への支払いに使用し、残りをスタインバーグが流用するというポンジスキーム-=ねずみ講として運営された。 [CFTC プレスリリース 8549-22および 8696-23を参照。

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(注1)下図のCFTCの中核機能図やOCEO等事務局の全体については各参照されたい。

(注2) ボット (ロボット) は、特定のタスクを自動的、または最小限の監視で実行するコンピュータープログラムである。 これらは、通常は人間によって実行される反復的なタスクを自動化するためによく使用される。 取引を自動化するために設計されたボットは、取引ボット(trading Bot)として知られている。 暗号通貨の取引ボットは、デジタル資産の売買を自動化するソフトウェア・プログラムである。 トレーダーに代わって取引戦略を実行し、 市場を24時間365日監視したくないトレーダーにとって役立つ。

 たとえば、特定の暗号通貨資産を監視している暗号資産トレーダーは、最適なエントリーポイント(entry point) (注3)またはエグジット・ポイント(exit point) (注4)を監視している可能性がある。 しかし、仮想通貨市場は年中無休で開かれているため、トレーダーは収益性の高い機会を逃さないようにモニターに釘付けになる必要がある 。 暗号通貨取引ではタイミングがすべてであり、わずかな遅れが重大な損失を引き起こす可能性がある。トレーダーは、市場を常に監視することなく、あらかじめ決められた戦略に基づいて暗号通貨資産を売買するため取引ボットを実装する。

取引ボットは、指定された機能の実行を支援するアルゴリズムを使用してトレーニングされたプログラムである。 これらは、市場データを収集し、取引シグナルを分析し、起こり得るリスクを計算し、投資家の戦略に基づいて取引を実行するように事前にプログラムされている。 彼らのプログラミングにより、資産が過大評価されているか過小評価されているかを判断し、市場にいつ参入または撤退するかを決定することができる。 トレーダーは、取引戦略に基づいて取引ボットをカスタマイズし、すべての作業を任せることができる。

 たとえば、個人は、ビットコインの価格が特定のレベルを下回ったり上回ったりしたときに、ビットコインを売ったり買ったりするように取引ボットを事前にプログラムできる。 ボットは、価格がしきい値を超えて上昇した場合に BTC を売り、事前設定されたレベルを下回った場合に購入する。(Ledger社サイト解説から仮訳

BOTとは、robotの短縮形・略称で、一定のタスクや処理を自動化するためのアプリケーションやプログラムのこと。次のとおり業界によって意味が異なる。

①利用されるシーン・課題解決型BOT

 インターネット上では様々なシーンでBOTが活用されている。いずれも人間の操作を必要とせず、処理が自動化されている。たとえば、Webサイトでユーザーが入力した質問に対する回答を返してくれる「チャットボット」、インターネットを巡回しWebサイトの情報を収集する検索エンジンの「クローラー」、Twitterで自動ツイートする「Twitter Bot」、仮想通貨の送金や受け取りができる「TipBot」、Appleの「Siri」やGoogleの「Googleアシスタント」などの音声認識と組み合わせたBOTなどがある。

②セキュリティ業界のBOT

 セキュリティ業界では、マルウェア(悪意のあるソフトウェアやコードの総称)の一種をBOTと呼んでおり、特にコンピューターを外部から遠隔操作するコンピューターウイルスを指すことが多い。この場合のBOTはボットウイルスとも言う。(ITreview から抜粋)

(注3) エントリー・ポイントとは、「新規に注文を入れてポジションを保有するタイミング」を指す。

(注4) 「エグジット」は、保有しているポジションを決済して、取引を終了すること。

(注5) トレード・シグナルは、トレーダーに利益を最大化するために売買注文を行うための手掛かりを提供する分析ツールである。さまざまな形のトレード・シグナルが存在し、目標や潜在的な利益は異なる。トレーダーは長い間、取引のリスクを減らすために技術指標としてトレード・シグナルを使用してきた。(CFA InstituteのWallStreetMojoから抜粋、仮訳)

 暗号通貨のトレード・シグナルは、デジタル資産を正確な時点および特定の価格で売買するかどうかの方向性を与える重要なガイドとなる。これらの取引警告、または「シグナル」は、ファンダメンタル分析およびテクニカル分析を使用する経験豊富な取引専門家によって手動で作成されることも、人工知能ベースのボットと数学的アルゴリズムを使用した完全に自動化された方法論を通じて作成されることもできる。(Medium blogから抜粋)

(注6) アービトラージ(Arbitrage)は日本語では「裁定取引」と呼ばれるもので、暗号資産取引所ごとの価格差を利用して、利益をあげる投資手法である。

 暗号資産の場合、各取引所の価格差が大きいほど利益が出やすいので、複数の取引所に口座を開設するケースが多い。複数の取引所のリアルタイムの価格をチェックし、価格差が発生していないかをこまめに確認することが大事であり、取引所ごとの現在価格を一覧表で示してくれるWebサイトもあるが、正確な価格は暗号資産取引所の公式サイトで確認すべきである。(BitTrade blogから抜粋)

(注7) 最近の事例の例については、CFTC プレス リリース 8803-23、8697-23、8621-22、8549-22、8510-22、8493-22、8438-21、8115-20、および 8047-19 を参照されたい ( CFTCのプレスリリースサイト(https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases 参照。

(注8)筆者は実際に逆画像検索(reverse image search)を実行してみた。以下の手順で成功した。

①逆画像検索サイト(https://ettvi.com/ja/reverse-image-search)を開く

②筆者の画像リストの中から米国 Merrick Garland 連邦司法⾧官を選ぶ

③Result Generated Successfully 表示が出る

④検索結果のうち Google Lens で検索した結果

(注9) ICCANは 1998年10月、ドメイン名、IPアドレスなどのインターネット基盤資源を、世界規模で管理・調整するために設立された非営利公益法人である。主な業務は、ドメイン名、IPアドレスプロトコル・ポート番号、ルート・サーバなどインターネットの基盤資源の世界規模での調整と、これらの技術的業務に関連する方針策定の調整である。(総務省:世界情報通信事情から抜粋)

(注10) コモディティ・プール(commodity  pool)は、先物市場と商品市場を取引するための投資家の拠出を組み合わせた民間の投資構造である。 コモディティ・プール、つまりファンドは、利益の可能性を最大化することを期待して、取引でレバレッジを得る単一の実在物として使用される。 「コモディティ・プール」というタイトルは、全米先物協会 (National Futures Association :NFA)(注11) によって定められた法律用語で「管理先物ファンド」とも呼ばれる。

コモディティ・プール運営者(Commodity Pool Operators)

 企業またはファンドの主要出資者またはパートナーは、コモディティ・プール内の金銭的利益につき責任を負う。 コモディティ・プール運営者は、コモディティ・プール、シンジケート、投資信託、または特に先物取引のための同様のファンドの運営に使用する資金を受け取る。 コモディティ・プールの運営者は、投資家に対し、コモディティ・プールに新たな資金や資本を持ち込むよう勧誘することがよくある。

コモディティ・プール規制当局

 米国のコモディティ・プールは、他の市場活動を規制する証券取引委員会 (SEC) ではなく、商品先物取引委員会 (CFTC) と全米先物協会によって規制されている。

(注11) 全米先物協会は、米国のデリバティブ業界を監督し、革新的で効果的な規制プログラムを提供する業界ベースの独立した自主規制組織である。 NFAはCFTCによって指定された登録先物協会であり、デリバティブ市場の完全性を維持し、投資家を保護し、メンバーが監督義務を果たすことを保証することにコミットしている。

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